キセキ(15)

 ただいまですー。
 お天気にも恵まれて、とっても楽しい旅行になりました~。 
 中日、足利フラワーパークまで足を延ばして藤を観てきました。すごくきれいでした。あの大藤棚の下に薪さんを佇ませたら、最高のロケーションになるだろうな~。(〃▽〃)←天然記念物でさえ薪さんの引き立て役。
 ちょうど今が見頃なので、みなさんもぜひ。 ただし、
 めっちゃ混みます。臨時駐車場から余裕で1キロくらい歩きます。でも、苦労する価値はあると思います。

 その帰りにメロディをゲットしまして、旅館で読みました。
 簡単な感想ですが、ネタバレになるので、お話の下に畳んでおきますね。







キセキ(15)





 時は遡って昨日の夜。
 岡部に連れられて彼のマンションに入った薪を待っていたのは、岡部の年若い義母の歓迎ではなく、置いてきたはずの恋人の姿だった。途中で薪の身の回りの品を調達している間に、先回りされたらしい。

「返してください」
 エントランスで待ち伏せていた青木は、出し抜けに訴えた。
「さっきは薪さんの前だったから我慢しましたけど。オレのアパートに住まわせますから、返してください。その仔にはオレが必要なんです」
 たったいま貰い受けたペットの返却を迫られて、岡部が眉を寄せる。勝手すぎると思った。彼のために購入した買い物袋いっぱいの生活用品を、今さらどうしろと?

「逆じゃないのか。おまえがこの仔を手放せないんだろう」
 岡部は青木に対して腹を立てていた。2時間も経たないうちに意見を翻したからではない、気付くのが遅いんだ、このバカが。こんなボケサクの身勝手な言い分に、素直に応じてたまるか。
「世間でそれを何て言うか知ってるか? 二股って言うんだよ」
「そんな。薪さんとこの仔は別の」
 言い返そうとして、青木は口を噤む。一般的に見れば岡部の方が言い掛かりに近い。岡部の後ろで息を殺している、彼は今、人間ではないのだ。しかし青木はそこに言及することなく、深刻な顔をして、
「オレにもよく分かんないんです、どうしてこんなにこの仔のことが気になるのか。でも、辛いんです。明日からこの仔に会えなくなると思うと、泣きたくなるんです」
 そこまで言って青木は、さっと岡部の横に回った。岡部の巨体に隠れていた彼の両肩を掴み、強い力で自分の方を向かせた。頭が振られて、大きな帽子が落ちそうになる。岡部は慌ててそれを押さえ、周囲を見回した。マンションの住人に見られたら厄介なことになる。
 このバカ、と岡部は再度心の中で青木を罵倒する。が、青木にはもう、彼しか見えていなかった。

「すっごくバカなこと言ってるって自分でも分かってますけど、気が狂ったと思われても仕方ないと思いますけど、でももう我慢できませんから言っちゃいます。薪さんですよね?」
 青木がじっと見つめたその先の、亜麻色の瞳が小さく引き絞られた。青ざめる額と、わななくくちびる。青木はもう一度、狂人の戯言を繰り返した。
「あなたが、薪さんですよね?」

 青木は腰が曲がるほどに背中を丸めて、それでようやく彼との高低差がなくなる。亜麻色の瞳に映る自分の顔、やっぱりそうだ、見覚えがある。これが彼を見るときの自分の顔だ。彼にすべてを奪われていく、愚者の表情。

「だっておかしいんです。あなたを見ると胸が騒ぐ。手をつなぐと安心する、抱きしめれば夢心地になる。一番確定的だと思ったのは」
 間違っているかもしれない、いや、自分は狂っているのかもしれないとさえ思いながらも抑えきれない、溢れてくるこんなにも、狂おしいくらいに湧き上がる彼への気持ち、自分をこんな風にするのは彼だけ、薪だけだと青木は高らかに宣言した。
「一緒にお風呂に入ったとき、あなたに欲情しまし、痛ったああいっっ!!」
『それ以上言ったらブッコロス』
 この反応、この回し蹴り。絶対に薪だ。
「すみません、言葉は分かりませんが生死の選択を迫られているのは分かります、もう言いません」

 はあっ、と自棄になったようにため息を吐いて、薪は備え付けのソファに座った。片足を抱え込んで膝に額を付ける、それは彼の混迷のポーズ。
「仕方ないでしょ、ばれちまったもんは」
 トレンチコートの肩を揺すって、岡部はにやにやと笑った。薪がジロリと彼を睨む。
「本能で嗅ぎ分けたんじゃないですか? こいつ、前世は絶対にイヌですよ」
 かなり失礼な前世占いだが、「青木は薪の犬」と陰で言われているのは事実だし、薪の犬好きを知っている青木には何だかちょっと嬉しかったりする。イヌと言われてまんざらでもない青木を見て岡部は、青木が獣化すればよかったのに、と不穏なことを考えた。

