きみはともだち 前編(7)

 世は3連休なんですね。 最終日になって気が付きました、事務所で仕事してます、しづです。 
 こんなに天気がいいのに遊びに行けなくて悔しいから更新します。←???



 ご指摘いただいたので、ちょっと前回の補足説明を~。

 このヨーゼフと言う犬は、本編の「デート」というお話に出てきます。 青木さんと動物園デートをしたときに薪さんが戯れていた犬で、「ヨーゼフという名前は鈴木がつけた」と薪さんが言ってるんですけど、その経緯がこちらでございます。
 そんな具合に本編と絡んだエピソードが、ADカテゴリ中にはたくさんあります。 わたしの中では、鈴薪さんと青薪さんは完全に同一線上にあるんです。 鈴木さんと経験したことが、青木さんとの関係に深く関わって行くの。
 経験が人を作る、人との関わり合いが人を作る、その積み重ねで現在の薪さんがある。 青木さんは、今の薪さんを好きになった。 だから鈴薪さんの過去は、薪さんにはもちろん青木さんにとっても、なくてはならないものだと思うの。

 そんな思惑も若干は混ざってますけど、うちのお話で一番重要なのは、
 ギャグですから!
 どうか気楽に読んでくださいねっ!







きみはともだち 前編(7)






 帰り道、鈴木は薪と一緒に電車に乗った。
 鈴木の家は横浜で、通学には京浜東北線を利用している。そう話すと、大森まで一緒に行ってもよいか、と聞かれた。何でも、昔世話になった叔母の家が大森にあって、今でも週に一度顔を見せることを義務付けられているのだとか。電車の急なカーブに吊皮を握り直しながら、もう3週間くらい行ってないから彼女のお小言が恐怖だ、と薪は気乗りしなさそうに言った。

「厳しい人なのか? 叔母さん」
「普段は優しいけど、怒ると怖い」
「女ってみんなそうだよな。うちの母さんもだ」
 彼女は母親の妹だと言う話だから、この男と血が繋がっているわけだ。叔母と甥が似ることは多いと聞くし、だったらさぞ美人だろうと鈴木は思った。
「なあ。叔母さんて、いくつくらい?」
「46歳。身長156センチ体重70キロ、タレントのマ●コデラックスに瓜二つだと近所で評判だけど、紹介しようか?」
「……いや、いいよ」
 鈴木が引きつった顔で断ると、薪は意地悪そうに笑った。見透かされたらしい。

「叔母さんはいい人だよ。僕のこと、本当の子供みたいに育ててくれたし」
「え?」
「僕の親、6つの時に交通事故で死んじゃって。それから中学卒業まで、叔母さんの家で育ててもらったんだ」
 何でもないことのように自分の過去を話すと、彼は横目で鈴木を睨んだ。「同情されるようなことじゃないからな?」と亜麻色の瞳が釘を刺す。
 刺されて、鈴木は顔を引き締めた。
 相手を可哀想だと思う気持ちは、傲慢さの裏返しだ。気遣う気持ちがナイフになることなんて、ざらにある。見るからにプライドの高そうな彼には一番してはいけないことなのだと、そのとき鈴木は肝に命じた。

「じゃあ、こないだバイトの後に約束してるって言ってたのも、その叔母さん?」
「そう。あの日は叔父さんが……」
 先刻まで強気に輝いていた亜麻色の瞳に、ふと陰りが差した。口を噤んで、鈴木の顔から車窓に視線を移動する。しかし彼の瞳は外の景色の何ものをも認める様子がなく、何か嫌なものでも見ているかのように細められていた。
「叔父さんはどんな人? やさしい?」
「……ああ」
 叔母のことはすらすらと話した彼が、叔父の話になると口が重くなった。先日会った時、ケンカでもしたのだろうか。
「中学卒業まで」と彼は言ったが、高校生からの一人暮らしと言うのは普通に考えても早すぎる気がするし、もっと以前から確執があったのかもしれない。今もこうして家に遊びに行くくらいだから大きな諍いがあって家を出たわけではなさそうだが。 

 付き合いの浅い自分が訊けることでもない。ふうん、と鈴木は頷いて、すると薪は、今日彼にできた新しい友だちのことに話題を切り替えた。
「セント・バーナードなら普通は『バリー』だろ。どこから『ヨーゼフ』って名前が出てきたんだ?」
「ああ、40人も助けたんだよな。でもバーナード犬って言うと、どうしてもハイジのイメージが強くてさ」
「ハイジ?」
「アルプスの少女だよ。知らない?」
「それなら原作読んだけど。ヨーゼフなんて犬は出てこなかったぞ」
「え、マジ? アニメ設定だったのか。騙されたな」
 鈴木の憤慨が可笑しかったのか、薪はクスッと肩を揺すり上げた。

