若いってこわい(5)

若いってこわい(5)







 大食漢の鈴木のために、実は昨日から仕込んでいた料理があらかた彼の胃袋に収まって、楽しい食事の時間は終わった。食器を片付けてテーブルをきれいに拭き、鈴木の持ってきてくれた花を飾る。
 白い百合の花。鈴木はこの花が好きなのか、よく薪のアパートに持ってきてくれる。

「薪、ケーキ食べよう」
「あんだけ食っといてまだ食うのか?」
「ケーキは別腹」
「人間の胃袋はひとつだよ」
 でも、鈴木の胃袋は2つくらいありそうだ。

 ケーキの箱を開ける。クリスマスのデコレーションがなされた円柱形のショートケーキだ。サンタの人形とイチゴが飾ってある。チョコレートにはX‘masの文字。
「なんでクリスマスなのに、ノエルじゃないんだよ」
 自分ではろくすっぽ食べないくせに、文句ばかり言う。薪のこの性格をかわいいと思ってくれるのは、世界中探しても鈴木くらいのものだ。
「オレ、ロールケーキよりそっちのほうが好きだもん」
「仕方ないなあ」
 しょうがないのはおまえだよ、と他人が見ていたら突っ込まれるに違いない。

 手際よくケーキを切り分け、鈴木の皿に1/4を。自分にはその半分を置いてコーヒーを注ぐ。
 ぶつぶつ言う割には、薪はくるくるとよく動く。皿にはカスタードソースとストロベリーソースで装飾がなされ、ラズベリーがちりばめられる。レストランで出てくるデザートのようだ。
 自分ではあまり食べないケーキを、鈴木の好物だと言う理由でいろいろと研究を重ねている。隠してあるが、本当はケーキも焼いたのだ。もちろん鈴木好みの生クリームとフルーツのケーキだ。でも、せっかく鈴木が買ってきてくれたのだから、今日はこっちを片付けて、自分のケーキは土産に持たせればいい。

「薪、これからどうする? どっか行きたいとこある?」
 今夜はだれも眠るものなどいない。聖誕祭とは名ばかり、お祭りのようなものだ。
「どこも混んでるだろ。ここで酒でも飲もうよ」
 そのほうがいい。
 空虚な喧騒の中に身を置くより、ふたりでする他愛もないお喋りのほうがずっと楽しい。

 クリスマスらしく赤ワインを1本あけて、オードブルの残りを肴にグラスを傾ける。鈴木は焼酎が好きなのだが、今日は特別だ。
「それより鈴木。今日は僕の誕生日なんだけど。プレゼントは?」
 2本目のワインが空になり、薪は日本酒に切り替えることにした。薪の外見には断然ワインのほうが似合うのだが、薪の好みも本当は日本酒だ。
「花とケーキを買ってきただろ」
「あれはクリスマス用だろ? 誕生日はまた別だよ」
「……何が欲しいんだよ」
 聞いてはみるが、鈴木には答えは分かっている。
 心理学の専門書か犯罪時録だな、と踏んで、あまり高くないほうにしてくれよ、と心の中で付け加える。

「彼女に贈るはずだったプレゼントは?」
 そうなのだ。それで財布の中が心細い。
「指輪。って、おいこら、勝手に見るなよ」
 薪が素早くハンガーに吊るした鈴木のコートを探る。すぐに小さな袋を見つけ、取り出して中を確認する。
「あっ、ちょっと……!」
 赤いリボンの掛けられた指輪の箱と一緒に入っていたのは、薄いビニールに包まれた平べったくて四角くて小さい――――。
 軽蔑しきったような眼で、薪が鈴木を睨む。美人が怒るとブスの3倍怖いと言うが、薪が怒ったときは心底、こわい。

「コレ、一緒に贈る気だったわけ?」
 汚いものでも触るようにソレを指でつまんで、ひらひらと振る。優雅な手に似合わない代物だ。
「いいだろ、クリスマスなんだから!」
 赤くなって鈴木が喚く。
 まったく、こいつの性格の悪さときたら!
「わけわかんない」
「必要だろ!」
「こんなんで女の子が喜ぶのか?」
「だいたい、8割は落ちるけどな」
 ふうん、と納得したような声を出して、薪は指輪の箱を開ける。
 ティファニーのプラチナリング。石は付いていないが、けっこう高かったのだ。不要になってしまったが返せないだろうな。また来年使えるかな、と不届きなことを考える。