「おふくろには別の猫を飼うよう勧めます。普通の猫をね」
 買い物袋を青木に渡し、「給料が出たら返せよ」とレシートを押し付ける。空っぽになった手を握りしめ、岡部は青木の腹に拳を入れた。岡部にすれば3割程度の力だったが、不意を衝かれた青木にはかなりのダメージだったはずだ。
「ずいぶん泣いたみたいだぞ」
「……すみません」
 青木にだけ聞こえるように、岡部は小声で言った。彼を一生守っていく覚悟があるのかと、岡部に訊かれたのは薪と付き合い出す前。青木の答えは、あの頃と1ミリも変わっていない。

 帰りましょう、と促すと、薪はしぶしぶ立ち上がった。両手をコートのポケットに入れたまま、いつものように青木の前に立つ。
 すまなかったな、と薪に眼で謝られたから、いいえ、と岡部も眼で返した。言葉など無くても分かる、彼の気持ち。スッキリと伸びた背筋、生き生きと輝く瞳。それだけで岡部は薪の心を知ることができるし、安心できる。

 並んで去って行く二人を玄関の外で見送り、岡部はエントランスに戻った。外気の冷たさに身を竦ませながら、ふと顔を上げると、柱の陰に隠れるようにして母親が立っていた。細い眉根を寄せ、落胆を露わにしている。岡部が連れ帰るはずだった「一風変わった、でもとびきりキレイな猫」を彼女はとても楽しみにしていたのだ。
「ああ、すみません。約束していた猫なんですけど、ちょっと事情が変わって」
「靖文さん、ご立派でしたわ! なんて潔い身の引き方。心の中は荒れ狂う嵐でしたでしょうに」
 ……まだ撲滅されてなかったのか、この男爵ウィルス。

「あのですね、お母さん。俺は薪さんとは本当に只の上司と部下で」
「わたくし、感動しましたわ。天国の靖男さんも、きっと靖文さんの男気に拍手を送ってくださるでしょう」
「話聞いてもらえますか、お母さん。俺は男に恋をする趣味は」
「お辛いでしょうね、お察ししますわ。残念ながら薪さんとはご縁がなかったみたいですけど、世の中に殿方は薪さんだけじゃありませんわ。きっと靖文さんを誰よりも愛してくれる殿方が見つかります、わたくしが保証します」
 ちょっと待て、いつの間にゲイになったんだ、あんたの息子っ!!

「失くした恋にさようなら、新しい恋にこんにちは、ですわ。と言うことで、今夜は朝まで飲み明かしますわよ!」
「いやあのちょっ……!」
 彼女の細い両腕が岡部の二の腕を抱くように捉え、酒宴の席へと追い立てる。息子を励ますと言う母親の使命感に燃えた彼女を止める術を、哀れにも岡部は持たない。ちょっと飲むくらいならいいけど朝までなんて、アルコールは彼女の目元を色っぽく染めるだろうし、へべれけになったら服だって乱れるし、俺の理性にも限界ってもんが、あああああ。

 ……薪さん、今夜だけでいいですから帰ってきてください。





*****

 この下、メロディ6月号の一言感想です。







 わたしが思っていたよりずっと、二人は普通の親子でした。
 澤村さんは薪さんのことを息子として可愛がってたし、薪さんは澤村さんを大事な人だと思ってた。普通の親子がするようなこと、一緒にご飯食べたり宿題やったり、そういう日常が二人の間にはちゃんとあって、それはいつかは解ける魔法だったかもしれないけど、やっぱり薪さんには必要な時間だったと思います。

 ただ、澤村さんの無実を信じて、調べれば調べるほど状況証拠が挙がってきてしまうのは、辛かっただろうなあ。
 それでも信じ続けて、東大まで行って確かめて。岡部さんに指摘された薪さんの「甘さ」は、この頃から変わってないんですね。それとも、鈴木さんがいたから変わらずに済んだのかな。

 最後に、「あんな親でも僕には必要だった」って薪さんが言ってくれて、わたしは嬉しかったです。 薪さんが自分の中に流れる血を否定しなかったこと、嬉しかった。
 澤村さんは「負け犬の犯罪者」かもしれないけど、自分の子供を愛する優しい心も持ってた。 そう思ってくれてたら、いいな。

