アイシテル 後編(10)

 こんにちはー。
 現場のクレームが多くて頭のイタイ毎日を過ごしております。おかげで更新できないー。わたし、気持ちが乗らない日はブログお休み主義なんで。
 どんなに面倒なことでも仕事である以上は一生懸命やります、が、苦情もらうと心が折れます。
 騒音とか段差ならともかく、工事看板の休工中シール剥がし忘れてるとか、膝から落ちそうになった。クレーマーがいると工事進まないんだよねー。結局は日にちが延びるだけなのになー。さっさと工事が終わった方が自分も得なんじゃないのかなー。
 
 
 とか言いつつ。
 お話の方もクレームが来そうな内容ですみませんです。でもこちらはクレームが来てもお話は長くなりません(笑)






アイシテル 後編(10)







 床に這いつくばった鈴木は、悔しそうに拳でフローリングを叩いた。木目に汗が滴り落ちる。息は乱れて、満足に喋れない状態だった。
「はい僕の勝ち。約束通り、鈴木は部屋の掃除ね」
 分かった、と答えることもできなくて、鈴木は了承の証に右手を挙げた。風呂場もよろしく、と手を振り、薪は台所に姿を消した。夕飯の準備をするのだろう。
 鈴木は床に座って、大きなため息と共にテレビを見た。液晶画面にはストリート系ファッションでVサインを出している男の子と、レオタード姿でがっくりと項垂れている女の子のアニメーション。男子の頭上にはWINNERの栄冠と女子の上にはLOSEの文字。要するに、対戦型のダンスゲームだ。
 ゲームなら勝てると思ったのに。まったく薪は見かけによらない。

 仕方なく鈴木は掃除機と雑巾、それと床磨き用のモップを用意した。ゲーム機を片付けて、部屋の隅から掃除機を掛け始める。
 掃除なんかしなくても家は綺麗になる。鈴木の言葉に首を振り、薪は普通がいいと言った。はたきで埃を落として掃除機で吸い込む、雑巾で棚を拭く。そういうのがいいのだ、と言い張った。鈴木は反対した。掃除なんか面倒なだけだ。
 どちらの意見を採るかゲームで決めようと言ったのも、ダンスゲームを選んだのも鈴木だった。最終的には文句の付けようもなくなった。
「尻に敷かれてるなー、オレ」
「なんか言ったか」
「何でもございません、ご主人さま」
 ちょっと愚痴ったらキッチンから突っ込みが入った。掃除機の音がしてるのにあの大きさの声が耳に入るなんて、相変わらず薪は地獄耳だ。

 一人で暮らすうち、独り言が癖になっていた。これからは気を付けないと。そう思うと、鈴木はひどく幸せな気分になった。それは煩わしいことのはずなのに。

 二人で暮らすようになって、面倒になったことはたくさんあった。掃除と同じで、薪は何でも地上のようにしたがった。料理も洗濯も、縫い物すら。
 寝室が殺風景だから壁に絵でも飾ろうかという話になったとき、自分がタペストリーを作るから布と裁縫道具を用意して欲しいと言われた。何も薪が縫わなくても製品を出せるのに、と鈴木が言っても聞かなかった。休みなく手を動かす薪に、どうしてわざわざ疲れることをしたがるのか、と尋ねると、楽しいから、と言う答えが返ってきた。
「楽しい? 掃除や裁縫が? おまえ、そんなに家庭的だっけ」
「ちがうよ、バカ」
 じゃあ何が、と訊いても薪は教えてくれなかった。「鈴木は本当にバカだな」と笑うだけだった。バカバカ言われて面白くなかったから、作りかけのタペストリーを消してやったらしぶしぶ白状した。
「今まで何もできなかったから。鈴木のために何かできることが楽しい。――ヘン?」
 ヘンになりそうなのはこっちだと思った。

 新月の夜の1時間は、抱き合っているうちに過ぎた。満月に向けて、これからは障壁が強くなるばかり。迷いはあったけれど、肝心の薪にその気がないのではどうしようもなかった。日が経つにつれ、鈴木の気持ちも固まった。
 薪はここで。オレが幸せにする。

 自然の中で過ごすことが好きな薪のために、鈴木は森の中に小さなログハウスを作った。テラスで本を読んだりハンモックで昼寝をしたり。そこは二人の定番のデートスポットになった。
 バスケットに二人分の弁当を詰めてそこへ行きがてら、途中の草原でそれを食べた。薪が作る料理はとても美味しかったけれど、必ず鈴木が嫌いな野菜が入っていた。鈴木がちまちまと青菜を除いていると、残さず食え、と叱られた。
「なんで死んでまで嫌いな野菜を」
「小松菜等の青菜にはカルシウムも豊富に含まれてて、骨粗鬆症予防に効果がある」
「いやだから、幽霊に骨粗鬆症予防って何の意味が」
 しつこく言い返したらものすごく怖い目で睨まれた。心臓が止まるかと思った。

 食べるだけ食べて動かないのは良くないと、食事の後はバドミントンやバスケットボールで遊んだ。鈴木はあまりスポーツが好きではなかったから運動不足はできればベッドの上で解消したかったのだが、薪に却下された。薪が自分から鈴木に迫ってきたのは新月の夜が過ぎるまでで、結局はいいようにあしらわれたのだと分かった。薪は自分の身体を餌に、鈴木を牽制したのだ。無論、鈴木は面白くなかった。
 昼間からするもんじゃない、とお預けを食らえば許しが出るまで待つタイプの青木と違って、鈴木は聞こえなかった振りで相手を押し倒すタイプだ。薪の「待った」は一切効かなかった。
 せめて建物の中で、と恥ずかしそうに身を捩る彼を樹に縋らせて、後ろから攻めるのは楽しかった。次第に高くなる薪の嬌声が森の木々に反響する。薪は木の幹に抱きつくようして、もう立っているのも辛いらしい。尻を突き出すようにしたから入れてやったら、それだけで達してしまった。
 鈴木の手から溢れ落ちたものが木の根や草に染み込んでいく。血も精液も汗も涙も、薪のDNAは既にエリアの至る所に浸潤していた。ダメ押しのつもり? と皮肉ったら、鈴木の意地悪、と涙目で怒られた。笑いながら抜き差しすると薪はすぐに感じ始めて、善がり声を上げながら鈴木を締め付けた。

 幸せだった。
 森の中で草原で。彼と一つになって、このままこのエリアに同化してもいい。そんな風にいつ滅んでもいいと、そう思えるくらいに幸せだった。
 恋人同士だった20歳の頃さえ、こんなに幸せじゃなかった。いつも人の目を気にしなくてはいけなかった。誰かに気を使わなければならなかった。でも、ここなら誰にも遠慮は要らない。完全なる二人だけの世界。永遠に続けばいい。

 一欠片の不安もないわけではなかった。管理局に見つかったら、薪とは別々のエリアに閉じ込められてしまう。エリアは管理局の管轄外で、これまでただの一度も局の人間がここを訪れたことはないが、発覚する可能性はゼロではない。そんな不安が、鈴木にあんな夢を見せたのかもしれない。
 夢の中で、鈴木は画面に呼び掛けていた。
『おまえのせいじゃない。おまえが悪いんじゃない』
 ここに来たばかりのころ、画面の中の薪に向かって幾度となく繰り返した。その自分の姿を鈴木は夢に見た。ひどく辛い夢だった。これは夢だと分かって、それでも涙が止まらなかった。
 夜中に目が覚めたら頬が濡れていて、鈴木は一瞬、夢と現実との境があやふやになった。だけどすぐに自分の腕の中、薄闇の中に薪の寝顔が見えて、胸を撫で下ろした。ぎゅっと抱き締めると、薪はうるさいと言わんばかりに鈴木の顔を手で押しのけ、向こうに寝返りを打ってしまった。ふうん、と鼻に抜ける呼気と寝息が聞こえて、思わず笑ってしまう。鈴木が抱きしめてやらないと眠れないくせに、勝手なやつ。
 鈴木はその晩、薪の背中に額をつけて眠った。

 翌朝、薪はいつものように鈴木より早く起きて、朝食を作りに台所へ向かった。キッチンから調理器具の音が聞こえてきてから、鈴木はそっと身を起こした。音を立てないよう注意して、床に設置されたパネルの前に座る。起動スイッチを押し、右上の数字を確認した。

 やはり進んでいる。

 この数字は画面に映像が流れたトータル時間、つまりカウンターだ。管理局はこのカウンターで鈴木の生息を確認している。これは他のエリア居住者も同じで、管理局が支給したアイテムにはすべて内蔵されている。図書室なら取りだした本の数、ロボットペットなら話し掛けたり撫でたりした回数。長期間カウンターに変化がなければそのエリアの住人は自然消滅した可能性が高いということになり、管理局が現地調査の上エリアそのものを消滅させることになっている。管理局は管轄外の仕事には杜撰で、100年以上もほったらかしになっている無人エリアもあるらしいが、一応はそういう決まりだ。
 薪がここに留まることになってから、鈴木は画面を見ていない。必要が無くなったからだ。管理局に鈴木の生存を確認させる為に動かす必要はあるが、週に一度くらいで充分だと考えていた。

 鈴木はシステムの履歴を調べた。ほぼ毎晩、深夜にカウンターが動いている。履歴から直前の画を表示させると、果たしてそれは薪が入院している病院だった。
 画面に落とされた鈴木の眼が、暗欝な光を宿す。未だ、意識不明の薪に寄り添う青木の姿。彼の方が重病人みたいだった。頬がげっそりとこけて、そのやつれ方は点滴で栄養を補っている薪よりもひどい。
 彼を心配した先輩が付き添いを代わると言っても聞こうとしない。この辺の頑固さは薪といい勝負だ。

「オレのせいなんです」と青木は苦しそうに眼を伏せた。
『ミラーで、トラックが突っ込んでくるの見えたんです。オレがちゃんと避けてれば』
『おまえが咄嗟にアクセル踏んでハンドル切ったから、薪さんの身体は潰れずに済んだんだ。怪我だって打ち身くらいで。ただ、打ちどころが悪かった。それはおまえのせいじゃない』
『違います。あの朝薪さんは電車で出勤する予定だったんです。それをオレが前の晩ちょっと無理させちゃって、そしたら寝坊して、出勤前に眼を通すはずだった会議資料を読む時間がなくなってしまって。車の中で読めばいいって提案したのもオレなんです。みんなオレのせいなんです』
『偶然が重なっただけだろ。おまえのせいじゃないって』
『いいえいいえ、本当にオレのせいなんです、オレが悪いんです。悪いのはオレなのに、どうして薪さんがこんな……そうだ。薪さんとオレ、入れ替わればいいんだ。岡部さん、オレ、前に薪さんと身体が入れ替わったことあるんですよ。またあの時みたいに入れ替わることができたら』
『青木、おまえホント寝た方がいい。眠るのが無理ならせめて横になれ』
『嘘じゃありませんよ。狂ったわけでもありません。本当にオレと薪さんは』
『分かった。分かったから、とりあえず顔洗ってこい。この病室以外の空気を吸ってこい』
『嫌です。薪さんの傍を離れたくありません。オレが一瞬でもここを離れたらきっと……死なないで……薪さん、死なないでください』
 動くことのない細い手をぎゅっと両手で握り直し、青木は祈るようにそこに自分の額をつけた。

 鈴木は画面から顔を上げて瞑目した。しばらくしてから薄眼を開けると、画面の前に声を殺して泣き伏せる薪の幻が見えた。否、それは決して幻ではない。何時間か前の現実だ。
 だって鈴木には分かってしまう。これを見た薪がどれだけ苦しかったか。
『おまえのせいじゃない』
 それは鈴木がずっと薪に言い続けてきたこと。今も思い続けていること。
 薪は、オレに対して何の責任も持ってはいけない。

「……あー。くっそー」
 鈴木は仰のき、瞼を手で覆った。涙を堪えようとしたが無理だった。ずっと一人でいたせいで、感情を抑えるのが不得手になっている。

 上を向いたまま、ブラインドタッチで画面を操作し、お気に入りのフォルダを出した。鈴木は涙を拭き、一つの動画を選択した。
 画面にはスーツ姿の男性が数名。一人だけ60代と思われる陰気くさい小男が混じっているが、他はみんな30代から40代の働き盛りだ。陽光の入らないモニターだらけの部屋で、彼らは生き生きと仕事をし、充実した毎日を過ごしている。そんな何処にでもある仕事場の風景。
 彼らに混じって、薪の姿があった。
 部下に指示を飛ばし、捜査の舵を取り、彼らを導く迷いない背中。
 厳しく凛々しく気高く。部下たちの尊敬と信頼を集める第九の室長。
 やっぱり薪は、仕事をしている時が一番輝いている。

 鈴木は苦笑した。苦笑して、決めた。これは男のけじめってやつだ。

 画面では決定打を発見したのか、喜び勇んでモニターを指差す青木とそれを覗き込む職員たちの笑顔。その後ろで軽く拳をぶつけ合って解決を祝う岡部と薪の姿があった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Nさまへ

