きみのふるさと(8)

 先々週になりますが、また一つ年を重ねまして。
 チャームポイントが目尻の皺からホウレイ線になりつつあるしづです。

 年取ると、ほうれい線て伸びるんですね~。
 いや、最初分からなくて。 口の横から下に掛けて、寝てる間に何の痕がついたんだろうとしげしげ見たら、  だった。
 そこの! 笑ってるあなた! あなたも10年後か20年後には「あれ、何の痕だろう?」ってなるのよ! ならないのは薪さんだけなんだから! ←ひがみ根性全開。
 


 失礼しました。
 とにかく、当日はお祝いメールありがとう。 愛してるよ。(〃▽〃)





きみのふるさと(8)





 青木家は純和風の邸宅だが、風呂場だけはユニットバスを使用していた。歴史の本でしか見たことのない五右衛門風呂を、薪は密かに期待していたのだが。残念だ。

 青木が精魂込めて磨き上げたと見えて、薄いベージュ色のバスルームはとても清潔だった。青木は薪の風呂好きを心得ているから、風呂の掃除には特に力を入れる。おかげで薪の家のバスルームは、いつもピカピカだ。
 寒い冬に熱い風呂、微かにラベンダーの香りがする湯煙。薪にとっては最高のリラクゼーションのはずなのに、お湯につかった彼の表情は一向にほぐれなかった。それはここが恋人の実家だと言う緊張感からではなく。昼間、青木の幼馴染の女の子に言われたことが原因だった。

「行ちゃん、ボディガードだなんて、すごいお仕事してるんですね」
 薪が吐いた嘘を真に受けて、真美は感心したように言った。
「だからあんなに逞しくなっちゃったんだ」
「大分、鍛錬はしているようですね」
 あくまでも上司の態度を崩さず、薪は青木との距離感を演出するように冷静な口調を心掛けた。真美の声には明らかな憧憬が含まれており、おそらく彼女は、青木に好意を持っているものと思われた。そんな人間に、自分たちの関係を悟られるわけにはいかない。

「SPと同等の能力を身に付けるために、彼は相当の努力を」
「白々しい。嘘でしょ、そんなの」
 ぶっきらぼうな声で遮られて、薪は息を呑んだ。
「なにを」
 一瞬のうちに、真美の表情は激変していた。一重まぶたのくりっとした眼には蔑みの色が浮かび、ピンク色の唇は怒りの形に閉じられていた。

「恋人なんでしょ? そうでもなきゃ、法事に伴うって不自然だもの」
 鋭く切り込まれて、今日は何度目になる事か、薪の心臓が跳ね上がった。顔色が変わらないように声が震えないように、腹の底に力を入れて、薪は反駁した。
「何を言い出すんです、バカバカしい。いいですか、警察にとって機密を守ると言うことは」
「行ちゃんが実家に寄りつかなくなったの、あなたのせいなのね」
 薪の話を聞こうとしない。思い込みが彼女の耳を塞いでいる。こうなってしまうと女性は頑固で、でももっと厄介なのはその思い込みの的中率だ。薪がどんなに推理を働かせても、彼女たちの恋愛に関するカンには勝てない。

「行ちゃんから、親も友だちも取り上げて。ひどい人」
 その言葉は、薪の心臓を跳ね上げるだけでは済まなかった。ザックリと刺し貫かれて、薪はなにも言えなくなった。
「おばさんだって和歌ちゃんだって、そう思ってるわ。言えないだけよ」

 心の中で案じていたことを音声にされて人の口から言われた。それだけのことなのに。
 青木の家族から直接言われた訳でもない、初対面の相手からつまらない言い掛かりをつけられた、たったそれだけのことで消え入りたいような気持ちになる、自分の怯懦に反吐が出そうだ。彼女は青木の昔の友人ではあるけれども今は部外者で、薪にとっては赤の他人だ。余計なお世話だ、非難される筋合いはない、と口に出さずとも心の中で跳ね除ければよかったのだ。それができなかった。
 青木の家族にどんな非難を受けても自分の我を通そうと、覚悟を決めてきたはずなのに。赤の他人の一言で、こんなに心が揺れてしまうなんて。

