夢のあとさき(7)

 鈴木さんの命日に合わせて鈴薪話を公開しようと思ってたんですけどね。8月号のメロディで東照宮のやつが(^^;)
 そんなわけで今年のお盆はどっぷり青薪さんです。
 
 このお話が終わったら鈴薪さんに移行します。3話で120Pくらいあるので、しばらくは鈴薪さん一色ですね。Eさん、待っててね~。





夢のあとさき(7)





「薪さん、起きてください」
 気が付くと、そこは見慣れた自宅マンションの地下駐車場だった。

「竜は?」
「竜? どんな夢見てたんですか?」
 なんでもない、と薪は左右に頭を振った。遠出したせいか、強い疲労を感じた。
 薪が車から降りてエレベーターに向かうと、二人分の荷物を持って後ろから着いてくるはずの青木がいつまで待ってもやって来ない。おかしいと思って振り向けば、青木はようやく車から降りたところだった。
 遅い、と文句を言おうとした薪に、青木は薪のショルダーバックを差し出した。
「カバンをお忘れですよ」
「……今日は寄って行かないのか?」
「遠慮しておきます」
 平日のアフターだってシンデレラタイムの22時までは部屋に居座る青木が、しかも今日は休みなのに。一体どうしたことか。

 珍しいこともあるものだ、と薪はその時、深くは考えなかった。ひどく疲れていて、青木が部屋に来ても何もしてやれないと思ったせいもある。だから一人でエレベーターに乗り込んだ。ドアの前まで送ってくれないことも荷物を薪に持たせることも、普段の青木ならやらないことだと気付いたのは、網膜認証のスキャンが亜麻色の瞳をなぞり終えたときだった。
「どうしたんだろう、あいつ」
 口の中で呟きながらドアを開けると、驚いたことに部屋には明かりが灯っていた。朝が早かったから照明を点けて支度をし、そのまま消すのを忘れてしまったらしい。
 自分の失敗に舌打ちし、次の瞬間、薪はその場に棒立ちになった。

 深田○子がいる。

 呆然と立ち尽くす薪に、彼女はスリッパの音を響かせて走り寄ってきた。
「お帰りなさい」
「すみません、部屋を間違えました」
 慌てて外に出てドアを閉める。プレート番号を確かめる、間違いなく自分の部屋だ。てか、網膜認証システムを導入しているマンションでどうやって部屋を間違えるって言うんだ。薪はもう一度ドアを開け、厳しい口調で彼女を問い詰めた。
「君はだれだ」
「やだ。何を言ってるの?」
 グラビアそっくりの笑顔で彼女は笑い、白いエプロンに包まれた豊かな胸の前で両手の指を組み合わせた。
「恭子よ。あなたの妻です」

 薪は無言で部屋を出た。廊下を猛ダッシュして階段を駆け下りる。地下駐車場に走り込み、外に出ようとしていた車のフロントに両手を付いた。キキィッ、と鋭いブレーキ音がコンクリート製の地下室に木霊する。
「危ないですよ、薪さん」
 運転席の窓から顔を出した青木の顔は困惑していた。が、薪の困惑は青木の比ではない。乱れまくった心のままに、薪は大声で叫んだ。
「僕の家にフカキョンがいる!!」

 驚愕するものとばかり思っていた恋人の反応は、いささか微妙だった。さほど驚く様子もなく、薪のように顔色を変えることもなかった。それどころか彼は小さく首を傾げ、不思議そうな顔つきで、
「当たり前でしょ。奥さんなんですから」と、薪が飛び上がるようなことを平然と言ってのけたのだ。
「なんだそれ?! てか、なんで納得しちゃうんだ。おまえ、僕の恋人だろ」
「えっ。いやあの、確かにオレは薪さんが好きで何度もアタックしましたけど、薪さんは元々ノーマルだし、オレのことを好きになってくれなくて」
「そんな時期もあったけど今は」
 おまえを愛してる、と言おうとして薪は、その衝動を抑える。マンションの駐車場は住人共有のスペース、しかも出口に程近いこの位置で車のエンジン音に負けない声量でそれを叫べば、通りまで聞こえてしまう。
 それに、この状況はどう考えてもヘンだ。自分の奥さんを忘れるなんて。

