きみに咲く花(2)

 幕間のあおまきさん、終了です。
 




きみに咲く花(2)







 ビールジョッキをテーブルに置き、ふう、と薪はため息を吐いた。くちびるの端に付いた白い泡を舌先で舐めとる。冷えた炭酸が喉を下りていく感覚が心地よい。
 ふと窓の外を見れば、下方には水遊びを楽しむ人の群れ。施設内の展望レストランである。

 水着で座れるように表面をプラスチックでコーティングした椅子に腰かけた、薪の向かいにはホクホク顔で写真眺める大男。目的が達成されたと見えて満足そうな様子だ。
 すっかり忘れていた。ここのウォータースライダーは、頼みもしないのに客の写真を撮影するのだ。客は自分がプールに落ちる瞬間の恥ずかしい写真を勝手に撮られて、泣く泣くネガを買い取らされる。強請に限りなく近い押し売りだ。この暴挙をどうして摘発しないのか、F県警の怠慢としか思えない。
 それを喜んで買ってるバカはこいつくらいだ、と薪はもう一度ジョッキを豪快に呷る。MRI画像もそうだが、不快な映像ほど鮮明に記憶に残るものだ。その写真もそうだった。
 後ろにいた青木には罵り言葉しか届かなかったはずだけど、プールに落ちた瞬間を捉えた写真には彼に抱き締められて楽しそうに笑う自分が写っていて、もう飲まなきゃやってられない。薪はヤケ酒は飲まない主義だが、今日だけは特別だ。

 この開放的な雰囲気の中では誰もがアルコールの誘惑に弱くなる。とりわけ、オヤジには覿面だ。加えてプール内の飲食店はどこも弱冷房で蒸し暑い。ビールやフラッペが美味しく感じられる温度に調整されているのだろう。
 ジョッキの残量が半分くらいになった時、テーブルに焼き立てのピザが届いた。薪の好きなクリスピータイプの野菜とシーフードのピザだ。それから青木が注文した大盛りパスタとフォカッチャ。テーブルの上が一気に賑やかになった。
 青木は手持ちのショルダーに写真を大事そうにしまい、到着した料理に取り掛かった。彼の右手がウーロン茶のコップを握るのを見て、薪は不思議そうに尋ねた。
「飲まないのか?」
「帰りの運転がありますから」
 青木の言い分は警官として正しい。でもビールは青木の大好物だし、周りはみんな飲んでるし。彼だって飲みたいに決まってる。
「1杯くらい大丈夫だろ。まだ昼だし。帰る頃には酔いも醒める」
「万が一のことがあっては困りますので」
 薪の勧めを青木は辞退した。ボディガード兼運転手の自分が飲酒運転で免許を取り上げられたら薪に迷惑が掛かる。それを心配しているのだろう。

 水中以外は青木に着用を強制されているパーカーのポケットを探り、薪は携帯電話を取り出した。慣れた手つきで画面を操作する。終えて、顔を上げると青木が気落ちした目でこちらを見ていた。
「お仕事ですか?」
 休暇中でも、薪にはしょっちゅう仕事の電話が入る。大きな事件が起これば必ず呼び出される。それを知っているから青木は極力昼間の飲酒を控えているのだ。呼び出しに応じなければいけないのは薪一人で、青木は関係ないのに。

 薪は黙ってスマートフォンの画面を青木に見せた。彼の顔が見る見る笑顔になる。「薪さん」と彼が余計なことを言い出さないうちに、薪はビールのお代わりと、青木の為に大ジョッキを追加注文した。

 このレジャープールには併設されたホテルがあり、周辺にも何軒かの旅館がある。薪が予約を入れたのはそのうちの一つ、駐車場に近い和風旅館だった。併設ホテルならプールと自由に行き来ができたのだが、生憎そちらは満室だったのだ。
 運ばれてきたビールジョッキを持ち上げ、薪は冷静に言った。
「朝の四時に起きれば間に合う」
「はい!」
「飛び込みだからあんまりいい部屋じゃないぞ」
「はい!」
「分かってるな、四時起きだぞ。夜更かしは無しだ」
「それはちょっと約束できな、あ、いえ、寝ます寝ます、八時には熟睡します」
 できもしないことをぬけぬけと言う、年下の恋人に失笑する。月曜から朝帰りなんて来週は地獄だなと憂鬱な予想を立てながらも、自分がとても上機嫌であることに気付く。何故だろうと問うまでもない、理由なんて分かり切ってる。自覚して、薪は心の中で呟いた。

 冷たいビールにアツアツのピザが美味いからだ、なんか文句あるかバカヤロー。




*****



 あの日、胸に咲いた花は枯れたわけじゃない。
 でも、今の薪の胸にはもう1輪。いびつな花が咲いている。




(おしまい)



(2013.7)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。
お返事遅くなってすみません。
工事始まっちゃえばやるのは施工班だから意外と暇なんですけどね、取り掛かる前の住民対策でてんやわんやしてます(^^;


>青木の花はいびつでも鈴木さんの花より大きくなるんでしょうね

そうですねえ。
二人で重ねた年数も思い出も、鈴木さんより多くなるのでしょうね。


>アンソロ本

本当に素敵な本でしたね。
みなさん、すごい上手ですね。
Aさまも、絵がお上手でしたよね! きっとたくさん練習されたんでしょうね。尊敬します。

Nさまへ

Nさま。
お返事遅くなってすみませんー。先週は現場に出てましたー。


>満面の笑みの薪さんフォト購入希望(真顔)

わたしも~。欲しい~(*^^*)


>青薪さんに続くストーリー

ふふふ。
ね、こうして見ると鈴薪さんは青薪さんを咲かせる土壌でしょう?
うちの薪さんの場合は、鈴木さんと愛し合った過去があるからこそ青木さん以外あり得ないんだとわたしは思うのです。


>薪さん視点の青薪ssを、青木くん視点として想像する


SSの楽しみ方は人それぞれですが、それはNさんの特質が非常によく出ている読み方だと思います(笑)

そう言えば、先日、以前話していたバイク追跡の話を書いたんですけどね。
薪さん視点で書き始めたんですけど、途中、青木さん視点で事件を動かした方が面白いと思って、青木さん視点で書き直しました。その際、同じシーンを書いてるのに青木さんと薪さんでは話の雰囲気がまるで違って、すごく面白かったです。


Sさまへ

Sさま。

お返事遅くなっちゃってごめんなさい!(><)
なんでだか、メールボックスにこれだけ届いてなくて。今頃になってしまいました、ごめんなさい。


しかもお返事が、

>はあ〜やっとお〜あおまきさんですねえ〜。

ごめん、すずまき始まっちゃった☆
50Pあるから2ヶ月くらい掛かるかもです。すみません(^^;


>行きつけのスーパーあおきへは薪ストーブのお店の前を通ることになっておりまして

わかるっ、わかりますとも!!
しづはあおまきすとですよ!!! それもかなり偏執狂的な、おまえみたいなあおまきすとがいるから他のあおまきすとが誤解されるんだくらいのガチでございますよ!←胸張って言うことか。


鈴薪さんが終わったら、青薪さんの雑文を公開しますからね。今、まともな話も書き直してますし。
ただ、今年は代理人として現場に出ることになってしまったので、更新が遅くなってしまいそうです。しばらくお待ちくださいね。




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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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