「今度、一緒にDVD観ようぜ。オープニングのブランコがあり得なくて笑えるから」
「ブランコ?」
「天からブランコが下がってんの。で、ハイジがそのブランコを漕ぐとアルプスの山がはるか下に見えて、いかにも気持ち良さそうなんだけど。でもブランコの往復時間から計算すると、あのブランコの綱は全長50m、高さは60m近くあって」
「綱の長さが50mのブランコを漕ぐとなると、単振り子の公式から最高速度は時速80キロにもなるけど。ジェットコースター並みの加速度に、安全ベルトも無しで?」
「その通り、オレも計算してみた。着地に到っては、ブランコに於ける理想仰角36度で飛び出すと前方約120m地点、エネルギー保存の法則から着地速度は時速180キロを超える」
 鈴木の黒い瞳と薪の亜麻色の瞳がぶつかり、二人は同時に口を開いた。
「「すげーな、ハイジ」」
 混み合った電車の中、大声で笑うこともできず。鈴木は奥歯で笑いを噛み殺した。
 隣を見れば、薪はつり革を持った右腕に顔を伏せるようにして隠し、どうやらツボにはまったらしい。取っ手を握った細い手が、小さく震えている。

 そんな風にして、鈴木は薪と『意味のない会話』をした。その場限りの何の役にも立たない、明日になれば会話の内容も思い出せない、そんな会話だ。ふわふわと風に吹かれて消えるシャボン玉のように、話の内容はコロコロ変わる。
 薪は鈴木の話を聞き、時には呆れ、苦笑いし、背中を丸めて笑いを堪えた。普通の友だちと、なんら変わりないと思った。天才とかクールビューティとか、噂ばかりが先行して彼のイメージを作っているけれど、学び舎以外の場所に身を置いた彼は普通の男だ。
 鈴木はそう思ったが、現実に、薪は特殊だった。鈴木はその事実を5分もしないうちに知ることになる。

「でさ、藤田のやつが酔っ払って見境なく女の子に声かけるもんだから、オレたちまで店員に睨まれちゃって。居辛かったのなんのって、―― 薪、どうした?」
 薪は、いつの間にか無言になっていた。短い相槌さえ返ってこないことに気付いて鈴木が声を掛けると、薪は蒼白な顔で俯いていた。
「顔、青いぞ。酔ったのか?」
 乗車率120%の電車内は人いきれで暑苦しく、鈴木も背中に汗をかいていた。動物園でも大分歩いたし、ヨーゼフとも遊んだし。見るからに体力のなさそうな身体だ、疲れてしまったのだろう。

「次の駅で降りる?」
「大丈夫だよ。あと2駅だし、……っ」
 鋭い痛みが走ったかのように、薪が顔を歪めた。ぎゅ、と目をつむって、険しく眉根を寄せる。眼の端に涙が滲んでいるのを見て、鈴木は彼の限界を悟った。
「降りよう。こっちへ」
 乗車口の近くへ連れて行こうと、彼の肩を引き寄せたとき、鈴木はそれに気付いた。
 毛むくじゃらの男の手が、薪の腰の辺りに見えた。明らかに不自然な位置だった。
 弾かれたように鈴木が振り向くと、頭頂部が禿げ上がった中年の男が、周りの乗客を掻き分けるようにして乗車口へと進んで行った。

「あいつ」
「騒ぐなよ」
 待て、と声を上げようとした鈴木の手首をぎゅっと握り、低い声で薪が言った。
「いいよ、べつに。減るもんじゃなし」
「泣き寝入りか? 将来警官になろうって男が、犯罪を見逃していいのかよ」
 薪はそれには答えず、黙って前を向いた。横顔は、完全な無表情だった。
「ああいうのは他でも繰り返すんだよ。捕まえて、警察に突き出してやる」
「静かにしろよ。他の乗客の迷惑になる」
 義憤が治まらない鈴木に、薪の冷静な声が響く。どうしてそんなに落ち着いていられるのか、鈴木には彼の気持ちが分からなかった。
 ついさっきまで、楽しそうに笑っていたのに。オレの苦労が水の泡じゃないか、と鈴木は思い、自分の中の小さな嘘に気付いた。
 あの男が許せないのは、見ず知らずの次の被害者のためじゃない。目の前にいる彼のため、彼が被害に遭ったから許せないのだ。

