雨の名は沈黙(9)

 この度のしづの暴挙、静かに見守ってくださってありがとうございます。
 原作曲げてんじゃねーよ、という尤もなご意見、寄せられるかと思ったんですけど今のところ来てません。 みんなやさしい、ていうか、
 そもそも、原作からズレた話がダメな人はうちの話は読めないんだな☆(笑)


 澤村さんはああいう役回りなんだと思うし、それが覆ることはないと、わたし自身予想しております。 この話は本当にわたしの精神安定のために書いたので、読まれる方に於かれましては、
『ねーよ』
 の連発だと思うのですけど、すみません、続けます。

 その代わり、早く終わりにしますね。 予告した話の公開も控えてるし……にに子さん、ウソ吐いてごめんねっ! (初めは2月中旬くらいって言ったのに、もう3月終わっちゃうよ。 澤村しづって渾名付きそうだよ)





澤村さんいい人計画(9) ←……。(すみません、ツッコミ疲れました)






 鈴木への手紙に書かれた澤村の文章は、もっと散文的で簡潔なものであった。しかも、そのすべてが書かれていたわけではない。放火犯らしき男を目撃したことは明記してあったが、それが何処の誰かは書かれていなかった。そして最後は、この手紙の内容については絶対に口外しないように、と彼らしい脅し文句で締められていた。
『もし誰かに喋ったら、私は君を許さない。必ずや甦って、今度こそ確実に君を殺すだろう』
 鈴木は、澤村の言に従うことにした。勿論、脅しに屈したわけでもないし、彼に同情したわけでもない。鈴木は察したのだ。澤村は、自分の息子をとても愛していた。

 背負わせてしまった十字架の、せめてもの償いに。
 実の息子に死ぬまで憎まれ蔑まれても、彼のこれからの人生に一片の禍根も残したくない。自分が放火犯であると彼が思うならそれでいい、何処かに居るはずの罪人を探しに行くよりずっといい。澤村はそう思ったのだ。

 過去の悪行見破ったりと、鬼の首を取ったような勢いで彼を告発したことを、鈴木は苦い気持ちで思い出す。
 もっと早く、この矛盾に気付くべきだった。
 澤村が自分自身で顔を焼いたこと。鈴木がそれを示唆したときには顕著な反応を示したのに、薪の両親を焼き殺したことを告発した際には不敵に微笑んだだけ。後者の方が重大な犯罪であり、発覚したら身の破滅に直結するのに。澤村は何故あのとき、平気な顔をしていられたのか。
 いつでも鈴木を殺せる立場にあったから? 違う。
 前者は真実で、後者は間違っていたからだ。そして、彼はその間違いを正す気が無かった。

 澤村は、鈴木を殺す気などなかったのだろう。怖い思いをさせて、黙らせる心算だった。ぬるま湯の中で育ってきた18歳の大学生、それで充分だと思った。
 だいたい、殺人と言うリスクの高いことをするのに、あの方法は時間が掛かり過ぎる。あの広さでは、鈴木が溺死するまでに2時間は掛かるだろう。場所もそうだ。あの場所は立ち入り禁止区域に指定されていたが、長時間、人が来ない保証はない。古びて人が寄り付かなくなった公園は、どこの自治体でもホームレスの楽園だ。あそこにはご親切にも暖を取るための工事用シートがあり、現場事務所に工事関係者が置き去りにした日用品まで置いてあったのだから、逆に彼らに見つからなかったことの方が幸運なのだ。

 プレミアムから公園までの間に、人に見られることなく鈴木を殺して遺棄できる場所は多数あったはず。それなのに、澤村はわざわざあの場所を選んだのだ。
 今思えばあれは、自分の過去を鈴木に話して聞かせる舞台のようだった。彼はそのために不自由な身体をおして、鈴木をあの公園まで運んだのではないか。

