キセキ(21)

 ねえ、ちょっと聞いてくださいよ。
 うちのオットって、ほんっとうにバカなんですよ。


 不肖わたくし、『夏目友人帳』のニャンコ先生のファンなんですけど、コンビニ限定のスピードくじでニャンコの置物が当たりまして。
 こんなの。 ↓↓↓

猫様1  (クリックすると大きくなります)


かわいいな~と思って、事務所の机に飾ったんです。 そのときオットは、
「おまえ、いくつになるの? バカじゃね?」
 とか言ってたくせに、翌日、出勤してみたら、
 こうなってた。 ↓↓↓


猫様Web   



 どっちがバカ?!

 段ボール切って地面を作って、周りの草は鋏で作って貼り付けて、木と動物たちはWebで探して切り抜いたらしいのですけど……、
 仕事しろよ、社長。


 とりあえず、毎日楽しいです。







キセキ(21)




 クリスマスイブの夜、帰宅した息子に労いの言葉を掛けようとした彼女は、彼が懐から出したものに大きく眼を見開いた。
「まあ! ニニちゃん!!」
 突然姿を消した飼い猫を彼女は必死に探していたが、この季節に十日も音沙汰なしではと、諦めかけていたところだった。それを息子が見つけてきてくれた。彼は優秀な刑事なのだ。飼い猫が無事だったことと、息子に対する誇らしさで、その晩の彼女の笑顔は殊更美しく輝いていた。

「こうして無事に帰ってきてくれるなんて。奇跡のようですわね」
「今夜はクリスマスイブですよ。奇跡くらい起きますよ」
 普段は気の利いたことも言わない無骨な息子だが、聖夜の魔法か、そんな言葉が彼の口から零れた。彼が両手でそうっと床に下ろした小動物は、尻尾を立てて彼女に歩み寄り、その細い足首に小さな顔を擦り付けた。

「あら、やっぱり怪我をしてますのね」
 猫を抱き上げ、彼女は飼い猫の異変に気付く。毛を掻きわけないと分からないが、額に小さな裂傷が残っていた。
「大分弱ってますが。なに、あなたがいつもの調子でそいつの世話を焼けば、すぐに元気になりますよ」
「ええ、がんばりますわ。さあ、今夜はごちそうですのよ! イブですからね、チキンもケーキも手作りしましたの」
 彼女の言葉に、息子の顔色が紙のように白くなる。彼の額に汗が浮かんだのは、寒い屋外から戻ってくる息子を思う母心から高めに設定された暖房のせいばかりではなかった。

「今年こそは市販のものにしましょうって、あれだけ言ったのに……」
「ニニちゃんも一緒に食べましょうね」
「いやあの、身体が弱ってるところにその料理を食べさせたら致命傷に」
「ほらほら靖文さん。手を洗って、席にお座りになって」
 食卓に所狭しと並んだ大皿の、聖なる夜を冒涜するかのような物体を前に、岡部と岡部家の飼い猫は絶句したのだった。




*****





 薪の43回目の誕生祝は、スーパーの売れ残りの骨付きチキンとコンビニのケーキという少々侘しいものになった。毎年この夜、薪は一緒に誕生日を祝ってくれる恋人のために腕を振るうのだが、今回ばかりは仕方がない。4時間ほど前までは、包丁も持てない身体だったのだ。
 青木が、買ってきたシャンパンをグラスに注いで薪の前に置く。二人とも疲れ果てていたからつまみはクラッカーを袋ごと、サラダに到ってはレタスをちぎっただけというお粗末なものになってしまったが、彼らはそれで満足だった。
 だって、一緒にいられる。それ以上に望むものなんか、ない。

 あり得ないくらいお腹が空いていた青木は、チキンを切り分けるのすら面倒で、手で骨の部分を持ってかぶりつきながら、
「岡部さん、大丈夫ですかね」と不明瞭な発音で訊いた。ああ、と頷きながら、薪がクラッカーを二枚重ねて口に入れる。二人とも、心配よりも食欲が勝っているように見受けられるが、気のせいだと思いたい。

 分解された人間の身体を再構築すると言う荒業に力を使い果たし、すっかり弱ったように見えたエイリアンだったが、青木が心を込めて彼の身体を撫でさすり、温めたミルクを飲ませてやると、自力で起き上がれるまでに回復した。
 その間、薪はずっと岡部の説教を聞いていた。神妙な表情で俯いて、でもその殆どを聞き流しているのはいつものことで、岡部もおそらくそれを知っている。危ない真似はやめて下さいと何回言っても聞かない、次の時にはまた同じことをする、そして岡部に叱られる。反省していない証拠だ。叱られるうちはいいが、小言を聞くこともできなくなってしまったら、それを考えるとゾッとする。だから岡部は無駄だと解っていても、薪の右の耳から左の耳に流れていくだけの説教を繰り返さずにはいられないのだ。

