きみはともだち 前編(4)

 気が付いたら、1000記事を超えてましたー。
 飽きっぽいわたしがブログを続けられるの、みなさんのおかげです。 どうもありがとうございます。
 わたしの場合、作品が完全に仕上がってから公開するので、創作活動とブログへの公開作業はまったく別のことです。 前者は楽しいけど後者は事務仕事に近いので、正直あんまり楽しくないです。 日記とか、3日も続かない方なので、みなさんとの交流が無かったらとっくに辞めてたと思います。
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 毎年今時期は更新遅くて申し訳ないのですけど、これからもよろしく面倒見てやってください。(^^






きみはともだち 前編(4)






「チケット貰ったんだけど。一緒にどう?」
 中庭のベンチで読書に耽る薪の姿を見つけた鈴木は、前置き無しに切り出した。
 眼と文字の間に唐突に差し込まれた動物園のチケットに、その時彼が怒りもせず、大した問答もなく頷いてくれたのは、その天才的な洞察力によって鈴木の嘘を見抜いたからかもしれない。チケットは貰い物ではなく、先日のバイト代で購入したものだった。

「これから?」
「オレは大丈夫だけど。薪くんの授業は?」
「問題ない」
 先日と同じようにぱたんと本を閉じて、薪は席を立った。
 予想に反して、すんなりと承諾してもらえた。それも彼の方から「これからどう?」と、積極的な姿勢を見せてくれた。そのことに気を良くして鈴木は、彼の動作と表情が先日バイトに出掛ける時と何ら変わりないことを黙殺した。

 天気が良かったので、動物園までは歩くことにした。
 池之端門から不忍通りを抜ける一番の近道を選ぶ。鈴木の方が大分背は高いのだが薪は早足で、大型連休が間近に迫ったこの季節、鈴木はうっすらと汗をかいた。遊びに行くのだからそんなにせかせか歩かなくてもいいのに、そう言うと、時間が勿体ない、と返された。早く動物園に行きたいのか、とその時は微笑ましく思ったが、後に解った。最初の時もこの日も、鈴木の思惑はまるで外れていたのだ。

 混み合う正門は避けて、不忍通りに近い門から入園した。
 手荷物は、入り口近くのコインロッカーに預けることにした。鈴木のディパックはそうでもなかったが、薪のショルダーバックは中身がぎっしり詰まっていて、とても重そうだったからだ。
 ゲートを潜ると、正面にフラミンゴの群れが見えた。コンクリートで造られた円形の池で優雅に羽繕いをする、華やかな鳥たち。周囲は緑豊かな常緑樹で囲まれ、地面は生い茂った草と灌木で満たされ、そこに焦点を当てれば十分に自然を楽しめる作りになっている。

「キレイだな。な?」
 池の縁に寄って鈴木が振り返ると、薪は池から2mほど離れた場所に突っ立っていた。腕組みをして、冷ややかな視線で鈴木と鳥を見ている。鈴木の隣で歓声を上げている女の子たちとはえらい温度差だ。
「……フラミンゴ、嫌い?」
「べつに」
「なら、もっと近くに寄って観ろよ。ほら、アレなんかすごく鮮やかで」
「ベニイロフラミンゴ。主にカリブ海沿岸地域に生息。全長は約1.2~1.4m、体重は約2.2~2.8kg。餌は水生プランクトンや小型の甲殻類など。雛は薄い灰色で、摂取する藻類やプランクトンに含まれるカンタキサンチンの発色効果により成長するに従い赤色を呈する。コロニーと呼ばれる集団を作り、その中で個別に縄張りを持って巣作りをする。寿命は40年~50年程度で、鳥類の中では非常に長い」

