アイシテル 後編(13)

 45000拍手ありがとうございました~。
 いつもいっぱい励ましていただいてありがとうございます。感謝を込めてお礼SS、……来年の春でいい?(^^;)
 11月からずーっと捏ね回してるセーラー服SSはデキがよくないのでお礼にするにはちょっとアレで、新しいお話も書きたいのですけど、うちの会社、年度末にかけて仕事が佳境なので、一段落してからお話を練りたいと思います。

 公開中のお話も佳境でございます。あ、苛凶?(笑)







アイシテル 後編(13)






 草原に寝転んで、鈴木は夜明け前の空を見上げていた。
「爺ちゃん、上手く天界に行けたかな」
 老人は回り道をして、鈴木をエリア上空まで送ってくれた。まだ若いのに可哀想に、と同情されたらしい。親切な人で良かった。
 老人のペースで帰ってきたから、行きよりも時間が掛かった。ひどく疲れていたので、少し休むことにした。それが未練だと言うことは分かっていたが、いまさら見栄を張ることもない。どうせここには鈴木一人だ。
 鈴木はそう考えていたが、それは違った。鈴木の頭の上に人影が差し、うっすら眼を開ければそこには長い脚を惜しげもなく晒した若い女の姿。
「帰って来れたんだ」
「約束したっしょ」
「そうね」と美香は腕を組み、やるせなく息を吐いた。

「でもやっぱり駄目みたいね」
 ボロボロじゃん、と美香に言われて自分を見れば、あちこちのパーツが欠け落ちている。腕なんか骨が見えてるし。
「イケメン幽霊台無し」
「幽霊っていうかゾンビだよね、これ」
 立ち上がろうとしたら右足が折れてしまった。薪に言われたとおり、もっと野菜を摂っておけばよかった。
「美香ちゃん、肩貸してくれる」
「イヤ。服が汚れる」
 口では文句を言いながら、美香は鈴木の腕を自分の肩に回し、脚を踏ん張って立ち上がった。ゆっくりと、家路を辿り始める。
 鈴木には為さなければいけない仕事が残っていて、美香はそれを知っていた。鈴木がここに帰ってこなかったら、彼女がそれをしてくれただろう。そのために鈴木は貴重なエネルギーを割いて、美香をここに残していったのだ。

 やっとの思いで家の中に入り、目的の場所に到達したときには夜が明けかけていた。開け放たれた寝室の窓から、東に広がる森の上空が白く輝く様子が見える。いつも通りの美しい夜明け。
 見られるのもこれで最後だと思ったら、余計に美しく思えた。

 鈴木は床に屈んで、画面を操作した。パスワードを入れてプログラムを起動させる。画面に浮かんだYES/NOの二択を、鈴木は迷いなく選び取った。それを3回繰り返し、やっとイベントがスタートする。画面に最後に浮かんだ文字は4ケタの数字だった。真ん中にコロンが挟まれていて、つまりこれは時間だ。
 30:00と表示されたそれを鈴木は30分だと思ったが、右側の数字が目まぐるしく減っていく様子を見て間違いに気付いた。
「本当によろしいですか、って3回も聞く割に、制限時間はたったの30秒なんだ」
「逃げ切れないようになってるんじゃないの」
 美香の言う通りかもしれない。エリア居住者は自分のエリアから出てはいけないことになっている。エリアが消滅したからと言って、その辺をふらふらされては困るのだろう。

 鈴木が押したのは、このエリアの自爆スイッチだ。

 精神力の殆どを障壁の通行料に使ってしまった鈴木には、その存在を保つだけの力が残っていない。霊体は、気力が潰えた時が消滅の時なのだ。それは覚悟の上だった。しかし鈴木は、このエリアを残して消えるわけにはいかなかった。
 消滅させないと薪はこの世界の痕跡に引き寄せられ、寿命を全うしたときに天界に行けなくなってしまう。彼の意志に係わらず、ここに来てしまう。
 その後薪がどうするか。鈴木には手に取るように分かる。
 薪はこのエリア中を探し、鈴木が消滅したことを知るだろう。そして自分も消滅することを選ぶ。何故なら薪は、自分が此処にいたことを思い出すから。この地に残った彼のDNAが彼の記憶を呼び覚ますのだ。
 だから此処は壊さなきゃいけない。
 自分は鈴木の魂までも滅ぼしてしまったのだと知った薪が、新しい人生をやり直す道を選んでくれるとは思い難い。それは鈴木が望んだ未来じゃない。

 もしも薪が望むなら、この地で一緒に暮らしたいと思った。夢のように幸せだったこの10日間の、続きを彼と紡ぎたい。その夢が潰えた今、鈴木が彼に望むのはもっとずっと先の未来。
 生きて。
 輪廻の輪に加わって。何度でも生きて。
 オレと愛し合ったように、彼と愛し合ったように。新しい人生で新しい愛を育んで。