『行ちゃんから、親も友だちも取り上げて』

 真美の言葉を全面的に否定することは、薪にはできない。『取り上げた』と言われればその通りなのだ。青木本人からも何度も聞かされた、それは薪の罪。
『オレは薪さん以外の人は、眼に入りません』
 青木は薪と付き合いだしてから、友人との付き合いが極端に減ったらしい。以前は、平日のアフターは友人付き合いに宛てていたらしいが、一緒に暮らし始めてからはそれもなくなった。行きも帰りも青木が運転する車に乗って、帰りが早いときはレストランに寄ったりして、24時間一緒に居る日も多くなった。
 実家もそうだ。何年も前から青木は、盆も正月も、一晩泊まったら翌日の朝には帰ってきてしまう。久しぶりなのだからもっとゆっくりして来いと、薪が何度言っても聞かない。翌朝の10時前にマンションを訪れる青木を薪が叱ると、
『すみません。薪さんの顔が見たくて』
 真っ直ぐに自分へ向かってくる彼の愛情が心地よくて、ついつい流されてしまったけれど。極端な偏りは良くないと、年長者なら諭してやるべきだった。

「……ちがうな」
 求めていたのは自分の方だ。
 青木と知り合った頃、薪はどん底で。このまま泥に埋もれて息絶えるが相応しいと、思いながらも浅ましく、残り物の人生にしがみついていた。自分の罪を認めながらも救済を心待ちにし、何も望んではいけないと自分を律しながらも欲望は止められず。相反する感情に心がバラバラに壊されていく、そんな日々の中で。薪は青木と出会い、惹かれ合い、愛し合うようになった。

 薪が青木から目が離せなくなったのは自分が殺した男にそっくりだったからだが、青木の恋情に理由を求めるならそれは多分、同情心。
 青木は人の気持ちに敏感で共感能力に優れている。薪の危うい心理状態を、理論的に見抜いたのではなく、感じたのだ。事件の犯人や被害者に寄り添うように、薪の心に寄り添った。結果、彼は薪に必要なものを本能的に悟り、それを与えてくれたのだ。
 青木が親不孝になったのも故郷に縁遠くなったのも、自分のせいだ。薪の中に住んでいる、貪欲に彼を求める駄々っ子のせいだ。

『ひどい人』
 そう、自分は非道な人間だ。それが分かっても、青木を親元に帰してやろうという気にはならない。彼と生きていこうと決めた。何があっても、何を犠牲にしても。

 ――でも。
 肉親と疎遠にしてまで彼を自分の元に引き留める。そんなことが許されるのだろうか。
 血のつながった家族から彼を引き離して? 彼に新しい家族を与えてやることもできないのに?
 女性ならそれができる。だから彼女たちにはその権利があるのだ。でも自分は……。

 最初から分かっていたことなのに、そのこともよく考えて彼を受け入れたはずなのに。改めて突きつけられれば、胸がちぎれるように痛い。
 薪はもう、なにも持っていない。心も身体も未来も、彼にあげられるものはすべて差し出してしまった。彼から多くの大切なものを奪っておいて、彼に与えることができたのは、一個人が持ちうるちっぽけな誠意だけ。たかが知れてる。

 湯船の中で膝を抱え、薪は大きなため息を吐く。
 新しいものを生み出せない自分は、生きている価値がないように思えた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

あははー、ホント、マジで分からなかったんですよ、皺だって。
気付いて、ゲラゲラ笑っちゃいました☆


> 真美は青木を取られた腹いせもあると思うのですが

Aさま、鋭い。
真美は青木さんのこと、好きだったんですね。 だから面白くないんです。 でも、

> 薪さんは優しいからその通りだと気に病んでしまう(´`)

やさしいんじゃなくて、ヘタレなんじゃないかなー。
Aさまの仰る通り、堂々としてればいいのよ。 覚悟して踏み出したんだから。
青木さんみたいにあからさま過ぎても、問題かもしれませんが。(^^;

でも、このままでは終わりませんので。 
ご安心ください♪

Nさまへ

Nさま。

はじめまして!
コメントありがとうございます。


2年くらい前から秘密ファンになられたのですね。
まあ、あの厳しい展開の最中に。(笑)
でも分かります。 これからどうなってしまうのか、目が離せませんでしたよね。


毎日、当ブログをチェックしてくださってるとのこと、ありがとうございます~。
最近、更新少なくてすみませんです。(^^;
薪さんが幸せになることが原作で確認できたので、のんびりモードになってます。 これからもゆっくりお付き合いいただけるとうれしいです。



で、こちらの青木さんに対するNさまのご意見ですが。
誠にその通りで!!

「薪さん最優先主義」は諸刃の剣であり、「薪さんのためなら他のものは切り捨てる覚悟がある」という決意は、知らず知らずのうちに大切なものを犠牲にしかねない。
本当にね。 家族も友人も、切り捨てちゃいけないものですよね!
そんなんじゃ人生貧しくなっちゃうぞ、青木さん!