 何処に説明書きがあるのだろうと鈴木はキョロキョロしたが、見つかったのは鳥の名前が書かれたプレートだけだった。図鑑に書かれているような解説を頭の中から引き出したのかと驚いて薪を見つめると、彼はつまならそうに横を向き、
「集団で飛ぶフラミンゴは圧巻だ。青い空がピンク色に染まる。でもこいつらは、風切羽を切られて飛べなくなってるんだ」
 飛べない鳥たちを哀れんでいるのか、そんな鳥を観て喜んでいる鈴木を蔑んでいるのか。そっぽを向いた彼の横顔は、ひどく冷たかった。
「仕方ないんじゃないかな。動物園側にも事情ってもんが」
「べつに可哀想だなんて思ってない。彼らはここにいれば、飢えることも、天敵のワシやハイエナに襲われる心配もない。風切羽と引き換えに安楽な生活を手に入れたと思えば、恵まれた人生と言えないこともない」

 その先のエミューやカンガルーでも、彼の反応は同じだった。鈴木は、彼の動物に関する知識に舌を巻く思いだったが、彼はずっと無表情のまま、鉄柵に身を乗り出すようにしている子供たちの後ろから冷静な眼で動物たちを眺めているだけだった。
「なあ。もしかして、動物園苦手だった?」
「べつに」
 移動するのも早い。動物自体にあまり興味がないのか、柵の前に居る時間はせいぜい10秒程度。檻の隅から隅までさっと目を走らせて、一通りの情報を得ると次へ移ってしまう。彼の眼は観察者のそれで、この場にはまったく相応しくなかった。
「なんでそんな、観るの早いの?」
「子供の頃、母とよくここに来たから。此処に居る動物はだいたい知ってる」
「いや、オレだってカンガルーくらい知ってるけど、って、置いてきぼりかよ」
 鈴木の返答を待たずに薪は次のブースへと進み、まあその足の速いこと。鈴木がやっと彼に追いついたのは、爬虫類館の入り口だった。

「うわー、蛇って苦手だな。薪くん、怖くない?」
「べつに」
「見てるとゾッとしない?」
「しない」
 会話が続かないのは、こうやって彼が話を打ち切ってしまうからだ。会話というのはキャッチボールみたいなもので、相手が取りやすい位置を狙ってボールを投げ、可能ならば返球しやすいように種を仕込んでやる。彼のように飛んできたボールを叩き落としてばかりでは、ラリーは続かない。
「蛇にしてみたら、人間の姿は吐き気を催すくらいに醜悪なものかもしれない。お互い様なんじゃないかな」
 眼の付け所はいいと思う。会話のセンスも。しかし。
「そうかもしれないけど、この怖さは生理的って言うか、……いねぇし」
 勝手に会話を終了させていなくなる、残された鈴木は独り言を言う寂しい男になってしまう。それを何度か繰り返されて、ライオンのブースに到着する頃には、鈴木はめっきり口数が少なくなってしまった。
 そんな自分に気づき、鈴木はハッとした。このままではいけない。彼との間に友人としての会話を成立させると言う目的を果たさなければ、せっかく買ったチケットが無駄になる。

「おお。やっぱりカッコいいなあ、ライオン」
 たてがみの美しい雄ライオンに賛辞の一つも述べようと、鈴木は声を張り上げた。
「近くで見ると迫力あるぜ。ほら、来いよ」
 薪の腕を取り、強引に鉄柵の前に立たせる。至近距離でライオンと対峙した彼は、わざと鈴木の賛辞を打ち消すように、
「ライオン。百獣の王と言われるが最強には程遠い。一対一の陸上戦になればアフリカゾウに敵わないし、カバに噛み殺された間抜けな例もある。食料が無ければ死肉も漁るし、オスは基本的にはメスの稼ぎを当てにして昼寝三昧、王が聞いて呆れ」
「うわ!」
 突然の咆哮が響き、鈴木は思わず耳を塞いだ。薪の皮肉を理解したわけではなかろうが、何とも間の良いことで。

「悪口言われて怒ってるぜ」とジョークを飛ばすつもりで横を向き、鈴木は咄嗟に口元を押さえた。物理的な力を加えておかないと、吹き出してしまいそうだったからだ。
 よほど驚いたらしい彼は、きれいな顔を蒼白にして首筋には鳥肌、細い肩は耳に付くほどせり上がり、ビビリの見本みたいな格好で固まっていた。

「い、今、顔にライオンの息が」
 鈴木のクスクス笑いにも気付かぬ様子で、自分に吠え掛かった獰猛な獣を見つめる。微かな興奮が、薪の頬を薄紅色に染めていた。亜麻色の瞳をいっぱいに開いたその顔を、可愛いと鈴木は思った。
「身体が押されるみたいだった。すごい……」
「薪。おまえ、髪の毛逆立ってるぞ」
 鈴木に指摘されて、慌てて彼は自分の髪の毛を押さえた。自分の状態に初めて気付いた彼は、今度は羞恥で頬を赤くし、眼を泳がせて俯くと言う分かりやすい行動に出た。
「ちょっと、びっくりして」

 バツが悪そうに、拗ねた子供のように、鈴木の顔を見ようとしない。これ以上からかったら可哀想な気がして、鈴木は、雌ライオンの周りで戯れている仔ライオンたちに注意を向けた。
「奥に小っちゃいのもいるぜ。可愛いな」
「……うん」
 醜態を晒したとの思いからか、彼は素直に頷いた。あんなにビビっておいて、「仔ライオンはプライド(群れ)の政権交代の際には殺される運命で」なんて偉そうなことは言えなくなってしまったのだろう。

 その後、薪はますます無口になった。会話が成り立つどころか、返事も返ってこない。しかし。
 彼の歩く速度はゆっくりに、位置は鈴木の隣を歩くようになった。無防備に腹を上にして眠るトラや、グルグルと檻の中を回るクマ、一秒もじっとしていない落ち着きのないキツネザル。彼らの様子に鈴木が大して意味のない感想を述べると、薪は小さく頷いた。

 平日でも混み合っているパンダのブースに行く前に、喉が渇いたので休憩を取ることにした。プレーリードックとカピバラの檻の前に設置されたベンチに並んで腰を下ろし、小動物に和まされながら缶コーヒーを飲んだ。
 目の前を楽しそうに通り過ぎていく、カップルや親子連れ。友人同士のグループ、教師に引率された小学生の団体。みんな仲が良さそうに見えて、鈴木は幸せな気分になった。

「なあ。オレたち、友だちになれそう?」






テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Ⅰさまへ

Ⅰさま。

お祝い、どうもありがとうございます。(*^^*)
拙作を大事に読んでいただいてありがとうございます。 
し、しかし、そんな大層なものでは~、ただの二次創作ですので (それもかなりふざけてる部類に属すると思う) 軽く読み捨ててくださいねっ。


なんと、
本郷キャンパス、行かれましたか!
わー、羨まし―!
一般の人でも入れるんですよね、てか、学外のお客にも親切と! さすが東大! ←感心するとこちがう。

わたしも行ってみたいのですが、平日は仕事があって~、
どうして日曜日は学食やってないのかなあ。(当たり前)
仕方ないので学食のシーンは、ネットの情報を頼りに書きました。 広くて天井が高い事しか分かりませんでした。 
学食はこの後、(9)に出てくるのですけど、イメージ違ったらすみませんです。


ところで、数ヶ月前にⅠさまにいただいたリクエスト、「岡部さんと薪さんの関係に嫉妬する青木さん」ですが、
一部分で申し訳ないんですけど、次に公開予定のお話の中に盛り込むことができましたので、お答えにさせていただきたいと思います。 
公開は3月の予定です。 よろしくお願いします。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Ⅰさまへ

Ⅰさま。


返信、ご丁寧にありがとうございます(^^

そうですかー、そんなにいいんですか、東大散策。
地図で見た限りでは、敷地広いですよね。 写真も何枚かチェックしたのですけど、「建物が重厚」、そうなんですよね! 石や煉瓦の大きな建物が多くて、歴史を感じさせる作りなんですよね。
木も大きいんですか~。 春に行けば、緑もいっぱいなのかな?
春になって仕事がヒマになったら、ぜひ行ってみたいです~!

教えていただいて、ありがとうございました。
何ヶ月先になるか分かりませんけど、行けたら報告します♪

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
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