アイシテル 後編(2)

 お知らせです。

 えあこさんのサイトにて、秋の鈴薪祭開催! でございます!


 僭越ながら、うちの鈴薪話も鈴薪祭に参加させていただきます。
 えあこさんは鈴薪フリークとしては有名な方なので、今回ご一緒させていただけて光栄です~。

 えあこさんは絵描きさんで、とっても絵がお上手です。アンソロ本にも参加されてます。
 薪さん鈴木さんはもちろんですが、個人的にはローゼンとかのドレス姿の女の子のイラストもすごくきれいだと思います。フリルいっぱいのメイド服とか超上手い。それを薪さんに着せちゃうあたり、わたしと通じるものがあるというか、そもそも、うちの薪さんのゴスロリとか猫耳とかはえあこさんの影響です。←さりげなく人のせいにしてみた。

 えあこさんには鈴薪ネタがこんもりあるとのことで、これから続々と更新されることと思います。楽しみですね♪
 URLはこちらです。↓↓↓
 
  貴方にとりこ ←ぽちると飛べます。ここからさらにサイトに飛んでください。

 サイトには、甘ーいすずまきさんが満載です。うちのS話でささくれ立った心を癒すには最適かと、むにゃむにゃ。


 以上、お知らせでした。
 秋の鈴薪祭、よろしくお願いします!!
 
 




アイシテル 後編(2)







 その画面に初めて映った彼は出勤の途中だった。

 季節は冬で、彼と足並みを揃える人の群れは一様に着膨れていた。なのに彼は薄いコートを着ただけで、手袋もマフラーもしていなかった。それでも平気な顔で歩いていた。まるで寒さを感じていないみたいに。
 寒さに強い体格にはとても見えなかった。夏の最中に別れた時より更に痩せていた。あの頃はかろうじて優美だった頬がげっそりと削げて落ちていた。
 そんな骸骨みたいな身体で寒空の下を歩いたりしたら風邪を引く。鈴木は彼を心配して声を掛けたが、完全に無視された。どうやらこの画面は一方通行らしいと気付いた。あちらの画像は鈴木に届くが、鈴木の声は彼に届かない。

「薪、危ない!」
 理解して、でも次の瞬間、鈴木は叫ばずにはいられなかった。人ごみに紛れ、彼に向かって足早に迫る悪漢を発見したのだ。
 無精ひげに三白眼が特徴のそびえるような大男で、鈴木のカンでは五人は殺してる。あのでかい背中には、登り龍が刻まれているに違いない。
 捜査一課にいた頃に捕まえた犯人のお礼参りか、第九の室長が握る秘密を狙っての襲撃か。男は巨体に似合わぬ俊敏さで彼に近付き、きちんと閉めていたコートの前ボタンを外した。懐から凶器を取り出すつもりだ。
「逃げろ、薪! て、あれ?」
 男は薪の背中を捕えると、自分のコートを彼に着せ掛けた。振り返った薪に何やら喋っている。画面のあちこちをいじると、音声が聞こえてきた。

『またそんな薄着で。風邪を引きますよ』
『大丈夫だ』
 着せ掛けられたコートを、薪は男に返そうとした。脱ごうとする薪と男の間で軽い諍いが起こる。
『あんたの大丈夫はアテにならないんですよ。一昨日もそう言って倒れたじゃないですか』
『うるさいな。僕がどんな格好で歩こうと僕の勝手だ』
『あんたが風邪引いて困るのはこっちなんですよ! 頼みますから自重してくださいよ、室長』
 薪は舌打ちして口を噤んだ。薪を言い負かすなんて、すごい男だと思った。
 大きすぎるコートの裾を殆ど引き摺りそうになりながら、薪は歩き出した。男が隣に立ち、周囲に厳しく目を光らせる。どうやらこの男は薪を守っているらしい。
 男の名前は岡部と言った。名前を聞いて、鈴木はやっと思い出した。警視庁の捜査一課に同じ名前の刑事がいた。聞き及んでいた特徴とも合致するし、たぶん同一人物だ。警察庁勤務の鈴木にまで伝わるくらいの敏腕刑事だ、さぞ豪胆な男に違いない。薪のボディガードにはもってこいだ。

 二人は小声で話しながら並んで歩いていく。鈴木は画面を操作して音を大きくした。第九の室長と元捜一の名刑事の会話なんて物騒なものにしかならないだろうが、彼の声が聞きたかった。
『ちゃんと朝飯食ってきましたか』
 なにこの会話。親子?

