夢のあとさき(3)

 説明書き入れるの忘れちゃったんですけど~、
 このお話は2066年の5月、「2066.4 緋色の月」の直後です。そちらを読んでない方にはちょっと分かりづらいかと、て、肝心の陽明門を過ぎてから言われても(^^;
 東条というド変態のことが詳しく書いてありますので、未読の方はよろしかったらどうぞ。



 ところで。

 東照宮は実際に見てきたのですけど、一番驚いたのは、陽明門の左にある神輿舎です。
 そこには3つの神輿が保管されてるんですけど、それぞれに宿ってる魂が源頼朝、徳川家康、豊臣秀吉の3人なんですって。説明書きを読んでびっくりしました。 
 ケンカしないの? これ。
 わたしの記憶違いかもしれませんけど、徳川家康って大坂の陣で豊臣一族滅ぼしたんだよね? それもわりと阿漕なやり方で。
 それを並べちゃうなんて、さすが天下の東照宮。度胸いいですよねえ。祟りとか怖くないんでかすねえ。

 神輿舎の中で、
『家康、てめーよくもワシの子孫を騙してくれたな!』
『戦は勝ったもん勝ちじゃもーん。騙される方が悪いんじゃもーん』
 みたいな会話してるんだろうか。 頼朝、困ってるだろーなーww。






夢のあとさき(3)








 厄落としの祈祷は十時から約1時間、終えて授与品を受け取ると、青木は激しい空腹を覚えた。朝が早かったせいもあって我慢できそうもない。ぐうぐう鳴る腹を押さえて薪を見やれば、「僕もだ」と薪の腹から相槌が返ってきた。つまらない偶然が可笑しくて一緒に笑い出す。些細なことに笑えるひと時に幸せを感じた。

「薪さん、何が食べたいですか」
「Kホテルのビーフシチューが食べたかったんじゃないのか」
 言われて青木は、薪を誘う時に老舗ホテルの名物料理を挙げたことを思い出した。しかしこの時季、ガイドブックに載るような人気店は何処も行列ができている。短気な薪が2時間も並んで食べるビーフシチューを有難がるとは思えないし、二人の腹具合にも余裕はない。混雑を避けるため朝は早目に家を出て、朝食はコンビニのおにぎりを車の中で食べたのだ。それでもあれだけの交通渋滞に巻き込まれた、恐るべし黄金週間。

「まだ奥宮にお参りしてないですよね。食事に出たとして、再入場できるのかな」
「戻らなくていい。風呂の時間がなくなる」
 世界遺産よりも風呂、そして今必要なのは食べ物だ。それでも一応、表門の所で拝観券のもぎりをしている係員に再入場の是非を尋ねると、理由を話して半券を提示すれば可能だと言われた。「戻らない」と断言したが、休日の薪は気紛れでコロコロ意見が変わる。保険を掛けておくに越したことはない。

 昼食は、混雑を避けるために東照宮から少し距離を取り、日光市の街中の店を選んだ。インターネットで目星をつけておいた幾つかの店の一つだ。HPにアップされた写真より実物は大分風雪に晒された感があったが、木立に囲まれた瓦屋根に木造りの佇まいはなかなかに風情があって、薪の気に入りそうな店構えだった。店の入り口には地元名物の「湯葉料理」と書かれたのぼりが立っている。
 店内は明るく、古めかしい外観を裏切るようなモダンな造りになっていた。8つほどあった天然杉らしいテーブルに着くと、薪は壁の張り紙を一瞥しただけで、そこに書かれた湯葉刺しと冷たい蕎麦のセットを注文した。メニューを端から端まで見ないと決められない青木とは対照的だ。
 蕎麦と植物性タンパク質だけでは2時間もしたら腹が空くと判断した青木は、薪が頼んだセットの他にカツ丼を注文し、それを食べ終わった後、更にもり蕎麦を一枚追加した。

「お兄さん、身体大きいだけあってよく食べるねえ」と店の主に感心される中、薪は青木が追加の蕎麦を食べる様子をソワソワしながら見ていた。早く行かないと風呂が逃げると思っているのかもしれないが、予約の時間までにはまだ間がある。
「二時に予約を入れてあります」
 青木はボディバックからパンフレットを取り出し、薪に差し出した。受け取ろうとして薪は、「いや」と首を振り、
「写真に騙されたことが何度もあったからな。今回は見ないでおく」
「あはは。パンフレットの写真て、本当に上手く撮ってありますよね。実物の3倍くらい広く見えますものね」
「なんでもそうだろ。おまえの履歴書の写真も、頭良さそうに写ってたぞ」
 皮肉られて苦笑する。薪さんの口の悪さも写真には写りませんしね、と心の中で言い返した。

 そんなやり取りをしておいて、結局薪はパンフレットの誘惑に耐えられなかった。2分もしない内にテーブルに置かれた冊子を取り上げ、
「話半分てことで、片目で見れば大丈夫だよな?」
 こういうときの薪の理屈には、笑い出さずにいられない。クスクス笑いが止められないでいると、
「この温泉、切り傷や打ち身によく効くって書いてある。試してみるか」と薪に指を鳴らされた。慌てて蕎麦に意識を集中する。何事もなかった顔をして再びパンフレットを眺める、きれいな顔を見ればたった今脅されたことも忘れてしまう。青木にはボケ防止に効果のある薬湯が必要かもしれない。
「へえ。森の中に風呂があるのか」
「近くに川も流れてるから、せせらぎも聞こえるそうですよ」
「今時期だと、小鳥の声も楽しめそうだな」
「露天ですからね。鳥やら虫やら飛んできちゃうみたいですけど。薪さん、虫、大丈夫ですよね?」
 パンフレットを見ながら「ああ」と頷いた薪は、期待に眼を輝かせていた。質問形式だけれど、これは確認だ。薪は自然の生き物は分け隔てなく好きなのだ。青木が苦手な蛇や爬虫類にさえ、彼はやさしい目を向ける。

 食事を終え、二人は、予約時間までの空隙を散策で埋めることにした。車があるのだから中禅寺湖辺りに足を延ばせれば良いのだが、途中のいろは坂の混雑は想像するだけでげんなりする。近隣でオススメの散歩コースはないかと店の主人に尋ねると、店から車で10分ほどだという滝を勧められた。
 この県には日本三代名瀑に数えられる有名な滝もあるが、あちらはすっかり観光客用に整備されて、昔の、滝壺に飲み込まれるような臨場感はなくなってしまったそうだ。規模は小さいがこちらの方が見て楽しめる、と主は太鼓判を押した。

 彼の言のとおり、そこは一つの穴場というやつだった。無料の駐車場は20台ほどのスペースだったが、埋まっているのは半分くらい。観光客が少ないおかげで待ち時間なしで停めることができた。
 駐車場の出口には掲示板があり、滝の謂われなどが書いてあった。江戸時代の頃からの景勝地で、由緒ある滝らしい。滝までの簡単な経路図も描かれており、それによると観瀑台までは約五百メートル。山の中をてくてく歩く。
「薪さん、大丈夫ですか?」
「平気、っと、や、大丈夫、うわっ」
 地面に積もった落ち葉に昨夜の雨が悪戯して、その滑りやすいことと言ったらなかった。青木はスニーカーだが薪は革靴だ。いくら慎重に歩いても、ぬかるんだ土に足を取られる。それでなくてもアップダウンの激しい山道、古びた木製の階段と遊歩道はあったがそれは断続的で、快適な散歩道には程遠い。
 でも薪は楽しそうだった。不安定な足元を絶妙のバランス感覚で補う、その軽快さは運動靴の青木に比べても遜色なく、途中、何人かの観光客を追い越したくらいだ。

 森の中、渓流を遡っていく小道は実に爽快だった。ザアザアと流れる水の音と小鳥の鳴き声と枝葉の擦れ合う音が、自然のハーモニーを奏でる。天気はいいし、風は心地良いし、新緑は美しい。下方を流れる川の透明度は溜息が出るほどで、流水が岩にぶつかって白く弾ける様を見れば心が弾む。
「あ。滝の音がしますね」
 土に丸太を埋めて作った階段を上がりきった時、唐突にその音が聞こえてきた。不思議なもので、一定の距離まで近付くといきなり大きな音になる。音の減衰理論には合致しないが、自然界は様々な音で満たされているため、重なり合う音がフィルターの役目を果たすことからこんな現象が生まれるらしい。
 そこから観瀑台までは木製の橋が架かっていて、足元が確かになった薪は駆け出さんばかりに目的の場所へと急いだ。吹き上げてくる風に水の粒子が混じる。川を横断する形に架けられた橋の中ほどまで行くと、視界を塞いでいた木立が切れて、前方に流れ落ちる水の風景が広がっていた。観瀑台まではさらに30段ほどの階段を昇る必要があったが、目前に迫った滝に気を取られて殆ど無意識のうちに登り切っていた。

「ああ、本当に。小さいけど綺麗ですね」
 観瀑台に立った薪は、青木の言葉に頷くこともしなかったけれど。その瞳は落下する水と岩が生み出す刹那の光景に熱っぽく輝き、白い頬には柔らかな笑みが浮かんでいた。
 心から感動したとき、薪は寡黙になる。それは、どんな言葉を持ってしてもこの美しさを表しきれないと思う言語そのものの限界によるものかもしれないし、胸中を口に出す必要を感じない彼のマイペース精神ゆえの怠慢かもしれない。そのときも薪は黙って長い時間、同じ場所に立っていた。

 青木たちの前に観瀑台にいた数人の客が去り、新たな客が訪れ、その客がまた去っていく。それを何回か繰り返し、青木はこの名所が混み合わない本当の理由を知った。
 寂れているのではなく、長居をする客がいないのだ。だって、滝しかない。こんなところに10分もいたら欠伸が出る。5分ほど眺めて写真を撮ったら次のスポットへ向かう、彼らが普通なのだ。それを薪ときたら足に根が生えたように動かない。そのまま20分が経過して、さすがに青木も飽きてきた。
「あの。薪さん、そろそろ」
「え。まだちょっとしか観てないだろ」
 一枚のMRI画像の分析に20分も掛けていたら雷が落ちるが。仕事のときとは時間の流れ方が違うらしい。