 青木が戻ってきたのは、光が消えて半時もしないうちだった。
 岡部は消えた二人の姿を探して、第九中を走り回っていた。屋上に程近い、空き部屋の幾つかを確認していたとき、ドサリと重量物が落下する音が聞こえた。音源を辿ってみると、屋上に青木が倒れていた。
 青木から事情を聞くと、彼(エイリアン)は一仕事済ませてからここに来る、その際には薪も必ず連れて来る、と青木に約束したそうだ。彼の所業について薪から聞かされていた岡部は、気色ばんで青木に詰め寄った。
「そんな約束を信じたのか? お人好しもいい加減にしろ。あいつが薪さんに何をしたか」
「分かってます。でも、彼はオレを助けてくれました」
「それは、あいつはおまえを自分のものにすることが目的だから」
「違います。前はそうだったかもしれませんけど、今は違います。それだったら薪さんを置いて、オレと一緒に帰ってくると思います。オレを助けるのが精一杯だったと彼に言われれば、オレはそれを信じるしかないんですから」
 彼を信ずるに足る理由を青木から聞かされても、岡部は納得できなかった。今ここに薪の姿がない、その元凶たる生物の言葉を信じるなんて、そんな神経を持ち合わせていたら刑事なんかやってられない。
 そんな岡部に希望を抱かせたのは、青木が次に提示した信頼の根拠だった。

「彼がオレを助けてくれたのは、薪さんの行動に感動したからだと思います」
 自分が死ぬことを承知のうえで、他者を守ろうとした。薪の警官魂に、彼は深く感じ入ったのだと思う。だからきっと、彼は薪を救ってここに帰ってくる。青木はそう信じた。
 だから岡部も信じることにした。大きなハプニングに見舞われたとき、薪のすることはいつも無茶苦茶だけど、警察官の信念だけは絶対に揺らがない。その真実を見せつけられて、彼に惹かれない人間などいないと、岡部は薪の徳望を信じたのだ。

 途中で雪が降ってきて、防寒具を取りに戻ることを考えたが、その僅かな間にも薪が帰ってきたらと心配で屋上を離れることができず、結局二時間、寒空の下で待ち続けてしまった。
 消えたときと同様、現れるときにも、そこに光が満ち溢れた。人間が神のイメージを光で表すのは、遥か昔このエイリアンが地球に来訪したことがあって、それを目撃した古人がその光景を後世に伝えたのかもしれない、と岡部は聖夜に相応しい空想をめぐらせた。
 二人が光に手を差し入れると、徐々に重みが加わった。光が消えたとき、薪は青木の腕に収まり、岡部の手には小さくなった彼の姿があった。

 やっとお小言から解放された薪が、地上に帰ってきたときと同じくらいフラフラした足取りで青木たちのいるソファに歩いてくるのを、青木と彼は笑いながら見ていた。自分が笑われていることに気付いて薪はムッと眉を顰めたが、先刻までは息も絶え絶えだった彼が二本の足で立ち上がるのを見ると、柔らかく愁眉を開いた。
「家に帰る途中でくたばるなんて夢見の悪い事にならなくて良かった」などと、薪は心配に皮肉の衣装をまとわせていたが、彼はそこからも幾らかのエネルギーを得ることに成功したようで、隣に座った薪の手に鼻先を押し付けた。照れ屋の薪はさっと手を引き、立ち上がって別の席に移動してしまった。青木と彼が顔を見合わせて、クスッと笑う。

 ソファの上で、青木の手から砕いたビスケットを食べさせてもらう彼に、岡部は何を思ったか自分の携帯の画面を見せ、
「こいつに化けられるか?」
『何とかなるだろう。人間に化けるよりはずっと簡単……』
 彼は不意に口を閉ざし、くるりと青木を振り仰いで、
『青木が僕にキスしてくれたら化けられると思う』
「許さんっ!!」
「まあまあ、薪さん。いいじゃないですか、キスくらい」
「なに言ってんだ岡部、他人事だと思って、ダメだ、絶対にダメ、あ、青木、こら! おまえ、後でオボエテロよ!」
 青木は薪が彼に与えた額の傷に、そっとキスをした。これで薪さんのことを許してね、とこっそり彼に囁けば、彼はぶるんと身体を震わせ、岡部の携帯画面に映った子猫そっくりの姿になった。

