きみのふるさと(9)

 こんにちは。
 大掃除で早くも腕が筋肉痛です。 窓拭き、力入らない。


 コメレス遅くなってて申し訳ありません。 年末はやっぱり忙しい……すみません、嘘です、SS書いてました、ごめんなさい。 大掃除が終わったらレスしますので、もう少し待ってくださいねっ。
 それから、
 誕生日おめでとうコメント、ありがとうございました!
 わたしは年を取るのは嫌じゃないので、祝っていただけて嬉しかったです。 どうもありがとうございました。(^^


 ところで、
 昨日はクリスマスでしたね。
 みなさま、楽しいクリスマスをお過ごしになりましたか?
 わたしはイブは仕事で、昨日は大掃除してました。 ええ、例年通りで。

 てなわけで、クリスマスとは全く関係のないお話の続きです。
 今回、子供が出てきますが、わたしは子供を育てたことが無くって、実態が分かりません。 なのでここは、15年くらい前に義妹の子供と遊んだときのぼんやりした記憶を頼りに書いてみました。 
 子育てのプロの方には、どうかイリュージョンを見るときのお気持ちで……見逃してください。







きみのふるさと(9)





 風呂から上がった薪を待っていたのは、予告された夕食ではなく、小さなギャングだった。

「夕食の用意はわたしがしますから。草太をお願いします」
 台所の入り口で、はい、と気軽に預けられて、でも薪は、子供の相手なんか一度もしたことがない。雪子の子供は抱かせてもらったことがある、だけどそれだけだ。おしめとミルクとオモチャを渡されても、何をどうしていいのやら。
 子供を抱いたまま固まっている薪の傍に、パジャマを抱えた青木がやって来た。自分も風呂に入ろうとしたらしいが、困っている薪を放置しておけるわけがない。彼の手から赤子を譲り受けようと手を差し伸べたのを見透かしたように、台所から和歌子の声が、
「一行は手伝っちゃダメよー。薪さんに任せたんだからー」
 イジメですか、お姉さま。

 姉の命令に逆らうこともできなくて、薪は青木に「行かないでくれ」と必死に瞳で訴える。自分一人で子供の世話なんか無理だ。怪我でもさせたら薪には責任が取れない。母親は和歌子と一緒に台所に立っているし、頼れるのは青木だけだ。
 が、非情にも台所からの指令は続いた。
「続けて入らないと、お風呂冷めちゃうでしょー。エコよ、エコ」
「でも姉さん、薪さんに子供の世話を頼むなんて」
「あら、いいじゃない。あんたのお嫁さんなんだから」
「だから、そういう冗談は止めてくれってさっき言っただろ」
 すみません、と姉の代わりに弟が頭を下げる。この手の言葉には過敏に反応する薪だが、今はそれどころではない。薪の細い腕の中で、子供は釣り上げられたばかりのカツオのように、幾度も背中を反り返らせる。その度に落っこちやしないかとヒヤヒヤしっぱなしだ。

「四の五言ってないで、入ってきなさい。夕食の前にお風呂に入るのは青木家の家訓よー」
「そんなの、いつ決まったんだよ」
「いいから入ってきなさい。入らないと、ごはん食べさせないわよ」
 食べ物を条件にされたら青木は弱い。なるべく早く戻りますから、と薪に断って、いい子にしてろよ、と赤ん坊の額を指先で優しく撫でた。

 残された薪の悲惨なことと言ったらなかった。
 ガチガチに緊張した腕で抱くものだから、居心地が悪いのだろう。子供はあっちこっちに身体を捩り、落ち着けそうな場所を探そうと、彼なりの努力は認めるが、どうにも危なっかしい。動きを制約しようと薪が腕に力を入れると、それがお気に召さなかったらしく、子供は急に泣き出した。
 赤ん坊の泣き声は、大人を急きたてる。早く泣き止ませなくては、と焦るが、手順が分からない。和歌子がしていた仕草を思い出して揺すってみたが、逆に音量が増して、もう泣きたいのはこっちだ。

 涙目になって、薪は叫んだ。
「すみません、お姉さん! 草太くん、泣いてるんですけど!」
「子供は泣くのが仕事よー」
 なんて冷たい母親だ、子供の涙に動じないなんて。
 薪の怒りは赤ん坊に伝播したらしい。自分の泣き声に駆けつけてこない母親を詰るように、草太は「だ!だ!」と不満げな声を上げた。
「すみません、今度は怒ってるみたいなんですけど!」
「人間だものー。そういう時もあるわよー」
 そんな人生相談みたいなアドバイスされてもっ!!

