キセキ(18)

 誰にも突っ込まれなかったんですけど、違和感を感じてる方多いと思うの、わたしの被害妄想かしら。
 たとえ相手が異星人でも、薪さんが人を殺すかなって。

 実はですね、薪さんがグラサンハゲを撃ち殺したとき、わたしはものすごく意外だったんです。 鈴木さんの事件以降、銃を撃つのも人を殺すのも、二度としたくないだろうと思ってたので。 撃とうとしても撃てないんじゃないかと思ってた。
 銃を撃つ瞬間に手が震えてしまったり、鈴木さんのことが頭を過ぎったりとか、しなかったですよね。 それが腑に落ちなくて、自分でも薪さんが人を殺す話を書いてみようと思った。
 薪さんが再び銃を取るとしたらどういう状況だろうと考えて書いたのが『たとえ君が消えても』で、他者の命を奪うとしたら、それも意識的に行うとしたら、と妄想して書いたのが今回の『キセキ』です。 
 人間は書くことによってその状況を疑似体験するから、書いた後は、ああ、仕方ないかあ、って感じになりました。
 てな具合で、わたしにとってSSは薪さんを理解するツールでもあるんですけど、一番大事なのは萌えの昇華でございます。 この展開、超萌えます。 つまりはSってことで☆
 




キセキ(18)






『僕は警察官だ』

 その明白な事実が、彼の敗因だった。彼は観念したように眼を閉じ、忌々しそうに舌打ちした。
「くっそ。科学者の方にしときゃよかった」
『負け惜しみを』
 速攻で薪が反撃する。薪はもう唯の一つも、彼に勝ち星を上げさせてやる気はなかった。
 体の中に入り込んだ彼の触手が弱ってきたのか、薪は目眩を感じた。足元がふらついて立っていられない。本能的に相手の腕に縋ると、彼もまったく同じ状態らしく、薪の肩に自分の体重を持たせてきた。
 こんなやつと抱き合って死ぬなんて、それは相手も同じくらい嫌だろうけど仕方ない。身体が言う事を聞かないのだ。

『百キロ圏内で僕を見つけたって? ラッキーだったな』
 動くのは口だけ、それも薪が思っているだけで本当は動いていないのかもしれない。端末でつながっているから、彼とは心に思うだけで話が出来るのかもしれない。どちらでもいい、彼には言っておきたいことがある。
『世界中を探し回れたとしても、おまえは僕を選んださ。他人の愛情を糧に生きるおまえにとって、僕以上の獲物なんて存在しなかったはずだからな』
 どういう意味だ、と薄目を開けた彼に、薪は嫣然と微笑んで見せた。
『僕より恋人に愛されてる人間なんて、この世にいないんだ』
 彼の口角がきゅっと上がった。整然と並んだ白い歯が、眩しいくらい綺麗だった。
「言ってろ、サル」

 仲の良い友人のように肩を抱き合って、二人は床に膝を着いた。彼の身体は徐々に崩れ、剥がれ落ちた皮膚の下からは彼の本体なのか、金色の光が洩れ出ていた。
 その光は、薪をも侵食してきた。痛みはなかった、しかし薪の身体は彼と一緒に分解していった。
 これは想定外だ、死体も残らない。空の棺で葬式をするのか、いや待て、その前に死亡が認められるかどうか、下手すると行方不明者扱いされて退職金も見舞金も出ないかもしれない。青木に残してやる心算だったのに、てかマンションのローン残ってるのに、死んで踏み倒しなんて保証人の小野田さんに申し訳なさすぎる、青木、悪いけど残り払ってくれないかな。
 この世の最後の思いにしてはあり得ないくらい情けない薪の思考を遮ったのは、不意に自分を拘束した男の腕だった。

『ば……なに入って来てんだ、バカ!!』
 蹴り飛ばそうとしたが、すでに膝から下が無かった。二人の身体はまるで砂金のように、輝きながら細かく崩れていく。未だしっかりしている薪の肩を抱きしめ、青木は叫んだ。
「バカはどっちですか!」
「『おまえだ』」
「ええー……」
 息ピッタリじゃないですか、と青木は拗ねたように唇を尖らせたが、すぐに薪の方に向き直って、
「確認したばかりでしょう? オレの幸せが何なのかって」
 分解に巻き込まれた青木の身体が、薪の目の前で崩れていく。自分の死はあっさりと受け入れた薪は、青木のそれに対しては激しい恐怖を露わにし、敵の前では取り乱すまいと決めたことも忘れて、夢中で青木に取り縋った。
 青木は嬉しそうに薪を抱きしめ、いつもと何ら変わらぬ陽気な口調で、
「化け物になるのも、お星さまになるのも。薪さんと一緒です」
『バカ、青木っ……』

