夢のあとさき(4)

 日曜日の夜と月曜の夜、たくさん拍手くださった方、ありがとうございました。 とっても嬉しかったです(^^)

 本誌連載が一旦終了したせいか、最近秘密を語る機会が減ったように感じます。原作についてのコメント、いただけると狂喜しますです。語りたい。
 ツイッターにもっと積極的に参加すればいいんですけどね、あれ、字数制限がメンドクサくて。わたしみたいにだらだら喋る人間にはブログの方が合ってるみたいです。

 まあ、ツイッターに参加できない一番の原因はオットの妨害なんですけど。
 こないだなんか就寝時間超えてツイッタしてたらコンセント抜くって言われて、「PC壊れるよ」って言い返したら「どうせ直すのはオレだからいい」
 ……参りました。




夢のあとさき(4)







 車に戻って目的地をナビにセットする。目指すは薪の大好きな露天風呂。もちろん、湯上りの地酒セットも予約してある。
 街中の道路は青木の懸念通り混んでいて、ナビに30分と表示された予定時間が50分掛かった。おかげで予約時間に十分ほど遅れてしまったが、薪からの文句は出なかった。自分が滝に長居したせいだなどと殊勝な気持ちからではない、温泉施設を取り囲む深い林に気を取られたからだ。木々が太陽の光を遮るせいか周辺の空気はヒヤッとして、入浴には最適な涼しさだった。
「本当に森の中にあるんだな」
 一年の内で一番生命力に溢れた新緑の森を眺めながら、風呂に入って地酒で一杯。嬉しそうな薪の様子に、青木は心の中でガッツポーズを取る。待合室を兼ねた受付所も木造りの大きな建物で雰囲気がいいし、遠くに見える貸切風呂の棟々も贅沢にスペースを取ってある。これは期待できそうだ。

「受付でタオルとか浴衣とか貸してくれるみたいですよ」
「浴衣か。まさか女物じゃないだろうな?」
 薪の冗談に二人は楽しそうに笑いながら建物の中に入り、しかし。
 その後の出来事は、正に悪夢だった。

「え!」と驚きの声を発し、青木は軽いパニックに襲われた。何の因果か、混み合う休日には稀に起きてしまう事故が我が身に降りかかったらしい。青木たちが入るはずだった離れの露天風呂は、2人が時間に遅れた十分の間に別の客を受け入れてしまったと受付係の女性は言った。
「申し訳ありません。ちゃんと確認したんですが、さっきは空室になっていて……いえ、すみません。こちらの不手際で、誠に申し訳ありません」
 弁解がましい言葉が出るのは、ネットの予約係と現地の受付係で分担が分かれているせいだろう。ダブルブッキングはこの女性のミスではなく、予約係のミスであると推察された。
「謝られても」
 青木の深刻な様子に気付いたのか、待合室の掲示物を眺めていた薪が振り返る。ちらりと彼を見れば、先ほどまで新緑の美しさに輝いていた亜麻色の瞳は不興に曇り、だから青木は必死になって受付係の中年女性に言い募る。
「困ります。なんとかしてください」
「それが、本日はどの部屋も予約でいっぱいで」
「オレだって予約はちゃんと」
 言い掛けて青木は口を噤んだ。予約係のミスを被って平謝りに謝る受付係に同情したからだ。でも、相手の望む「じゃあまた今度」という言葉はなかなか出てこなかった。自分一人のことなら譲ることに抵抗はないが、薪がいる。彼が一番楽しみにしていたスポットなのに、それがキャンセルなんて、後で薪にどんな目に遭わされるか。今の青木の未来予想を見せることができたら受付係の対応も変わるだろうに。

「やっぱり先約があったんですね。こんな日に空きがあるのはおかしいと思いました」
 振り返ると、そこには三人の親子連れが立っていた。3人とも吊り目の痩身で、よく似ている。手に着替えの浴衣とタオルを持った若い母親が、五歳くらいの男の子の手を引いていた。父親の方は足に怪我をしているらしく踝から下に包帯を巻き、歩く時にはびっこを引いていた。
 どこかしら神経質そうで線の細い彼は、細い目をさらに細めて青木に微笑みかけた。
「私たちは飛び入りみたいなものですから。辞退しますよ」
 申し出に感謝する。相手方からそう言ってもらえて青木が安堵したのも束の間、
「やだっ!」
 反発したのは子供だ。両親と一緒の露天風呂を楽しみにしていたのだろう。それが取り上げられて、我儘を爆発させたのだ。
「おじさんたちが遅れてきたのが悪いんだ」
「こらっ」
 母親が叱ってくれたが、青木は自分が「おじさん」と呼ばれたことに少しだけショックを受けた。
「ワガママ言うんじゃありません。もともとこの方たちのものなのよ」
「やだやだ、ぜったいに嫌だ! だって、お父さんが」
 子供はちらりと父親の足を見た。この温泉は、切り傷や打ち身によく効くとパンフレットに書いてあった。子供がそれを読んだわけでもなかろうが、母親にでも教えてもらったのかもしれない。
 父親の怪我を案じる彼のやさしい気持ちを知って、青木は自分たちの権利を主張することを躊躇う。譲ってあげたい気持ちが押し寄せるが、薪のがっかりした顔を思い浮かべると青木の口は重くなる。板挟みだ。

 母親と子供が言い合うのに、事情を察した薪が寄ってきて、親子連れに見えないように青木の脚をスリッパの爪先で蹴りとばした。
「子供みたいに駄々をこねるな。空きが無いものは仕方ないだろ」
 駄々を捏ねさせたら5歳の子供にも負けない人に言われても。
「僕のことなら気にしなくていい」
 すみません、足を踏まれながら微笑まれても首肯できません。
「こういう場合は多数決でしょう。3対2で僕たちの負けです。どうぞ」
 物分かりの良い大人の態度で3人に微笑みかける。薪は外面がいい。母親が若くて美人なのも関係しているに違いない。

 子供は薪の言葉にぱっと眼を輝かせ、満面の笑みを浮かべると、
「お兄ちゃん、ありがとう。後でお礼するね」と子供らしい率直さで礼を言った。
 照れ臭かったのか、「いや」と薪は横を向いた。前に、薪は子供が苦手だと聞いたことがある。理由を聞くと、善人と悪人を本能で見分けるから怖いんだ、と訳の分からない答えが返ってきた。どうやら子供にはある種のシックスセンスがあると信じているらしい。薪の思考は常人には理解し難いことだらけだ。
「おじさんも。どうもありがとう」
「いいえどういたしまして、てちょっと待って、どうしてオレがおじさんで薪さんがお兄さんなのか説明してくれないかな、ねえちょっときみ!」
 青木の叫びを無視して3人は深く頭を下げ、貸切風呂への渡り廊下を渡って行った。さりげに失礼な親子だと思った。

「お客様、誠に申し訳ありませんでした。お詫びと言っては何ですが、こちらはご予約いただいた地酒のセットです。どうぞお持ち帰りください」
 低いお辞儀と共に、受付係の女性は小型の手提げ袋を2つ差し出した。薪はそれを受け取り、「また機会があったら利用させていただきます」とよそ行きの笑みを返した。その間、青木の足はずっと薪の足の下敷きになっていた。

 車に戻って袋を開けてみると、中には1合瓶の3本セットの他に小型のポーチに詰め込まれたアメニティグッズと、貸切風呂の優待券が入っていた。心遣いは嬉しいが、期限は3ヵ月。再訪できる確率は低いと思われた。
「すみません。予約時間に遅れると分かった時点で電話を入れておくべきでした」
 箱から取り出した地酒の瓶を陽光に透かして見ている薪に、青木は謝った。忙しい薪に時間を割いてもらったのに。一番大事なプランで空振りなんて申し訳なさ過ぎる。
「別に、おまえのせいじゃないだろ」
 声に怒りはなかったけれど、薪の怒りは2種類あって、直情爆発型の時はその場で済んでしまうが、沈着進行型の時は後が怖い。今回は後者だと悟って、青木はこれから何週間かはこのネタで苛められるに違いないと覚悟を決めた。

「あの神社、ご利益ないな。墓所に参らなかったのが拙かったかな」
 クスッと笑って薪は瓶を箱に戻した。後部座席の床に置いて、シートベルトに手を掛ける。
「すみません」ともう一度青木は謝った。ハンドルに置いた手に額を付けるようにして、顔を隠した。その深刻な様子に、シートベルトを付けようとしていた薪の手が止まる。露天風呂がポシャったのは確かに残念だけど、そこまで落ち込むことじゃない。もともと今日は厄落としに来たのであって、こちらはメインではないのだ。
「なんでそんなに落ち込んでんだ。目的は果たしただろ」
「すみません」
「だから謝るなって。おまえのせいじゃ」
 手首とハンドルの隙間から見えた青木の眉が苦しげに歪んでいるのに気付いて、薪は口を噤んだ。

 唐突に知る。あのとき薪が呟いた数字の意味を、青木は理解していたのだ。

「おまえのせいじゃない」と薪は繰り返した。それから強い口調で、
「もちろん僕が悪いんでもない」と当たり前のことを言った。
 何かを察して顔を上げる青木の眼を、薪は真っ直ぐに見つめた。そして自分の推測に確信を得た。やっぱり、青木は気付いている。
 厄年なんて勝手に誤解して、青木はそれを二人で出掛ける口実にしたがった。春先の事件は自分の隙から起きたのだという自覚もあったし、そのことで青木がひどく傷ついたであろうことも推察できたから彼の我が儘に付き合うことにした。と、今回の小旅行を薪はそんな風に考えていたけれど。
 青木はちゃんと分かっていたのだ。