 もしかしたら自由に動きたいのかもしれないと考えて、薪は、畳の上にそうっと子供を降ろした。生後7ヶ月になる子供は、自力でおすわりの体勢を取った。薪は思わず背中に手を出したが、彼の姿勢が安定したものであることを確認し、初めてホッと息を吐いた。
 子供の発育については雪子との雑談の中で聞いた覚えがあるが、まさか自分の身に降りかかることがあるとは思わなかったから聞き流してしまった。もっとよく聞いておくんだった、と後悔しても後の祭り。雪子の子供が初めて立ったのは生後何ヶ月くらいだったか、思い出そうとして為せず。その間に少しもじっとしていない赤子は、ぱたんと前に手を付いて四つん這いになると座卓まで這って行き、低いテーブルに自分の小さな両手を載せた。
「あっ、あっ、掴まり立ちなんて無謀な真似を、ちょ、危なっ!」
 手を伸ばしたときには一瞬遅く、子供は正面から畳の上に倒れた。即座に響き渡る、割れるような泣き声。

「大変です! 転びました!!」
「直ぐに泣くときは大丈夫よー。大変なときは声出ないからー」
 それでも母親か! と怒鳴ってやりたかったが、青木の姉ではそうもいかない。何とかして子供を泣き止ませようと、薪は必死になった。
「い、痛くない痛くない、ちょっとぶつけただけだ。安心しなさい、君の脳には一筋の傷も付いていない。だから泣き止んで」
 子供を抱き上げて、揺すりながら言葉を掛ける。意味が通じるとも思えないが、それでも黙っていられないから不思議だ。
 薪がいくら話しかけてもあやしても、子供の泣き声はいっこうに治まらなかった。本当に、どうしていいのか分からない。マジ泣きしそうだ。

「頼むから、そんなに泣かないでくれ」
 困り果てて薪が哀願すると、子供はようよう泣き止んで、小さな手のひらを薪の顔目掛けて突き出した。頬に触れ、上に滑っていく。子供にとっては人間の顔もオモチャになるのだろうと彼の好きにさせるうち、赤子の手は薪の目尻を何度か往復するように動いて、薪はやっと、彼が自分の困惑の涙を拭ってくれたのだと知った。
 思いがけない情けを受けて、薪は驚嘆する思いで子供を見る。彼の、子犬を思わせる黒い瞳はとてもつぶらで美しく、薪は、動物を前にしたときの高揚感と癒しが自分を包み込むのを感じた。

「大丈夫だよ。ありがとう」
 正直な話、子供は好きじゃない。うるさいし言葉は通じないし、薪の嫌いなミルクの匂いがするからだ。でもこうして見ると、動物とさしたる違いは無いような。薪は動物は大好きなのだ。
「いっぱい遊ばせてあげてねー。でないと、夜寝ないから」
 泣き声が途切れたのを見計らって、新たな指令が下る。子供と遊んだ経験などないが、動物と戯れたことは数え切れないほどある。

「草太くん。何して遊ぼうか」
 薪がにっこりと笑いかけると、草太はくふっと空気が抜けたような笑い声を発した。ヤギが笑うとき、こんな音を出す。本当に動物みたいだ。ましてや短い手足を使ってさかさかと畳の上を這い回る姿は、動物以外の何物でもない。
 気紛れな猫を捕まえる時のように素早く前を塞げば、子供は上手にカーブを切って、薪の横手に移動する。では、とそちらに手を出せば、今度は後ろに下がって行く。きゃっきゃと笑い声を上げながら、これはこれで楽しいオモチャだ。

「なかなかに俊敏な動きだ。機動力もある」
 夢中で薪の手を避けるうち、這うこと自体が面白くなったらしく、草太は速度を上げた。そのせいで周りが見えなくなったのか、部屋の隅に積み重ねてある座布団の中に突っ込んでしまい、山を崩してしまった。
「こらこら、お母さんの仕事を増やすんじゃない」
 薪がそれを戻している間に、草太は部屋の中央に進んで行く。気が付いた時には座卓の脚が目の前だ。
「畳よりもそれは固い。気を付けなさい」
 彼の脇下に後ろから手を入れ、ひょいと持ち上げる。手足をばたばた動かすが、摘み上げられた猫の子状態。その仕草が可笑しくて、薪はついつい苦笑いする。

