きみはともだち 前編(9)

 ご無沙汰です。
 話の途中でぶった切れてすみません。 守備範囲外の積算でオタオタしてました。 

 建築屋さんて、よくあんな設計書で積算ができるね? 代価表無しでどうやって数量拾うの?
 仕方なく、図面から一つ一つ計算して自分で代価表に近いものを作ったんですけど、この作業があり得ないくらいメンドクサイ。 日数割して適当に入れたろか、って心の中で呟いたのは内緒にしておいてください。


 お話の続きです。
 前章の最後で波乱の予告をしましたが、「こんなものは波乱のうちに入りません」とうちの青木さんなら言うと思います。 青木さん、波乱慣れしすぎwww。
 




きみはともだち 前編(9)






 本郷キャンパス中央食堂の売れ筋、不動の一位は「赤門ラーメン」だ。モヤシとひき肉がたっぷり載ったピリ辛のラーメンはこのご時世に400円とリーズナブルで学生の味方、味はそこそこだが野菜を包んだ餡が独特でクセになる。

 金曜日のランチメニュー、豚肉の生姜焼き定食とどっちにしようか、と食券販売機の前で少し迷って鈴木は、ラーメンと豚丼のボタンを押した。19歳の食べ盛り、ましてやこの体格だ、一人前ではとても足りない。
 冷水機からセルフサービスの水をコップになみなみと注ぎ、トレイに載せる。カレーと同じ理由で、赤門ラーメンに冷水は不可欠だ。
 一緒に講義を受けた友人数名と、雑談を交わしながら席に着く。天井の高い中央食堂には初夏の日差しが降り注いで、学生たちの賑わいと共に楽しい昼食タイムを演出していた。

「そう言えば鈴木。昨日の朝、薪と一緒だったよな」
 ああ、と頷きながら鈴木はスプーンで唐辛子の粉を掬い、モヤシの上にたっぷりと掛けた。それからどんぶりに箸を突っ込んで、麺と具を混ぜ合わせる。少々行儀が悪いが仕方ない、値段に応じた麺を使っているせいでこのラーメンはすぐに伸びるのだ。食べる前にほぐしておかないと、麺同士がくっついて塊になってしまう。
「鈴木はホントに面食いだな」
「ばーか。確かに美人だけどさ、ヤローだぞ」
「そうは言ってもあの顔。その辺の女子より断然カワイイぜ。連れて歩いたら悪い気しないだろ?」
「あんまり構うなよ。美人には美人なりの苦労があるんだから」
「モテ過ぎちゃって困るとか? 贅沢な悩みだな」
「傍から見るほどいいことばかりじゃないぜ。一昨日だって」

 ざわめいていた周囲の声が、急に途絶えた。頭頂部が急に冷たくなって、目の前のテーブルに水滴がぼたぼた落ちてきた。
 ……にわか雨? どうして室内に?
 気が付いたら、隣に座っていたはずの友人は立ち上がって後ずさり、向かいの席の友人たちは青くなって口を開けていた。

 鈴木の隣に立った男子学生が、コップの水を鈴木の頭に掛けていた。
 最後の一滴まで注ぎ終えて、空になったコップをトレイに置く。その手の美しさで誰だか分かる、真っ白な細い指と桜貝のような爪。

 広い学生食堂で、いつの間にか自分たちは注目の的だった。
 その事実に羞恥を覚える余裕もなかった。彼がなぜ自分にこんなことをするのか、鈴木には見当もつかなかった。
 びしょびしょの顔で見上げると、薪は人形のように、最初に断絶された時より更に無表情に、鈴木を見下していた。怒るどころか、鈴木は声も出せなかった。こんなに冷たい瞳を他人に向けられたのは初めてだった。
 この時間帯の学生食堂には有り得ない静けさに包まれた広いホールに、スニーカーの摩擦音が響いた。薪が踵を返したのだ。そのまま鈴木から離れていく。

 何の説明もなく、薪は食堂を出て行った。彼の姿が見えなくなってようやく、悪友たちが揃って鈴木にハンカチを差し出す。
「よっ、水も滴るイイ男」
「これがホントのクールガイ。お兄さん、ニクイよっ」
 悪友の軽口に救われる。鈴木は笑いながら、借り受けたハンカチで顔を拭いた。女の子ならハンドタオルくらい持っていそうだが、男友達にそれを望むのは難しい。

「大丈夫か?」
「ああ。ちょっとびっくりしただけ」
 3枚目のハンカチで、やっと髪から滴が落ちなくなった。シャツは襟から背中がぐっしょりと濡れて、冬だったら間違いなく風邪を引いている。
「おまえ、薪に何したの」
「さあ……」
「さあって。何もしなかったら、あんなことされるわけがないだろ」
 心当たりなどなかった。
 薪とは先週会ったばかり。彼のバイト先に押しかけて、図らずも彼の給金の上前を撥ね。二人で動物園に行ったら帰りの電車でアクシデントに遭って、結果、彼を泣かせて缶コーヒーを投げつけられ。友人としてのスタートは散々、でも。
 週末、一緒にDVDを観ようと家に誘ってくれた。

 我知らず肩を落として、鈴木は物憂げに頬杖を付いた。驚いたのは友人たちだ。食べ物を前にして鈴木が箸を置くなど、史上始まって以来だ。
「鈴木、まさか」
「薪とも接続しちゃったんじゃないだろうな?」
 がくっと頬杖を外して、鈴木は頭を抱えた。こいつら、本気でオレのこと色魔だと思ってるんじゃ。
「止めてくれ。薪に聞かれたら、水じゃなくてラーメンが鍋ごと降ってくる」
 悪友たちに要らぬ心配を掛けまいと、鈴木は箸を取った。汁気の無くなったラーメンは完全に伸びて固まって、箸で持ち上げることもできなかった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

ご理解いただけてよかったですー。
わたしに分かる事なら何でも説明しますよ~。 わたしもそうしてもらいましたので。(^^

仕事へのお気遣いも、ありがとうございます。
いやー、アタマ割れそうでしたよー(@@)  すげーな、建築屋。


> 鈴木さんがうっかり一昨日のことしゃべりそうになったからですよね?

そう。 間が悪かったんですよねー。
薪さんも最初から決めつけていたわけではなかったのですけど、ちょうどその話に及ぼうとしていたから、やっぱり、って。
鈴木さんは薪さんが傷ついたことを知っていたので、具体的なことまでは話す気はなかったのですけど、そう思えてしまったのでしょうね。 まだ相手を完全に信じるには時間が足りなかった、ということでしょうか。

滝沢さんいわく、「生まれた時からあの顔つけて」いる薪さんは、きっと何度も笑いものにされた経験があって、
鈴木さんのことはそういう人間じゃないんじゃないか、と思いかけていた矢先のことだったので、余計トサカにきちゃった。 若さもありますよね。

でもやっぱり、Sさまの仰る通り、
>「青木さんに比べれば全然たいしたことない」
のでした。(笑)

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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