雨の名は沈黙(10)

 こんにちは。
 連日、励ましの拍手をありがとうございます。(^^ 
 おかげさまで昨日、妄想中のSS書き上がりまして、読み直し作業に入ります。 実はわたしは、この作業がすっごくタルくて嫌いなんですけど、これをしないと他人が読んで分かるものにならないので……最低2回は読み直すので、書くのと同じくらい時間かかるし。 一発で書ける方、羨ましいです。


 ところで、今日は今期最後の竣工検査なのですよ。 これから現場です。
 いい点取れますように♪




澤村さんいい人計画(10) ←どうしよう、次、終わっちゃうのに。








「何だよ、人の顔見てにやにやして。キモチワルイ」

 不機嫌な口調で諌められて、鈴木は自分の頬が緩んでいたことに気付く。時刻は9時を回っていたが、鈴木は生物学の論文に必要な実験のため、学内にいた。鈴木を詰ったのは、その手伝いをしてくれていた友人だ。
 大学の古びた窓ガラスを、五月の雨が濡らしていた。
 こんな時間まで人に実験を手伝わせておいていい気なものだ、と友人が怒るのも無理はないが、こんな夜はあの日のことをつい思い出してしまう。その感傷を胸に抱いた状態で彼の元気な姿を見ると、ホッとして頬が緩むのだ。

「キモチワルイは無いだろ。この爽やかイケメンに向かって」
「自分で言うか、普通」
 パソコンの画面からデータをレポート用紙に書き写しながら、薪は意地悪そうに笑って、
「ホントは腹黒いくせに」
「いやいや、薪剛大先生には逆立ちしてもかないませんよ。成績もハラグロも」
「おべんちゃら言ったって、何も出ないぞ」
「いや、別に褒めてないけど」
「仕方ないなあ、そっちも手伝ってやるよ。てれてれ」
「……おまえって天然だよな」
 どこまでが本気だか分からない、彼のジョークに付き合うのはとても疲れる。

「この調子だとウィークディじゃ終わらないな。薪、日曜も手伝ってくれる?」
「日曜はダメだ」
 即座に断られたことに腹も立てず、鈴木はゼミ室に備え付けの安っぽいインスタントコーヒーが湯気を立てるコーヒーカップを薪の右手に置いて、
「デート?」と軽い調子で訊いた。彼にそんな相手がいないことは知っていたけれど、これは男同士の礼儀と言うものだ。
「違う。お寺のハシゴ」

 ――五月雨に濡れた淋しい夜に。
 彼らを思い出すのは自分だけじゃない。彼の方が、鈴木よりもずっと。

「僕には親が3人いるけど。みんな命日が5月だから、供養が一日で済む。合理的だ」
 ふー、とコーヒーに息を吹きかけて、彼はカップに口づける。少しだけ口に含んで、ギロッと鈴木を見上げた。

「鈴木。また僕のコーヒーに砂糖入れたな」
「あ、悪い。つい」
「何度言ったら覚えるんだよ。頭悪いな」
 文句を言いつつも彼は残さずコーヒーを飲み、鈴木に頼まれた実験のデータをせっせと取り続けた。少々口は悪いが、それは彼が元気な証拠。

 あの後、彼は琴海の母に引き取られた。真面目な彼は亡き親の言いつけをきちんと守って、毎日を生きている。
 あの時は「彼らの代わりに」なんて豪語したけど、実際は鈴木にできることなんて何もなかった。せいぜいが、こうしていつも彼の傍にいることくらい。守るとか幸せにするとか、それがどんなに無謀で自惚れた宣誓だったか、最近になってようやく分かってきて、澤村を無実の罪で糾弾した時に負けないくらい恥ずかしい思いをしている。
 その一方で。
 昨日より今日、今日より明日と、少しずつ笑顔が増えていく友人を見守るのは、親が子の成長を見守る気持ちにも似て。鈴木の心はどんどん彼で満たされていく。この笑顔を守るためなら命を懸けても悔いはないと、不敵に笑って死んでいった彼の父のように。

 彼を鈴木に託して死んだ男の想いが、雨と一緒に落ちてくるような気がした。



*****


 薪の両親を殺した真犯人が別にいたことを、鈴木は彼に言わなかった。彼の心に憂いの種を残したくない、と言う澤村の遺志を汲んだのだ。
 それは薪を思いやると同時に、澤村をも満足させる行動だったが、しかし。
 やはり間違っていたのかもしれないと、後に鈴木は後悔することになる。15年後の悲劇、その後に彼を襲った苦しみを目の当たりにして。今度こそ何もできなくなってしまった自分を呪いながら。



*****



 彼を殺したとき。いるはずのない人の姿が見えた。
 その人は凄艶に微笑んで、自分がしたことを褒めてくれた。
『それでいい。邪魔なものは排除しろ』
 反射的に叫んだ。僕はあなたとは違う。鈴木は邪魔者なんかじゃない、鈴木は僕の大事な。
『いざとなったら大事な人でも殺せる』
 そうじゃない、これは事故だ。僕は足を狙ったんだ。
『やはりおまえは私の息子だ』
 ちがう、ちがう、ちがう。
『よくやったな、剛』
 頭にきて、手に持っていた拳銃を彼に投げつけると、彼は割れてバラバラに崩れた。近付いてみるとそれは鏡の残骸で、無数に散らばった鏡面に映り込んだ自分の顔が、満足そうに微笑んでいた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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