 どうして澤村がそんなことをしたのか。
 それは薪の出生の秘密を鈴木に教えるためだ。薪が生まれながらに背負った罪を、彼のルーツを知ってなお、彼の友人として彼を尊重し彼を愛し、思いやっていく気持ちが鈴木にあるのか。薪を託す人間として、鈴木という男を見極めたかった。親として。
 魔法の終わりが近いことに、彼は気付いていたから。

「澤村さんは、なぜ中に?」
 友人の低い声で、鈴木は我に返った。気付けば薪は泣き止んでいて、心許ない瞳で膝を抱えていた。
「発見された時。うつ伏せになって、これを抱えていたよ」
 澤村の形見となったアルバムを、鈴木は薪に差し出した。両手で受け取って、鈴木を見上げる。
「お母さんのお母さん、つまり、薪のお祖母さんから預かってたんだって」

 薪家にとっては嫁が他所の男との間に設けた子でも、琴海の母親にしてみれば、娘が産んだ子だ。薪家の手前、おおっぴらに可愛がることはできなかったが、その姿をいつもこの眼に映したいと望んでいた。だから琴海は自分の母親に、撮った写真を必ず送っていたのだった。
 娘亡き後、澤村が子供を引き取った事を聞いて、彼女は澤村にこれを預けに来た。あの子に見せてあげて、あの子が琴海を忘れないようにと、涙ながらに頼んで行った。しかし、澤村は彼女の願いを聞き届けることができなかった。写真を見れば、彼の出生の秘密が分かってしまう。自分の顔を焼いてまで隠そうとした真実を、生まれながらにして彼が背負ってしまった罪を、澤村はどうしても彼に告げることができなかったのだ。

「どうして、こんな物のために」
 写真なんか、と薪は呟いた。
 写真なんか只の紙切れで、そこに命はないのに。こんなものを見たところで、何も変わらない。命の恩人だと思っていた人は母を凌辱した獣で、自分にはその悪しき血が間違いなく流れていて。
 母は、父は、生まれてきた自分をどう思ったのだろう。殺したいほどに憎んだであろう男にそっくりな、この亜麻色の髪を瞳をその呪わしい色合いを、どれほどまでに疎んだことだろう。その感情を殺して、生まれてきた子に罪はないと、ああ、それがどれほどの痛みを伴うことだったか。生きている、それだけでこんなにも人を不幸にする、自分はそんな人間なのだ。

 生きている限り、それは続く。父母の縁者は自分の顔を見るたびに彼らの不幸を想い、その短い生を嘆くだろう。せめてあの子が生まれてこなければ。本家の跡取りとして、本宅に住んでいたであろう彼らが死ぬことはなかった。
 そう考えたらもう、薪にはああすることしかできなかった。澤村と、父と一緒に、自分を消滅させることしか考えられなかった。
 僕たち親子の血は、一滴もこの世に残すことなく。骨の一片も残らないよう、灰になって消え去りたい。そう思って、火を点けた。

 どうして、と繰り返す薪に、鈴木はそっと語りかけた。
「きっと、こう言いたかったんじゃないかな」
 おまえに何が分かると、亜麻色の瞳が鈴木を責めていた。10年前、業火の中から自分を救い出してくれた彼とたった二人、互いが互いを生きる支えにして暮らしてきた、閑寂でも穏やかな生活。それを自ら壊さざるを得なかった自分たち親子の何が分かる。

 頑なに自分を拒む薪に鈴木は、澤村から受け取った伝言――言葉でなく態度でもなく、彼の生き様から感じとっただけの、でも確かに受け取ったものを薪に伝えた。
「生まれてきたことを否定しないでくれ」

 それは澤村がずっとずっと、息子に願い続けてきたこと。
 ――生まれてこなければよかったと。
 迫害を受け続けた幼少期、澤村は毎日のように思ったことだろう。
 たった10歳で、父と母を相次いで亡くした。守ってくれる者は誰もいなくなり、搾取され続ける人生が始まった。それが10歳の少年にどれだけの痛苦を強いたことか、容易に想像は付く。澤村が自分の生を否定して生きてきたことも。
 だからこそ、息子にそんな思いはさせたくない。

 澤村は、嫉妬心から親友の婚約者を暴力で犯すような卑怯者だ。最低の男だ。その上彼は。
 究極の親バカだ。

『剛は君に託そう』などとほざいて勝手に死んだ、身勝手な男でもある。そんな男の息子の相手なんか、想像するだけで疲れそうだ。
 だけど、約束したから。売り言葉に買い言葉みたいなニュアンスだったけど、鈴木は確かに「引き受ける」と言ったから。男に二言はないのだ。

「見てみろよ」
 促されて、細い指が表紙を開く。最初のページは産着に包まれた赤子の写真だった。
 お七夜、宮参り、お食い初め。写真の中の若夫婦は真面目な性格だったのだろう、律儀に行事をこなしている。形式ばった行事の合間合間、季節と共に織り込まれた3人の日常写真からは、彼らの笑顔と慈しみ合う家族の温かさが伝わってきた。

 薪が澤村の子であると、見れば一目瞭然であったのと同じくらいに。
 それを見れば瞬時に解った、だから澤村は命懸けでこれを薪に渡そうとした。

 どんなにか。
 愛されていた。

 父に、母に、溢れんばかりの愛に包まれて、自分の8年間はあったのだと。一日たりとて彼らの祝福を受けない日はなかったのだと。
 見て、感じて、信じて。
 世の中すべての子供たちと同じように、自分が祝福を受けて生まれた子だと信じて。

「―――っ」
 声もなく流れた涙は、父親の遺言を彼が正確に受け取った証拠だと、鈴木は思った。
 隣からアルバムを覗くと、娘時代の琴海が、俊と澤村と3人で映っている写真があった。旅行先で撮ったものか、何処かの山を背景に3人ともディパックを背負ってポーズを取って、楽しそうに笑っていた。娘から送られてきた8年間の写真の後に、母親が娘の思い出を入れておいたのだろう。

 20年前の幸せそうな彼らに、今はその中の誰もこの世にいないことに切なくなりながら、鈴木は心の中で誓った。

 約束します。あなたの代わりに――あなたたちの代わりに、おれが彼を守ります。必ず。
 あなたたちが彼に与えたかった幸せを。おれが。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

> 身体の大きな鈴木さんを運ぶのは重労働ですね。

ですよね?
もうすっかり身体の方は元気だってことですよね。 力も強いし。
だけどショックには弱いんですよね。 鈴木さんに「自分で顔焼いたんでしょ」と突っ込まれて発作起こしてたから……そうか、薪さんの失神癖は遺伝だったんだな。(笑)


薪さんの生い立ちが彼の性癖に関係していると言うのはあると思います。
別に薪さんがガチでもいいんですけどね、でも、そんな理由で女性を愛せないのは悲しいですよね。


> 千堂に言った薪さんの言葉、今読むと凄く胸に迫ります。

そうなんですよぉ。(;;)
薪さんがなんであの時あんなに怒ったのか、これでやっと分かった気がします。
それと、
最終回の青木さんに言った「(舞ちゃんと自分の子を分け隔てなく育てることが)おまえならできる」
きっと俊さんの魂を青木さんの中に見てたんだなあって思って。 青木さん、鈴木さんよりもむしろ俊さんに似てません? 鈴木さんは悪人には容赦しないところがあるみたいだけど、青木さんは俊さんと同じで、みんな許しちゃうでしょう? 
薪さんが「家族を誰よりも望んで」いたのも、本当のことだったんだなあって今頃分かって。 最終回、青木さんは的外れなことを言ってると思ってたんですけど、過去編を踏まえて見直すと、ちゃんと理解してたんですねえ。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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