 薪の心に、激しい怒りが渦巻いた。
 自分が何のために再びこの手を汚す決意をしたのか。次の犠牲者を出さないため、誰かの大事な人を守るため、でも悲しいかな、薪は聖人ではない。決して嘘ではないけれど、大義の裏には必ず利己的な考えが隠れている。
 真実を知った青木は、誰かが自分たちの代わりに犠牲になることを心から悲しむ。自分さえよければなどと思えない、薪のように割り切ることもできない。彼はそういう人間なのだ。
 これから彼が生きるこの世に、一片の憂いも残したくない。
 そんな想いが薪に最後の一歩を踏み出させたのに、一番守りたい人を巻き込んでしまったら本末転倒じゃないか。なにがお星さまだ、バカヤロウ、自分勝手な理由で僕の計画を台無しにしやがって。

 バカバカと薪が繰り返した数は64回。最後の「バカ」は声が枯れて、発音が定かではなかった。すみません、と謝り続ける青木の幸せそうな顔を見て、すっかり黄金色に変貌したエイリアンは最後の力を振り絞って呟いた。
「そうか。僕は、青木になればよかったんだな」
 青木の顔を見ていると、薪が繰り返す罵言が別の言葉のように聞こえる。その響きは甘くて、まるで愛の、いやもう、そうとしか聞こえない。そしてそれは真実なのだ。
「ベクトルの向きが逆だったんだ。あのエネルギーは……君は本当に性格が悪いな。すっかり騙された」
 知的生命体の頂点に立つはずの自分が、こんな低脳種族に翻弄されるなんて。まったくもって嘆かわしい。知力なんか、この星では大して役には立たないのかもしれない。
 彼は笑った。何故だか笑えた。敗北したはずなのに、妙に気分が良かった。

「忌々しいサルめ」
 それが彼の最後の言葉だった。
 彼が消えた瞬間、薪の脳に入り込んでいた触手が弾け飛んで、何千億と言う脳細胞が一気に破壊された。脳の中で小さな爆弾が爆発したようなものだ。生きていられる訳がない。
 薪の意識は一瞬で吹き飛び、この世から消えた。




*****




 第4モニター室の前で、岡部は見張りをしていた。
 絶対に誰も入れるな、と薪に命じられた。「おまえも入ってくるなよ」と薪は内鍵を掛け、それは時と場合によります、と岡部は心の中で返事をしておいた。
 しばらくの間、薪のニャーニャー言う声が聞こえていたが、やがて静かになった。途中で青木の悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだと思うことにした。薪に辛い思いをさせたのだ、少々のお仕置きは必要だ。

「うおっ!?」
 岡部が驚いて身を引いたのは、突然辺りが明るくなったからだ。
 それは、モニター室のドアの擦りガラスから放たれていた。無音だが、中で爆発のようなものが起きているらしい。薪の話では異星人が絡んでいるそうだし、常識で考えていたら置いていかれる。岡部はドアを蹴り破った。

 居室の中は眩しくて、眼が開けられないくらいだった。腕をかざして眼を庇い、何が起きているのかを確認しようと、岡部は腕の隙間から現場を注視した。
 光の中心に、2つの人影が見えた。片方は大きく、もう片方はその半分くらい。やがてそれらはゆっくりと一つになり、ほんの数秒膨れ上がって、その後は次第に小さくなっていった。
 岡部は息を飲んで、その光景を見守っていた。

 ついに光が消えたとき、そこには何も残っていなかった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

> 私は青木の代わりに薪さんが姉夫婦の敵を討つんだろうなと思ってましたよ。

Aさまの読み通りになりましたね。
わたしが思っていたよりも、薪さんはずっとお強かったです。 
考えてみたらね、薪さんは始めから強い人でしたよ。 貝沼の脳を見て、一人だけ正気を保っていられたんだもの。 精神的にはすごく強い人なんですよね。 青木さん、「オレが支えます」て、必要ないどころか逆に守られてますものね。(笑)


> 薪さんは自分が消えるのを青木がただ見てると思ってたのかしら。

これは、「あんな消え方をするとは思ってなかった」が正解です。
相手を殺したら自分も死ぬとは思ってたけど、それは一瞬のことだと想像してたんですね。 「今は未だ人間の身体なんだろう? 脳を破壊すれば死ぬよな?」 というセリフからも分かるように、薪さんは偽薪さんの現在の身体を普通の人間と同じに考えていたので。
そうしたら意外と時間掛かっちゃって、やべーな、と思ってるうちに青木さんが入ってきちゃってシッチャカメッチャカに。(^^;
原作薪さんのように、スマートには行きませんねえ。

Sさまへ

Sさま。

> まさか薪さんの愛の方が青木のそれより深いとおっしゃる?

あらSさまったら、それはもう原作のデフォじゃございませんか。
この構図になると、わたしも胸が締め付けられますが。

不整脈、それもシルバー川柳って!(>▽<)
わたしのもそうかも~、最近ちょっと太ったね、とオットに言われました。 ←ブラのアンダーがキツイらしい。


うちの青薪さんは、最初の頃こそ著しく 「青木さん>薪さん」 なのですけど、
次第に薪さんの方が大きくなって行って、最終的には 「青木さん≒薪さん」 に落ち着くんですね。 なので、時と場合によっては薪さんの方が大きくなったりします。 で、これ、あとがきSSのネタになってるんですけど、この時はたまたま、
エッチの真っ最中。
その時は青木さん、快楽に飲まれる形になってるので、薪さんの方が相手に向かう気持ちは大きかったりして。
もちろん双方向性ですが、このエイリアンにしてみれば、見た目では完全に一方通行だと思ってたものが実はそうじゃなかったから、「騙された」って。


記念日のお祝い、ありがとうございます。
ふふ、Sさんちは毎日が記念日だって、以前おっしゃってましたよね。 それもステキだと思います。(^^
実はわたしもそんなに拘ってるわけじゃないんですけど、要は記念日にかこつけて、ケーキ食べたりお酒飲んだりしたいだけ、だったりしますww。 

Ⅰさまへ

Ⅰさま。


> 違和感、感じなかったです。

あ、よかった。
実は薪さんに殺意を抱かせるの、すごく抵抗あったんです。 わたしは薪さんを根っからの警察官だと思ってたから。
警察官は捕まえるのが仕事で、裁くのは仕事じゃない。 だから殺意を持つことは警察官のポリシーに反することだと。 薪さんは、そんな思いを抱く自分を激しく責めるのではないかと。
でもⅠさまご指摘の11巻の、
「僕を合法的な手段しかとらない一警察官と思うな」
に表れているように、いざとなったら信念を曲げることも自分の手を汚すことも厭わないのかもしれないな、と考えて書いてみました。 青木さんのためなら!(←偏った見方)


> 私は澤村さんと一緒に火をかけて死のうとしたときの方が意外でした~

あ、これは違うの。 原作薪さんならこうすると思って書いたわけじゃなくて、あれはリハビリだったから、
「考えうる最悪の展開」 を書いたんです。
書けば書くほど、「ねーな」って思えて、それで元気になれました。(^^


> 「刑に服し罪をつぐなってください」というかと思ってました。

ですよね! 
うちの薪さんなら、自分で警察まで引き摺って行くと思います。 青木さんが犯罪を犯したら草の根分けて探し出して手錠掛ける人ですから。(笑)


>滝沢さんの「お前のその手は汚れていないのか」
は、
わたしもⅠさまと同じで、鈴木さんを殺したことを指していると思います。
滝沢さんが銃に仕掛けをしたことについては、個人的には疑問を持っているのですけど、それは置いといて、
あの時の滝沢さんの目的は薪さんを脅してレベル5のデータを手に入れることにあったわけですから、自分があの事件に関与していようといまいと、関係なかったんだと思います。 関与してたら大概酷いやつだと思いますけどね。


死と共に灰になるとか、確かに綺麗な死に方ですよね。 人間、死んだら腐りますからね。(^^;
萌えますか?
わたしはイタイ薪さん萌えなので血塗れになって悶え苦しんでる方が、いえその。(←生きながらに腐ってる)

そう、これで終わりじゃないですから。 ちゃんと帰ってきますから。
残り3章、安心してお付き合い下さい。(^^


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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