雨の名は沈黙(2)

 おはようございます!
 今日もいいお天気ですねっ! でも、夜は雨なんだって! お出かけの時には傘を忘れずに!! ←なに、この異様なテンション。

 こういう重い話はサクサク行きます。
 ええ、レスも返さんと、
 すーみーまーせーんーー!!!
 ごめんなさい、今日と明日は測量なのです。 でもって、15日が工期です。 なので、来週まで待っていただけると助かります。 ド畜生ですみません。


 あ、あと、今回のSSはメロディのネタバレになるので、追記からお願いします。
 面倒掛けてすみません。



 

澤村さんいい人計画(2) ←題名、まだ思いつかない。





 真夜中に近い時刻、鈴木は先刻乗ったのとは違うタクシーの後部座席で頭を悩ませていた。
 ずぶ濡れで家に帰って母親にこっぴどく叱られて、でも本当のことを言うわけにはいかないから雨に降られたと見え透いた嘘を吐いたら「ウソツキに食べさせるごはんはありません」と倍も怒られた。その上、こうして夜中に家を抜け出して、明日は本当に夕飯抜きかもしれない。
 何と言い訳したものか、鈴木は必然性に富み、かつ母親の理解を得やすい人道的な理由を考える。言い訳は素直さが大事だ。できるだけ正直に、そうするよりなかった、というニュアンスを込めて、例えばこうだ。

 だって母さん。ものすごく嫌な予感がしたんだよ。

「……無理だな」
 それは本当のことだが、きっと母親には通じない。女と言うのは、男よりもずっと現実的な生き物なのだ。

 鈴木はシートにもたれて、窓に流れていく夜景を眺めた。雨は上がっていたけれど、空には星も月も見えず、黒い雲だけが重く立ち込めていた。
「はあ。何やってんだろうなあ、オレ」
 小さな声でぼやく。
 何もなければそれでいい。様子を見に行って、薪の安全を確認したら家に帰って寝る。そうとも、20時間くらい寝てやる。こんなにも疲れているのだから。

 この半月ほどの間に何度か訪れた薪の家は、住宅街からは少し離れた場所にある。大きな日本建築の家で、庭も広い。ハウスメーカーのスタンダード住宅に住んでいる鈴木には多少の羨望もあって、だからその建物から火の手が上がっているのを発見した時にはびっくりして声も出なかった。
 大勢の野次馬が道を塞いでいたから、タクシーは大分手前で降りざるを得なかった。彼らを無理やり掻き分けて一番前まで行くと、長い塀の中で巨大な火柱が上がっていた。

「こりゃあダメだ、全焼だ。消防車はまだ来ないのか」
「二人とも未だ中だろ。可哀想に」
 慌てて見回すが、野次馬の中に澤村と薪の姿はなかった。逃げ遅れたのか。
「風がこっちに来てるぞ。おれ達も避難しないと」
 飛び火を案じて、野次馬たちは少しずつ後ろに退がった。取り残された鈴木が、ぽつんと突出した格好になる。その鈴木の腕を、パジャマ姿で頭に毛糸の帽子を被った老人が引っ張った。
「ほら。兄ちゃんも離れな」
 逃げる? だって、薪は?

「そんなに近くにいると危な――おい! ちょっとあんた!」
 親切そうな老人の手を振り払って、鈴木は門に突進した。
「薪!」
 あちこちで、木の爆ぜる音がする。熱気と、火の粉が鈴木目掛けて襲いかかってくるようだった。
 この中に、二人がいるのか。

 玄関はすでに焼け落ちていて、そこから入るのは不可能だった。鈴木が侵入路を探して屋敷の横に回ると、こちらは火の元から遠かったのか、未だ炎の洗礼を免れていた。が、それも時間の問題と思われた。窓の奥に赤々と燃える火が見えたからだ。
 鈴木は咄嗟に庭の池に飛び込んで身体を湿らすと、手近にあった灯籠の頭を抱え上げ、廊下の窓に向かって投げつけた。日本家屋の特徴である大きな窓ガラスが割れると、そこに鈴木は素早く飛び込む。慎重に状況を判断する余裕なんてなかった。

