キセキ(8)

 今日はいいお天気なので、桜を追いかけて北上してきます。
 薪さんがどんどん追い詰められてるのに、暢気でスミマセンです。

 
 


キセキ(8)






 夜半過ぎ、薪は人の気配に目を覚ました。
 誰かが自分を見ている。だれか、などと考えるまでもない。隣に敷かれた布団からは、もうすっかり耳が覚えた青木の寝息が聞こえるのだから、残るは彼に決まっている。薪は慎重に目を開いた。

『独りじゃ寂しくて眠れないのか』
 先制攻撃を仕掛ける。身体は思うように動かないが、気持ちだけでも負けてはダメだ。
「寝返りも満足に打てないくせに、生意気なヤツだ。命が助かっただけでもありがたいと思えよ」
 相手からも敵意のこもった応えが返ってくる。それは異様な光景だった。
 まったく同じ、美しい顔が二つ向かい合い、睨み合う。片方は傷ついて横たわり、もう片方はその傍らに片膝を立てて座っている。常夜灯がその緊迫感を演出するように、仄暗く光っていた。

『助けてもらってありがとう、とでも言って欲しいのか。僕はそんなにお人好しじゃないぞ』
「僕じゃない。青木が君を助けたんだ」
『解ってる、野犬を追い払ったのは青木だ。でも、青木をあの場所に連れてきたのはおまえだろう』
 青木は剣道4段、棒さえあれば野犬を追い払うことくらい朝飯前だ。が、森の中から薪を探し出すことはできなかったはずだ。あの場所に薪を連れて行ったのはこの男だし、薪の悲鳴を聞きつけたところで、それは動物の鳴き声でしかなかった。千里眼でもあるまいし、彼の道案内がなかったら不可能だ。
 しかし、事実は薪の予想を裏切った。

「君を見つけたのは彼だ」
 まさか、と薪は彼の言葉を鼻で笑い飛ばした。軽くいなされてプライドに障ったのか、彼はぎゅっと眉をしかめて、
「君の居場所が何となくわかるって。イヌか、あいつは」
 驚いた。青木にそんな特殊能力があったとは。
 そういえば昔、岡部にからかわれたことがある。あまりにも見事に薪の所在を言い当てるものだから、「青木のやつには薪さんに反応するセンサーでもついてるんですかね?」と。だがそれは職場内でのこと、あの広大な森の中でそのセンサーとやらが役立つとは、常識では考えられなかった。

「怪我が治るまでこの家に置いてやってくれって。青木が土下座して頼むから、仕方なく許したんだ。僕たちの邪魔をするな」
『あいにくだな。不当に恋人を奪われて、大人しくしているほど腑抜けじゃない』
 彼の目的が青木の中にある何かだと、いまや薪は確信していた。彼は青木に近づくために、薪の立場を乗っ取った。さっきのやり取りを見ても分かる、目的のために彼は、青木に嫌われるような行動が取れないのだ。
 青木に危害を加える気がないのなら、何も怖れることはない。当初の予定通り、自分が薪だと青木に分からせて、こいつを追い出すまでだ。

「本当に生意気なサルだな。僕にそんな口を利いていいと思ってるのか?」
 強気に出た薪に向かって彼は、背筋が寒くなるような冷ややかな視線をくれ、
「青木をおまえと同じ身体にすることもできるんだぞ」
 彼の脅迫に、薪の顔色が変わる。
 外見が人間でなくなっても、中身は変わらない。彼の目的が青木の中身なら、それでもいいのだ。むしろ好都合かもしれない。こんな身体にされたら仕事にも行けなくなる。必然的に彼に頼って生きなくてはならなくなるのだ。
『止めろ! 青木には手を出すな!』
「だから。それは君次第だって、何度も言っただろう? ホントに頭悪いな」
 青木の未来はおまえの言動に懸かっているのだと、迫られて薪は何も言えなくなった。破れるほどに唇を噛み、憎しみの籠もった瞳で自分と同じ顔を睨み上げる。

「何も心配することはない。僕は君が生まれる前から、こうして誰かに成り代わって生きてきた。人間の人生は何度も経験済みだ」
 今まで何人もの人生を食いものにしてきたと、彼は嘯いた。人間がどういう生き物か、薪より良く知っているし上手くやれる、そう言ってのけた。彼に己の存在を奪われた人間は、人知れず闇に葬られたのだろう。森の中で薪が、野犬の胃に納まる予定だったように。
「君さえ大人しくしていれば、君はこのまま僕たちのペットとしてのんびり暮らせるし、僕は一生青木を大事にする。3人で仲良くやろうぜ」
 友好的な、でも到底納得できない和睦条件に、薪は眼を伏せた。事実上の敗北宣言だった。

 青木を人質に取られたら、どうすることもできない。
 自分が本物の薪だと青木に伝えることができたとして、それでどうなる? 彼の正体を知った青木を、彼が放っておくわけがない。青木を今の薪と同じ、人間の世界では暮らしていけない姿に変えて、それで青木の信頼を失ったとしても、次のターゲットを捜せばいいだけの話だ。彼には何のリスクもないのだ。

 守らなければ、と薪は思った。
 彼と刺し違えても、青木の身を守らなければ。

 自分の身体をこのようにしたのが彼なら、元に戻せるのも彼だけだと、今では分かっていた。首尾よく彼を仕留めることができたとして、薪は人間に戻れなくなる。それでも。

 薪の沈黙を協定受諾の証に捕らえてか、彼は立ち上がった。それから薪の頭上を迂回し、眠っている青木の顔に、これ見よがしにキスをした。
「分かったな。もう、この男は僕のものだ」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Ⅰさまへ

Ⅰさま。

> 読者のココロがわかってますね~、しづさまいい子(方)です!

わーい褒められたー、って、
本当にいい子はこんな話は書きません。(笑) もっと心臓に良いもの書きますってww。


> なんか、今回の話とても薪さんから青木さんへの気持ちが現れていて

この話は薪さん視点で書いてますので。 薪さんの赤裸々な呟きが洩れ放題でございます。
薪さんのモノローグはツッコミどころ満載、てか、彼は突っ込んで欲しくてボケてるので、どんどんツッコミ入れてやってください。(^^


> お話は大変なことになってるのに楽しみなんですよね~

Ⅰさま、S話の楽しみ方をご存知ですねっ♪
お話はもう少し試練の章が続きますが、楽しく進めたいと思います。 よろしくお願いします。

Sさまへ

Sさま。

何度も過去作を読んでくださってありがとうございますっ。(〃▽〃)
拍手もたくさんいただいて。 励まされてます。


> あんなに幾多の困難と不可能を乗り越えて想いを遂げた青木君が、真実の薪さんに気付けないはずないって、乙女チックな私は思うのよ!

ですよね~~~!! わたしもそう思います!

今回青木さんが騙されてしまった一番の原因は、偽薪さんが薪さんの記憶を持っていたことです。 二人しか知り得ない秘密を知っている彼を些少の違和感で偽者と見破るのは、薪さんとの思い出を大事にしている人間ほど難しいと思うんです。 自分たちの歴史を軽んじるようなこと、相手に対する気持ちが大きければ大きい程できないと思う。 
のですけど、それじゃあやっぱりダメなんですよね。
今回の話はそこがテーマです。 後半部分にしっかり書きましたので、よろしくです。


「世の中、必ず正義が勝つとは限らない、だからこそ」 というSさまのお気持ち、分かります! 
わたしも同じ考えなので、うちの話は必ず最後は丸く収まります。 今回も、安心して読んでくださいね。(^^

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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