 詳しい事情が知りたくて、薪は青木に尋ねた。
「僕と恭子ちゃんは、どうやって知り合ったんだ?」
「去年、ストーカー被害に遭って警視庁にいらした恭子さんに、前々からファンだったと薪さんがサインをお願いしたのがきっかけで交際が始まり、3ヶ月前に彼女と結婚式を」
「結婚式?」
「テレビまで入って、すごい騒ぎでしたよね」
 すっと薪は眼を細めた。右の拳を口元に当て、この喜劇の舞台裏を見抜こうと精神を集中させる。
 どうしてこんな美味しい展開、いやいや、バカげたことに? 問うまでもない、先刻のドラゴンの仕業だ。
「冗談の利かないやつだな」
 今更、あの願いは取り下げだと言っても通じないだろう。竜の力がどの程度のものなのか分からないが、薪が取る行動は一つだ。すなわち。

「薪さん?」
 駐車場内の徐行運転中で自動ドアロックが未だだったのを幸いに、薪は助手席のドアを開けた。シートベルトを締め、「出せ」と短く命令する。
 家に帰らなくていいんですか、と訊いてくるのに腕を組んでそっぽを向いてやったら、青木は軽い溜息を吐いて車をスタートさせた。力関係は変わってない。これならイケる。

 曲がり角に来るたびに、右、左、と指示を出し、そこに停めろ、と薪が最後に命じたのは所謂ラブホテルの駐車場だった。
 青木は戸惑っていたが、薪が迷いない足取りでホテルの入り口を潜ると、おずおずと着いてきた。フロントに並んだ3台の受付機の右端に立ち、勝手に部屋を決めて現金を入れる。確認ボタンを押すとカードキーが出てくる。昔は受付に人がいたそうだが、今はこの形のホテルが主流だ。
「あの、どうしてこんな所に?」
「初めてか? 僕もこういうとこ、あんまり使ったことないけど」
 部屋はシンプルで、余計なものは一切なかった。空室リストには遊び心満載の部屋もあったが、今日はそういう気分じゃない。

 ドアが閉まるが早いか、薪は服を脱いだ。青木は「ひっ」と引き攣った声を上げて後退り、口に右手の甲を当てて赤くなった顔を隠した。でも、薪から眼が離せない。このまま押せると判断し、薪は脱いだシャツをソファに放り投げた。
「何やってんだ。おまえも早く脱げ」
 青木はそれには答えず、ロボットみたいにカクカクした動きで薪の裸体から目を逸らした。が、彼が誘惑に耐えられないことを薪は知っている。横目でちらっと薪を見る、瞳は若い情熱に潤んでいる。

「なんだ、脱がして欲しいのか」
 下着姿でスタスタ歩き、壁にへばりついている大男に手を伸ばす。上から順番にワイシャツのボタンを外して、中に手を差し入れた。顕わになった裸の胸に頬を押し付ける。
「ま、薪さ……」
「動くな」
 睨み上げると、青木は口を噤んで身体を硬直させた。ゴクリと唾を飲む音が聞こえて、男らしい喉仏が震える。そうとう緊張しているらしい。
「よし。いい子だ」
 猫なで声で言って、薪は喉の奥でククッと笑った。

 たまにはこういうのも楽しい。本当に楽しい。焦った青木の顔とか、抵抗している風に見えて本当は脱がされるのを期待してる息遣いとか、身体が密着すると自然に揺れてしまう彼の腰とか。
「クセになりそうだな」
 ベルトを抜いてズボンを落す。下着の前が内部から押し上げられているのを認めて、薪は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ほら見ろ。おまえのスカスカの脳みそが僕のことを忘れても、おまえの身体は僕を忘れてない」

 薪が下着に手を掛けると、青木は初めて薪の手を拒んだ。細い手首を遠慮がちに握り、自分から遠ざける。
「できません。奥さんに申し訳ないです」
 きれいさっぱり忘れやがって、今のおまえの方が僕に申し訳ないわ、どあほー。
「そのセリフ、5分後に言えたら作戦の変更を検討してやる」
「作戦?」
「いいから来い。思い出させてやるから」




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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