Nさま。


>はほきくふぅん!!(訳:青木くぅん)(;_;)(;_;)(;_;)
>口から赤いもの出しながら読んでますけど

Nさんが大変な状態に(笑)←笑うとこか?
だから無理しないでって言ったじゃん~~~~。

あ、こんなところでなんですけど、「青木さんとツバメ」拝見しました。
一瞬、だれ? と思うくらい青木さんがカッコよかったですw
あれはNさんにしか描けないねえ。



>しづさんはこのお話書いていて楽しかったんでしょうか

うん、楽しかったよ! ←言いきった、ドSの鑑。

書いてる最中の自分の気持ちって、実はよく覚えてないです。
でも書いてて楽しくなかったら書き上がってないんじゃないかな。辛かったら書かない、と思う。だって仕事じゃないもん。


>しづさんが何を書きたかったか、鈴薪さんにどんな結論を出したかったのかを見るために読んでいます。

このお話のテーマはもう少し先です。
終盤の、(12)(13)あたりですね。そこにクライマックスを持ってくるためのS展開と極甘鈴薪です。
……嘘じゃないって(笑)



>青木くんの今の状況

ご、ごめんなさい。もうこれは謝るしかないです、ごめんね。
経験に裏打ちされた痛みを感じてしまうのですね。きついですよね。本当にごめんなさい。


>次は絶対ラブラブで青木くんがカッコ良く活躍する青薪さん

それは木によりて魚と言うか水中に火を求むと言うか法十にラブラブな青薪さんと言うか。←どんだけ。

とは言え、わたしもいい加減青薪不足で寝込みそうなんで、なんとか年内にはこの話終わらせて、年明けには青薪さんの短編公開しようと思ってるんですけど。こないだ書いた長編はどうも気に入らなくて推敲が長引いている上に青木さん殆ど出てこないんで、別の話を。
あと4章で終わりなんで、辛抱してつかあさい。


>(しづさん好きです)

わたしもです(^^) ↑↑ 呟きの中から都合のいい部分だけ拾ってみました。

Aさまへ

Aさま。

12月22日にいただいた拍手コメントのお返事です。遅くなってすみません、てか、年変わっとるがな。
お話終わってからコメント返すのって間抜け感がハンパないのですけど(^^;) 
お返事させていただきますね。



>薪さんが今のまま鈴木さんといると地上の薪さんは意識不明のままなのですか。

あ、これは普通に死にますね。<おい。
身体が持たないんで。本当の死人になっちゃいます。


>鈴木さんは誰よりも薪さんの幸せを望んでいると思います。
>生きていた時も自分の出世より室長の薪さんをサポートすることで満足していた人ですから・・

出世には興味なかったみたいですね。
自分にとって本当の幸せが何か、分かっている人だったのでしょうね。
そのために自分のすべてを捧げることができた鈴木さん。本当は、すごく満足のいく人生だったのかもしれませんね。

Nさまへ

Nさま。

>しづ薪さんお誕生日おめでとう!!!!

ありがとうございますー!
12月24日のクリスマスイブはうちの薪さんの誕生日でございました!
作者もすっかり忘れておりました(こら)のに、読者の方が覚えていて下さったなんて、感激ですー!


>今日24日の男爵様は何をしてらっしゃるのかなー(≧∀≦)

ここから先のNさんの妄想が可笑しいです。


>(※通常勤務してる)
>(※何なら食べない眠らない喋らないの倒れますモード突入中)
>(※記念日とか関係ない)

さすがNさん、的中率100%ww


>(※鈴木さんは6速ギア入るけど青木くん安定のオートマチック対応で通常運転)

薪さんが倒れそうでもマイペースな青木さん(笑)
そう言えば、薪さんが大臣に殴られた時も我を失ったのは岡部さんで、青木さんは穏やかにハンカチ差し出してましたね。青木さん、大人だな~。


>(※夜に6速ギア入れたらお約束の倒れましたお預けモードで安定のしづさん所の青薪さん妄想)

当たってます。
的中率120%を超えましたwww


Nさんは、クリスマスイブ、いかがでしたか?
楽しく過ごせましたか?

わたしは夜の10時まで仕事してお義母さんが用意してくれた鳥モモとケーキを根性で食べようとしたけれど気持ち悪くなって喉を通らず、翌日の昼に食べました。疲れ過ぎて胃が……(^^;) 
お義母さん、ごめんなさい。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: