雨の名は沈黙(8)

 お話も8章まで来ました。
 早く題名決めないと終わっちゃう。






澤村さんいい人計画(8) ←でもやっぱり思いつかない。



 俊の弟がなぜ兄夫妻を殺害したのか、その理由を澤村が知ったのは、事件から3日後。意識を取り戻した病室でのことであった。

 澤村が目覚めると病室には数名の人間がいて、しかしそれは医療関係者ではなかった。残された子供と、その子供をどうするか取り沙汰している薪家の縁者たちだった。
 見た目だけで明らかに俊の子ではないと分かってしまう子供の引取りを、本家が拒んだのだろう。それで分家の連中にお鉢が回ってきたと言うわけだ。
 うちでは無理だ、こちらにも余裕は無い、とあからさまな拒否反応を示す顔も知らない親戚達の間で、剛は耳の不自由な人間のように親の遺骨を抱いて座っていた。
 目覚めると同時に激痛が澤村を襲ったが、その痛みよりも、幼い彼の茫漠な表情の方が辛かった。たった一人この世に残されて、ちょうど10歳のときに父を亡くした自分のように、泣くことも嘆くこともできず。ただただ、現実味のない世界が動いていくのを眺めている。澤村には彼の気持ちが良く分かった。親だから、ではなく、経験者だったから。そして彼がこれからどうなるのかも、澤村は経験上知っていた。

「やはり本家に引き取ってもらうことにしよう。そういう話が持ち上がってたことだし」
「その子は、私が引き取る」
 太った中年男が分家を総括して出した結論に、澤村は異を唱えた。
「私は澤村敏だ。本家の人間に伝えろ。文句は出ないはずだ」
 眠っているとばかり思っていたミイラ男が発した声に、部屋中の人間が飛び上がって驚いた。その驚きは、澤村の名前を聞いて更に大きくなった。9年前の事件を覚えていた人間たちは、互いに顔を見合わせた。

 ぞろぞろと帰っていく人々の、最後になった若い女が、無表情に椅子に座っていた剛の頭を優しく撫でた。「元気でね」と、それはこんな小さい子供を見捨てる自分たちの罪悪感を軽くするための偽善に過ぎなかったが、それでも他の連中よりはマシだと澤村は思った。
「火事にならなければあんた、本家のお坊ちゃまになれるところだったのにね」
「本家ってなに?」
「アタシんちより、百倍お金持ちの家よ。俊さん、あんたのお父さんが国の名誉になる計画を実現することになって、本家の頑固ジジイが勘当を解くって。その矢先だもんねえ。あんたもつくづく、運が無いわねえ」
 アタシと一緒、と女は笑った。

 彼女の話を聞いて、澤村は弟の動機を知った。薪家の莫大な財産、否、それだけではない。
 俊と澤村がライバルという名の下に比較され続けたように、弟もまた、幼い頃からずっと俊と比べられてきたのだろう。己が力不足に煮え湯を飲まされた澤村には分かる。新都市計画プランで俊に敗れ去ったあの時の絶望を、彼は何十年もの間、それこそ何百回も味わってきた。優秀な兄が親に勘当されて、家督を継ぐために力の限り精進した弟は、その権利を一夜にして剥奪された。殺意が生まれたとしても不思議は無い。

 俊の弟の犯罪を、澤村は告発しなかった。あの火事は俊夫妻の無理心中であったと、警察から公式な発表がされたからだ。
 澤村は確信した。薪本家の圧力が掛かったのだ。
 事情を知るものなら誰が聞いてもおかしいと思うはずだ。あの夜、俊の家では祝賀会が開かれていたのだ。自殺する理由など何もない。それで事件を片付けたなら、警察もグルと言うことだ。
 只でさえ、放火事件の犯人逮捕は非常に難しいのだ。それは普通の事件であれば物証となる物が、みんな燃えて無くなってしまうからだ。警察に訴え出たとして、証拠不十分で不起訴になる可能性が高い。皮肉なことに、澤村は自分自身でそれを証明することになる。まことしやかに噂は流れたものの、澤村は警察に呼ばれることも無く、事情聴取すらされなかったからだ。

 澤村は、隠された罪を暴こうとはしなかった。それは俊の弟に同情したからではない。剛のためになるとは、どうしても思えなかったからだ。
 自分の親が実の弟に殺された残酷もさることながら、それを剛に教えることは、彼の中に新たな憎しみを植えつけることになる。父を亡くした自分が世の中すべてを恨んだように。彼には、そんな負の感情を持って欲しくない。それからもう一つ。
 澤村は、長く生きられる自信がなかった。
 自分の死後、剛の行き先を考えれば、やはり本家で、という話になるだろう。それが分家全体の意見だったからだ。施設には行かせまい、薪家の面子がある。
 そうなったとき、剛は自分の親を殺した人間の家に厄介になることになる。その事実を彼に知らせることは、彼の心痛はもとより、彼の身すら危うくするのではないか。

 この事実は、剛には絶対に知らせてはならない。そう心に決めた澤村は、自分に掛けられた嫌疑を敢えて否定せず、当夜の記憶を失ったと嘘を吐き続けた。
 父親だと名乗ることはできなかったが、息子と二人で暮らせることは嬉しかった。世間の片隅で彼と二人、慎ましい生活を送りながら、澤村は願っていた。
 この魔法が、いつまでも解けないようにと。




*****



 先日、Cさんにいただいたコメントで気が付いたんですけど。
『主役の親が極悪人』
 考えてみたら、わたしもこういう設定嫌いじゃないです。
「20世紀少年」のカンナちゃんの親とか。 澤村さんなんか比べ物にならないくらいの極悪人だよね? 
 あの設定知ったとき、なんてドラマ性の高い話を作るんだろう、浦沢先生天才! て思ったし、「鋼の錬金術師」のホーエンハイムとホムンクルスの関係性とかも荒川先生最高っ! て思った、 
 のに。
 それが薪さんになったとたん、清水先生真性ドSとかって思っ、ああああごめんなさいいいい!!
 本当に申し訳ございませんでした。 先生はSじゃないです。 とびきりのストーリーテラーです。 おかしいのはそれを普通に読めないわたしの方です。
 4月号読んで直ぐに考えたのが、わたしの親が澤村さんのように犯罪を犯していたら? でした。 自分を否定せずにはいられないだろうとわたしは思い、結果、落ちてしまったわけです。
 でも普通、漫画読んでそんなリアル生活に結び付けて考えないよね? 我が身に置き換えたりしないよね? そんなことするからせっかくのドラマが楽しめなくなっちゃったんだな。 もったいないことした。
 他の漫画や小説と同じように読めないことで、得るものも大きいけど失うものもあるんだなあって思いました。


 それと。
 澤村さんのお母さんて、早くに亡くなったわけじゃなかったんですね。 あの捻じ曲がり方からてっきりそうだと思い込んでました。 となると澤村さんは、
 顔のせいで実の母親に虐待を受けていたんですね。(え) あんた達の顔のせいでうちの一家はご近所さんに白い眼で見られて、みたいな。 お母さんはそれが原因で心の病に罹ってしまうんですね。 ←なに、このブラックな妄想。
 Aさん、教えてくれてありがとうございます。 その旨、修正しておきます。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Yさまへ

Yさま。

心のこもったコメントありがとうございます。


>私も個人的には「主役の親、または肉親が極悪…」という設定、嫌いじゃないです。

存じ上げております。(笑)
「20世紀少年」読んでましたものね☆
でもそう、「それが薪さんになると」 なんですよねえ。 人に言われて気が付いて、自分で愕然としましたよ。(^^;

澤村さんの思い、は、そうですね、そのままわたしの思いです。
9章の、「自分が生まれてきたことを否定しないで」と「自分が祝福を受けた子供だと信じて」は、わたしが薪さんに言ってあげたい言葉です。
と、書いた時には思ってたんですけどね。
書き終ったら、「……ないな」 って、確信してしまって☆ 

薪さん、きっとこんなこと思わないよ! だって天才だもん! こんな不毛なこと考えないんだよ!
という気持ちが強くなって、すっかり立ち直りました。
SSリハビリ、大成功です♪

Aさまへ

Aさま。

> SSは必ずしも原作通りでなくてもいいと思いますよ。

寛大なお言葉、ありがとうございます。(*^^*)
わたしもね、違ってていいと思うんですよ。 でないとパラレル不可になっちゃうし。 
ただ、これは本当にわたしのポカなので~~。
正しく読んだ上で話の進行上設定を変えるのはいいのですけど(その旨注記しますし)、読み落としはファンとして恥ずかしすぎる~~(><)


>澤村さん置いて失踪したりとか(オイ)

やさしいAさまがこんな鬼畜な発想を!
澤村さん、恐るべし☆


> そういえば、ダースベイダーも父親でしたね。

あははは!
わたしも思い出しましたよ、あれ! 
だって普段はマスクに黒メガネで、戦闘シーンはマントに剣ですよ! もうパロディとしかww。


> 今日は清水先生のお誕生日だったんですね!!

ですねっ。
おめでとうございます~。
薪さんを生み出してくださって、本当にありがとうございました!


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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