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アイシテル 後編(3)

 こんにちは~。
 すっかり寒くなりましたねえ。現場の風が冷たいです。そして現場近くにある卵工場の目はもっと冷たいです。
 だって仕方ないじゃん、不断水とストッパーバルブ組むんだもん、道路の占領しなきゃ工事できないよ。

しづ「お正月も工場は動くんですか」
工場長「やります」
しづ「元日からですか」
工場長「元日から通常運転です」
しづ「では夜間はいかがでしょう」
工場長「夜中の1時から4時までの間は断続的に出荷トラックが出入りします。通行止めは困ります」

 どないせーっちゅーんじゃ。

「工場にバクダン仕掛けたってガセ電入れるしかないですかね」って役所の監督員に言ったら、「避難命令が出るから工事もできなくなりますね」と突っ込まれました。面倒見がよくて冗談の通じる監督さん、いつも感謝してます。








アイシテル 後編(3)






 薪に変化が現れたのは、その年の秋。

 またもやあの青木と言う男が原因だった。青木は薪に身勝手な好意を押し付け、薪は最初こそ彼を強く拒絶したが、それは長くは続かなかった。その大きな理由は彼の外見だ。「鈴木と瓜二つだから拒みきれない」と薪は言い訳し、でもそれは薪だけがそう思い込んでいたのだ。事実、雪子などは「似ても似つかない」と言い切っていた。鈴木も長身や黒髪と言ったいくつかの共通点を認めはしたものの、概ね雪子に賛成であった。
『青木は鈴木の生まれ変わりじゃないかと思うんだ』
 自分の写真に話しかける薪に、それは年齢的に無理がある、と鈴木は届かない応えを返し、彼の頬を画面の上からそっと撫でた。薪が鈴木の写真にキスをする、その薪に鈴木はキスをした。

 季節が冬になり、鈴木がここに来て1年が過ぎた頃。薪に明らかな変化が起こった。
 それに気付いたのは鈴木の方が先だった。薪はなかなかそれを認めようとはしなかったが、明白な証拠があった。鈴木の写真を見て涙をこぼす薪の、その姿が実体化しなくなったのだ。それは、心の中に鈴木以外の人間が棲みついた証拠であった。

 ショックは受けなかった。彼の心変わりを責める気持ちも生まれなかった。いずれこうなることは分かっていた。薪は生きているのだ。死んだ人間を永遠に思い続けられるわけがない。
 当の鈴木が納得したのに、薪は頑なにそれを否定した。彼に向かおうとする気持ちを、必死に押し殺そうとしていた。誰に咎められることもないのに許されないと独り決めして、胸の内に微かに灯った明かりを消そうとした。
 でも、できなかった。
 人は悲しみだけで生きるには脆弱すぎる。薪にとってその恋は、すなわち生きる意志であった。人間が生きようとするのは本能で、誰に責められるものでもない。
 それを許さなかった者が世界にたった一人いた。薪本人である。
 彼は徹底的に自分の心変わりを詰った。生前鈴木とは恋人同士だったわけでもないのに、不実だと責め立てた。彼の中で青木への気持ちが大きくなるほどに、その糾弾も苛烈になって行った。自己否定に次ぐ自己否定。もはや狂う一歩手前と言ってよかった。

 実体化することもなくなり、再び画面に埋ずもれた薪の上に、鈴木ははらはらと涙をこぼした。薪の流す涙は鈴木のそれと重なって、一筋の川のように画面の上を流れて行った。
 自分はなぜ死んでしまったのだろう、と鈴木は思った。
 この世で薪と添い遂げることは自分には無理だった。ならば自分は、雪子と結婚すべきだったのだ。雪子と結婚して幸せな家庭を築いてそれを彼に見せてやれば、彼が新しい恋に罪悪感を覚えることはなかった。
 薪のためなら何でもできると誓った自分が。どうして彼のために生きてやれなかった。どうして。
 その時ほど、鈴木は自分の死を悔やんだことはなかった。

 それから、さらに月日は流れ。
 青木の深い愛情で、薪は少しずつ少しずつ、自分の中に生まれた新しい愛を認めていった。とてもゆっくりとした歩みだったが、青木は忍耐強くそれを待った。結果は青木の粘り勝ちだった。
 長い間自分に向けられていた彼の愛。それが他の人間に移っていく様子を見るのは辛かった。嫉妬が鈴木の胸を手痛く切り裂いた。
 この世に存在する最も深い絶望に薪を落としたのは他ならぬ自分自身。その所業をして嫉妬心など、抱く権利は毛ほどもないのに。分かっていて止められなかった。それでも見ることを止めなかったのは、それが自分に与えられた罰だと思ったからだ。
 命を懸けて愛した人が他の男のものになる。身も心も、彼のものになっていく。その変遷を余すことなく見つめて心に刻むこと。この痛みこそ、身勝手に死んで何人もの人々に絶望を振りまいた自分に相応しい罰だ。

 薪が青木の腕の中で眠りに就くようになった頃、美香が鈴木の前に現れた。彼女は亜麻色の長い髪と瞳を持っていた。鈴木は彼女を自分の世界に住まわせることにした。
 鈴木が薪を見ていると彼女は、「また覗きに精を出してるの」とか「毎日毎日よく飽きないわねえ」と厭味ったらしく言った。最初は頭にきたが、すぐに慣れた。口が悪くて放埓な女でも、一人でいるよりずっと楽しかった。
 身体の相性も良かった。それまで鈴木は一日の殆どを画面の前で過ごしていたが、美香と睦み合うのは実に刺激的で、彼女と過ごす時間は次第に増えていった。
 お互い様というか、自然なことだと思った。薪は彼を、自分は美香を。それぞれにそれぞれの愛を育んでいく。同じ世界に住めない以上、それが普通だと思った。
 それでも、薪を見ない日はなかった。薪もそれは同じだった。鈴木を忘れた日はなかった。
 これでいい、と鈴木は思った。
 薪は青木の愛情に包まれて生涯を終えるだろう。それまで、鈴木はここで彼を見守り続けるつもりだった。幸い、美香もいる。退屈せずにその日を待つことができると思った。

 ところが。

 鈴木の意思の及ばぬところで、運命は回り始めていた。
 この地で彼を待つこと、鈴木がしていることは自然の理からは外れた行いだ。それ故に生じた歪みだったかもしれない。或いは、人間はおろか魔物や妖怪まで引き寄せてしまうほどに美しい薪に原因があったのかもしれない。とにかく、そのとき彼を襲った災厄は予定外のハプニングだった。

「薪!」
「もう。マキマキマキマキうるさい」
 鈴木の叫び声に目を覚ました美香が隣に来て、床に胡坐をかいた。「おちおち寝られやしない」と不平交じりの大欠伸の後、
「今度はなに」
 かったるそうに訊いた彼女に、鈴木は画面を指差した。
 通勤風景だった。朝が早いのか、車線数の割に車の数はまばらだった。青木の運転する車の後部座席に収まった薪は、今朝の会議で使うレジュメに目を通していた。赤信号で停車している彼らの車の30mほど後方に、蛇行する大型トラックがあった。
「このトラックの運転手、眠ってる。このままだと」
「あらほんと。ちょっとヤバいんじゃない、これ」
 美香が身を乗り出した時には、トラックは薪たちが乗った車のすぐ後ろに迫っていた。ルームミラーでトラックを確認した青木の顔が驚愕に強張る。

「きゃっ!」
 間近に雷が落ちたような音がして、画面から閃光が迸った。美香は思わず悲鳴を上げて画面から顔をそむけ、ぎゅっと目をつむった。
「……ど、どうなった?」
 無残な光景を見るに耐えなくて、美香は画面に背中を向けたままで鈴木に尋ねた。しばらく待ったが、返事はなかった。
 さては答えられないようなことになってしまったのだろう。美香は覚悟を決めて振り返った。
 そこに鈴木の姿はなかった。画面には何も映っておらず、PCのエラー画面のように青く光っているだけだった。
「克洋?」
 大声で鈴木の名を呼びながら、美香は彼を探した。家中、クローゼットの中まで探したが、鈴木は何処にもいなかった。



*****



 病院の廊下を走って看護師に注意を受けるのは何度目だろう。その9割は同じ人間のせいだ。いい加減にしてくれと怒鳴りたいのを必死に堪え、岡部はベッドに横たわる人物を覗き込んだ。
「薪さん」
 自発呼吸が困難なのか、薪は酸素マスクを付けていた。意識はない。
 ベッドの横に膝を着いて彼の手を握っていた青木が、縋るような瞳で岡部を見上げた。岡部さん、と震える声で呼ばれたが、岡部にもどうしようもなかった。
 重苦しく落ちる沈黙の中で、岡部は細い眉を険しく寄せるだけだった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

Aさまへ

Aさま。

そうなんですよ。拍手コメント欄、大きくなって書きやすくなりました。
ただ、見た目は今までの方が可愛かったかな?


>薪さん、顔は大丈夫!?

あはは!
Aさん、薪さんが火事に巻き込まれた時も顔のことを心配されてましたよねww
ご安心ください。お顔はきれいなままです。即死ですけど。←ごめん、死なないと鈴薪始まらないから。


>鈴木さん、一人であの世で待ってるのって寂しいと思うので美香の登場はよしとします。

え、そうですか?
わたしは認めませんけど。<おい。
いやほら、これが現実だったらいいと思うんですけど、お話ですから。鈴木さんには純愛貫いてもらいたいなあって。
美香は、ちょっとしたシャレで作ってみたのですよ。種明かしはお話の続きで(^^

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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