「疲れただろう。少し、休んだらどうだ」
 大人があれだけ床を這いずり回ったら息が上がってしまうと思うが、子供にとっては散歩程度のものらしい。あーあーと唖音を発する、小さな生き物はほんの僅かの間も静止しておらず。床に胡坐をかいた薪の膝の上で、あっちに反りこっちに跳ね、挙句は薪の肩の上に登ってくる始末。
「ちょ、危ないぞ。この高さから落ちたら、とと」
 肩の上の子供を下ろそうと手を伸ばし、バランスを崩して、薪は子供を抱えたまま仰向けに転がった。
「ったく。やんちゃな王子さまだな」
 両手でしっかりと子供の胴体を支えて上に持ち上げてやると、子供は大層喜んで、派手な笑い声を立てた。バーベル上げの要領で上下に上げ下げしてやると、笑い声はますます大きくなった。
「面白いか? そら」
 子供の笑い声は人を幸せな気分にする。ヨーゼフと遊ぶ時のように、薪は楽しげに笑った。

 いつからそこに立っていたのか、居間の入り口に佇む青木に気付いたのは、薪の両腕がだるさを訴え出した頃だ。
「あ、青木」
 すっかり慣れた様子で片腕に子供を抱き、ひょいと身を起こす。何度も子守をしてやったはずの赤ん坊は、青木を恋しがる様子を微塵も見せず、大人しく薪に抱かれていた。
「なんだ、その中途半端な格好。髪くらい乾かして来い」
 額に落ちた黒髪からポタポタと滴が垂れている様子を見て、薪が眉をしかめる。きっと青木は薪が心配で仕方なくて急いで風呂から出てきたのだろうが、そこを評価してくれるほど薪は甘い恋人ではない。

「ダメな叔父さんだな。君は、あんなだらしない大人になっちゃダメだぞ」
「薪さんまで。これ以上、オレの叔父としての立場を貶めないでくださいよ」
 ガシガシと髪を拭きながら、青木が二人の傍に腰を下ろすと、新しい遊び相手を見つけた草太がさっそく手を伸ばす。青木の濡れた髪を引っ張り、イタタ、と悲鳴を上げる叔父に、邪気のない笑い声を立てた。

「よしよし、偉いぞ。草太くんは力持ちだな」
「駄目ですよ、薪さん。悪い事したら叱らなくちゃ」
「悪い事なんかしてないだろ。これは楽しいことだろ」
「薪さんは楽しいかもしれませんけどオレは楽しくないです、てか、痛いです! 一緒になって引っ張らないでくださいよっ。ハゲたらどうしてくれるんですか!」
「思いっきり笑ってやるさ。なあ、草太」
「あああ、草太が薪さんみたいに性格ワルクなったらどうしよう」
 何を失礼な、と青木を睨んだとき、台所から和歌子が顔を出した。

「ごはんできたわよー」
 姿を見せた母親に、草太は夢中で手を伸ばす。当然だが、やっぱり母親がいいのだ。
「薪さん、どうもありがとう」
 薪から子供を受け取り、彼女は礼を言った。いえ、と薪は微笑み、母親に抱かれて満足そうな子供に軽く手を振った。が、子供は今まで遊んでもらった恩など感じないようで、丸っきり無視された。こういう所はネコ科の動物に近い、と薪は思った。

 髪を乾かしてきなさいね、と弟に命じると、彼女は草太を抱いて台所へ戻った。華奢な後姿を見送り、薪は感慨深く呟く。
「女の人って偉大だな。命を生み出せるんだもんな」
 それからふと遠くを見る眼になって、
「男が敵わないわけだ」
 白旗を挙げる城主の表情で吐き出すと、青木が訝しげに薪を見た。「薪さん」と呼びかける彼に、薪は素っ気なく背を向けた。

「早く来ないと、みんな食べちゃうぞ」
 台所の入り口に掛かった竹すだれを片手で優雅に持ち上げ、薪は意地悪く微笑んでみせる。すわ一大事と青木は転がるように駆け出し、3秒後にはドライヤーの音が聞こえてきた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Sさまへ

Sさま、
ヘンなコメントなんて、そんなことありませんよ~。
楽しいコメントでしたよ、ありがとうございました。(^^

どうしても気になるようでしたら非公開にできますので、遠慮なさらずにおっしゃってくださいね。
お気遣い、ありがとうございました。

Mさまへ

あーん、Mさん、ありがとうございますー!
えへへー、また一つ年取っちゃいました~。

草太くん、モデルは17年前のうちの甥っ子なんですけど、
ちゃんと子育てされた方に、
カワイイと言っていただけてよかったです~。


Mさん、
元気にされてますか?
日本はむちゃくちゃ寒いですけど、お風邪など召してませんか?
お仕事大変そうですが、どうかご自愛くださって、
ちょっと早いですが、良いお年をお迎えください。(^▽^

