きみはともだち 前編(6)

 突然ですが、
「ハッピーベジフル」ってゲーム、ご存知ですか?
 野菜育成シミュレーションゲームで、半年くらい前からぼちぼちやってるんですけどね。
 ゲーム内には野菜を育てるお手伝いをしてくれる妖精がいまして、この妖精に着ぐるみを着せたりステッキを持たせたりするのですけど、今回、バレンタインバージョンてことでラインナップされた着ぐるみが、

 ピンクのリボン

 裸にリボンて、どう見てもあんたそれ変態ごほごほ、バレンタインのプレゼントは僕だよ的なげほげほ、チョコと一緒に僕を食べてってはらひれほろ。
 妄想が先走ってゲーム画面を見られない自分の腐り具合がザンネンです。

 法十でやるとしたら、自分にリボンを結ぶのは薪さんじゃなくて青木さんですね。 で、薪さんに思いっきり蹴り飛ばされるんだwww。
 
 






きみはともだち 前編(6)






 動物園の目玉のジャイアントパンダの檻の前は、見物客で溢れ返っていた。最後尾に立った係員が掲げたプラカードに記された待ち時間の目安は、約2時間。列に並んだら、閉園時間までいくらも残らない。

「どうする、薪。パンダ見たい?」
「チケットは鈴木が用意したんだから。鈴木が好きなようにしたらいい」
「よし、それならレッサーパンダを見に行こう。同じパンダだから」
 鈴木の提案を受けて、薪は無表情に、
「DNA研究によってジャイアントパンダはクマ科、レッサーパンダはレッサーパンダ科に分類されている。レッサーパンダ科はイタチ上科に属していることから、その生態はクマよりもイタチやアライグマに近く」
 流れるような解説は不意に途切れた。「それで?」と鈴木が先を促すと、薪は苦く笑って、
「そうだな、パンダはパンダだよな。行こうか」と先に立って歩き出した。
 習得が必要だと認識した他愛ない会話を、薪は、身に付ける努力を始めたらしい。と言うより、彼の知識のひけらかしは防壁のようなもので、それは鈴木にはもう必要ないと、そう考えて止めたのかもしれない。

 東園に向かう橋を渡る。眼下に見える沢山の人々、楽しい雰囲気が上昇気流に乗って伝わってくる。階段を降りてその中に入ったら、自分と薪も彼らと同じに、好意を持ちあう関係になったような錯覚を覚えた。
 レッサーパンダの檻の前で、自分と並んで微笑む薪の横顔が、なんだかとても貴重なものに思えて。浮かれた気分になって鈴木は、ある計画を思いつく。

「友だちを紹介するよ」
 キョトリと眼を丸くする、薪の表情はひどく愛らしかった。
「女子?」
「いや、男だな。多分」
「たぶん? ……僕、そっちの世界の人とはあんまり付き合いたくないんだけど。うちの店で働かないか、なんて誘われても困るし」
「なんだよ、それ。そっちの世界ってどっちだよ」
「地理座標までは記憶してないけど。新宿のバミューダトライアングルって呼ばれてるとこ」
「ぶっ。バミューダトライアングルっておまえ」
 内心の驚きを隠して、鈴木は笑った。ちゃんと話ができるようになれば、そんなに厭な奴じゃない。でも、鈴木が驚いたのは薪の態度の変化ではなかった。
 窄めたくちびるのあどけなさとか小首を傾げる無垢な様子とか、彼が感情を表に出すと眼を瞠るほど可愛い。先刻までの彼が、素っ気ない態度と冷たい言葉の壁で何を守っていたのか、分かったような気がした。

「ほら、あいつだよ」
 鈴木が指差した彼は、白い柵に囲まれた芝生の上で大欠伸をしていた。体長約1m、体重はおそらく鈴木よりも重い。ずんぐりとした体型の割に動きは俊敏で、原種は主に防犯の仕事に就いていたと聞く。雪中遭難救助犬として世界的にも有名な、つまりはセントバーナード犬だ。
「賢そうな友だちだな」
 薪はそれしか言わなかった。セントバーナードに関する薀蓄だけが彼の中に無かったとは思い難い、でも薪は何も言わずに微笑んだ。彼の寡黙を、初めて鈴木は嬉しく思った。

 柵の中には大小取り混ぜて沢山の犬がいて、彼らはみんな子供たちと楽しそうに戯れていた。柵の周囲に集まった人々と一緒に、そんな彼らを眺めている薪に隠れて、鈴木はこっそりと、硬貨と引き換えに餌箱から犬用の餌を取った。その包みを薪の手に握らせる。
「これ、なに?」
 本当に何だか分からないらしかった。子供のころ、母親と一緒に此処によく来た、と彼は言っていたのに。給餌体験もしたことがないのだろうか。

「ここから中に入れるから」
「え。冗談だろ」
 柵の外側で、他の大人たちと同じように傍観者を決め込んでいた薪の腕を無理やり引っ張る。薪は足を踏ん張って抵抗したが、これだけの体格差だ、引き寄せるのは簡単だった。

「鈴木。周り、子供ばっかだぞ。恥ずかしくないのか」
「そんなの気にすんな。踊る阿呆の方が世の中楽しいぞ」
「で、でも僕、イヌ触ったこと無、ちょ、やっ、うわわ!」
 観光客から餌をもらい慣れているせいでやたらと人懐こい彼は、ドックフードの包みを持たされた薪を見るや否や、鼻先を薪の腕に押し付けてきた。そのまま渡してやればいいものを、給餌体験をしたことがなかった薪は愚かにも腕を上げてしまい、当然のように餌を追って薪の身体を這い上った超大型犬の体重をまともに受ける羽目になってしまった。どう見ても40キロ台の貧相な体躯に、90キロ近い犬の体重を支えられる訳がない。重力の法則に従って芝生の上に仰向けに倒れた薪の両肩を、彼は容赦なく前足で押さえつけた。

「す、鈴木! 何とかしろよ、友だちなんだろ!」
 薪の、焦った顔も慌てた顔も、すごく可愛いと思った。でもそれを口にしてはいけないと何故だか鈴木には分かって、だから鈴木は犬の下敷きになった薪の無様な格好を、隣の子供と一緒になって笑いとばした。
「あはは、好かれたなー」
「笑いごとじゃないだろ。痛いよ、てか重い。こいつ、太り過ぎじゃないのか」
「そんなことないよな。なあ、ヨーゼフ」
「この犬、ヨーゼフって名前なの?」
「いや、知らないけど。でもヨーゼフって顔だろ?」
「ぷっ。どんな顔だよ」

 薪の肩を押さえて動きを封じたヨーゼフが、目的の小袋を求めて鼻先を薪の右手に近付ける。ぎゅ、と握った手に力を込める薪に、鈴木は笑いながら、
「それ、食べさせてやれよ」
「え、これって犬のエサなのか」
「なんだと思ったんだよ」
「中身は知らないけど。鈴木が僕に預けたんだと思ったから」
 薪の言い分を聞いて、鈴木は眼を瞠った。
 未経験からくる愚行だと決めつけていたが、それは違ったらしい。彼は鈴木からの預かり物に責任を感じて、それを守ったのだ。

「悪かった。ちゃんと説明すれば良かったな。ほら、こうして手のひらに載せて」
 小さな右手を開いて、その上に袋の中身を並べる。すっと差し伸べると、間髪入れずに犬の長い舌が薪の手首から指先まで、べろりと舐めて行った。
「くすぐったい」
 はは、と声を立てて、薪は笑った。
 それは鈴木が初めて見た、彼の笑顔だった。

 近い将来、この笑顔を守って行きたいと願い、もっと遠い未来にはその笑顔を守るために自分の命さえ投げ出すことになる。でも今は、ただただ純粋な喜びに満ちて。
 何気ない風景に咲くありふれた花のように、それは自然に息づいていた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

やっぱり?
セントバーナードはヨーゼフで決まりですよね。
でもあれ、実は原作に出てこないってご存知でした? (次の章でちょっと触れますが) アニメ設定だったんですね~。 
わたしもこの話書くまで知りませんでした。 今回調べて初めて分かったんですー。 


いつも応援、ありがとうございます。
はい、感じておりました。(笑)
これからもよろしくお願いします。(^^


Aさまへ

Aさま。

これでも若い頃はバリバリのゲーマーだったんですよー。 会社から帰って、朝の4時ごろまでゲームしてました☆ 結婚してからできなくなりましたけど。
時間をやりくりしてするほどのものではなくて、空いた時間に2,3分ログインして、作物を植え替えたりするだけなんです。 その調子なので、なかなかレベルが上がりません。(^^;


> ジェネ薪さんもあの変人ぽいところがなかったら好色な人間が群がったでしょうね。

エキセントリックすぎて、近付いてきた人たちがみんな引いて行っちゃったんですかね? 残ったのが鈴木さんだけだったとか? 
となると、5巻で雪子さんが薪さんに放った「あなたが誰よりも大切に想う人」という言葉の実情は、「あなたみたいな変人に唯一できた大切なお友だち」ということになるのかしら? でもそれを言ったら角が立つから、ああいう婉曲な言い方をなさったんですね、なんて優しい女性でしょう!!<違うがな。


>最後の3行に私も目頭が熱くなりました(;;)この日もせつない思い出になってしまうのですね・・

うーん……
わたしがすずまきさんを書くと、どうしてもこうなってしまうんですよね。
楽しければ楽しいほど、あの日薪さんが受けた傷が深くなって行く、それはとっても悲しい方程式なのですけど、
わたし、ドSなので! ばっちこいですっ。 ←最低ですみません。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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