しかーし、このお話は、腐ったおばさんが、
「青木さんは薪さんのことだけ考えてればいいのよっ」と腐に塗れた信念を元に書いたものなので~、←いい大人が持ってはいけない信念。
すみません、見事に全部捨てちゃってますっ!! 
否定しません、言い訳もしません、だって本当にうちの青木さん、薪さんのことしか考えてないもん! 
まあ、捨てさせる薪さんも薪さんですよね、て、なんて愛のない話なんでしょう。(笑)

元になった信念が人として間違ってるので、この話には、
決して原作の二人を当て嵌めてはいけません!(←どういう二次創作!?)
原作と切り離して読んでくださいねっ。


> 原作の青木君は「自分の好きな人たち(薪さんと雪子さん)が仲良くしてるとうれしい」と言っていましたが、愛情も友情もどちらも合わせて「自分にとって大切なもの」として昇華させてるところがさすがだなと思いました。(原作の青木君はすごく人間がデキてますよね。)

そう、そうなの。
すっごく人間デキてて。 
デキた人間だったら、うちの話みたいな間違いはしないし、こんな愚行は犯さない。 となると、話が作れなくって。(^^;
だからうちの二人が間違ったことばかりしているのは、わたしの能力の問題なんです。 原作の二人を歪めてしまってすみませんです。
でもまあ、自分が面白いと思うもの以外は書けませんしね。 
少しずつ成長させてるつもりではおりますが、原作の二人にはかなり遠いまま。 これからも、すったもんだしていくと思います。 


> 青木君には、愛情も友情も家族に対する情も全て背負える、大きな人間になってほしいと思います。

理想ですねっ。
てか、原作の青木さんはそうですよね。 みんなに対して誠実。
そういう青木さんだから薪さんは好きになったんだろうな、って強く思います。


> 色々と青木君にダメ出しをしてしまいましたが、決してしづさんにダメ出しをしているわけではありません!(お気を悪くされたら申し訳ありません。)

それは大丈夫です~。
分かってますし、慣れてます~。←日々、どれだけ突っ込まれているのか……。


> 私は、原作ではもちろん青薪派だし、薪さんを幸せにできるのは青木くんをおいて他にはいない!と思っています。
> でも二次創作では鈴薪でも岡薪でも滝薪でもオリキャラ相手でもなんでもウェルカムです。

そうなんですか~。 
楽しめるものがいっぱいあるの、幸せですよね! 色んなお話読めるし。
どうかこれからも、原作と二次創作、存分に楽しんでくださいね! わたしも楽しみます!(^▽^)



鈴薪さんの公開は新春を予定しておりましたが、諸事情あって、遅れそうです。 (諸事情……すいません、SS書いててブログ放置してました、ごめんなさい、本当にごめんなさい、書いてる間は他のことできないのー、不器用ですみませんー)
今のお話があと6回残っているので、(まだそんなに! 自分の怠慢に自分でびっくりだわ!) 1月の半ば頃になるかと思います。
どうぞよろしくお願いします。

Nさまのまたのお越しを心よりお待ちしております。(^^

Sさまへ

12月26日に拍手コメントいただきました Sさま。

誕生お祝い、ありがとうございました!
て、カビどころか立派なキノコが育つほどレスに時間掛かってすみませんー!

え、
これから「坂道を転げ落ちていくように、顔が変形」? そうなの?
困るー、今だって人間のラインギリギリなのに。 ←どんな顔。


> あ~それにしてもこの女腹立つ~。

わははー、Sさんのスッパリした感想、大好きですー。(^^
青木さんは~、薪さんが何となく元気が無いことには気付いていたので、わざと手を握って玄関まで歩いたりしたのですけど、真美のことは知らないままですね。 原作でも、エレベーターの「すみません(雪子さん)」は、青木さんは知らないでしょう? ああいう感じで。

でも、うちの薪さんは原作の薪さんよりも血の気が多いので、売られたケンカは借金してでも買うし、報復もきっちりします。
青木さんを巡ってオンナの戦い(ちがう)、お楽しみに♪



コメレスさぼってる間に年が替わってしまったので、こちらでご挨拶を。
昨年中は足繁くお運びいただき、誠にありがとうございました。
Sさんにいただいたコメントに、いつも笑わせていただきました。
本年も、どうかよろしくお願い致します。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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