「とにかく、次、降りよう」
 強引に薪の手を引いて、品川駅で降りる。ホームの乗客の群れに混じってしまった男を追う気は失せていたが、薪の顔色は青いままだ。休ませたほうがいいと思った。
 薪をベンチに座らせて、自販機のコーヒーを買った。季節柄、温かい飲み物は種類が限られていて、あいにく、彼が動物園で選んでいたブラックコーヒーはなかった。
 1種類だけ残っていた微糖ミルク入りのホットコーヒーを差し出すと、案の定拒否された。
「ミルク入りのコーヒーは好きじゃない」
「わがまま言わないで飲めよ。あったかいの、これしか無かったんだ」
 ひどい顔色だぜ、と言い掛けてやめた。

 プルタブを開けてやると、薪は浮かない顔をしながらも受け取った。飲み口に口を付け、ほんの少し飲み込む。白い喉がコクリと動き、薪はほっと息を吐き出した。自分が息を詰めていたことにも気付かなかったに違いない。
 ショックを受けていないわけが無い。あのとき薪は青ざめた顔をして、涙ぐむほど嫌がっていたではないか。
 それにしても、男が痴漢に遭うなんて。どう言って慰めていいのか、見当もつかない。鈴木の苦手な古典のレポートよりずっと難問だ。

 鈴木が言葉を選んでいると、薪は苦笑いと共に傍らに立った鈴木を見上げ、
「大丈夫だよ。慣れてるから」
「えっ? 慣れ……?」
 薪の告白は信じ難かったが、嘘ではないと思った。あれが初めてだったら、電車の中であんなに冷静ではいられなかっただろう。
「そんなに深刻そうな顔するなよ。ケツ撫でられるくらい、なんでもないよ。相手も、男だって判ると大抵は途中で止めるんだ。たまに止めない奴もいるけど」
 薪は、椅子の背にもたれて足を組み、苦手だと言ったミルクコーヒーを飲んだ。鈴木の思いやりを嘲笑うように、何でもないことだと結論付ける。
「さっきのはちょっと悪質で、前の方まで手が伸びてきたから。さすがに焦った。ジッパー下ろされたら、前に座ってたおばさんに悲鳴上げられちゃう。僕まで捕まっちゃうよ。『現役東大生、満員電車で破廉恥行為』なんてワイドショーにでも流れたら、うちの叔母さん、卒倒するだろうな。お小言くらいじゃ済まなくな……」
 人差し指と中指を揃えて、小さな口に押し当てた。鈴木を見上げる亜麻色の瞳が、驚きに見開かれる。動きを封じられたくちびるの間から、湿った息が遠慮がちに吐き出された。

「無理すんな」
 冷たい饒舌は彼を守る壁。本来寡黙な彼が、醒めた口調で立て板に水のように喋るときは、懸命に何かを匿おうとしているのだ。幾重にも巡らせた言葉の壁に、無数のトラップをちりばめて、そんなにしてまで彼が秘密にしたいものの正体を鈴木は知らないし無理に訊く気もない。だけど。
「嫌なものは嫌、悔しいものは悔しい。正直に言っていいんだぜ」
 指先に触れたくちびるの柔らかさに内心焦っていた鈴木は、そのせいで後れを取った。そちらに気を取られなければ、直ぐに気付いた。
 薪は、泣いていた。

「あ」
 どんな短い言葉を発する時間も、鈴木には与えられなかった。鋭く手を払われ、飲みかけの缶コーヒーを投げつけられた。怯んだ隙に、薪は乗客の中に消えていた。
「しまったー、泣かしちまったぁ……」
 最悪だ、と鈴木は思った。同情するな、とあれほど釘を刺されたのに。慰めるような態度は彼のプライドをいたく傷つけるものなのだと、理解したつもりでいたのに。
 さっきの痴漢よりも酷いことを、自分は彼にしたのだと思った。庇うつもりで傷つけた。

 彼にぶつけられた缶コーヒーは、鈴木の胸に当たってシャツに染みを作り、ホームの床に転がった。それを拾い上げてゴミ箱に入れ、茶色く汚れた自分の胸元を見る。
 シャツをつまんで鈴木は、大きく溜息を吐いた。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんにちは。休日のしづさんは夫のもの、とおっしゃってたから、今日は更新されてないかなと思いながら来てみました。お仕事お疲れさまです~。