Sさまへ

Sさま。

ご報告、ありがとうございます。
Sさまのブログも拝読しまして、コメント入れさせていただきました。 
なので、こちらでは控えますが、お苦しみが延びてしまったこと、本当にお気の毒です。



> 赤ちゃんに遊ばれる薪さんが可愛くて☆
> 本編の薪さんのいろんな表情をつなぎ合わせて(因みに草太くんを渡された瞬間はあのブーケを持った薪さんの顔、ふふ)

赤ちゃんに遊ばれる(笑)……本当だ、遊ばれてますね。(>m<)
いきなり赤ちゃん渡されて、点目になったでしょうね~。 あとはずーっと青筋立てっぱなしだったんじゃないかと思うんですけどww。


> 薪さん、また余計なこと考えてますね。
> ある意味青木くんの方がさっさと腹くくってるよね。

薪さんは余計なこと考え過ぎだし、青木さんは括り過ぎですよね。
だからこの二人は協力して、互いの不足分を補い合って、より良い方向に進んで行くように、と考えて書いてます。 うちの二人は、どっちもダメ人間なんで。(^^;


一日、12時間労働ですか?
えー、それは長すぎると思いますっ。 
それでは仕事以外のこと、何もできませんよね。
そんな中で拙作を読み返してくださっているとのこと、本当にうれしいです。 
青木くんが薪さんに惹かれていく過程が、と言うと、ずい分以前のものから読み返してくださってるんですね。 Sさんのお心、ほんの少しでも温められたら筆者冥利に尽きます。


大みそかまでお仕事なんですか?
ううん、本当に大変! うちの会社よりきついですっ。(><)
でも、Sさんお一人じゃないんですよね。 Sさんの会社の方、みなさんご苦労様です。

今年は何年か振りに、計画的な大掃除ができました。(^^
途中で測量が入って一日予定オーバーしましたけど、午前中に窓拭いて、完了ですー。
これからお餅飾りと、神棚の掃除をして、干支飾りを片付けます。 1月2日に成田山へ行くので、お札と一緒に奉納してまいります。


今年一年、Sさんは試練の年でしたね。
その中でずっとうちの青薪さんを見守ってくださって、何度も温かいコメントをいただいて、本当にありがとうございました。
わたしもSさんとのお喋り、とっても楽しかったです。
来年も、よろしくお願いします。(^^

Aさまへ

12月26日に拍手コメントいただきました Aさま。

すみません、年、替わっちゃいました。(^^;
しづ、去年もそうだったよね、て思われてます……? その通りです、成長しなくてすみませんっ。

あけましておめでとうございます。
今年も生ぬるい眼で見てやってください。



> 彼女は別に意地悪で子供の面倒をみさせたわけではないのでしょう。

そうなんですよ!
自分の子供を他人に預けるって、相手を信用してないとできないでしょう? お姉さんは、「わたしは薪さんを信用してます」という自分の気持ちを、子供を預ける行為で表しているのです。 つまり、弟の伴侶として認めてます、ってこと。 他の軽口もみんなそうです。
ひどい話ですけど、ゲイ=エイズという認識が未だ田舎ではあって、同じお皿から物を食べたり相手に触ったり同じお風呂に入ったりすると感染する、などと言った知らないが故の悪意が存在してて、
でも、そういったものはわたし達は一切持ってない、ということを、青木家の女性は言葉ではなく態度で示しているのです。


> 私も今は赤ちゃんを上手くあやせる自信はないですね。

あら、そうなんですか?
ブランクがあると怖いものなんですね。 

青木さんは、生来の子供好きもあったと思いますが、
やっぱり罪滅ぼし、なんでしょうかねえ。 今井さんに「おまえのせいじゃない」と言われても、そうは思えなかったでしょうしね……(;;)


> 動物の要領であやす薪さん(笑)

人間だと思うから怖いんです、動物だと思えばかわいいです。 ←出産未経験者の理屈。
いえ、本当にね、赤ちゃん預かったとき、
「万が一、怪我でもさせたらどうしよう」って、すごく怖かったんですよ。 人の子だし。 責任取れない、って思って。 
でも、子供は全然じっとしてないし。 言葉が通じないから言うこと聞いてくれないし。
仕方がないので、動物だと思って一緒に遊びました。 うちの甥と姪にはナイショにしてください☆
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: