アイシテル 前編(4)

 11月から現場に出ることになりました。
 その準備でちょっち忙しくてご挨拶とか省略してました、ごめんなさい。
 2月末の工期まで、日中はPCに触れなくなるので、更新がゆっくりになると思います。気長に待ってやってください。


 公開中のお話はこれで一時幕です。
 読んでくださってありがとうございました。






アイシテル 前編(4)







 その夜。
 薪は、ベッドの横に敷いた布団で寝息を立てている友人を見ていた。短い時間でも深く眠ったせいか、一向に眠気は差してこない。好都合だと思った。鈴木の寝顔なら、何時間でも見ていたい。
 文句なしにハンサムだと思った。

 鈴木は恋人と別れてもすぐに新しい彼女ができる。「あっちから来るんだもん」と、それは薪には都合のよい言い訳に聞こえて、つい「大して好きでもないなら断ればいいのに」と彼の軽さを非難するような言葉が口から零れた。それに対する自己弁護がまた鈴木らしくて、
「断ったら相手が可哀想だろ。女の子なのに」
 付き合ってるうちに好きになることもあるよ、とも鈴木は言った。確かに、付き合ってみなきゃ相手のことは分からない。薪だって最初は、彼をこんなに好きになるなんて思わなかった。

 どうせ1週間も続かないのだろうが、とにかく、今の鈴木には恋人がいない。鈴木は人気者だから友だちもたくさんいるけれど、特別な人はいない。

 ――今なら、言ってもいいかな?

 最初の文字は口にカレースプーンを入れるときの形。それから歯を噛み合わせて唇を横に開く、そのまま2文字。その次は舌先が前歯の裏を打ったから、タ行の文字。最後に、キスをするときのようにくちびるを窄めて完成。

「ふふっ」
 ひとり笑って薪は、枕に顔を伏せる。
 声には出せなかったけれど。たまらなく幸せな気分になった。
 心臓がどきどき言ってる。初めて味わう種類の高揚感。身体の奥底から込み上げてくる、この温かいものはなんだろう。薪の中にあって、薪の知らない何か。

 もう飽きるほど見ているのに、また彼の顔が見たくなって薪は枕から顔を上げた。うつ伏せになって、組んだ腕に頬をのせて。見下ろせば穏やかな彼の寝顔。彼は眼を閉じているから好きなだけ見ていられる。今夜はなんて幸せなんだろう。

 彼の顔を見ながら、彼の言ったことを思い出す。
 あれは鈴木に限ったことじゃない。みんな同じなんだ。
 誰もが自分の中に花の種を持っていて、咲いた花を大事に守ってる。誰かと愛し合うってことはそれを見せ合うってことで、相手の花も自分のと同じように守っていくってことなんだ。二人で守っていくってことなんだ。

 友人の恋愛話には疎いが、身近な実例がある。薪の両親だ。
 彼らは親の反対を押し切って駆け落ち同然で結婚したから殆どの親戚から無視されていた。子供だった薪は詳しい事情は聞かされていないが、叔母がぽろっと漏らした話では、とある資産家が母を見初めたが母は既に父と恋仲になっており、その縁談を断ったせいで実家が破産してしまったとか。そんな状態だったから暮らしも楽ではなかったし、他人に後ろ指を指されることも多かっただろう。それでも。
 愛し合って結婚した二人は幸せだったと思う。父と母は守り抜いたのだ、自分たちの花を。そして薪が生まれた。
 鈴木が言うことは本当だと思った。恋をして、それを守ることは尊くて素晴らしい。

 その夜、薪は誓った。
 鈴木のように、父と母のように。自分も自分の花を守っていこう。いびつな花かもしれないけれど、薪にはたったひとつ咲いた花。枯れないように折れないように、この花を守れる人間は自分しかいない。
 僕の胸の中でしか咲けない花だけど。僕はこの花を大切に守る。

 薪はその日、三度目の秘密の言葉を飲み込んだ。しかしそれは前の2つとは違って、ひどく甘い疼きを薪の胸に植え付けたのだった。





*****





「表面が半生の状態になったら菜箸で、いえあの掻き回すんじゃなくてそっと持ち上げるように、だから力入れ過ぎなんですってば」
 言いながら薪はクッキングヒーターのスイッチを止めた。フライパンの中にはガチガチに固まったスクランブルエッグ。いったいどうやったら卵をここまで固く焼き上げることができるのか、薪には見当もつかない。笑顔の下にため息を隠し、薪は「大分上手くなりましたね」と労いの言葉を掛けた。
「まだ見た目はちょっとアレですけど、味は、……雪子さん、僕ここで何してたんでしたっけ」
 切れ端を口に入れたら一瞬だけど記憶が飛んだ。二口目は命に関わると思って、無言でディスポイザーに投入した。相変わらず雪子の料理はバイオハザードだ。

「ごめん、薪くん」
「いいですよ。雪子さんには柔道を教えていただきましたから。これはそのお返しです」
 しおらしく謝る雪子に、薪はやさしく微笑みかけた。両手を胸の前で握り、ファイティングポーズを決める。
「次はきっと上手く行きますよ。がんばりましょう」
 薪に元気付けられて、雪子の顔がホッと緩んだ。よし、と彼女は気合を入れて卵を握る、ぐしゃりと潰れる、だから力入れちゃダメなんですってば。

 ぬるぬるした白身の感触に顔を歪める、雪子は最近鈴木にプロポーズされたばかり。結婚が本決まりになったからには逃げるわけにはいかないと、苦手科目の料理を特訓中だ。プロでもない薪が彼女に料理を教えているのは、たった一度の授業で料理学校の教師陣の味覚を破壊した雪子が出入り禁止を言い渡されたことと、もう一つ。薪が若い頃、鈴木の母親から料理を習っていたからだ。
 鈴木家のレシピは殆ど薪の頭の中に入っている。それは鈴木の妻になる彼女にこそ必要なものだ。

 雪子は真剣な顔でボール内に落ちた卵の殻を拾おうとしている。つるつる滑る白身に苦労しながら菜箸で何度も探って、て、高速で掬うもんだから白身が泡立っちゃってますけどいっそのことメレンゲでも作りましょうか?

 薪の心に、懐かしい痛みが蘇る。鈴木のために自分の苦手を克服しようと懸命に努力する雪子が昔の自分と重なった。
 あの頃、薪はただただ鈴木を喜ばせたくて、それだけのためになんでもやった。どんな類の努力も厭わなかった。鈴木が望めば、苦手なことも頑張った。身の置き所に困るような羞恥にも耐えた。彼のことが、好きで好きでたまらなかったから。

 ――今も。

 数えきれないくらい飲み込んだ言葉を、薪は今日も飲み込む。
 あれから十余年、色々なことがあったけれど。
 あの時の花はまだ咲いている。これからも枯れることはないだろう。



―了―



(2013.7)





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Eさまへ

Eさま。
コメントありがとうございます。


>アイシテル可愛くてきゅんきゅんしました・・・!!!

鈴薪フリーク第一人者のEさまにそう言っていただけると、心底ほっとします(^^
そうですね、これは7月くらいの話なので、例のクリスマスの夜までは約5ヶ月ですね。薪さん、辛抱堪らなくなってとうとう襲っちゃったんですね(笑)


>あぁぁぁぁ早く気付いて鈴木!!!

ねえ(〃▽〃)
鈴木さんは佐久間から薪さんの過去を聞いてるので、自分にちゃんと彼女がいることを強調して、「オレは安全だよー」とアピールしているつもりなのですが。とりあえず、ズレまくってますね☆


>いつも読む度しづさんの鈴薪さんは愛しさと切なさがこみ上げてきます(´;ω;`)

やっぱり鈴薪さんはラストが決まってるからか、どうしても切ない系に傾いてしまいますね。
設定やら何やら完全無視しちゃってますけど、それでも原作の影響は大きいです。
ジェネシス読んで、しみじみ思いましたよ。あれだけの影響を薪さんに与えた鈴木さん。きっと鈴木さんがいたから今の自分があるって、薪さんはそう思ってたに違いないのに、その鈴木さんを自ら殺めてしまって。どれだけ自分を責めたんだろうと思ったらさすがのしづのドS心も凍りつきそうです(;;)




それと~、
鈴薪祭りですねっ!
わーい、うれしいなっっ!!
記事も、迷惑なんてとんでもない、ありがとうございます! Eさんのブログ記事を確認しましたら、こちらでもご紹介させていただきます(^^)
Eさんのお祭り、楽しみにしておりますー!


Aさまへ

Aさま。

>鈴木さんが佐久間君の時のようにならないために彼女をつくっていたとしたら切な過ぎる(><)

わたし、そういうの好きーww ←S。
それは、鈴木さんと別れた後の薪さんですね。鈴木さんの友だちに戻るために一生懸命に女の子と付き合ってました。萌えました。←どんだけ。

この鈴木さんは「薪さんが好きだけど彼に嫌われたくないから彼女作ってる」わけじゃないです。異性愛者であることをアピールしてるだけです。
鈴木さんがそうなるのはもっと先の話で、やっぱり薪さんと別れてからですね。青薪さんとは違うすれ違いが鈴薪さんにはあって、どっちも切ないですね。たまりません。←……。



>青木と出会ってまた、花が咲いたわけだけど鈴木さんの花は枯れてしまったわけじゃないと思いたいです

Aさん、ネタバレ。
次の話モロにそれです☆



>来年、秘密season0再登場

お知らせありがとうございます!
うれしいです、思ったよりずっと早い!
お知らせが載るってことは編集会議にコンテが上がってるってことですからね、確実ですね♪

コンテと言えば、
日曜日にSさんとお会いして、その時、Aさんのお宝の写真を見せていただいたんですよ!!
Aさん、すごい!!!
今度お会いする機会があったら、ぜひ現物を拝ませていただきたいです。

アンソロ本は、Sさんに買ってきてもらいました。
すごくレベルの高い本に仕上がってましたよ!
作品の苦労話も聞かせていただいたので、大切に読ませていただきました。みなさん、素敵でしたー!

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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