きみはともだち 後編(8)

 今日は「ATARU」を観に行きます。
 中居さん演じるチョコザイくんの純粋さが大好きです。
 楽しみだな~。






きみはともだち 後編(8)







「二次会、どうするー?」
「『マリエ』行く人ー」
 はーい、と何人かの声が重なって、二次会組と帰宅組に分かれた。帰宅組の人数は少なく、女子が3人と、男では薪と鈴木だけだった。

「じゃあなー、羽目外し過ぎて新聞に載るなよー」
 別れの挨拶はいつも通り憎まれ口で締めて、鈴木は帰宅組の女の子たちを振り返る。
「みんな、駅まで送るよ」
「あたしたち大丈夫だからー。鈴木君は薪君送ってあげてー」
「安心してー。尾けたりしないからー」
「姫抱っこしてってもいいよー。誰にも言わないからー」
 相当酔ってますね、きみたち。
 電車の中で痴漢の被害に遭うような男に、その手の冗談が通じるかどうか。少し考えたら分かりそうなものだが、彼女たちはその事実を知らないのだから仕方がない。あまりムキになると先刻の薪の二の舞だし、ここはやんわりと釘を刺す程度に抑えた方がいい。

「あのね、男はそういう冗談はあんまり、……薪?」
 隣に立っていたはずの薪はいつの間にか姿を消していた。先に行ってしまったのかと周りを見るが、雑踏の中に彼の姿はなく。鈴木は、「すぐに埋もれちゃうのよ」と言っていた彼の叔母の言葉を思い出した。
 追い駆けようと踏み出した足が、何かにぶつかった。下を見ると、薪が猫みたいにうずくまっていた。女の子たちに送って行けと言われるわけだ。
「薪、気分悪いのか」
「ねむい」
 飲むと眠くなるタイプらしい。
「歩け。眼が醒めるから」
「んー」
 腕を引っ張り上げて立たせると、薪はふらつきながらも歩きだした。足元がおぼつかないので腕を放せない。そのまま彼に寄り添って歩いた。後ろの女子たちが何かとんでもないことを叫んでいる気がしたが聞かないでおくことにした。

「あつい」
 歩きながら、そう言って薪は、いつもはきっちりと上まで留めているシャツのボタンを一つ外した。襟元をつまんで風を送り込むように動かしたが、その効果に満足できなかったらしく、もう一つ外した。きれいに浮き出た鎖骨が見えた。
 首も白いけれど、胸はもっと白かった。色素が薄いというか日本人離れしているというか、そんな肌を鈴木はこれまで見たことがなかった。それがアルコールの作用でほんのり桜色に染まった様は、ひどく煽情的だった。
 改めて見直してみれば、薪にはそういう要素がてんこ盛りだ。短く摘んだ髪の毛の先が小さな耳や頬にかかる様子とか、半開きになった瞳の周囲を彩る睫毛の長さとか、ベースメイクを施したように微かに色濃い瞼とか。普段の強気な印象に阻まれて見つけられないだけで、気が緩んだ時の薪の艶やかさはもはや暴力だ。
 女に縁のない男だったら女の代わりに、なんて思うんだろうか。電車の中の痴漢も、そういうことなんだろうか。
 薪にはえらい迷惑な話だと思ったが、同じ男として気持は分からないでもなかった。無論、痴漢行為に賛同する訳ではない。そうではなく、彼にさわりたいと思うこと。きれいなものに触れたくなるのは男の本能だ。薪にはその本能を刺激する因子があるのだ。

「コラおまえら。イチャイチャしてんじゃねえぞ」
 通りすがりの酔っ払いに冷やかされて我に返った。自分が考えていたことに気付いて鈴木は、明日にでも彼女を呼びだそうと思った。

 コンパ会場の神田から薪のアパートのある鴬谷まで電車に乗った。電車の中で、薪はしきりに暑いと言っていた。飲み慣れないアルコールのせいで電車に酔ったのかもしれない。白い顔は何時にも増して白かった。
 電車から降りた時には立てなくなっていた。背負ってみたら、軽くてびっくりした。暑い暑いと言う割に、体温は低かった。汗をかいていたから、それが冷えたのかもしれない。早く風呂に入れないと風邪を引くな、と鈴木は思い、男友達にしたことのない心配を薪にするのは、彼に酒を勧めた責任を感じているからだと自分に言い聞かせた。
「なんか気持ち悪い」
 歩く振動が悪心を呼ぶのか、薪は低い声で呻いた。鈴木の首に、はあ、と熱っぽい息がかかる。押し付けられた薪の額は汗ばんでいて、アルコールの匂いがした。
「大丈夫?」と首だけで振り向くと、薪の頭髪に鼻先を突っ込む形になった。いい匂いがした。アルコール臭もあったけれどもっと芳しい、花のような香りがした。

「ちょっと休むか」
 駅から薪のアパートまでは徒歩20分。背負って行ったらもっと掛かる。途中に小さな公園があったことを思い出して、鈴木はそこに寄り道することにした。
 まことに小さな公園で、遊び道具は砂場とブランコしかなかった。それでいて樹木は豊かに繁っており、梅雨入り前の夜風に爽やかさを添えていた。
 薪と二人、並んでベンチに腰を下ろして、鈴木は空を見上げた。曇り空で、星は見えなかった。
 左の肩に友人の重さを感じた。ベンチにはヘッドレストがないから、こちらの方が具合がいいのだろう。好きにさせてやることにした。

「鈴木。こないだはごめんね。嫌な思いさせて」
 何の話だと聞き返そうとして気付いた。薪の実家の話だ。まだ気にしていたのか。

 薪の叔母と約束したことを思い出し、それに対する答えが未だ見つからないことに鈴木は歯痒さを感じた。見下ろせば友人は見捨てられた子供みたいに寂しそうな眼をして、それを見たら早急に答えを出さなければいけないような気がした。だって、彼にはこんな眼をしなければならない理由がないのだから。
「オレ、薪のこと大好きだよ」
「え」
 一瞬の間を置いて、薪はがばっと身を起こした。恐々と鈴木を見る、そのリアクションはちょっと腑に落ちなかったけれど、鈴木は続けた。
「びっくりした? でも、言わなきゃ分からなかっただろ」
 鈴木が何か大事なことを言おうとしていると、察しの良い彼はすぐに気付いた。固いベンチの背もたれに背中を預けて、距離を取ったまま話を聞く体勢を整える。

「思うことは大事だけどさ、言葉で伝えることも大事なんじゃないかな。薪は叔母さんたちをがっかりさせたくないから警官を志した理由を話さないって言ったけど、叔母さんたちにしてみれば、話してもらえないのは水臭いと思うかもよ」
 鈴木の言葉を反芻するように、薪は何度も眼を瞬いた。挑戦的な瞳が鈴木を見返す、彼の伏せた瞳は妖しい美しさに満ちているけれど、こちらの方が彼らしいと鈴木は思う。
「第三者の眼から見て、薪は叔父さんに似てるよ。頑固なところとか言葉が足らないところとか、そっくり」
 心外だと言いたげに、薪は眉を寄せた。本当に薪は言葉が少ない、でも言いたいことがないわけじゃない。無表情の仮面さえ外せれば、それを見て取ることができる。
「心の中では、相手をとても大切に思ってることも」
 薪はクールだけれど、人を愛する心はちゃんと持っている。知り合いになって1ヶ月しか経たないが、冷徹な仮面の下の温かさを鈴木は何度も垣間見ていた。

「ちょうどこんな空みたいに。雲に隠れて見えないけれど、月も星もある。それと同じでさ、あの人がやさしい人だって、薪は知ってるんだろ」
 薪は鈴木の眼をじっと見て、それから夜空に視線を移した。背中に付く程に後ろ首を曲げて、そうすると彼の亜麻色の髪がさらさらと後方に流れていく。風が吹くと細い毛髪が波打って、きらきらと光る。まるで人じゃないみたい、だってきれいすぎる。その喉笛を掻き切っても出てくるのは赤黒い血液ではなく、切り口からはみ出す内臓も彼には無く、ただ透明な液体が零れるだけではないのかと鈴木は夢想した。

「僕が正直に話したら、昔みたいな関係に戻れるのかな」
「それは分からない。決めるのは薪だよ」
 薪はしばらく考える風に空を見上げていたが、やがて伸ばした首を元に戻して鈴木を見た。湿った夜風に晒されて潤ったくちびるが、花のほころぶように開く。
「僕も好きだよ。鈴木のこと」
「えっ?!」
 びっくりして引いた。一瞬でベンチの端まで遠のいた。薪が意地悪く笑ったので、さっきの仕返しをされたのだと分かった。渋い顔をして元の位置に戻る鈴木に、薪はクスクス笑いながら、
「本当だ。言わなきゃ分からないんだ」
「ひどいわ、薪くん。アタシで試すなんて」
 おどける鈴木の左肩にさっきと同じようにもたれかかり、薪は喉の奥で笑い続けた。酔いも手伝ってか、彼の振動は長く続いた。

「……すずき」
「うん?」
「戻していい?」
 何のてらいもなく本心を言えた子供の頃に、彼らとの関係を戻していい? 僕にそれが許される?
 彼の言外の気持ちを汲み取って、鈴木は力強く頷いた。
「もちろん、――ってそっちの意味?!」
 笑いすぎて吐き気が戻って来たらしい。薪は鈴木の肩に縋るように捕まり、背中を丸めて鈴木の腕に爪を立てた。
「ちょっと待っ、うああ!」
 大好きな人のゲロでもゲロはゲロ。シャツにべったりと着いた汚物を見て、鈴木はその強烈な臭いに泣いた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>原作の鈴木さんも薪さんを背負って

鈴木さんはおんぶのイメージですね。姫抱っこは岡部さんの専売特許で(笑)


>鈴木さんの彼女はなんか、可哀想だな。

言われてみればエッチ目的で付き合ってるように感じますね(^^;
確かに恋人が切れた時期の無い人ですけど、そこまで即物的じゃないです。この時は単純に、男に色気を感じるなんてオレは欲求不満に違いない、と思ってるだけで。
青木さんより性欲は薄いかな。青木さんはちょっと異常体質なので(笑) と言っても、対薪さん限定ですけど。

Bさまへ

Bさま。

この時期の鈴薪さんの時間て、いいですよね。青薪さんとはまた違った安心感があるの。友人だからこそ持てる時間。
個人的な意見ですけど、青木さんと薪さんは友だちにはなれないと思う。だからこれは鈴薪さんの間にしか存在しない時間。どちらかが恋心を抱いてしまったり、恋人関係になってしまってからでは持てない時間。それが鈴薪さんの魅力の一つではないかと思います。


>鈴木さん気の毒に!

ひっどいですよねww
でも、そうですね。薪さんが素顔を見せるのは鈴木さんだけ。
そこには薪さんなりの理由があるのですけど、それはまたおいおい。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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