きみはともだち 後編(3)

 こんにちは。

 みなさん、シーズン0のコミックス買いました?
 特定の書店で買えばポストカードのおまけが付くと聞いてHPを確認しました、ら。うちの近所にはない書店ばっか。
 車で1時間くらい走ればありますけど、それも地域によるらしくて。田舎の店では封入されていないという話もあって、何とか入手できないものかとネット検索してみたんですけどね。
「マ○ガ王」というお店のHPで「特典あり」の表示を確認して買うと確実に手に入ることが分かりまして。でも、送料と代引き手数料で700円も掛かるんですよ。
 オマケのポスカの為にコミックスとほぼ同額払うって、そんなオマケ目当てにお菓子を買う子供みたいな真似はできないですよね~。まっとうな大人ならしないことですよ。

 …………………………………………買っちゃった☆

 まっとうな大人ならこんな小説書いてません。←開き直った。







きみはともだち 後編(3)








 コンコンとドアがノックされ、鈴木は砂漠でオアシスを見つけた遭難者の勢いで扉にダッシュした。あれから1時間、薪の講義は延々と続き、鈴木の頭の中では中国元とフランスユーロがリラの槍とドルの盾を持って混戦状態になっている。この混沌から抜けられるなら、いつも何かしら夕飯の材料を買い忘れる母親のお使いにだって喜んで行く。

「ヒロにい、ごはんー」
「よーしよし、ちゃんとノックできたな。えらいぞー、千夏」
 妹の千夏は4歳、鈴木とはだいぶ年が離れている。鈴木の腿くらいの高さにある小さなおかっぱ頭を撫でてやると彼女はにっこりと笑い、次いでテーブルの上を片付けている薪を見た。
「だあれ? きれいなお姉ちゃん」
 母親に続いて妹にまで女に間違われて、怒るも泣くもできない薪の視線が鈴木の背中に突き刺さる。特別講義が深夜まで延長されるかもしれない恐怖に、鈴木は慌てて妹の間違いを訂正した。
「お姉さんじゃなくてお兄さんだよ。薪お兄さん。ヒロ兄の友だち」
「男の人?」
「初めまして、千夏ちゃん」と微笑む薪を、鈴木とよく似た黒い瞳がじいっと見つめる。ちょっと首を傾げるようにして彼女は、階段を安全に下りるためにつないだ鈴木の手をパッと払った。

「千夏、薪お兄さんがいい」
 断られるなんて微塵も思ってない口振り。それもそのはず、この家の中で彼女の意見が通らなかったことはまずない。末っ子の女の子である彼女は鈴木家の王女だ。特に父親の溺愛ぶりは息子として恥ずかしいくらいだ。4歳の子供に向かって「千夏は嫁になんか行かないよな」と繰り返す、彼の夢が実現したとして30年後も同じセリフが言えたらその時こそ心から父を尊敬できると鈴木は思っている。

 迷いなく差し出された小さな手に、薪は一瞬戸惑ったが、穏やかに笑って彼女の手を取った。鈴木の前に立ち、千夏の歩幅に合わせてゆっくりと廊下を歩く。
 階段に差し掛かると、二人の歩みはいっそう遅くなった。身長差のある相手と手をつないで階段を下りるのは意外と難しいものだ。千夏が階段を踏み外しそうになって薪の脚に抱きつき、慌てた薪が彼女の小さな背中を抱き支える場面もあった。その時の千夏のうれしそうな顔。
 ――ヒロ兄と歩くときはよろけたことなんかなかったよね千夏ちゃん。
 あの母親にしてこの娘ありだ、と鈴木はいささか失敬な見解に達する。メンデルの法則に基づく彼の理論が証明されたのは、テーブルに並んだ夕食の膳を見た時だった。

 一瞬、クリスマスかと思った。
 寿司とハンバーグとスパゲティとトンカツと刺身がある。東大の天才に世界経済を叩き込まれた鈴木の頭の中よりとっ散らかったメニューだ。
「……今日、誰かの誕生日だっけ」
「おほほ、この子ったら何を寝ぼけてるのかしら。いつもの夕飯と変わらないじゃない」
 アイドルオタクの母親は無類のイケメン好き。薪の中性的な美貌は彼女の好みに違いないと思っていたが、ここまでテンパりますか、お母さん。
 自分のチャラい性格のルーツは彼女にあると鈴木は思う。母親はよく鈴木のことを「誰に似たのか」と不思議がるが、このDNAは間違いなく彼女から来てる。

 無秩序な食卓に眼を丸くして、薪はこそっと鈴木に呟いた。
「鈴木の家の夕食って、いつもこんなに豪華なのか。それでその体格なんだな」
 違うぞ、薪。毎日これ食ってたらオレはとっくに相撲部屋からスカウトされてる。

 薪と並んで食卓について「いただきます」を言ったら、次の瞬間から母親の攻撃が始まった。取り分けてあげるわね、と薪の取り皿に盛るわ盛るわ。次々と差し出される器を機械的に受け取る薪を見て、鈴木は彼に同情した。
「いっぱい食べてね、剛くん」
「ありがとうございます。いただきます」
「遠慮しないで。ほら、こっちも食べなさい。これもそれもあれも」
 お母さん、それは一種の拷問です。まったく美形には弱いっていうか、これだから女は、
「デザートにはメロンがありますからね。お父さんが買って来てくれたのよ、剛くんに食べさせてあげなさいって」
 親父、あんたもか。
「そんなに細いんだもの。独り暮らしは大変だと思うけど、しっかり食べなきゃ」
「はい」
 薪は食が細いから、内心は困っていたと思う。でも鈴木は母親を止めなかった。だって薪が楽しそうに笑っていたから。いつも夕食は一人で済ませる彼には、大勢でワイワイ喋りながら食べることもこうして他人に食事の世話を焼かれることも、新鮮だったのかもしれない。

 テレビなど点けなくても、鈴木家の食卓は常に人の声で満ち溢れている。幼稚園での出来事をこと細かく母親に報告する妹と、そこに男子の名前が挙がるだけで逐一チェックが入る父親。母親は応えを返しながらちゃんと話を聞いているのに、何故か「ね、ヒロ兄」と鈴木が相槌を強要される。適当に流すと3人がかりで怒られるので、主題に適した感想を述べる。今日はそこに美しい来訪者が加わって女性陣の饒舌が水増しされ、普段の倍もにぎやかだった。
 子供の特権で「薪お兄さん」が幾らも経たないうちに「薪兄ちゃん」になり、最終的には鈴木と同じ「薪兄」になった。薪は名前を呼ばれるたびに、こそばゆそうな顔をした。

 食事が終盤に差し掛かり、母親が取り分けてくれた皿の半分も食べきれず薪はギブアップした。申し訳なさそうに「さっきアップルパイをいただいちゃったから」と言い訳する。それも半分は鈴木が食べたのだが、薪は本当に食が細い。
 捨てるのも勿体ないと思い、薪が手を付けなかったハンバーグを鈴木が食べていると、薪がこちらを見て、
「鈴木。ニンジン食べないのか」と聞いてきた。
 鈴木は極端な野菜嫌い。平気で食べられる野菜は玉ねぎとキャベツとモヤシくらい、それ以外の野菜は地球上から消滅してしまえばいいとさえ思っている。特にニンジン、ピーマン、セロリ等、苦みやえぐみのある野菜は毒物に近い認識だ。苦い薬をオブラートに包むように、甘い砂糖で青臭さをコーティングしたこのニンジングラッセを食べるくらいなら、鈴木は同じ大きさのハバネロを選ぶ。

 鈴木はごくりと口の中のものを飲み込み、無表情に言った。
「食べるよ」
 赤い物体をまとめて口の中に放り込む、間髪入れずに麦茶で胃に流し込む。口の中に留まる時間が1秒でも長引いたら負けだ。
 鈴木が素早く人参を食べ終えると、美しい来客にテンションの上がっていた両親は「おおー」と感嘆の声を上げて上半身をのけぞらせ、妹は椅子の上に立ちあがってパチパチと拍手をした。
「ヒロ兄がニンジン食べた! 薪兄、すごい!」
 千夏ちゃん、後でゆっくり話そうね。お父さんとお母さんがいないところで。
「なんだよ、大袈裟だな」
 家族愛を疑いたくなるくらいに笑う彼らを、鈴木は引き攣り顔で非難した。でも本当は、全然怒っていなかった。彼らの笑い声に釣られたらしい、薪が珍しく声を上げて笑っていたからだ。

 薪は冗談の通じない男ではない。聡明な彼は、鈴木が言葉にするより早くオチを察して笑うこともある。でも大抵それは口の中で噛み殺すような笑いだ。19歳男子の笑いにしては大人しすぎるというか、いつも何かを我慢しているように鈴木には見える。
 他の感情についてもそうだ。本当は泣きたいくらい悲しいのに何でもないことのように振る舞ったり、ものすごく怒っているのにわざと表情を消したりする。その態度と彼のエキセントリックさはひどくアンバランスだ。大人ぶっているというよりは、何らかの理由で無理やり感情を抑え込んでいるような気がする。

 泊って行ったら、としきりに勧める母親の誘いを固辞し、薪が帰途に就いたのは9時を回った頃だった。
 久しぶりに実家に帰ってきた息子さながら、残った料理を詰めたタッパーを3つも持たされて、薪は「どうもごちそうさまでした」と玄関先で挨拶をした。
「とても美味しかったです」
「またいつでも遊びに来てね、剛くん」
「ありがとうございます」
 失礼します、と戸外に出た薪の後を鈴木が追う。門の手前で、薪、と彼を呼び止めた。
「駅まで送るよ」
「大丈夫だよ。女の子じゃないんだから」
 確かに。普通なら玄関まで見送ってお別れだが、鈴木も鈴木の家族も何故か、彼を駅まで送っていくのが当たり前だと思っていた。

「いいからいいから」
 薪が右手に提げていたお土産の手提げ袋を持ってやり、鈴木は彼の隣を歩いた。ショルダーバックだけでも重いのにこんな荷物を持たされて。薪には有難迷惑だっただろう。
「悪かったな。うちのお袋、いい年して美形くんに目がなくてさ。若手のアイドルグループとか、親父に内緒で生写真まで集めてるんだぜ」
 鈴木の暴露話にクスッと笑って、薪は羨ましそうに言った。
「いいな。鈴木の家は楽しくて」
「そうかあ? いつもあの調子だぜ。たまには落ち着いて飯が食いたいよ」
「なに贅沢なこと言ってんだよ。僕なんか」
 薪が自分のことを話してくれそうだと感じたので、鈴木は口を噤んで彼の言葉を待った。しかし薪は何も言わず、しばらくの間二人は黙って道を歩いた。

 歩きながら、鈴木は以前電車の中で、薪の叔母夫婦の話をしたことを思い出した。薪の両親は彼がまだ子供の頃に事故で亡くなり、薪は叔母の家で育った。叔母のことは割とすらすらと話してくれたのに、叔父のことになると途端に口が重くなった。あのとき鈴木は、薪と叔父の間に確執のようなものがあったのではないかと想像した。中学を出てすぐに一人暮らしを始めたという薪の早すぎる自立にも、そのことが関係しているのではないかと思った。

「叔母さんたちと上手く行ってないの?」
 薪は一瞬足を止め、ひゅっと息を吸い込んだ。ショルダーの肩紐を握った右手が微かに震えるのを、左手がぎゅうと押さえる。
 震える右手もそれを押さえ込む左手も、どちらも彼の手。ずっとこうして、彼は自分の震えを自分で止めてきたのだろうか。
「昔は楽しかった。それを」
 薪は再び足を動かし、道を進む。蒸し暑さが混じり始めた初夏の夜風に紛らすように、小さく言った。
「僕が壊した」
「え?」
「ありがとう。自炊だからすごく助かる。お母さんにお礼言っておいて」
 聞き返した時には駅に着いていた。鈴木の手から手提げ袋を取り、薪はにこりと微笑んだ。
「じゃあね、鈴木。また学校で」
 迷いのない歩みで薪は構内を進み、やがて改札の人混みに飲まれて見えなくなった。どうしてか、鈴木はその場から動けなかった。薪を乗せた電車が走り去ってしまうまで、彼はその場に立ち尽くしていた。




*****


 鈴木さんの家族は捏造してます。
 ジェネシスを読む前に妄想した設定で本編を書いてしまったので、修正するのも難しくって。なのでこのまま。混乱させちゃったらごめんなさい。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Eさまへ

Eさま。


対象店なのにポストカードが入ってなかったんですか? それは不運でしたね(><)
買う前に確認はしにくいですよね。 広報も遅かったしねえ……。
わたしが買った店も「特典あり」の表示があればOKですけど、一定数しか入ってないと思うので、いつまであるか分からないです。もしも購入されるならお早めに、です。


>薪さんin鈴木家、可愛くてホワホワします~!
>そして温かいご家庭だからこその薪さんの切なさとか今後の展開とか・・・期待と不安が・・・!!!

原作の鈴薪さんがあそこまでロミジュリだと思いませんでしたね(^^;
その子と知り合って半月で死にかけて、最終的にはその子に撃たれて死んじゃったんですものね……和解とかあり得ないですよね……。
せめてこちらでは、薪さんにメロメロの鈴木ファミリーを。←でも14年後にはやっぱり断絶しちゃうの、ゴメン。


>しづさんの鈴薪さんは本当に素敵(^p^)

鈴薪本家のEさんにそう言っていただけて光栄です!
原作の鈴木王子には及ぶべくもございませんが、うちはうちで精一杯頑張りますです。


>鈴薪祭り、是非私も便乗したいです(>▽<)

わーい、ありがとうございますっ!
鈴薪SSは3作の合計が100ページを超えてるので、公開には3ヶ月くらい掛かると思います。ので、10月からでも全然OKですよ~! その際には連絡くださいねっ。
下半期になるとわたしも仕事が混んでくるので、更新が空いてしまうこともあるかもしれませんが、ぜひよろしくお願いします。
お互いのペースでのんびり行きましょう(^^

Aさまへ

Aさま。

ポストカードのために2冊目のシーズン0ですか?
わーい、お仲間ー♪


>鈴木さんて、お兄ちゃんて感じですよね!

めっちゃ面倒見いいですものね。小さい子の面倒見慣れてるって感じがします。


>両親が死ぬ前の薪さんてすごく明るく活発な少年に見えたんですけど、あのまま何事もなく成長したらあんなエキセントリックな大学生にならなかったのかなあ?
>こちらの薪さんにしても・・

エキセントリックさは残ったと思いますが、陰りはなかったでしょうね。
鈴木さんを惹き付けたのって、結局は薪さんが抱えた秘密だったと思うんですよ。謎があるから人はそこに魅力を感じるんです。でもって、すべてがつまびらかにならないからいつまでも彼に夢中になると。

うちのは~、
根は楽天家ってことで書いてるから、やっぱりアホになったと思いますww
あのね、原作の薪さんってすごく真面目でしょ。でもね、人間、簡単に幸せを実感するためにはちょっとくらいアホな回路が付いてた方が有利なんですよ。わたしの経験上。だからわざとそうしたんです。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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