 薪はその指輪をつまんでしばらく見つめていたが、やがて自分の指にそのリングをつけた。
 プラチナの硬質な輝きが、薪の細いゆびによく似合う。ほっそりした手の美しさを引き立てるきらめきに、ご満悦のようだ。
「おまえそれ、9号だぞ。きつくないのか?」
「ぴったりだよ。ありがとう。これ、もらっとく」
 ……どうせ不要品だったんだ。リサイクルしたと思えばいい。
 不要になった原因も、元はといえば目の前の小悪魔のせいなのだが。

 なんでオレはこいつに逆らえないんだろう、と鈴木は思う。他のやつならタダじゃ置かないんだが。
 いや、こいつ以外にこんなことをするような友人はいない。

「おまえが欲しいものって、指輪だったのか?」
 わざとそう訊いてやると、薪は黙り込んだ。
 なにやら考えているらしい。
 しまった、余計なことを言った。プレゼントの追加注文がくるかもしれない。
「これって、セットだったよね」
 今度はよく解らない。
「せっかくだから、これも使う?」
 使うって……。

 薪が顔を近づけてくる。
 きれいな顔。女のような、でもやっぱり女とは違う。不思議な美しい顔。
 華奢な手が鈴木の後頭部に回される。頭を押さえられて、なかば強制的に薪の美貌を見せつけられる。
 いくらか気の強そうな眉。大きな二重の眼。マスカラもつけていないのに濃くて長い睫。小さくて形の良い鼻。濡れたように光るつややかなくちびる。亜麻色の髪はごく普通の短髪なのだが、薪の顔を縁取っていると一流のヘアデザイナーの仕事に思えてくるから不思議だ。
 
「僕と、しようよ」
「薪……おまえ、酔ってる?」
「いいじゃん。クリスマスだし」
 それ、さっきオレが言った―――――。
「鈴木。僕とセックスしよう。クリスマスなんだから」

 おまえのほうが訳わかんないよ、と言おうとしたが、薪のくちびるが覆いかぶさってきて、その言葉は飲み込まれた。
 やわらかい濡れた果実のような感触。絡められた舌のぞくぞくするような、甘さ。
 本当に、なんでオレはこいつに逆らえないんだろう―――― 自問しながら、鈴木は目を閉じた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

おおぅ!

薪さんたら・・・。
あんまり可愛らしすぎて、可哀想です。

そんな手を使ってでも、鈴木が欲しかったなんて・・・。
おう、おう、おう(;;)

これが、あの、リングだったんですね。鈴木が「やった」って・・・奪い取ったわけだったんですね・・・orz

これだけのことをしてしまったら、鈴木の射殺後(あえて、射殺と言わせてもらいます)、なかなか青木の告白を受け入れられないのも、何だか分かるような気がします。

・・・でも、この鈴木は、大学生の分際で、女と遊びすぎだ!!!
(うちは鈴木も薪さんも割と固い)

暴言お許し下さいませ。
続きが楽しみです。
ええ、どんな鈴木でもOKですよ。
では。おじゃましました。

あわわわわわ・・・・

あわわわわわわわ(@_@;;;;)
わわわわわこ・・こんばんが・・・・ちがった、こんばんは・・。
なんてこった、そうか、薪さんこんなことを・・・。
これは「小」のつかない悪魔ってやつです・・・・。

まあ、それはさておき(^。^)

>クリスマス用に付き合い出した彼女

>「だいたい、8割は落ちるけどな」

>また来年使えるかな、と不届きなことを考える。

鈴木、ちょっとそこに座ってくれへん?なんでって?私の身長163.8cmやもん、”届かへん”やん。
何がって?大丈夫、大丈夫。
今”やっぱり、1リットルのヴォルヴィックのペットボトルに砂を入れるより、2リットルの天然水のペットボトルに砂を入れる方が、より強力な武器になるのか”っていう実験をしたいだけやから。
歯ぁでも食いしばってくれてたらええから。

・・・・・・失礼しました。

きゃははー♪

薪くん(あえて君付け)ってば、積極的(笑)
鈴木くんがそんなに好きなのねえ。
良いよ、良いよ、ハッキリしてて(^^)
若気の至りでこんなことがあっても良いよね。
落としてしまえ~~~!

落ちたといえば、、そうそう、前コメントでのレスですが、そうなんです、『秘密』はずっと読んでいたのに、5巻で落ちたんですよ(^^;
でも5巻の話は余り好きじゃないんです、雪子も薪さんも今までと違うようで。
なのに落ちたんですものね、不思議ですね。

Re: おおぅ!

いらっしゃいませ、第九の部下Yさん。

8月号の余韻も冷めやらぬ状態で、こんな設定から大きく外れた腐世界に来訪してくださって、ありがとうございます。(外れてるからよかったのかな?)

レス、遅くなってすみません。
昨日のヤケ酒が効いてて(笑)
いま、コハルさんのブログを覗いて、ポジティブパワーをもらって元気になったので、ここに戻ってきました。

> 薪さんたら・・・。
> あんまり可愛らしすぎて、可哀想です。

うふふ。
うちの薪さんは、鈴木さんに対してだけは、どこまでも可愛いんです。
魂ごと持っていかれちゃってますから。

> そんな手を使ってでも、鈴木が欲しかったなんて・・・。

そ、そんな手って・・・薬物でも飲ませたような印象になるんですけど・・。
もしかしてワインに何か入ってたのかな・・?

> これが、あの、リングだったんですね。鈴木が「やった」って・・・奪い取ったわけだったんですね・・・orz


解ってくださってうれしいです。
そうです、「聖夜」に出てきたあのリングです。
鈴木さんが「ひとから取り上げといてなくしちゃったのかよ?ひでえな」と言っているとおり、奪い取ったんです。うちの薪さんはわがままですから。(笑)

> これだけのことをしてしまったら、鈴木の射殺後(あえて、射殺と言わせてもらいます)、なかなか青木の告白を受け入れられないのも、何だか分かるような気がします。
>
そうなんです。
ここからが長いんです。
青木には苦労してもらいます。腐腐腐腐。

> ・・・でも、この鈴木は、大学生の分際で、女と遊びすぎだ!!!
> (うちは鈴木も薪さんも割と固い)

す、すみません。
うちの鈴木さんは、来るもの拒まず、据え膳は迷わずごちそうさま、なんです。(サイテー)
・・・よく叱っておきます。



Re: あわわわわわ・・・・(わんすけさんへ)

こんばんは、わんすけさん。

すいません、悪魔の薪さんで(笑)

> 鈴木、ちょっとそこに座ってくれへん?なんでって?私の身長163.8cmやもん、”届かへん”やん。
> 何がって?大丈夫、大丈夫。
> 今”やっぱり、1リットルのヴォルヴィックのペットボトルに砂を入れるより、2リットルの天然水のペットボトルに砂を入れる方が、より強力な武器になるのか”っていう実験をしたいだけやから。
> 歯ぁでも食いしばってくれてたらええから。

あはははは!!
たしかに、女性の敵ですね、この鈴木は!
まずいなあ。
鈴木ファンからも逃げ回らなくちゃいけなくなりましたね。これ以上、敵を増やしてどうする気でしょうね、自分。
わんすけさん。一緒に逃げてくれる約束ですよね?
自転車じゃ捕まっちゃうんで、わたしの車で逃げましょう。(←ひとりでは死なないタイプ)
あ、でも、わんすけさん、いいなあ。
薪さんと同じ身長じゃないですか。163なんて。(0.8なんて気にしません)
羨ましいな。背が高い人って。わたしなんて148cmですよ。こないだなんか、同居のお姑さんに、甥の男子中学生と間違えられて呼び止められましたよ・・・・。

1cm10万払ってもいいから、身長欲しいです。
きっと薪さんも同じ気持ちだと信じてます。(笑)

Re: きゃははー♪(めぐみさんへ)

天の岩戸からようこそ、めぐみさん!(おこもり中ですよね?)

> 薪くん(あえて君付け)ってば、積極的(笑)
> 鈴木くんがそんなに好きなのねえ。

そうなんですよ~。
うちの薪さんは、好きになったら一直線。身を滅ぼすような恋をするタイプなんです。
かわいいでしょ。(自分で言う)

> 若気の至りでこんなことがあっても良いよね。
> 落としてしまえ~~~!

はい。
落とします!

> 落ちたといえば、、そうそう、前コメントでのレスですが、そうなんです、『秘密』はずっと読んでいたのに、5巻で落ちたんですよ(^^;
> でも5巻の話は余り好きじゃないんです、雪子も薪さんも今までと違うようで。

ですよね?ですよね?
わたし、5巻だけは読み返すのがつらくって・・・実はまだ、3回くらいしか読んでないんです・・・。

> なのに落ちたんですものね、不思議ですね。

ご自分でも不思議なんですね。(笑)なんか、めぐみさんらしいです。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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