きみはともだち 前編(1)

 こんにちはー!
 
 今日から公開しますこちらのお話、うちの鈴薪さんのジェネシスで、3万5千拍手のお礼SSとなっております。 
 わたしにしては大人しい話だと思います。 青薪さんみたいに命の危険とかないし。←どういう自社比。
 ゆったり構えて、のんびりお付き合いいただけたら嬉しいですー。







きみはともだち 前編(1)





「よろしく、薪くん」

 そう言って彼の手を握る1年も前から、鈴木は彼のことを知っていた。なんと入学第1日目から、でもそれは鈴木に限ったことではなく、入学式に出席した学生全員に当てはまることで、つまり彼はその年の首席合格者だった。
 新入生代表挨拶で壇上に立った彼の、華奢だけれどピンと伸びた背中とか、大講堂の大きな窓から差し込む陽光に照らされて、かしこまった式典にはいっそ相応しくないほどに煌めいていた亜麻色の髪の毛とか、まだあどけなささえ残す透き通ったアルトの声とか。間近に見たわけではなくとも、次に会ったら絶対に彼だと分かるだろう。そんな強烈な印象を彼は鈴木に残したものの、この時点で二人は単なる同期生でしかなかった。

 彼と言葉を交わすずっと前から、鈴木は彼をよく知っていた。
 積極的に情報を収集せずとも、同じ学内にいれば嫌でも彼の噂は耳に入って来た。百年に一人の天才だとか、IQはアインシュタイン並みだとか、失笑を禁じ得ないそれらの噂を、鈴木はちっとも信じていなかった。大げさな、と一笑に付して、それでも彼が驚嘆に値すべき成績でこの大学に入ったことだけは事実だった。満点と言うのは眉唾だと思ったが、過去最高得点を更新したことは教授から直接聞いた話だったからだ。

 才覚に恵まれた者の常で、彼と付き合いたがる者は大勢いたのに、彼はその中の誰ともステディな関係にならなかった。話し掛けられれば返事はするが、自分から働きかけることは殆どない。コンパや飲み会にも顔を出すことはなく、社交的とはお世辞にも言えない彼のキャンパスライフはひたすら勉学に明け暮れるのみだと、これも友人から聞いた話だ。
 鈴木はそんな彼を、どうせ幼い頃から勉強ばかりしてきて、遊び方を知らない男なのだろうと予想していた。付き合っても楽しいとは思えない。彼と友だちになる気などなかった。だから彼が所属している唯一のサークル「犯罪心理学研究会」の扉を叩いたのは、純粋に自分の将来の仕事に役立てる為だった。

 初めて会った時、彼は不機嫌そうだった。
 これまで遠くからしか彼を見たことがなかった鈴木は、彼の瞳が日本人には珍しい、髪よりやや薄めの亜麻色であることを知った。彼の髪は今日も美しく輝いていたが、その型は単純に前髪を額に下ろした今どき高校生でもしないような面白みのない短髪で、加えて彼はとても整った顔をしていたが激しく童顔で、自分よりもずっと年下に見えた。
 彼の声は澄んだアルトだったが、入学式で耳にしたものよりも尖っていた。目つきもあまり良くなかった。ただ、彼の背中だけはあの日と同じに真っ直ぐに伸びていた。

 不機嫌な人間に対応するときの習性で、鈴木は無邪気さを装って彼に笑いかけた。彼はニコリともしなかった。大きな亜麻色の瞳で、鈴木を値踏みするように見た。初対面の人間に対して、失礼な視線だと思った。
 意趣返しの心算で、鈴木は彼を頭のてっぺんから爪先まで、ジロジロと見てやった。周りの人間には気付かせていないが、鈴木はそれほど穏やかな性格をしていない。ニコニコと笑いながら、相手をバッサリと切るタイプだ。
 顔に似合わない名前だ、と皮肉ると、余計なお世話だ、と怒声が返って来た。見た目よりも激しい反応に驚いた。彼の精神的未熟が可笑しくて、鈴木の作り笑いは本物の笑いに変わった。少しだけ、相手に対する興味が湧いた。
 右手を差し出したら、口をへの字に曲げながらも、鈴木の手を握った。白くて小さな手だった。女の子のように華やかではないが、健康的な薄ピンクの爪はとても清楚だった。

 彼は握手が済むと、鈴木に中断された読書の続きに戻った。頁に目を落すや否や、彼は瞬く間に世界と断絶した。まるで見えないカーテンで仕切られたように、鈴木の存在を完全に無視した。
 その時、居室には彼と鈴木の二人きり。普通こういう場合、当たり障りのない言葉を交わし合うものではないだろうか。20年に満たない僅かな人生経験から鈴木はその結論を導き出し、彼に話しかけた。
「なに読んでんの? ……犯罪時録? 面白いの、それ」
「べつに」
 一応返事は返って来たが、木で鼻をくくるとは正にこのこと。こちらが気を使って話し掛けているのに、正直、こんな無愛想な人間は見たことがない。
「なあ、薪くん家ってどの辺?」
 そのとき鈴木が言葉を重ねたのは、気遣いでも好意でもなかった。無視されるのが面白くなかっただけだ。
「オレは実家が横浜でさ、ここまで通うの結構大変」
「うるさい」
 ぱん、と音をさせて、彼は本を閉じた。険悪な目つきで下から鈴木を睨み上げ、黙れ、と眼で会話を強制終了させた。

 頭が良くて顔もいいのに、取り巻きができない理由が分かった。性格が悪すぎる。
 彼の凶悪な視線と鈴木の呆れた眼差しが一瞬絡んだとき、ピピピというアラーム音が聞こえた。それは彼の腕時計からで、彼はそれを合図に立ち上がり、何も言わずに居室を出て行こうとした。
 繰り返すが、部屋には彼と鈴木の二人きり。鈴木が透明人間でもない限り、「誰それと約束してるから」とか「ゼミの時間だから」とか、何かしら部屋を出る理由を述べるものではないか。

「どこ行くの? 誰かと約束? もしかして彼女?」
 ドアを開いて廊下に踏み出す彼の背中に、立て続けに質問を投げつける。ここまで来たら意地だ。絶対に単語以外の言葉を喋らせてやる。
「バイト」
「え、バイトしてるの? どんな?」
 学舎の長い廊下を歩く彼を追いかけながら、鈴木は軽い口調で尋ねる。が、彼は説明してくれる気はないようで、鈴木の問い掛けは見事にスルーされた。

「オレも付いてっていい?」
 鈴木の言葉を無視して先を歩いていた彼は、驚いて足を止めた。振り向いて、不思議なものを見る眼で鈴木を見る。出会ったばかりの人間に、そんなことを言われるとは予想していなかったのだろう彼の、その顔つきはなかなかに可愛かった。女子が騒ぐだけのことはある。
 鈴木はにっこりと笑って、でも心の中ではかなり最低なことを考えていた。バイト先なら、彼は立場の弱い従業員だ。傲岸不遜な彼の、他人にペコペコする姿が見られるはず。それが客商売なら最高だ、自分が客になって彼に愛想をふりまかせてやる。

「ダメ? 他人には見られたくないようなバイトなの?」
 彼がダメ出しをする前に、その口を封じる。沈黙は金とか言うけれど、計算された饒舌はプラチナだ。
 鈴木の策略にはまって彼は、べつに、と横を向き、結果的に鈴木の同行を許した。鈴木は内心ほくそ笑む。しかし、その目論見は大きく外れる運命にあった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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バイトって・・・

コメントが、きみのふるさと、に入ってしまいました~~~(>_<。) 楽しみにしていた鈴木さん編、いくつか前の、しづさまの近況で、「すぐ腐ってしまう~」とあって、腐ってもいいから(笑) 新作を楽しみにしていました。二次創作なんて、とってもできないわたしですので、お忙しいしづさまの、応援と待機(?)をがんばります。

コミックス11,12巻、ジェネシスからスタートした、遅い、秘密デビューですが、二次創作の方の、エネルギーがすごすぎて、普通の生活が~~~(泣)

徹夜して、しづさまの、ご作品をよんで、寝る前に、秘密をぱらり、・・・10巻とか、悪夢に、「・・・青木・・・!」とか、叫ぶ、薪さんにリンクして、・・・

いつ、寝るんだっ!