「どこだ! 薪っ!」
 口を開くと熱気が喉を焼く。息を吸ったら肺まで焼け爛れそうな熱さだった。
 煙に痛めつけられて涙が滲んだ鈴木の目に、廊下の奥から歩いてくる人物が映った。たっぷりと水を含ませたはずの鈴木の髪が、風に吹かれ舞い踊る火の粉に炙られてチリチリと焦げていく。その酷烈な状況の中、澤村は薪を抱いてしっかりと立っていた。その立姿、澤村の時代に合わない着物姿は、紅蓮の焔の中にあっては火車と呼ばれるあやかしのようであった。

「澤村さん。あなたって人は……薪はあなたの息子じゃないか!」
「今は、外に出るのが先だと思わないか」
 憎らしいくらい冷静に諭して、澤村は鈴木が破った窓から庭に下りた。鈴木も後を追う。
 雨のせいでぬかるんだ庭に薪をそっと下ろし、澤村は先刻鈴木がしたのと同じように庭の池に入った。新たな火傷を負って、それを冷やしているのだと鈴木は思った。きっと薪も、同程度のダメージを受けているに違いない。
 鈴木は地面に膝をつき、横たわった薪の状態を確かめようと顔を近付けた。
「薪、しっかりしろ! 薪!」
「安心しなさい。眠っているだけだ」
 池の中から澤村が答える。いつものように黒メガネにマスクで顔を隠した澤村を、鈴木は怒りに満ちた眼で睨みつけた。

 薪はマスターから澤村の過去を聞いた。あの場では押し殺した怨望を、家に帰って爆発させたとしても何の不思議もない。それだけの非道をこの男は為したのだ。
 都合が悪くなった澤村は薪を眠らせて家に火を放ち、彼を排除しようとした。10年前に彼の両親を焼き殺したように、今宵鈴木を殺そうとしたように。無慈悲にも自分の血を分けた息子を、だが。

「火を点けたものの、自分の子供は殺せなかったというわけですか。10年前と同じですね」
「剛は薪俊の子供だ。私の子ではない」
 白々しい嘘は、鈴木の神経を逆撫でした。どうして母親があんなに怒ったのか、分かったような気がした。
「薪だって、もう知っている。プレミアムに侵入して、肖像画を見たんだ」
 今宵の薪の冒険を、鈴木はグランドマスターから聞いた。彼がすべてを知ったことも。
「あなたが隠してきた悪事は白日の下に晒された。薪はもう、騙されない」
「……やはり、殺しておくべきだったな。君は剛を不幸にする」
「何をふざけたことを。彼に呪いを掛けたのはあなたじゃないか」

 コホッと薪が咳き込んだ。意識を取り戻したのかと彼の名を呼ぶが、薪は眼を閉じたまま。長い睫毛が白い頬に濃く影を落とす様を、こんなときでも鈴木はきれいだと思った。
「呪い、か」
 池から上がり、着物の裾からぼたぼたと水を垂らしながら、澤村は呟いた。
「しかし、それを剛に気付かせたのは君だ」
 水分を含んで漆黒に変った濃灰色の着物が、澤村の肌に無様に張り付いていた。それを火災の赤が不気味に彩る。不吉なものを感じて、鈴木の背筋がゾッと寒くなった。
 恐ろしい男だ。自分の子供まで焼き殺そうとした。この男には、人の心など無いのだ。

「私はあの子に、生まれながらにして耐え難く重いものを背負わせてしまった。自分の顔を焼いてまで隠そうとしたその事実を、君はあの子に教えようとした。あの子は、自分の出生に疑問など持っていなかったのに」
 まるで暗記した英文でも諳んじるように、滔滔と、澤村は己が罪を認めた。そこには罪悪感めいたものは何もなかった。事実を言葉にしたに過ぎない、でも人間なら。何がしかの感情が混じって当たり前なのに、この男にはそれすらない。やはりこの男に薪を預けてはいけなかったのだ。鈴木は自分の甘い判断を心から後悔した。