「隣のお客さんは5回ほど入れ替わってますけど」
 青木が客の回転効率について説明すると、薪はすっと滝の右下を指して、
「太陽の位置が変わると水の色合いが変化するんだ。太陽は15分に1度西に移動するから、ほら見ろ、最初よりも明るい緑色になってるだろ? 光の進入角が変わった証拠だ。それから、滝の右上にある枝にさっきシジュウカラが止まって、それを先刻から子狐が狙ってて」
「それ多分、薪さんにしか見えないと思います」
 目を凝らしたが、青木には木しか見えない。
 頭脳だけでなく眼も耳も。薪のパーツはとびきり優秀だ。そんな彼には見える世界も、普通の人間とは違うのかもしれない。

「もう行きましょうよ。A温泉の予約時間に間に合わなくなっちゃいますよ」
 焦れた青木は薪が楽しみにしている風呂を餌に彼を釣ろうとしたが、その企ては薪に見透かされた。予約は1時間も先、ここからA温泉までは30分程度だ。
「じゃあ予約時間を変更しろ」
 白々しい嘘と分かって旋毛を曲げた薪が、実現不可能な命令を下した。特別日に時間変更なんて出来るわけがない。そんなことは薪も承知の上、要は「黙ってろ」と言いたいのだ。

 結局、観瀑台には小一時間もいた。退屈で仕方なかった青木は、滝ではなく薪を見ていた。それなら青木は半日でも眺めていられる自信がある。他の見物客から見たら奇妙な二人連れだったと思うが、旅の恥はかき捨てだ。
 放っておいたら夕方まで居座りそうな薪に、ゴールデンウィークならではの交通事情の因果を絡めて、やっと引き剥がすことに成功した時には午後1時を回っていた。




*****

 滝のモデルは「裏見の滝」です。
 けっこう歩きますが、お勧めです。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。
お返事遅くなってごめんなさい。鈴薪SS書いてたらなかなか戻って来れなくて~。 ←いつも言い訳にならない言い訳してすみませんー!


8月号のメロディ、楽しかったですね♪
そうそう猫が出てきて。「キセキ」を思い出してくださったんですね。光栄です(^^



>青木君はあの時はまだ雪子さんと婚約中な設定だったけど、薪さんがどこへ行くかちゃんと知ってるあたり、本人がまだ気づいていない絆を感じちゃいましたね~。

そうなんですよね。
婚約中でさえこの以心伝心振り。なんか、これを見せられてしまうと結婚しても同じだったのかな、とすら思えて。これだけ通じ合っていれば結婚とか関係なかったのかな、と今さらながらに思います。
問題はむしろ、薪さんがアメリカに行ってしまう事。青木さんの前からいなくなってしまうことだった。
でもそのおかげで青木さんは薪さんが自分にとって不可欠な存在だと思い知り、家族になりたいと言う手紙をしたためることになったわけですよね。

わたし、ズレた所で落ちてたんですねえ。
でもあの時はこんなに二人が通じ合ってるって思えなかったんですよね(^^;



Sさんはこちらにお住まいだったんですね!
いいなあ、観光名所が近くて。滝を独り占めなんて、贅沢ですね~~。

そう、わたし茨城ですよ!
袋田の滝は家から2時間くらい掛かるかな? 何度か行きました。
袋田の滝は4段の滝ですが、新設の一番上の台から見るよりも、昔からある第一観瀑台から見た方が迫力があって好きです。
一度、冬に訪れたことがあって、その時は滝が凍ってたんですよ。で、日差しが強くなるにつれてそれが溶けて流れ出して、その様子の美しかったこと。1時間近く見てたかな~。本当にきれいでした。
それと、
袋田の滝は山に登ることができて、滝を上から見下ろすことができるんです。延々と続く階段を昇るのは大変ですが、苦労する甲斐はあると思いました。


家族の思い出。
やっぱりありますよね……辛いことだけじゃ20年以上も続かないものね……。
人の気持ちが変わっていくのは仕方ないとして、大事なのは変わり方なんですね。

ソウルメイトの話は以前、Sさんに教えていただきました。
「出会ってもそこからどうするかは本人次第」と言うのは、なるほどと思いました。
確かに、鈴木さんが「友だち」という設定をしてしまったから、それ以上の関係にはなれなかったのかもしれませんね。お互いがその設定に縛られてしまって。言霊ってやつですね。よく解ります。


>ジェネシスまで引っ張ってこれかあって

わたしもです。薪さんには青木さんじゃなきゃダメだったんだ、ってジェネシスを読むと思うんですよ。
特に「家族」というキーワードを持って来られると、青木さんは薪さんに何が一番必要なのか分かってたんだなあって。
鈴木さんのように事情を知らずともそれが分かるってすごい。
ツインソウルの証でしょうね。(^^


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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