アイシテル 後編(11)

アイシテル 後編(11)







「鈴木、ちょっと待って」
「んー?」
「待てってば。どうしたの今夜、あっ、つ」
 薪が一晩でこなせる回数は2度が限度。それを超えるとしんどそうな顔をする。無理は重々承知の上。鈴木は薪の制止を聞き流し、彼の中の実を自身の切っ先で擦り立てた。鼻にかかったような甘ったるい声で泣き始めた薪に、鈴木は楽しげに、
「だってー。薪くんがあんまりカワイイからー」
「ふざけるなよ。ヘンだよ、鈴木。どうかしたの」
「どうもしないよー。薪が好きなだけ」
「ごまかすなって、ああんっ」
 今夜はこれで4度目。多分、これが終わったら眠ってしまうだろう。

 情事の後、薪は普段よりもよく眠る。ちょっと突いたくらいじゃ起きない。その癖を利用することにした。
 予想通り、達すると同時に眠ってしまった薪の身体を綺麗にしてやって、自分も身なりを整える。新品のワイシャツに袖を通し、十年ぶりにネクタイを締めた。身が引き締まるような気がする。男の戦闘服はやっぱりスーツだ。
 薪も裸ではさすがにまずいと思い、服を着せようとした。簡単に着られるシャツとズボンを用意したが、これがなかなかに難しい。
「よくこんな面倒なことやってるよ。青木くんは」
 腕も脚もふにゃふにゃで、服が通っていかない。無理に行うと起こしてしまいそうだ。結局は諦めてシーツで包むことにした。
「ほんとエライよなあ。若いのに。なあ、薪」
 鈴木の腕の中で安心しきって眠っている薪に、鈴木は小さく語りかけ、額に最後のキスをした。

 ベッドを離れて画面の前に立つ。準備はできた。後は待つだけ。
 新月の夜のように障壁が目立って弱まることはないが、それでも時刻は大事だ。深夜二時から三時までの一時間、僅かだが薄くなる。そこに懸けるしかない。

 鈴木の背後で、誰もいないはずのベッドがギシッと音を立てた。振り向くと美香が座っていた。ミニスカートから伸びた脚を組み、可愛らしい唇を不満そうに尖らせている。
「彼と心中でもする気?」
「まさか」
「今夜の月齢は9.2。あんたにその気がなくても結果は同じよ」
「大丈夫だよ。薪はオレが守るから」
「大きく出たわね。あんたの力なんて所詮」
 美香はふと言葉を止めた。

「あんたまさか」
 軽い女だけれど、美香は頭が良い。鈴木の好みに合わせて薪を弄ったら自然にそうなった。
 彼女はすっくと立ち上がり、鈴木の前に回った。画面と鈴木たちの僅かな隙間に自分の身を滑り込ませ、強制的に鈴木を後ろに下がらせた。
「それをしたらあんたは消えちゃうのよ。ここで彼を待つこともできなくなる」
 断言されて苦笑した。状況判断も予測計算も完璧だ。天才なんか、モデルにするもんじゃない。
「ねえ、いいこと考えた。次の新月まで待つのよ。そうすれば」
「それまでは薪の身体が持たない」
「今行ったらあんたの身体が持たないわよ!」
 しっ、と鈴木は唇に指を当て、声のトーンを下げるよう美香にサインを送った。美香は顔をしかめて舌打ちし、盛大に眉を吊り上げた。

「だいたい、彼の気持ちはどうなの。ちゃんと了解を得た? あんたが勝手に突っ走ってるんじゃないの?」
 薪の意識がないのを見れば、これが鈴木の独断であることは明白だった。薪の協力は望めないが、抵抗されるよりはマシだ。
 彼女の切り口は鋭く、鈴木は彼女を納得させるためのいかなる言葉も持たなかった。鈴木の行動を止めようとする彼女の態度はしかし、鈴木の心の迷いに過ぎない。何故なら彼女は鈴木が慰みに作り出した人形。鈴木の頭にない行動は決して取らないのだ。
「なんのためにこれまで待ったのよ。孤独に耐えてきたの」
 彼女の言葉は鈴木自身の言葉。本当にこれでいいのかと、その覚悟はあるのかと自問する、鈴木の弱さであった。
「今みたいな時間を彼と持つためじゃないの」
 鈴木を責めながらも、美香は涙を流した。彼女の泣き顔を見たのは初めてだった。鈴木が堪えた涙の分だけ、彼女が代わりに泣いてくれたのかもしれない。鼻の頭を真っ赤にして、お世辞にも美しいとは言い難い泣き顔だったけれど、最高に可愛いと思った。

「大丈夫だよ、帰ってくるから。いい子で待ってて」
 何の保証もないどころか自分でも無理だろうと思っていたけれど、鈴木は美香に約束をした。泣いている女の子がいればその涙を止めてやるのが男の仕事だ。
「男って本当にバカね」
 呟いて、美香は身を引いた。彼女はもう、鈴木を引き止めなかった。

 壁の時計が午前二時を指した。時間だ。

 鈴木は美香に笑い掛け、「行ってきます」と足を踏み出した。自由落下の速度で二人は画面に飲み込まれ、部屋には誰もいなくなった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Sさまへ

12月23日に拍手コメントいただきました、Sさま。
お返事ごっつ遅くなって済みませんー!


>やっぱり鈴木さんは保護者だねっ。

ねー!
鈴木さんはこうじゃないとねーっ(^^

鈴木さんの株、上昇してますか?
ありがとうございます。
うちの鈴木さん、ケーハクでお調子者ですけど、薪さんに対する愛だけは本物です。


Sさん、お昼お弁当なんですね。
いいな~、Sさん、料理上手ですものね~。
Sさんの作った卵焼き、一度でいいから食べてみたいです(涎)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: