ランクS(11)

 発売日ですよっ!
 ネタバレ防ぐために昨日からネット見てません。
 前号泣ける話だったから特別編は明るいお話だと、勝手に思ってます。 楽しみだな~~。



ランクS(11)







 科警研の正門の前には、美しい銀杏並木が続いている。季節柄、黄色く染まったそれらを眺めつつ、青木は寒風に肩を竦めた。興奮状態で出てきたから、コートを持って来るのを忘れてしまったのだ。

「あれ。青木じゃないのか」
 とりあえず頭が冷えるまでと、行く宛てもなく歩いていたら誰かに呼び止められた。振り返ってみると竹内だった。彼は一人で、捜査なら一課の決まりで誰かと一緒のはずだと思いながらも聞いてみた。
「事件ですか」
「いや、これから例の女子大生のアパートに。現場百回、行き詰ったら出発点に戻れ、事件が終わったらもう一度戻れってね。岡部さんによく言われた」
 終わった事件の現場に、戻ると言うよりは被害者に報告に行くのだろう。ならば部下を伴うこともない。彼が単独で行動している訳に納得して、青木は深く頷いた。
 岡部らしい教えだ。そして、それがきちんと受け継がれていることの素晴らしさ。岡部が捜一で伝説になっている理由が分かった気がした。

「おまえは?」
「……コーヒー豆の買い出しに」
「こんな朝っぱらから?」
 咄嗟に吐いた嘘に、捜一のエースが疑問を持たない道理がない。青木は嘘が下手くそだ。つい口ごもってしまったし、眼も逸らしてしまった。だけど竹内はにこりと笑って、
「豆選びからおまえがやってんだ。美味いはずだよな」と話を合わせてくれた。鋭く真相を見抜く、だからこそ相手を気遣える。その優しさも岡部から受け継いだものなのか。二人の師弟関係に、青木は感動を覚えた。

「おまえのコーヒー、ほんと楽しみでさ。また今度、飲ませてくれよな」
「あんなつまらないものでよければ、いつでも」
「つまらないなんて言うなよ。あれがなかったらこの事件、こんなに早く送検できなかったかもしれないんだから」
 事件に貢献したのは薪の推理力で、自分は何もしていない。青木がそう言うと、竹内は「いいや」と片手で青木を制し、
「室長の推理を聞かせてもらえるようになったの、あれ、おまえのコーヒーのおかげだ」
「あはは、そんなわけないでしょ」
 たかがコーヒーだけどそれが室長を動かしていると竹内は言い、そんなものがなくても薪は事件解決のためには労を惜しまないはずだと言う青木の意見を否定した。
「少なくとも、昔はあんなに協力的じゃなかった」
 それからちょっと悪戯っぽく笑って、
「一口飲むたびに室長の顔がやさしくなるの、あれなに? ヤバいクスリでも入れてるのか?」
 そんな冗談を残して、竹内は地下鉄の入り口に消えた。背中が粟立つような風に嬲られながら、しばらくの間、青木はその場に立っていた。

「現場百回、か」
 捜一のエースと呼ばれるようなベテラン刑事になっても、先輩の教えを忘れず。彼は何度も何度も現場に足を運ぶ。
 でも岡部が竹内に教えたのは、現場に戻るという行動パターンそのものではない。もっと根本的なもの、行動の源泉となるもの。それは警察官の魂の柱。

 思い当たって、青木は地下鉄に乗った。2駅離れた地区にある児童公園を目指す。石造りの門柱、ブランコと滑り台、3段しかないジャングルジムと小さな砂場。一度しか訪れたことのない何の特徴もない公園を、青木はしっかりと覚えていた。
 何年前だったか、ここで初めて殺害された被害者の死体を見た。正確には見せられた。
「薪さんのジャケットにゲロ吐いたんだよな、オレ」
 当時のことを思い出すと、恥ずかしさに膝が折れそうになる。新人の頃は本当に何もできなくて、薪や岡部に迷惑を掛けてばかりいた。未熟な青木を、第九全員で育ててくれた。みんな惜しみなく自分の知識を青木に与えてくれた。
 仕事への理解が深まるほどに、その難しさと先輩たちの、特に薪の凄さが分かってきた。漠然とした尊敬は、具体的な畏怖に変わった。強烈な憧れと羨望と、だけど何処かしら危うい彼にどんどん惹かれて、青木は薪の擒になった。
 毎日毎日、薪の背中を追いかけた。その細い背中はいつも凛として、青木や他の部下たちを力強く導いてくれた。
 その背中から、青木は多くのものを受け取って来た。
 何を、と具体的には言い表せない、でも仕方がない。岡部が竹内に教えたものと同じで、それは言葉では伝わらないものなのだ。
 その大切なものを放り出して。自分は何をやっているのだろう。

「はあ……」
 今度こそ、青木はその場にしゃがみ込んで頭を抱えてしまった。傍から見たらリストラされてそれを家族に言えなくて公園で悩んでいるどこぞのお父さんみたいだ。
 屈んだら、あのとき背中に密着していた薪の温もりを思い出した。MRIのマウス操作を教えてくれた時の、小さな手のあたたかさも。

 いつも一番早く第九に来て、一番遅くに帰って。誰よりも忙しいのに誰よりも余裕があるような顔をして、だからみんな遠慮なく薪に仕事の相談ができる。そして薪も当たり前のように、自分の仕事より部下の相談を優先する。
 そんな彼に導かれることの、なんて大きな幸運。その彼の傍らで、恋人としての愛情を与えられることの奇蹟のような幸福。まるで世界中の幸せを独り占めしたみたいな気分に浸っていたあの頃の気持ちを、青木はようよう思い出す。

 神さまに運命に、自分をこの世に送り出してくれた父に母に、薪と自分を取り巻くすべての人々に、いくら感謝しても足りないと、そんな気持ちで一杯だった。なのに。
 いつの間にか思い上がって、いくら自分を戒めてもその癖は抜けなくて、それは付き合いが長くなれば普通のことかもしれないけれど、放置してはいけない。同じ間違いを何度繰り返しても、自分自身が諦めてしまっては負けなのだ。
 現状に満足してはいけないと、少しでも彼に近付こうと、努力に努力を重ねても、その距離は縮まるどころか開いていく一方で、でも。
 今日人生が終わるわけじゃない。今はまだ道の途中じゃないか。

 薪の背中をひたすらに追いかけて、まるで子供が親の作ってくれた道をそうとは知らずに歩いて行くように、自分がしていることはそれだけかもしれない。それでもこうして振り返れば、そこには自分の足の跡。
 自分が歩いた後ろにも、ちゃんと道はできるのだ。
 目的地までの最短ルートでなくてもいい、真っ直ぐでなくてもいい。時々は後戻りしてもいい、行き止まりに当たったら別の道を探せばいい。
 大切なのは歩みを止めないこと。止まらない限り道は伸びていく。

 青木は立ち上がった。薪を真似て、シャンと背筋を伸ばす。自然に顎が上がって、今までとは違った風景が見えた。
 昨日よりも一段高い場所。きっと薪も。

「朝のコーヒーが無いと仕事にならないって、小池さんに文句言われるな」
 急いで帰らなきゃ、と青木は軽く走り出した。走りながら青木は、帰りに珈琲問屋でとびきり美味しい豆を買って帰ろうと思った。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。


青木さんのウジウジっぷり、人間らしいと言ってくださってありがとうございます。
こういうすれ違いの様子は、実は賛否両論なんです。二次創作なんだから、幸せな青薪さん以外見たくないって人もいますし。でもうちの青薪さんは、こういう失敗を重ねながら成長していきます。Sだからじゃないのよwww。
Sさんに、「すれ違ったり悩んだりしながら近づいていくお話も大好き」とコメントいただいてホッとしました~。


わたしはいつも、メロディ発売前日と当日はネット封印してます。(関西は前日発売なので)
やっぱり最初はまっさらな気持ちで読みたいじゃないですか~。先入観無しに得た自分の感想を大事にしたい。
今回は試験が重なって読むのが遅れてしまったので、4日間もネットから離れてました。特にツイッターでは浦島太郎です。(笑)

Sさまのブログ記事、拝読しました。時間なくて読み逃げしちゃった(^^;) 拍手イラストが女装薪さんで嬉しかったです♪ 
後でコメント入れに行きますね!

Aさまへ

Aさま。

>竹内さん、またしてもナイスフォロー!

うちの青薪さんは本人たちが未熟な分、周りの人に恵まれてると思います。
人間一人じゃ生きていけない、二人でも三人でも生きていけない、ってこういうことじゃないかな、と思いながら書いてます。


>8月号、予想通りめっちゃ、明るい内容でしたね!

明るい内容と言うことだけは当たりましたね。
話の流れ的にも鈴薪さんだとばっかり思ってました。まさか第九のコメディでくるとは(@@) 
さすが先生、読者の予想の遥か上を行かれます。


>雪子がほとんど、しづさんちの雪子でワロたww
>薪さんも男爵入ってるし、しづさんのSS読んでる気分でした!

あははー、あの雪子さんにはびっくりでしたね~!
なにあの食への異常な執着心www。ええ、うちの雪子さんならこれくらいやりますとも☆

薪さんは、どうしちゃったの、あれ!!(>m<)
サーカスとか動物兵器とか、真面目に言えば言うほどおかしいよ薪さんっ!
きっとマイカー爆破されてイラついてたんだろうな~、バカでも言わなきゃやってられないとか思ってたんだろうな~www。

青木さんの携帯で曽我さんに電話して、
「悪かったなあ、僕だ!」が最高に笑えました(>▽<)
それでいて小池さんが言った通り、「怒鳴りながらおれ達と第九を守ってる」。その気持ちがちゃんとみんなに伝わってるところ、感激でした。
父猫の父性愛にも感動したし、すごくいい話だった~!!
エピローグからちょうど1年、青薪さん成就の記念日に最高のプレゼントをいただきました(^^

Aさまへ

Aさま。

おおお! ご無沙汰してます!
Aさんのこと、忘れるはずないじゃないですかー!!!

リアルで色々おありだったのですね。
お疲れさまでした。
ブログはリアルのおまけでするものだ、と言うのはわたしの尊敬するブロガーさんの言葉ですが、本当にそうだと思いますよ~。わたしはずっとここにいますので、いつでもいらしてください。(^^


>こんな風にお互いに大好きでも、ちょっとした言葉や態度のすれ違いでギクシャクする事は、現実でもありますよね。

ありますよねえ。
原作の青薪さんは強い絆で結ばれてるしお互いに大人だからこんな諍いは起こさないと思うのですけど、うちのは二人して未熟なんで。(^^;
でもねっ、
ケンカというイベントには必ず仲直りと言うオマケが付くんですよ~。そこが美味しい♪


青木さんに「頑張れ」コール、ありがとうございます。次は仲直りします。
もう少しロマンチックに決めたかったんですけど、まあうちの二人ですから。こんなもんで☆

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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