 ハイジのブランコ、空想科学読本からですか?面白いですよね、薪さんもこういう話好きそう。
 私、著者の講演をきいたことがあるのですが、すごく楽しかったですよ。
サザエさんのエンディングで、家にひとりずつ飛び込んで、家が膨らむじゃないですか。あれだけ変形する素材はゴムしかなく、変形の度合いと変形してもとにもどるスピードから計算して彼らが家に飛び込む速度は時速200km、ゴムの壁で跳ね返ったところに次の人が時速200kmで飛び込んでくる…あのあと家の中はどんなに凄惨な状態だろうかって(゚Д゚;)  

 薪さんに痴漢行為なんて、許せませんね!!薪さんが混んでる電車にいたら、私もさわりたくなっちゃうけど。

しおんさんへ

しおんさん、コメントありがとうございます。


>  ハイジのブランコ、空想科学読本からですか?

そうです! 
あれ、面白いですよね~♪
アニメの演出を現実で考えるなんて、頭の良い人ならではの遊び方だと思います。 薪さんも鈴木さんも頭脳明晰なので、こういうの好きそうだな~って。

しおんさんは柳田先生の講演を拝聴されたのですか?
わー、羨ましいー! わたしも聞いてみたいです!


> サザエさんのエンディング

あはははは!!!(>▽<)
ホームドラマが一変して凄惨な事故現場にっ!!  ←すみません、笑うのは人間的にどうかとか考えられないくらい可笑しいです。


>  薪さんに痴漢行為なんて、許せませんね!!薪さんが混んでる電車にいたら、私もさわりたくなっちゃうけど。

ねえ! 許せませんよねえ!
て、しおんさんがとんでもないこと言ってるーwww。
分かっておりますとも。 アイドルスターにファンの子たちが手を伸ばすような感覚ですよね。 きゃー、さわっちゃったー、しばらく手洗わないー、みたいな。 かわいい♪(^^

わたしは薪さんに触りたいとは思わないです。 その役目は青木さんor鈴木さんにお任せします。
遠くから見てるだけでいいの。 奥ゆかしいでしょ?
ただし、
朝から晩まで1日中。 仕事も食事もお風呂もベッドも全部。 ←根っからのストーカー体質。

同じ薪さんを好きな者同士なのに、しおんさんのはファン心理で、わたしのは犯罪になるの、何故かしら??


Aさまへ

Aさま。

> 原作の薪さんも鈴木さんに出会って成長した部分が多いと思うので鈴木さんのことを忘れて欲しくない

薪さんは鈴木さんに出会って、すごく変化したと思うんですよね。 まるで別人に生まれ変わったかのように。 
それで澤村さんは、薪さんが自分から遠くへ行ってしまうような気がして、取り縋ってしまった。 あんな風に友だちと砕けた調子で話す薪さんを見たのも、初めてだったんじゃないかと想像します。

第九編では、
薪さんが鈴木さんのことを思うと、どうしても自分の罪とセットになってしまう。
Aさまのおっしゃる通り、青木さんと家族として過ごすうちに、薪さんが鈴木さんとの思い出話を青木さんにできるようになるといいですね。
(後のコメントで訂正いただいた件に関しましては、勝手に「有」に変換されてました。(笑) Aさまとわたし、同じ気持ちってことですね♪) 


> ジェネ薪さんは全然、人目を気にしない感じですね(^^;)

そうですねえ。
もしも痴漢にあったら、我慢なんかしないでしょうねえ。 
犯人の手を掴んで、「この行為は刑法何条に該当し云々」とか、六法全書を暗誦しちゃうんじゃないでしょうか。(笑)

Aさまへ

Aさま。

ご丁寧にありがとうございます。

「薪さんが普通に鈴木さんのことを話せて、青木が笑顔で聞いてあげる」
Aさまの願いを聞いて、みちゅうさんのお話を思い出しました。 あちらの青木さんは、薪さんと一緒に鈴木さんの真実を探していくんですよね。 青薪さんの理想形の一つだと思います。

うちもそうなってくれたらなあ……うちの青木さん、鈴木さんにシットしまくりだからなあ……その辺、乗り越えないと本当の意味で薪さんの伴侶になれないのになあ。
もっと大人にならなあかんよ、青木くん。

Nさまへ

Nさま。

本当に、サイアクですよね。
プライベートなことなので詳しくは申せませんが、わたしにも同様の経験があったこと、やっぱり誰にも言えなかったことも同じです。 悪いのは自分じゃないのに、なんか罪悪感を感じるんですよね……。 
そういう気持ちに付け込む輩がいること、許せないです。 

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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