そのうちに家族に追放されそうな私です。(笑)

応援していますので、よろしくおねがいします。(*^-^*)

ところで、バイトって、ジュースもらえるあのバイトでしょうか・・・。

Nさまへ

Nさま。

ありがとうございますっ!
原作と違っててもOKですよね! 
「萌えisふり~だむ」は、わたしたちの合言葉ってことで!
よろしくお願いしまーす!

junさんへ

junさま。
コメントはどこに入っても大丈夫ですよ~。 ちゃんと伝わってますので、お気になさらず。(^^


junさまは最近、秘密ファンになられたのですね。
コミックス11、12巻から、というと、3か月くらいでしょうか。 それでは、
夜眠れないのなんか当たり前ですねwww。
ちょうど夢中になる時なんですよね。

わたしにも、そういう時がありましたよ~。
家族に追放、というか、オットに離婚されても仕方ないと思いました。 だって本当に薪さんのことしか考えてなかったんだもん。
夜中に起きて二次創作読んだり、自分でも書いてみたり、2年くらいはそんな日々が続きましたね。 食事が喉を通らなくなって、4,5キロ痩せましたし。 
3年目に入ったら落ち着きました。 ですので、junさんも3年後には眠れるようになると思います。 ←症状が重篤すぎて参考にならない。



> ところで、バイトって、ジュースもらえるあのバイトでしょうか・・・。

あははは!(>▽<)
そうか、ジェネシスのアレはバイトだったんですねっ!<違

今回はまともなバイトですので、ご安心を。
昔の薪さんは、女装はしなかったです。 中身はえらいオトメなんですけどね。
今の薪さんは、女装はするけど中身はオヤジという。
うまく行きませんねえ。(苦笑)

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Sさまへ

Sさま。

あははははー!(>▽<)
いや、ごめんごめん、Sさんにしたら笑い事じゃなく、恥ずかしかったんですよね、ごめんねっ。

だって、すっごく可愛かったんだもん。
タイトルって、センスもですけど、それ以上に人柄が出るんですよね。 Sさんらしいなー、って思って。 Sさんて、純朴で素直でしょう?


ここで言ってもアレですけど、
また描いてくださいね。(^^
楽しみにしてますー♪

Mさまへ

Mさま。

インフルのお見舞い、ありがとうございます。
生まれて初めて罹ったのですけど、「今年は軽いんだってよ」と義妹に教えてもらいまして。 言われてみれば熱も38度台だったし、熱があって眠れなかった夜も3日くらいだったし、軽く済んでよかったです。 
これで一生の免疫が出来ればもっといいんですけどね。 別の種類のインフルには罹っちゃうんですよねえ。 Mさんも気を付けてくださいね。


> そ、それで(汗

いえいえ、本当にもう昔の話ですし、当時もそれほど深刻じゃなかったですから。

お褒めいただきましたが、わたし自身は何にもエライことなんか無くて~、
と言うのも、うちはお義母さんができた人でねー、
「子供がいなかったら二人で人生楽しめばいいのよ」って言ってくれるから。
普通なら、跡継ぎ産むのが長男の嫁の仕事でしょ、って、(特にうちは自分ちで会社をやってるので) 本当は少しくらいは思ってるのかもしれないけど絶対にそれを態度には表わさないので、わたしも彼女の言葉を素直に受け取っています。


で、Mさんちの事情ですが、
過去にMさんからいただいたコメントのどこからもそういったことは感じ取れなかったので、とても驚きました。
詳しくはここに書けませんけど、贅沢な悩みだなんて、とんでもない。 Mさんの方が絶対に大変だよっ!(><)

わたしの友だちにも同じ立場の人がいるので、彼女から聞いた話を重ねたりするのはMさんに失礼かもしれませんが、本当に大変なご苦労をされていると思います。
彼女も、そのことで他人にも責められたし、自分でも自分を責めたって言ってました。 何も悪い事してないのに、おかしいですよね。
彼女から話を聞いた時も、辛いね、がんばってるねえ、偉いねえ、って、それしか言ってあげられなかったんですけど。  
将来のことを考えると不安は尽きないと言われて、愛情深い人ほど悩みは深まるのだろうと思いました。

Mさんが少しでもご自分に時間を割けるようになって、本当に良かったです。
状態が良くなったのも、悩みながらも頑張ってきたMさんのお力だと思います。
大丈夫、神さまは、一生懸命な人には優しいんです。




お話の感想も、ありがとうございました。

> 薪さんがバイトっつったらもうエロい想像しかできない

もおっ、Mさまったら!
てか、他にも似たようなコメントを幾つかいただきました。 
……殆どの人にそう思われているのかしら、何故かしら。 ←身から出た何とか。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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