「だから殺してやろうと思ったのさ。剛のためだ」
「あんたなんか親じゃない」
 カッとなって、鈴木は叫んだ。
「自分の身を守るために犯した罪を、薪のせいにするな」
 10年前の犯罪の発覚を怖れて、それで鈴木を殺そうとしたくせに。それを息子のためだなどと、姑息に目的を摩り替えようとする男の身勝手に心底腹が立った。いくら親でも、そんな汚いことに薪を使うのは許せないと思った。

「そうだ。私は――私が、守りたかっただけだ。秘密を。俊が、琴海が、守ろうとした秘密を。何も知らずに育った彼の純真を」
 澤村の声の変化を、鈴木の耳は敏く聞き取る。弱さが滲み出た声だった。
 澤村とは探り合うような、或いは切り込むような会話を何度かしたが、彼のこんな声は初めてだった。10年前に澤村が犯した犯罪を糾弾したときも彼は不敵に笑っていたし、自ら顔を焼いたことを言い当てたときも――いや、あの時は違った。握り締めた拳を震わせていたかと思うと、急に倒れてしまったのだ。

 何故だろう。放火殺人の方が婦女暴行より遥かに重い罪なのに。

 彼の矛盾した心理はともかく、鈴木は彼に、情と名の付く一切のものを与える気は無かった。若い怒りを含ませたままの声で、強く言い返す。
「真実を知らずに、人は前には進めません」
「進んだその先に何がある? 剛の幸せがそこにあると、君は断言できるのか」
「それは」
 思わず口ごもる、鈴木は自分を叱咤した。何もかも、この男が悪いのだ。自分がしでかしたことの結果ではないか。盗人猛々しいとはこのことだ。

「それでも。人は、前を向いて生きるものです」
 おまえなんか親じゃない、認めない。薪にもそんな気構えを持って欲しいと思った。自分の親は火事で亡くなった薪家の両親だけ、澤村は親の敵。そう割り切らなかったら、彼のこれからの人生は辛過ぎる。
「ならば、剛は君に託そう」
 澤村の爛れた左頬が歪み上がった。それは彼の笑いの表情だと、今夜鈴木は知ったばかりだった。
「今、笑いました?」

 ――なぜ?
 たった2時間の間に10本も電話を掛けるほど。彼は息子に、異常とも言えるくらいの執着を見せていたのに。

「君が剛を外に連れ出したんだ。男なら自分のしたことに責任を持て」
「望む所です。もう、薪はあなたの元へは帰らない」
 澤村は、また笑った。何に対して?
 他人の人生を背負う重大事を二つ返事で引き受けた鈴木の若さか、血の繋がりを軽視することの浅はかさか、いずれにせよ好意的なことではない。この男の中には悪意しかない。

「それでは、私も自分の責任を果たすとしよう」
 すたすたと歩いて、澤村は鈴木の前を横切った。意識不明の息子に視線もくれず、そのまま裏手へと進んで行く。まさか自分だけ逃げる気か。本当に、なんて男だ。
「澤村さん、どこへ」
 その時、下方から聞こえてきた微かな呻き声が、鈴木の注意を奪った。薪に視線を戻すと、彼はうっすらと眼を開いていた。
「薪、薪。大丈夫か」
 意識が朦朧としている様子の薪に、鈴木は夢中で呼びかけた。目立った外傷はなくとも、煙を吸ったせいで廃人になることもあるのだ。

「……すずき?」
 ぼんやりと鈴木を見て言葉を発した友人に、鈴木は安堵の息を吐く。が、それを喜ぶ暇はなかった。炎は益々勢いを増し、家屋は倒壊の危険を高めていた。一刻も早く、避難しなければならない。鈴木は躊躇なく薪を抱き上げた。彼の身体は、先日一緒に服を買いに行った女の子より軽かった。男なのに。
 その軽さが、鈴木を突き動かした。守らなければ。

「どうして」
 不意に、薪の声は途切れた。再び気絶してしまった薪を抱いて、鈴木は横手の通用口を目指して駆け出した。  



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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