 鈴木さんが意外と性格キツくて。ちょっとびっくりしました。頼もしかったですけど、青木さんとは似てないと思いました。
 薪さん、鈴木さんと青木さん、どこが似てるのよ? 回が進むごとに、顔すら似てない気がしてきたんですけどww。
 うちの青木さんは原作の青木さんより、この鈴木さんに近い気がします。自分が既に薪さんと友人であることを分からせようとするあたり、思考回路が似てるなあって。うちの青木さん、しょっちゅう薪さんに説教してるし。(笑)
 とっても好みの二人です。特別編も楽しみ♪

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

Rさま。

> 沢村さんと薪さん思った通りで良かったです

Rさまのお見立て通りでしたね!
「薪さんは沢村の事も愛していると思う。これ以上罪を重ねて欲しくないと思っているとも思う」とおっしゃってた通り。
抱えていた秘密が桁外れに大きかっただけで、日常は普通に親子ですよね? そりゃ普通の子供は親に発信機つけたりしないけど、でも、
一緒にごはん食べたり宿題したり遊んだりしてた。クリスマスは澤村さんがサンタになって、お正月は一緒に初詣に行ったんですよ、きっと。
ちゃんと親子だったよ、薪さん……(;;)


> 鈴木さんの「俺の願い」は全薪ファンを感激させたことでしょう。青木さんの「みんな、みんな」には毎回イライラ歯がゆくアンタの気持ちはどうなのー!!て感じでしたから(笑)

ここは!
多分、わたしとRさんの考え、まるっきり同じだと思います!
まさに、

> まぁ後の薪さんにはそんな青木さんが必要だったのだと思いますけど

ジェネシス読んだら、薪さんには青木さんでなきゃいけなかったんだな、としみじみ思いました。 青木さんのあの「みんなみんな」こそが薪さんには必要だったんだなあって。
被害者の気持ちにも犯罪者の気持ちにも寄り添える、そういう人間じゃないと薪さんの傍に一生いることはできないのだと思います。 薪さんの中には両方の血が流れているから。 鈴木さんのように、罪を犯した人間を「負け犬の犯罪者」と罵ることはできない。
もちろんそれは薪さんの数奇な生い立ちが為せる業であって、わたしなら迷わず鈴木さんを選びますケドww。 頼りになるし、自分だけを大事にしてくれそうじゃないですか?
青木さんだと、道端のおばあさんを優先されそう。(笑)


> 誰が描いても原作通りの青木にはならないと思います

書けないことはないですよ、でもね、
薪さんとの恋愛話は進まないと思います。(笑)
そこを目的に書いてしまうと、青木さんの性格を変えるしかないんですよね。 わたしの人間性によるところが大きいのですけど、恋愛は利己的なものだと思うし、相手が一番大事な人になってしまうのが自然だと思うので。
原作の青木さんはそういう人じゃないですよね。 恋人にも母親にも上司にも、誰に対しても等しく誠実で一生懸命。 きっと薪さんも青木さんのそういうところが好きなんだろうな。


> 清水先生はSだとよく言われますけど私はMだと思います薪さんを辛い目に合わせて薪さんの辛さを感受してる気するので(笑)

……ごめんなさい、わたしも薪さんが辛い目に遭うとゾクゾクします。←人間のクズですみません。
不幸萌えって言うのかな、現実にあるんですよ。 好きなんだけど、幸せになって欲しいんだけど、薪さんが泣いてるところとか、どうしようもなく萌えます。 だからうちの薪さんはしょっちゅうあんな目に、ほんとスミマセン。(^^;


Ⅰさま

Ⅰさま。


藤棚、きれいでしたよ~!
見頃が5月10日ごろまで、とありましたので、今しか見られませんから。 混雑は覚悟してください。


> さすが、岡部さん・・・・のお義理さま。
> と青木さん!わかっていたんですね~o(_ _)o(泣)

今回は展開がハードだったんで、唯一、雛子さんのボケっぷりが癒しでした。
え、薪さんもけっこうボケてましたか?(笑)

青木さんは、
気付いていたけど自信がなかったのと、偽薪さんを信じてくれる人が他にいなかったので。 恋人がそんな状態になったら、自分だけでも彼を信じようと思うんじゃないかと。 青木さんてそういう人じゃないかな。


メロディ、決意されたんですね?
はい、よかったですよ~!
任せて安心、鈴木さん、て感じですww。(←あおまきすと?)

でも、
その鈴木さんを殺めてしまった薪さんには、やはり青木さんの博愛が必要だったんだな、と強く感じました。
ジェネシス(鈴薪さん)を読み終わった後、読者に青薪さんの絆の必然性を感じさせるの、先生、すごいな。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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