『42』
 それは薪のせいで死んだひとの数だ。東条の事件でまた二人、犠牲者が増えた。

 言葉にすれば青木は必ず言ってくれる、「人が死ぬのはあなたのせいじゃない」。だから言えない。自戒の言葉が慰めを期待する言葉にすり替わる、そんな甘えを薪は許せない。
 青木は薪のそういった性格を知り尽くしていて、その言葉を口にすることができないならせめて薪の無聊を慰めたいと。思ってこの旅行を企画したのだろう。神社はむしろフェイクで、メインはこちらだったのだ。

「再入場できるんだろ? 時間もできたことだし、家康公の墓所、参って行こう」
 突然の話題転換にぽかんと口を開ける青木に、薪は楽しそうに言った。
「そう言えば、鳴竜見てないよな」
「見たいんですか? 鳴竜」
「興味はあるさ。音の多重反響現象を利用した建築方法を江戸時代の大工が確立していたんだぞ。すごいことだと思わないか」
「えっ。すいません、多重反響って?」
「……おまえ、本当に東大出てるのか」
 呆れた口調で呟かれて自分の愚を悟ったのか、青木は慌ててシートベルトを締めた。スイッチを押してエンジンをかける。

「いいか? 音は波動現象だから反射・屈折・回折・干渉・重ね合わせ等の特徴を持っている。鳴竜はその中の反射と重ね合せの効果が重なったものだ。平行する2枚の板の間で音を発すればそれは天上と床にぶつかり、跳ね返って重ね合わされ、増幅される」
 わかったか、と薪が理解度を確認すると、青木は、
「ベッドの中の薪さんみたいですね」と薪の顎が落ちるようなことを言い出した。
「オレが薪さん大好きって思うと、薪さんもオレにそれを返してくれるでしょ。繰り返すうちに増幅されて」
 何となくオチが予想できて、薪は後部座席に置いたばかりの紙袋を取り上げる。中の物を取り出して、逆手に構えた。
「その結果薪さんが大きな声で鳴くことに、――すみません、酒瓶は割れたら臭いんで勘弁してください」
 青木が頭を下げると、薪はチッと舌打ちして酒瓶を箱に戻した。赤い顔をして黙り込んだ薪がシートベルトを装着するのを確認して、青木は車をスタートさせた。
 楽しい旅行はまだ続くのだ。




*****


 ここから先はプロットにはなかった話です。薪さんの気持ちを理解して、そうとは言わずに彼を気遣う青木さん。それだけの話だったんですね。
 ……ここで終わっときゃいいのにねえ。
 なんで蛇足を書いちゃうかねえ。

 

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、初めまして!
コメントありがとうございます!

8月号のメロディ、本当にうれしいサプライズでしたよね。 
先生、第九編は描き切ったみたいなことを言われてたそうなので、もう二度と新しいエピソードは読めないと思ってましたから。


>今後少しでも続くなら今回が曽我くんだったように、次回は小池サンの話とか部下達一人一人をくまなく出して

それ、いいですね~!
第九メンズと薪さんの絡み、大好きです。わたしは、薪さんの上司としてのあり方が好きなので。今回も薪さんが素晴らしい上司だと再確認できる話で、嬉しかったです。


>新シリーズが始まってから

わたしも寂しく思ってました。
ただ、気持ちは分かるんですよね~。わたしもしばらくはボーっとしてましたから。思いもかけないハッピーエンドで、気が抜けちゃったんです。
わたしの場合はですけど、創作意欲が減少した一番の原因は、「わたしが頑張らなくても薪さんは幸せなんだ」と思ったことです。いや、今までもわたしが頑張ったからってどうなるわけでもなかったんですけど、そこはまったく変わってないんですけど(^^;)、躍起になる必要がなくなったと言うか。
「薪さんが可哀想、せめて二次では幸せにしてあげなきゃ」という使命感みたいなものがあったんだと思います。それが消えたので、ムキになって書かなくてもよくなったんですね。だから今は老後の楽しみみたいな感じで、ゆるーく書いてます。

ツイッターの状況は、わたしもあまり詳しくなくて~。真面目に読んでないです、ごめんなさい。
メロディ発売近日はネタバレを防ぐために何日かネオチしてました。だから知らないだけかもしれませんが、それほど詳しく語られた様子はなかったような。コミックス派の方のために、ネタバレに気遣われたのかもしれませんね。


秘密のエピソードはまだ続く、と明記されていましたから、これからも今回のような形で続くと思いますよ。
新連載が始まるそうですからしばらくは間が空くかもしれませんが、また会えると思います。楽しみに待ちたいと思います。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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