 どおん、と大きな地響きがした。窓から外を見ると、地面に走った巨大な亀裂に森が飲み込まれて行くところだった。森に生息する樹木すべてを食べつくしても、亀裂は止まることなく広がり続け、緑なす草原を荒れ地に変えながら家に迫ってきた。

 壊れていく。すべてが。
 二人で本のページを繰ったログハウスのテラスが、昼寝をしたハンモックが。ピクニックをした草原が、ダンクシュートを決めたバスケットゴールが。
 薪との思い出が染み込んだ、森が池が草原が。
 壊れていく。

 これでよかったんだ、と鈴木は思った。
 今になってやっと分かった。オレは薪を見守るつもりで、悪霊ってやつになってたんだ。
 オレが薪を守ってやる必要はない。あの青木って男がいる。あいつのおかげで薪はちゃんと笑えるようになった、あんなに楽しそうに。もう大丈夫だ。
 オレは、要らない。

 いつまでも薪を守る立場にありたくて、鈴木が創りだした楽園。そこに彼が来て、ここは本物のエデンになった。短い間だったけれど、鈴木と彼はエデンで愛し合った。
 充分だと思えた。

「悪いねえ、美香ちゃん。付き合わせちゃって」
「あたしはいいわよ。もともと、あんたがいなきゃ生まれなかったんだから」
 長い髪を後ろに払って、美香は鈴木を挑戦的に見上げた。その口元は意地悪く吊り上がって、これはあれだ、薪が何か皮肉をいう時の顔。
「あたしってさ、基本あんたのダッチワイフだったわけだけど。それなりに楽しかったわよ」
「口が悪いねえ。顔は可愛いのに」
「なに言ってんのよ。自分で似せたくせに」

 美香の言うとおりだ。
 好きだった。なにもかも。
 意地悪な性格も皮肉屋の悪癖も、かわいくて仕方なかった。不器用で、自分の気持ちを素直に表現できないところも好きだった。それから、何を考えているのか分からない独特の思考経路も。
 薪の特別な容姿や頭脳はもちろん、でもそれ以上に。鈴木は彼の複雑さを愛した。

 亀裂はとうとう家に達した。薪が飾ったタペストリが壁材もろとも床に落ちる。天井が割れ、照明器具が天板共々崩落する。
「美香ちゃん。怖かったらオレに掴まって」
 平気よ、と美香は余裕で答え、いっそう意地悪に笑った。
「最後くらい、本当の名前を呼んだら?」
 鈴木の首に腕を回して、美香はうっとりするくらい綺麗に微笑んだ。いつの間にこんなにいい女になったのか、創作者の鈴木がびっくりするほど美しい。
「どうせ無くなっちゃうんだし。あんたもあたしも」
 投げやりな美香の言葉に頷いて、鈴木がその名を口にしたのは制限時間の5秒前。

「薪」
 応じて鈴木の前に現れた彼は、鈴木の想像を遥かに超えていた。とても創れない、こんな人形は。想像することもできない、まさに絶世。
「遅いよ。いつまで待たせるんだよ」
 つややかなくちびるが幸せそうに微笑んだ。たまらない。身体の芯が蕩けそうだ。
 ああ、薪。本当に本当に。
「鈴木」
 薪の微笑みが目前に迫った。二人のくちびるが同時に動く。

『アイシテル』

 それが崩壊の呪文であったかのように。二人の世界は消滅した。





*****





 鈴木が消えるのと、薪が意識を取り戻したのは同時だった。
 ぼんやりと眼を開き、周りの人間が口々に自分の名前を呼ぶのを聞いて不思議に思った。ひどく身体が重くて声を出すのも億劫だったのだが、そこに自分の部下たちが勢揃いしているのを見たら黙っていることもできなかった。
「おまえら、仕事はどうした」
「薪さん、今は午前四時です。職務時間ではありません」
「午前四時?」
 大きく息を吸い込み、薪は怒鳴った。
「月曜の夜に揃って夜更かしとは何事だ! 満足な睡眠も摂らずにいい仕事ができるか! 全員、早く帰って寝ろっ!!」
「「「「「ええ~……」」」」」
 部屋中から不満の声が漏れたが、薪の耳はそれを捉えることなく。ふあ、と小さな欠伸をし、コトリと眠ってしまった。
 心配顔から呆れ顔に変わっていく部屋の中、ばたっと大きな音が響いた。何事かと一斉に振り返れば、気が緩んだのか、床に膝をつき薪のベッドに突っ伏して気絶するように眠っている青木の姿。
 なんて人騒がせな二人なんだ、と全員が同時に思ったことは間違いない。




<完>





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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