キセキ(12)

 3日も持たない連続更新ですみませんー。 これ、仕事でやってたらとっくにクビになってる。(笑)

 このお話になってから、『ドS』って言葉が入ってるコメントがやたら多い気がするんですけどww。 困っちゃうなあ、そんなに褒められると照れます、てれてれ。(←カンチガイ女王)


 大変失礼しました。 お話の続きですー。





キセキ(12)





 薪が岡部の家に引き取られたのは、一年の最後の月も残すところ1週間ほどに迫った寒い夜のことだった。
 愛猫がいなくなって寂しがっている母親を慰めたいと言う岡部の申し入れに、青木はひどく困った顔をした。
「この仔はオレ以外には懐きません」
 それが彼の言い分だったが、薪が自ら青木の傍を離れ、岡部の大きな背中に隠れるように寄り添うのを見ると、その先を続けることができなくなった。
 あんなに世話してやったのに、と裏切られたような悲しげな顔をして、でも恋人にやさしく諭されて、彼は納得せざるを得なかった。「ずっと飼うことは不可能だ」と言われれば、その通りなのだ。春になったら森に返すしかないが、森には野犬のような危険が一杯だ。だったら近くで、信用できる人物に預かってもらった方が安心できる。

「顔を見たくなったらいつでも来い」
 岡部にそう言われて、青木は泣く泣く頷いた。
 本当のことは決して言うなと、岡部には口止めしておいた。青木は嘘が下手くそだ。真実を知って、それを彼に隠し通せるとは思えない。知らせないことが青木の身を守るのだ。

 帽子とコートを着せられて、薪は岡部と一緒にマンションを出た。前の通りを歩きながら自分の家を見上げると、窓から青木がこちらを見ていた。
 思わず、足が止まる。
 スクエアな眼鏡の奥の彼の瞳には涙が浮かび、頬が赤くなっていた。どうしてこんなに悲しいのか、彼自身わからなかったに違いない。抉られるような胸の痛みに耐えようと薪が奥歯を噛んだとき、青木の隣に細い人影が現れた。
 彼は後ろからそっと青木を抱きしめ、すると青木は後ろを向いて彼を抱き返した。思わず背けた薪の瞳の奥で、愛し合う彼らの残像が繰り返し甦る。

「薪さん。大丈夫ですか」
 よほど情けない顔をしていたのか、岡部に同情された。苦笑いする、自分の未練がましい性質に。

 こくっと頷き、薪はさっさと歩き出した。彼はもう、二度と振り返らなかった。




*****





 闖入者がマンションから消えて、青木は薪のマンションに居座る理由を失くした。自分の家に帰ろうとすると、薪に引き留められた。
「おまえさえよければ、ずっと此処に居ろ」

 心から愛した恋人にそう言われて、飛び上がるほど嬉しかった。……はずなのに。
 何故だか心は沈んだままで、浮き上がる気配もない。しなだれかかってくる恋人の華奢な身体も白い肌も、青木の心をときめかせてくれない。
 今まで味わったことがないくらい、それは大きな喪失感だった。
 あの仔は確かに可愛かった、でもそれは薪に似ていたから。薪が絶対にしてくれない格好や仕草に心を奪われただけ、青木が本当に愛しているのは今自分の腕の中にいる彼だ。
 なのに、その彼が色褪せて見える。

 まさか心変わり? あの仔に?
 バカな、と青木は失笑する。あの仔は人間ですらないのに。

「青木?」
 訝しげな恋人の声に、青木は我に返った。薪を抱きながら、他の人のことを考えていたのなんか初めてだ。こんな気持ちじゃ、薪に対しても失礼だ。
「やっぱり帰ります」
 気を付けてな、と薪は快く送り出してくれたけど。青木の気持ちは晴れなかった。

「さむっ」
 外は凍てつくような寒さだった。
 今年も後十日足らずで終わる。明日は薪の43回目の誕生日だ。プレゼントを用意して、二人でお祝いをして、心行くまでスペシャルな夜を過ごす。この時期になると毎年、その計画を立てることに夢中になっていたのに。今年はあの仔のおかげですっかり忘れていた。

 今からでも計画を立てようと青木は思い、でも直ぐに、あの仔に心が飛んでいく。
 あの仔は岡部の家でクリスマスを迎えるのだろうが、プレゼントくらいは用意してやろう。外出に必要な帽子とか、暖かいマフラーとか。フリースのズボンのお尻に尻尾を通す穴を開けて贈ってやってもいい。それからあの仔の好きなコーヒーとケーキ、尻尾用のブラッシングブラシもいいな。
 両手いっぱいにプレゼントを持って、彼の元を訪ねたら。彼は嬉しそうに笑って、彼の笑顔なんか一度も見たことはないのに何故か笑ってくれるような気がして、青木の心は少しだけ上向きになる。
 自分の心境の変化に気付いて、青木はその場に立ち止まった。身を竦めたはずの寒さの中に、しばし立ち尽くす。

 どうして? あの仔の笑顔を思い浮かべるだけで、どうしてこんなに心が弾む?
 そんなことがあるわけはないのに、打ち消せない、否定できない。自分の気持ちに嘘は吐けない。

 この寒さが、青木の眼を冷ましてくれたのかもしれない。青木は踵を返し、駅とは反対の方向に歩き去った。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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