『お母さんか、おまえは』
『その切り返し。さては食べてませんね?』
『コーヒーは飲んだぞ』
『だから! コーヒーは食べ物に入らないんですよ!』
『あー、うるさいうるさい』
『うるさいってあんたねえ! こないだ三好先生にも怒られたばっかりじゃないですか。同じミスを繰り返すのはサル以下だとか自分で言っといて』
『分かった。今週末はちらし寿司を作る。食わせてやるからそれで手を打て』
『え、本当ですか。そういうことなら、じゃなくて!』
「……ぷっ」
 鈴木は思わず吹き出した。さすが薪。泣く子も黙る捜一の猛者を手玉に取ってる。
「そんなことだと思いましたよ」と岡部は薪の手にコンビニのおにぎりを押し付けた。中身はタラコだった。「梅かおかか以外は食べない」と具に文句を言う薪を「わがまま言うんじゃありません」と叱りつける。何処から見ても立派なお母さんだ。
 安心した。薪にはちゃんと、彼を心配して世話を焼いてくれる人ができたのだ。

 それからしばらくの間、鈴木は彼と薪を微笑ましく見ていた。
 岡部は薪にほど近い距離で、こまごまと彼の世話を焼いた。口うるさい母親そのものだったが、薪にはこれくらいしないとダメなのだ。それは鈴木が一番よく知っていた。
 このまま徐々に、薪が元気になってくれたらいい。時間が彼の心を癒してくれる。岡部に任せておけば大丈夫だと思った。

 その平穏が破られたのは、翌年。
 1月の末に第九にやってきた新人によって、回復に向かっていた薪の精神は再び狂わされた。この青木と言う男はあろうことか、貝沼が残した置き土産をそっくりそのまま薪に渡してしまったのだ。
 それは鈴木が命を懸けて守った秘密だった。薪にだけは知られてはいけない事実だった、見せてはいけない画だった。だから守った。それなのに。

『薪さんに鈴木さんの本当の気持ちを知って欲しかったんです』
 彼の言い分を聞いた時、鈴木は怒りのあまり二回死ぬかと思った。
 言うに事欠いてオレのため?
 そんなこと、誰が頼んだ。
 オレがいつそんなことを望んだ。なぜ薪に知らせた、死んでまで守りたかった秘密をどうして暴くのだ。
 できることなら呪い殺してやりたいと思った。

 鈴木の懸念通り、それからの薪は再び煉獄に舞い戻って行った。自分の身体を傷つけて、それでようやく立っていられる、生きていられる。岡部と知り合ったばかりの頃に戻ってしまって、でも今度は彼に頼ることもできなかった。それまでは疑惑に過ぎなかった自分の罪が確定してしまったからだ。
 鈴木は必死に薪に呼びかけた。
 おまえが悪いんじゃない。おまえのせいじゃない。
 悪いのはオレだ。秘密に耐えきれなかった弱いオレ。おまえに罪を犯させてしまった卑怯なオレ。死にたいなら一人で勝手に死ねばよかった、それなのに最後の最後でおまえに縋った。弱い弱いオレ。

 鈴木の命を物理的に奪ったことで、薪は自分を責めていた。鈴木に怨まれていると思い込んでいた。
 どうしてオレが薪を恨む?
 あれは、もう死んでた。とっくに壊れていた。薪はそんなオレを憐れに思ってそのスイッチを止めただけ。薪が止めてくれなければ他の人間に止められていた、それが為されなければ生きる屍になっていただろう。
 おまえは悪くない。感謝しこそすれ、恨む気持ちなんて欠片もない。
 薪、薪。
 自分を追い詰めるな。昔、オレが言っただろう。みんなが薪を責めるなら、せめて薪だけは自分の味方になってやれって。あの言葉、忘れちゃったか?

 何度も何度も彼の名を呼んだ。声が枯れるまで呼んだ。でも薪の涙は止まらなかった。
 どう足掻いても自分の声は彼に届かないのだと悟った時、鈴木は絶望した。自分は彼に何もしてやれない。そんな当たり前の事実が鈴木を打ちのめした。
 此処に来るまでに時間のロスがあったせいで、鈴木は自分がいなくなった直後の薪の姿を見ていない。これよりも酷かったのだろうかと思うと、青木に向かっていた憎しみは倍になって自分に返ってきた。
 薪にとってもそれを見る鈴木にとっても、辛い日々が続いた。共有される痛みはもはや日常化し、それがないと昼も夜も明けないくらいだった。
 薪の与り知らぬところで、彼の痛みは鈴木のそれに同化した。彼と同化したことであの現象が起きたのだと、後に鈴木は理解した。

 業務を終えて一人になると、薪は必ず鈴木の写真を取り出して鈴木に話しかけた。場所は選ばなかった。第九の室長室だったり自宅のリビングだったり台所だったり。おかげで鈴木は生前よりも様々な彼の姿を見ることができた。
 室長室で事件の解決を鈴木に報告する時には凛々しいスーツ姿。リビングで寛ぐ時にはシンプルだけどセンスの良い私服。台所に立つ彼は可愛いエプロン姿。残念ながら浴室だけはなかった。写真が濡れてしまうからだ。
 でも彼の裸体は、寝室で見ることができた。それまでのことは知らないけれど、この頃、彼がそういう気分になった時に求める相手は鈴木だけだった。鈴木の名前を呼びながら自分の肌を滑って行く彼の手に自分の手を重ねて、鈴木は彼と同時に快楽を味わった。しかしそれは疑似体験にすぎず。鈴木の手が実際に触れているのは彼の肌ではなく、冷たいスクリーンだった。自慰に耽る薪の姿に刺激されて自らの手で吐精したものの、熱が醒めると、ひどく虚しくなった。
 薪も同じ気持ちだったのだと思う。身体に付いた体液を拭うことも忘れて、薪は鈴木の写真を胸に抱いて泣きだした。すると不思議な事が起こった。画面に映った彼が立体化したのだ。
 3D映像のようなもので、触ることはできない。でも画面よりもずっと本物に近かった。その動きも美しさも、流れ落ちる涙の煌めきも。

 しばらく観察を続けて、この現象は薪が感情を昂ぶらせたときに起きるのだと分かった。この時期、薪の神経はギリギリのところまで絞られていた。然るに感情の起伏は大きく、鈴木は毎日のように彼の立体映像を見ることができた。
 数えきれないほどに繰り返され、現象は進化を遂げた。最初は写真がないと起こらなかった現象が、薪が心に思うだけで起きるようになったのだ。
 鈴木は悟った。薪は完全に自分のものになったと。
 昔の薪はそうではなかった。確かに彼は鈴木に恋をしていた、しかし彼の世界はそれだけに埋め尽くされているわけではなかった。彼は仕事を生き甲斐にしていたし、限られた範囲内ではあったが友人付き合いもしていた。職場仲間とプライベートを共にすることも多かった。
 だが鈴木を喪った薪は、それらをすべて打ち捨てた。
 友人付き合いをしなくなった。人前で笑わなくなった。新しい部下たちは、薪の厳しい顔だけを見せられることになった。当然、彼らとの距離はなかなか縮まらなかった。

 仕事の虫は相変わらずだったが、その姿勢はまるで違っていた。捜査に没頭すると寝食を忘れてしまうのは昔からだったが、あそこまで頻繁に倒れるほど自分の身体を痛めつけるような真似はしなかった。鈴木が促せば食事も仮眠も摂った。捜査一課に在籍していた薪はその大切さを知っていた。時間のロスのように思えても、気力体力を充実させることが質の良い仕事につながるのだ。
 それがすっかり様変わりした。彼が誇りを持ってこなしていた職務は、自分を痛めつけるための手段になり下がった。とにかく彼は自分を罰したがっていた。肉体的にも精神的にもそれを望んでいた。2つの道があれば、必ず辛くてしんどい方を選択した。まるで己が身体を疲労に塗り込めるようにして、彼は職務に勤しみ続けた。
 人間が仕事から得られるのは金銭的な報酬だけではない。達成感や充実感、能力の向上や仲間との絆。働く喜びはむしろそちらにこそあるのに、それを彼は知っているはずなのに。それらプラスの褒賞を決して享受しようとはしなかった。

 仕事よりも職場仲間よりも、彼は鈴木との思い出に縋ることを優先した。鈴木を慕うこと、償うことしか考えていなかった。突き詰めれば、鈴木のこと以外は何も考えていなかった。名実ともに、薪は鈴木のものだった。
 そんな薪の姿を見て、鈴木は自分を呪った。
 愛しい人をこんなにも苦しめてしまった、その事実を、ではない。自分の中に生まれた歓喜を呪ったのだ。

 薪の人生が自分一色に塗り潰されている。他の人間の入る余地はない。彼は鈴木のためだけに生きていた。

 震えがくるほどに感激した。
 これほどまでに彼に愛されたことはない。彼の苦しみに共鳴しながらも、鈴木は喜びを感じずにはいられなかった。言葉も交わせない、抱擁もできない、そんな蜜月ではあったけれど。彼と鈴木の思いは同じだった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>凶悪顔のお母さんw

(笑)(笑)
岡部さんは根っからのおかん体質だと思います。


>鈴木さんが見せないようにしたのに青木は見せちゃった

うーん、そうですね。
これは鈴木さんの立場から書いてるので青木さんの行動を強く責めてますが、
わたしは青木さんの行動が間違ってるとは思ってないし、薪さんも多分そうだと思う。嘘の上に築かれるのは虚構の人生でしかないと思う。だからどんな残酷な真実でも告げるべきだと思う。

このテーマについては新しい創作の中でちょこっと触れてるので、詳しくはそちらで。公開は、……来年ですね(^^;


>死んでからもモニター見てるのね(^^)

そらー秘密の二次創作ですから。
モニターは必須です♪

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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