アイシテル 後編(12)

 そうかあ、世間はクリスマスだったかあ。フツーに10時まで仕事してて気付かなかったよ。

 うちの薪さんにハッピーバースデーのお祝いコメントありがとうございました。
 わたしも忘れてたわけじゃないんですけどすみません忘れてました。だって今、現場4つだよ。書類も設計書も頭の中で混ざる混ざる。薪さんならこんなことないんだろうなあ。ああ、優秀な脳みそが欲しい。


 お誕生日SSはまた後ほど。
 コメントのお返事も、すみません、今日で仕事納めなんで少し待ってください。
 
 鈴薪SSはクライマックス突入です。(ドS展開突入とも言う)
 残り3章、よろしくお付き合いください。




アイシテル 後編(12)








 落ちるような感覚が薪の意識を目覚めさせた。誰かに抱かれている。匂いで鈴木だと分かった。
 薄く眼を開けて様子を窺う。辺りは真っ暗で、遥か下方に街並みが見えた。夜中に撮影した航空写真のようだ。どうやら夜空にいるらしい。西の空に下弦の月が浮かんでいるから、時刻は夜半過ぎ。嫌な予感がした。

「ここどこ」
 質すと、鈴木の腕がぎくりと強張った。薪の眉が険しく寄せられる。薪に知られたら都合の悪いことをしているのだ。
「鈴木。説明しろ」
 薪が促しても、鈴木は無言のままだった。薪を抱いたまま、ゆっくりと下方に降りていく。しかしその飛行は安定せず、時折エアポケットにでもはまったかのようにガクンと落ちる。先刻の失墜感はどうやらこれだ。
 高度何百メートルの失落に、薪は思わず鈴木の身体に抱きついた。
「えっ?」
 腕を回してみて驚いた。薪の腕が簡単に回ってしまうのだ。太さがいつもの半分くらいしかない。見掛けは変わらないのに、中身は空気に置き換わってしまったかのようにスカスカだ。地面に近付くにつれ、それはますます酷くなり、建物の上に降り立った時には鈴木の身体は薪と同じくらいの太さになっていた。

 二人が降り立ったのは病院の屋上で、薪にはもう大凡の察しが付いていた。身体が一方向に引かれるような感覚がある。その先に、死に損ないの自分がいるのだ。

「鈴木。身体、どうしたんだ」
「仕方ないんだよ。使っちゃったから」
「使った? 何をどこに」
 薪の問いを、鈴木は笑ってはぐらかした。予想は付いたが信じたくなかった。
「障壁は全部で4つあって。3つまでは何とかなったんだけど、最後の障壁が残ってて」
「……何の話をしている」
 聞きたくもなかった。ここまで来てしまっては戻ることも不可能だと、理解するのも嫌だった。
「おまえの力がないと通れそうにない。だから協力してくれ」
「だからなんの話だよ!」
 愚かな自分をこの場で滅ぼしてやりたかった。
 薪は、地面に自分の血を含ませればあの世界から出られなくなると思い込んでいたが、そうではなかったのだ。もっと他の、大切な何か。今となっては確かめる術もないが、それは薪の生還を完全に否定するものではなかったのだ。

「騙したな」
「なんでそんなに怒るかなあ。せっかくここまで送ってきてやったのに」
 やれやれと鈴木は肩を竦めた。苦笑いした彼の顔はとてもハンサムだったけれど、今はそれにときめいている場合じゃない。
「なぜ勝手なことをした。僕がいつ帰りたいなんて」
「おまえの居場所はあそこだよ」
 あそこ、と鈴木が指を指す。下方のコンクリートが透けて、建物の中が見えた。
 どうやら今夜が峠だと、聞いて集まった人々で病室はいっぱいだった。小野田に雪子夫婦、第九の部下たち。待合室で額を寄せ合う者も大勢いた。

「みんなの顔が見えない?」
 みな一様に項垂れていた。刻々と弱まっていく薪の心音が聞こえているかのように、悲痛な表情だった。
 薪とは一滴の血のつながりもない彼ら。だけど薪の身を心から案じて、こんな夜中に駆けつけてくれる。一睡もせずに薪の無事を祈ってくれる。薪の大切な人々。
 あの中に、自分はいた。彼らに囲まれて過ごしていた。
 ――幸せだった。
 幸せで、あまりにも幸せで。
 長くは続くまいと、自分には過ぎた境遇だと、心のどこかで諦めていた。でもこうして彼らの悲しむ顔を目の当たりにすれば、諦めることはないのかもしれないと、許されるのかもしれないと、思えば薪の中を強い衝動が突き抜ける。

 みんなのところに帰りたい。

「さ、薪。今なら大丈夫だ。行って」
 薪の心を見透かしたように、鈴木が薪の背中を押した。ハッと我に返って薪は、夢中で首を振る。自分でも気付かなかった涙が飛び散った。
「いやだ」
「わがまま言うなって。もう本当に無理なんだよ」
 鈴木は薪に近寄り、その頬に手を伸ばした。薪の眼は自分の頬に触れる鈴木の指先を見ることができた。しかし、その感触は得られなかった。
「ほら。おまえに触ることもできない」
 その事実が薪に確証をくれた。
 人間がこの世に存在したい、生きたいという意志。それが障壁の通行料なのだ。ここに至るまでに通ってきた3つの障壁、そのとき薪は眠っていた。つまり、鈴木一人の支払いで二名が通過してきた。
 これが新月の夜なら障壁も弱く、鈴木は薪を地上に送った後に自分の世界に帰ることができたのだろう。だが薪が思いもよらぬ行動を取ったため、その計画は頓挫した。結果、鈴木は片道で力を使い果たし、自分の世界へ戻ることもできなくなってしまった。

「どうして」
 薄れていく鈴木の姿に、薪は背筋を寒くする。
 消滅、という言葉が脳裏をよぎる。鈴木が消えてしまう。また、自分のせいで。

「どうして鈴木は何度も」
 僕に鈴木を殺させるんだよ。

「死なせない」と薪は激しくかぶりを振った。
 どうしたらいいかなんて分からない。でも絶対に死なせたくない。二度も鈴木を殺せない。
「大丈夫。オレは死なない。帰る方法も見つけてある」
 え、と薪が眼を瞠ると、鈴木は薪の2つ隣の病室を示した。折しもそこでは、年老いた一人の男が息子夫婦に看取られて息を引き取ったところだった。
「あのおじいさんに途中まで乗っけてもらうの」
「……お年寄りを乗り物にするのはちょっと」
「緊急事態だから。きっと神様も許してくれる」
 鈴木は昔からちゃっかり者だった。お年寄りや子供にも好かれるタイプだし、あのおじいさんだって道案内が欲しいはずだから、快く鈴木の頼みを聞いてくれるだろう。だけど。

「薪を連れていくことはできない。そこまでの力はない。分かるだろ」
「平気だよ。二人の後をついていくから」
 もう二度と鈴木を一人にしないと誓った。薪自身、鈴木と離れたくなかった。しかし。
「生きて欲しい」
 その言葉が薪の足を止めた。
「オレは薪に生きて欲しい。共に過ごすよりも、生きていてほしい」

 ここにいる者すべてが。それを願っている。
 一人残らずそう願っているのだ、薪以外の人間すべてがそれを。

『神さま。どうか薪さんを』
『お祖父ちゃん、薪さんを助けて』
『親父。薪さんを守ってくれ』
 聞こえてくる、彼らの祈り。彼らの信じるありとあらゆるものに縋って、あちらでもこちらでも、数知れぬ祈りが繰り返される。それはひどく滑稽で、でも泣けてくるほどに温かで。もう薪は涙を止めることができない。

『克洋君。薪くんを連れて行かないで』
『鈴木さん。薪さんを連れて行かないでください』
 薪の女友だちと恋人が、揃って鈴木の名前を挙げた。鈴木はムッと眉を寄せ、薪に理不尽だと訴えた。
「なんか納得できないんだけど。薪、ちゃんとあいつらに説明しといてよ?」
 まあ、戻ったら記憶は飛んじゃうけどな。
 苦笑する鈴木を見て、やっぱりすごくハンサムだと薪は思った。

「大丈夫。伝えるよ」
 薪は涙を拭い、鈴木に背を向けた。背中に鈴木の視線を感じる。いつも自分を見守ってくれた、やさしい瞳。支えられて薪は決断し、一歩を踏み出した。
「ひぇっ?!」
 途端、ぐぐん、と下方に足を引っ張られ、薪は頓狂な声を上げた。
「ちょ、なに、ひ、ぎゃああああ!!」
 薪は悲鳴を上げながら、凄まじい勢いで自分の肉体に引き寄せられていった。鈴木にも予想がつかないことで、慌てて下を覗き込んだ。
 たった一歩、薪が自分の意思で動かしたのはそれだけだった。その後、彼を運んで行ったのはおそらく、沢山のひとの思い。それが一つになって彼の魂を肉体に引き戻したに違いなかった。
 100人対1人の綱引きのようなもの。薪に勝ち目はなかった。

 加速度で強張った顔で振り返り、薪は叫んだ。
「行くからな!」
 消えかけた鈴木に、大きな声で語りかける。彼の耳にしっかりと届くよう、薪は声を張り上げた。
「ぜったいに鈴木の所へ行くから! 首洗って待ってろ!」
 騙された恨みは忘れないからな、とそれはとても薪らしい言い草で、愛を交わし合った恋人たちの別れにはまったく相応しくない。だって、これは永遠の別れじゃないから。

「すず」
 薪は、彼の短い名前を最後まで言うことができなかった。
 終いには闇と同化して、顔もよく見えなかった。でも最後に、鈴木が笑ったような気がした。






テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Eさまへ

Eさま。


>心臓千切れます・・・

\(゜ロ\)(/ロ゜)/
すみませんー! 
予告通り、途中、すずまきすとさんにもあおまきすとさんにも怒られる展開になってしまいました。ごめんねっ。

さらに申し訳ないことに、わたしにとって「筆が乗る」=「ドS展開」ってことで、書いてる本人はとても楽しかったのです。
だから、
うちに来てくれるあおまきすとさんはいつも今のEさん状態なわけですよ。可哀相だよねえ? ←鬼か。


>残りあと少しでしづさんの鈴薪祭も終わってしまわれるのですね、寂しいです(;ω;)

はい~、当ブログの鈴薪祭りは年内で終了いたしました。
法十の2013年は鈴薪に始まり鈴薪に終わる、立派な鈴薪ブログでしたね。鈴薪話、150Pくらい書いたし。やっぱり原作の影響って大きいな~。

新年からは、EさんとAさんの所の鈴薪さんを楽しませていただきます。よろしくお願いします(^^



Aさまへ

Aさま。


>うわぁぁん(тдт)予想していたとはいえ、やはり辛いです(><。。

こっちも!!
\(゜ロ\)(/ロ゜)/

ごめんねーっ!!


>ジェネシスの最後で言っていたように皆が薪さんを愛してることを知ってるから。

薪さんの幸せは、みんなの願いであり、自分の願いでもある。
鈴木さんは薪さんの壮絶な過去を知っているが故に、みんなの薪さんに対する愛情をも受け継いでしまったのかもしれませんね。彼を守ることはみんなに託された使命と自分に課していたのかも。


>薪さん、ハッピーバースディ!

どうもありがとうございます(^^
兵長は12月25日なんですか? へえ、バンコランと同じだー。
ツイッターからはすっかり遠ざかってしまったのですが、盛り上がってよかったですね。

うちの薪さんはその1日前、クリスマスイブの生まれです。
みんなに誕生日を忘れ去られるベスト3に入ってる、と予測しますww
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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