ランクS(14)

 最終章ですー。
 読んでくださってありがとうございました。(^^





ランクS(14)






「やっぱり途中で帰ってきちゃったか。薪くんにも困ったもんだねえ」
 ソファにふんぞり返って書類をめくりつつ、中園はヘラヘラと笑った。腹が立ったが、小野田はそれを飲み込んだ。過ぎたことを言い争っても仕方がない。

「僕の言った通りになっただろ」
 計画が失敗に終わったのに、どうしてこの男は満足そうなのだろう。小野田がこんなにがっかりしているのに、人の気持ちの分からない男だ。
「別に問題はないだろう。フォーラムは予想以上の成功を収めた。フランス警察からご丁寧な礼状も来ている。それに、薪くんは仕事を途中で放り出したわけじゃない。自分の仕事が全部終わって、やることが無くなったから帰ってきたんだ」
「結果的には同じことだろ」
「青木くんだって全然変わってないじゃない! 何が自分から身を引くだよ!」
 遂にキレて、小野田は叫んだ。中園の横柄な態度も危機感の無い表情も許せなかった。自分の立てた作戦が失敗したのに謝りもしないで、この男の辞書には反省と言う文字が無いのか。

「引くどころか押せ押せで、プロジェクトにまで手を出して。彼、フランス語ができない宇野君のために通訳をしてたんだよ。宇野君から送られてきた書類を翻訳してメールで送り返して、宇野君が作った意見書をフランス語に訳してメールして。その分、薪くんは自分の仕事に集中できた。予定が繰り上がるわけだよっ」
「それって悪いことなの?」
 中園の質問は尤もだと思うが素直に答えたくない、ていうか、そこは突っ込まないでくれよ!!

 計画が頓挫した根本的な理由はそこではない。スムーズに仕事が運び過ぎた、それ以前の問題だ。
「離れてたのはたったの3ヶ月。それも事件捜査じゃないから薪くんはヒマを持てあましてメールも電話もし放題、その上トゥーサンだの休戦記念日だのでチーム全体が休みになるもんだから週末ごとに帰国して、比べてみたら日本にいるときよりもデートの回数は増えたよねって、落語のオチじゃないんだよ?!」
 こんなことなら日本に、自分の手元に置いておけばよかった。その方がずっと彼らを牽制することができた。
「喚くなよ、みっともない。そんなに怒るなら、どうして国際フォーラムに青木くんの同行を許したんだよ」
「仕方ないだろ。薪くん、フランスに着いたその日に、知らない男に空港の個室トイレに2回も連れ込まれたって宇野くんが」
「……予想の遥か上を行くねえ」
 襲われキャラもここまで徹底すると見事だ。

「僕としては、バージョンアップのプログラムを各国に無償提供することの方が問題だと思うね。代価は求めるべきだよ。開発にだってそれなりの金が掛かってるんだ。どこかで回収しなきゃ」
「金なんかよりもっといいもので返ってくる。薪くんはそう思ってるみたいだよ」
「信用とか友好的な捜査協力とか? バカだな、外国からのそんなものを得るより、実質的に国益をあげて財務省に恩を売るほうがよっぽど」
「中園。それは警察の仕事じゃないよ」
 中園が小野田の答えに納得していないことは一目瞭然だったが、彼はひとまず口を噤んだ。公式発表してしまったことをとやかく言っても始まらない。彼の賢明さに満足を覚えながら、小野田は彼にだけ吐ける弱音を吐いた。

「問題はあの二人だよ。どうしたらいいものか」
「そんなに腐るなよ。この次はもっと上手く行くさ」
 嘯く中園を、小野田はじっとりと見つめた。小野田が目を細めると善人を絵に描いたような笑顔になるのだが、中園に対してだけは例外で、心の中と同じ不機嫌な顔になる。
「大丈夫だよ。薪くんのデータも青木くんのデータも、完璧だということが証明された。次は僕も本気を出すから」
 中園の瞳が冷たく光ったのを見て、小野田は嫌な予感に襲われた。かつて中園があの眼をした時、小野田の政敵たちは一人また一人と姿を消して行った。スキャンダルがマスコミを賑わせたり、過去のミスが取り沙汰されたり、家族の軽犯罪が暴かれたり。その度に小野田は権力の階段を一歩ずつ昇ってきた。彼らの失脚の形は様々で、発覚の仕方に共通点は無かった。その騒ぎの何処にも中園の姿はなかったが、薄々は気付いていた。
 でも、言わなかった。彼の暗躍なくして、自分が上に昇れないことは分かっていた。

「中園。薪くんは敵じゃないよ?」
「分かってるよ、そんなこと」
 何を今更、と中園は呆れたように笑い、読み終えた書類を抱えて席を立った。
「恐れながら官房長に進言いたします。この程度の書類にタイプミスが5箇所。あの秘書は替えたほうがよろしいかと」
「おまえに任せるよ」
 ありがとうございます、と中園は慇懃無礼に頭を下げ、官房室を出て行った。不利益になると判断すれば容赦なく切り捨てる。中園の人事評価の辛さは相変わらずだ。

 彼の評価基準は仕事ができるかできないかと言うよりも、小野田の役に立つか立たないかだ。小野田の足を引っ張ると判断すれば、例え相手が薪でも――。

 悪い予感を打ち消すように、小野田は首を振った。
 薪を自分の後継者にすることは、10年以上前からの決め事だ。旧第九が壊滅したことで遠回りせざるを得なかったが、この春ようやく、薪は官房室の一員になった。ここまで来てそれを壊すような真似は、いくら中園でもするまい。

 小野田の都合の良いように政敵が消え去ったとき、その疑惑を飲み込んだように。小野田は今回も沈黙を守ることにした。
 書類に目を戻した小野田の背後の窓の外では、2065年の春一番が吹き荒れていた。



―了―



(2013.4)



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Ⅰさまへ

Ⅰさま。

今回も最後までお付き合いくださってありがとうございました。
Ⅰさまの「ヤキモチ妬く青木さん」から生まれた話なので、Ⅰさまに楽しんでいただけたら何よりですー。


>メロディ、読みました、今回は飴ですね~!第九最高です(^∀^*)V

ねー、楽しかったですよねー!
連載終了から1年経って、先生も第九キャラで遊びたくなっちゃったんですかね?(笑) すっごい楽しまれて描かれてる感じがしました♪


シンクロですか?
言われてみれば確かに、「キセキ」はネコものでしたね☆
まあ、ギャグっていうとうち以外は無いかも~。 秘密で二次書くなら普通は薪さんの美しさとかカッコよさとか切ない恋模様とか、そういうの書きますよね。 イロイロとすみませんです(^^;

Aさまへ

Aさま。


>こちらのあおまきさんが半年も離れ離れになるわけなかったですね(^^;)

結局は半年どころか1月に3,4回会ってた計算で、日本にいるときよりもデートの回数が増えたという(笑)
小野田さんの思惑大外れでございました☆


>原作の青木はほとんど薪さんと音信不通でも(連絡取れるのは岡部さんだけ)ずっと、薪さんを忘れず想い続けていたのは偉いですね(^^)

ていうか、あの状況でよくプロポーズできたよね?
だって2年も経ってるのに。 普通だったら、薪さんにもプライベートを共に過ごす相手がいるかもしれない、って思わないですか? 
そういう常識に囚われないところが青木さんなんだな~。


>中園さんて、いい人なのか敵なのか時々分からなくなる。

いい人ではないですけど、今のところ敵ではないです。
中園が大事なのは小野田さんだけなんですよ。 他の人はどうでもいい。 小野田さんの為にならないと思えば容赦なく切り捨てます。


>この後、薪さんが珍しく発情して大変な事になるんですよね?

長い間、会えなかったんですよね。 で、我慢できなくなっちゃった。
この辺は青木さんの方が我慢強いの、それと言うのも彼は薪さんに片思いしてた2年間ずーっとその状態だったから慣れてるんです。 でも薪さんは元々薄いので我慢した経験がなかったため、辛抱堪らん状態になって襲いかかってしまったんですねww。
薪さんがエッチに積極的になるとロクなことにならないのは法十のお約束でございます☆

Rさまへ

Rさま。

>夫婦の青薪さんもいいけど

でしょう? 
完全に夫婦になる前のドキドキ感てありますよね。 
青木さんと別れる気満々の薪さん、書くの楽しい♪ そんなこと考えてるけど無駄だから☆ とツッコミ入れつつ(笑)


他の件のお返事は、Rさんのブログに非公開にてコメント入れさせていただきました。 
フリートークの記事です。 ご確認ください。

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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