「ほお、大したもんだ」
 ミャア、と彼は自慢げに声を上げ、岡部を見やった。高慢な眼だった。
「俺ン家で飼いますよ」と彼を取り上げ、岡部は彼を自分の懐に大切そうにしまった。彼は従順に飼い主の交代を受け入れ、新しい主人にすり寄って眼を閉じた。




*****



 岡部さんちの猫の名前は、原案者のにに子さんに敬意を表して、と思ったんですけど、よーく考えてみたらこれ、
 人間じゃない上に敵役。
 恩を仇で返すとは正にこのことで……誠にスミマセン。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Sさまへ

Sさま。

Sさまも夏目ファンでしたか。
あれ、いいですよね~!
わたしもボロボロ泣きます。 決して派手な話ではないし、人生の絶望がドロドロと描かれているわけでもないのですけど、その分リアリティがあって共感が半端ないです。 主人公の夏目があまり強すぎない所がいい。 肉体的にも精神的にも。

ご主人が興味ないのは、
普通だと思います!
うちも興味があるわけじゃないんですよ。 ただ、こういう手の掛かる冗談が大好きなオットで……希少価値だとは思いますが、時々呆れます。
 


> にに子さんのあの絵を見て、ここまでお話が広がるしづさんの脳をMRIにかけて見てみたい!!!!!!
> いったいどんな構造になっているのやら

飛躍し過ぎですよね。(^^;
それに、あの穏やかな画からこのS展開はナイww。

最近、リンクさせてもらってる「秘密の青空」というブログさんで、ダ・ヴィンチという雑誌の腐女子座談会の模様をちょこっと紹介されていたのですけど、それによると、
『腐女子の妄想力は世界最強』
だそうです。(笑)


> 脳内ではいろいろ想像してるんですが

その時点で想像力あるじゃないですか~。
今度聞かせてくださいな♪

想像であれ説明であれ、自分の考えを文字に変換する作業はSさんのお仕事と似通っていると思うのですけど、いずれにせよ、
他人に分かりやすく伝えるの、難しいですよね。
わたしのは9割方自己満足なので気楽なものですが、Sさんのはお仕事で、それが必至である分、大変だと思います。 尊敬します。

あ、あと、「腐女子」が成長すると「貴腐人」になるみたいですよ。 
個人的には自分が呼ばれるなら「腐おばさん」の方がナンボかマシですけど。(笑)


> ただただ切ないだけではなくて、薪さんを大事に思う気持ちが溢れています

きゃー、ありがとうございますー。
そうなんです、わたしは薪さんに幸せになって欲しくて、それで二次小説を書き始めたんです。 だから最後は絶対に薪さんが心からの笑顔を浮かべられるような結末にしているつもりです。 お話の進行上、負の要因を完全に消すことができない場合でも、必ず救いはあるようにしてます。
切ない系が多いのは、
うん、ごめん、不幸萌えなの、わたし。 ←言い訳できない。


Sさんには、いつもお声掛けてくださってありがとうございますー。
これからもよろしくお願いします。(^^



Ⅰさまへ

Ⅰさま。

ニャンコ先生、かわいいですよねっ。
ええ、なんかオットも「一人じゃ淋しいだろ?」とか訳わかんないこと言ってましたよ。 だからって普通、ここまでやるかな。(--;


> 気付かれないようにこっそり

うちのオットは何でもそうなんですよ。 こっそりやってるわけじゃないけど、自分がしたことを言わない人です。
例えば、
わたしは結婚してから自分の車を洗車したことも給油したことも片手に余るほどしかないんです。 オットがいつの間にかやっておいてくれる。 それは自分が気が付くからいいのですけど、実家の田んぼの草刈りとか水道管の修理とか、そういうのも黙ってるんですよ。 実家のお母さんからお礼の電話かかってきて、初めて知ると言う。 娘、立場ない。

あと、車の改造が趣味なので、
わたしの車はしょっちゅうホーンの音が変わったりライトの色が変わったりしてるらしいのですが、わたしは車には興味がないので気が付かないことが多いです。 ←やりがいのない嫁。


お話の方は、
おかげさまで完結いたしました♪
終わりを惜しんでくださってありがとうございます。
Ⅰさまご所望の「ヤキモチ青木さん」も次の次辺りに控えておりますので、よろしくお付き合いください。(^^

Eさまへ

Eさま。

大好きですよ、ニャンコ先生!
ご指摘通り、斑さまとのギャップ、たまらんです! 
でもってお酒が好きで酔っ払いオヤジみたいになっちゃうのも、食い意地が張ってるのも可愛い~! 

夏目は読むと泣きますね。ストレートに感動させてくれるんですよね。
・・・秘密は泣かなかった。苦しすぎて泣くこともできなかったなあ・・・。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: