きみはともだち 後編(12)

 10月なんで、ハロウィン時計を貼ってみました。テンプレも変えようと思ったんですけど、面倒で。←おい。
 今ちょっと入札の内訳書作りに追われてて(^^;) 落ち着いたらテンプレ探します。


 お話の方は最終章ですー。
 読んでくださってありがとうございました。






きみはともだち 後編(12)






 その後の薪の最大の変化は、この言葉に集約される。
「勝手だなー」
 その日も鈴木は一方的に切られた電話に向かって呟いた。12時半に科警研の食堂で待ってる、とそれだけ言われた。鈴木の都合は聞かれなかった。
 身勝手な親友に振り回され続けて早5年、鈴木の神経の消耗は半端ではない。その上、彼は警察にキャリア入庁しながら捜査一課に所属願いを出し、現場で凶悪犯と渡り合うという危険な日々を過ごすことで鈴木の胃に穴を開けようとしている。鈴木の心配もどこ吹く風で、全く、とんでもなく厄介な男と友だちになったものだ。

 壁は取り払われた。と同時に、気遣いや遠慮も消え失せた。
 消えたものは他にも幾つかある。それは彼の冷たい態度に見られた拒絶と、穏やかな笑みの下に隠した翳りだ。その代わりに鈴木が得たもの、それは。
「鈴木、こっち」
 テーブル席から、薪が大きく手を振っている。呼びかけと共に鈴木に投げられるのは全開の笑顔。

 携帯用のマグボトルを置いて席をリザーブし、二人で列に並んだ。カフェテリアはセルフサービス、縦社会の警察もここは階級に関係なく平等だ。もっとも、警視正以上の階級の者は普通は此処には来ないが。
「今日は昼飯の時間取れたんだ。平和でよかったな」
「そうでもない。事件発生は昨夜の21時、昨日は泊まり込みで目下地取り捜査中」
「それじゃ忙しいんじゃないか」
「午後一で捜査会議なんだ。聞き込み行くにしても時間が半端だから。鈴木とメシでも食おうかと思って」
「捜査一課のエース殿の時間潰しに貢献できて光栄です」
 鈴木が皮肉ると、薪はあははと笑った。
 同じ定食のトレーを持って席に着く。口に上るのは仕事以外の四方山話。意味のない日常会話も、薪はすっかり上手くなった。
 食事の膳が半分も片付かないうちに、薪の電話が鳴った。捜査一課の宿命だ。事件は時間を選んでくれない。事件解決の目星も付かないのにまた新しい事件かと、眉を険しくする薪は完全に刑事の顔つきだ。警大時代に見られた甘さは、もうない。

 鈴木の目の前で、着信画面を見た薪の顔がふっと柔らかくなった。そのまま電話に出る。
「叔父さん。お久しぶりです」
 柔らかく微笑んで、薪は言った。
 薪の叔母夫婦はアメリカに渡ることになっていた。叔父が独自に開発したソフトにアメリカの企業からオファーがあって、その企業のプロジェクトに参加することになったそうだ。条件もかなり良く、この仕事が上手く行ったら叔母たちはロスに住むことになるかもしれない、と薪から聞いていた。
「そうですか。お元気で」
 永い別れを感じさせる薪の口調で、今日が旅立ちの日なのだと分かった。日本を発つ前に、空港から電話を掛けてきたのだろう。
「大丈夫ですよ。飛行機が落ちる確率は交通事故よりずっと少ない……ええ、たしかに死亡率は高いですね、叔父さんの言う通り。だからってダメですよ、あんまり叔母さんに面倒掛けちゃ」
 どうやら薪の叔父は飛行機が苦手らしい。薪は可笑しそうに笑い、やさしく眼を細めた。

「叔父さん」
 親しみを込めて薪は呼びかけた。それからしっかりした声で、
「叔父さんの言った通りでした。此処は厳しくて、僕の意見なんか一つも通らない上に納得できない仕事も山ほどやらされて。現実は甘くないです。でも」
 薪は言葉を切り、自分の心の中を確認するように眼を閉じた。再び開いた彼の瞳は、生き生きと輝いていた。
「僕は警察に入って本当に良かったと思っています」

 それから二言三言、言葉を交わして薪は電話を切った。携帯電話をポケットにしまい、冷めかけた飯を口に入れた。
「見送り、行かなくていいのか」
「殺人事件の捜査中だ。そんな暇ない」
 会議の時間が迫っているのか、薪は掻き込むようにして食事を終え、箸休めの暇もなく席を立った。
「叔父さんに頑張れって言われた。この事件、必ず獲る」
 強く言い切った、友人に頼もしさを覚える。薪は本当に逞しくなった。

 カフェテリアから外に出ると、6月には珍しいくらいの青空が広がっていた。眩しさに釣られて見上げれば、くっきりと飛行機雲。
「じゃあな、鈴木。またあとで」
「ああ。――薪」
 呼び止めると薪は振り返った。童顔のせいで七五三みたいだったスーツ姿はいつの間にか板について、きりりと締めた臙脂のネクタイが彼の闘志を表しているようだった。
「がんばれ」
「うん」
 頷いて、薪は歩き去った。
 警視庁に戻る友人の、細いけれどしゃんと伸びた背中を眼で追って、鈴木は温かいものが胸に満ちてくるのを感じていた。

 もうすぐ、夏が来る。




―了―



(2013.6)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Aさまへ

Aさま。

お返事遅くなってすみません。入札の準備わらわらしてました。


>叔父さんがいい人に変わってよかったと思います。

不器用だけどいい人、だったですね。
仲違いした時期もあったけれど、現在は良い関係を築けているのではないでしょうか。


>「友人ならずっと一緒にいられる」と言った原作の鈴木さんの言葉も真理だな、と思えます。

同性でずっと一緒にいられる関係って、普通はそれですよね。
それを「家族になりたい」って言っちゃうとこが青木さんなんだなー。やっぱ普通じゃないよ、あの人ww


>恋人よりも親友を失う方が辛い

哀しみの種類が違うのでしょうね。
恋人が死んで後追い自殺は聞きますが、親友が死んで後追い、というのはあまりないような。
きっと、恋人を亡くすのは一気にがーっと落ちる感じで(だから発作的に自殺しちゃったりする)、親友を亡くすのは一生涯胸が痛むことなのではないでしょうか。悲しみがゆっくり、長く続く感じ。どちらも時間と深さを掛け合わせると同じになる。わたしはそんな風に思います。
でもって、
新しい恋人を見つけることよりも、新しい親友を見つけることの方が遥かに難しい。
うちの薪さんも、青木さんと言う恋人を得ることは出来ましたけど、誰かと親友になることはできませんでしたからね。そう考えると親友って、本当に貴重だと思います。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: