アイシテル 後編(14)

 年の瀬のご挨拶です。
 今年1年、当ブログにお越しくださった皆さま、ありがとうございました。
 2013年は鈴薪話の比率が多かったですね。振り返ってみたら1月の下旬に「きみはともだち」(前編)を公開してました。鈴薪に始まり鈴薪に終わる、立派な鈴薪ブログでしたね。
 来年はぜひ甘い青薪さんを書きたいと思います。胃薬の用意をお願いします。(え)

 今年の冬は仕事の都合で思うように更新できず、お話の続きを待ってくださった方にはすみませんでした。来年も2月末までは間延び更新になると思います。時々、覗いていただけると嬉しいです。

 2014年もどうぞごひいきに。うちの薪さんと遊んでやってください。

 


 鈴薪さん、最終章です。
 読んでくださってありがとうございました。








アイシテル 後編(14)






「『完』ね。そういうオチかよ」
 ひでえな薪、と親友のボケに容赦なく突っ込んで、耐え切れずに鈴木は吹き出した。床に転がり、腹を抱えて笑いこけた。

 画面には苦笑いしながらも三々五々散っていく見舞客と、倒れた青木の世話に大わらわの第九職員たち。最悪なことに彼らは、患者の急変を告げるためのナースコールで付き添いの体調不良を告げると言う、残念な見舞い客になり下がっている。
 どこまで人に迷惑を掛ければ気が済むのか、青木は気絶してまで薪の手を握って離さない。ここ数日でかなり痩せたとは言え、青木の巨体は簡単には動かせないし、見れば薪の方も無意識に握り返しているしで、「このまま点滴だけでも」という話になった。人騒がせもいい加減にしろよおまえら、と誰もが思い、やや乱暴に点滴の針が青木の腕に刺さるのを見て僅かに溜飲を下げた。

「甘いな。オレなら力づくで引きはがすね」
 クスクス笑いながら、腹這いになって画面を覗き込む。薪の寝顔には生気が戻り、規則正しい寝息は彼の健安を証明していた。
「よかったな、薪。ゆっくりおやすみ」
 ずっと昔、彼が自分の写真にしたように。鈴木は画面に映った彼にキスをした、その時。
「だっ!」
 誰かに頭を踏まれた。誰かと言っても心当たりは一人しかいないが。

「美香ちゃん。男の頭を足で踏んずけるって言うのは女の子がしていいこと?」
 育て方、もとい、作り方を間違えたらしい。
 鈴木の非難を受け流し、美香は鈴木の隣に座った。女の子が胡坐っていうのもちょっと、と小言を言い掛けた鈴木を、彼女の冷たい視線が黙らせる。ほんと、作り方を間違えた。
「なに復活してんのよ」
 あたしの涙返しなさいよ、と彼女は月から来たお姫さまのように無理難題をふっかけ、鈴木に向かって舌を突き出した。
「当たり前みたいな顔してさ。めっちゃ腹立つわ、あんたって」
 ハッ、と強く息を吐く、彼女の細い肩が機嫌よく波打っている。怒った顔の裏に隠されている喜び。こういうのに鈴木はとことん弱い。

「あれさ、やっぱり間違いだったんだって。薪の事故」
 口止めされた事実をぺらっと喋ってしまった。だって、美香があんまり可愛いから。
 え、と目を丸くした彼女に、鈴木は不謹慎にも寝転がったままで天界のトップシークレットを暴露した。この秘密のおかげで、鈴木は消滅を免れたのだ。

 鈴木のように消滅することを選んだ魂が最終的に何処へ行くのか。実は集められて混合され、また新たな魂として生まれ変わる。肉体を作るのは人間でもできるが、魂を作るのは神さまにしかできない。でも神さまは高齢な上にエライからなかなか仕事をしてくれない。だから魂は徹底的にリサイクルされるのだそうだ。
 管理局の係員によって攪拌機みたいなものに投げ込まれそうになったとき、鈴木は言ってやったのだ。
『オレは薪剛の死の真相を知っている』
 係員の手が止まって、驚いたのは鈴木の方だ。こんなハッタリが効くとは思わなかった。鈴木は何食わぬ顔をして言葉を重ねた。
『オレはこの事実を世界中に公表してやる。どんな手を使っても』
 極稀にだが、生まれ変わっても前世の記憶を持っている人間は存在する。鈴木が動物に生まれ変わればその心配は無用だが、管理局が鈴木の転生先を決められない以上、可能性はゼロとは言い切れない。

 係員は判断に迷い、鈴木を上司のところへ連れて行った。管理局の一室でしばらく待たされた後、居室にやって来たのは一目でそれと分かるお偉いさん連中だった。警察でも散々見てきた、権威を束ねる人間特有の匂いをぷんぷんさせていた。
『あなたでしたか、我らが英雄は!』
 脅迫されて口を噤まされるのかと思いきや、彼らは拍手と笑顔で鈴木を迎え、次々と鈴木に握手を求めた。単なる懐柔策にしては過ぎた歓迎ぶりだった。そこには、下っ端の係員には知らされていない事実があったのだ。
 管理局の上層部から直接聞いた驚愕の事実。それは。

「死神で、薪に惚れちゃった奴がいてさ。そいつが勢い余ってやっちゃったんだって。気づかずにナンバリングしてたら上の首がいくつも飛んでたって」
 鈴木が薪の魂を横取り、いや、誤った天界行きを阻み、しかも地上に返したことで、危惧された騒動は起きなかった。その功労者を、彼らはずっと探していたのだそうだ。こんな大胆な行動が取れるのは事情に通じ、且それなりに力を持った管理局員だろうと予想して内部調査を進めていたが、今回、鈴木の口から薪の名前が出て、初めてその真実が発覚したのだった。

「マジで」
「ほら。感謝状もらっちゃった」
「いや、そっちじゃなくて。死神が惚れちゃったってやつ。あっていいの、そんなこと」
「だって薪だもん。納得だろ」
「ったく、どいつもこいつも。狂ってる」
 吐き捨てる口調で横を向いた美香のはしたなく開かれた太腿に、管理局の紋章らしい優美な朱印と流麗な文字が踊る賞状を放り、鈴木は苦笑した。美香の言う通りだと思った。下界も間違いだらけだけど、此処も似たようなものだ。管理局の連中は神さまに命じられて魂の管理をしているだけで、神のように完全ではない。完全でない生物は間違いを犯すものだ。

 とにもかくにも、鈴木は不祥事を未然に防いだ英雄になった。鈴木にはそんなつもりはなかったのだが、相手がそう言ってくれるのだ。否定するのも悪いじゃないか。
 エリアも設備も、すべて新しく支給された。管理局が好意でワンランク上のエリアをくれたから、以前よりも広くて居心地もいい。なんと、今度のエリアには海まであるのだ。

「内緒にする代わりに、取引してきた。薪の魂はオレがもらう」
 薪の人生が終わって天界に昇り、管理局の説明を受けるとき。普通の人間の選択肢は二つだが、彼の選択肢は三つある。管理地に住むかエリアに籠るか、鈴木のエリアに定住するか、薪に選ばせる。それが鈴木の提示した秘匿の条件だった。
 管理局の重役たちは二つ返事でそれに応じ、重ねて感謝の言葉を述べた。
『分かりました、約束します。いやあ、本当に助かりました。お礼にひとつ、いいものをプレゼントしますよ』
 そんなものは要らない、と鈴木は答えた。その代わり、必ず約束を守るように念を押した。彼らは頷き、鈴木の無欲さを口々に称えた。自分たちの気持ちをぜひ受け取って欲しいと言われ、感謝状を渡された。プレゼントとはこれのことか。なるほど、ここでは金銭が価値を持たないから名誉が貴重なものなのだろう。せっかくだからもらってきた。

「もちろん、薪が望めばだけど」
 強制はできない。もしも薪が生まれ変わってまた大切な誰かと巡り合いたいと望めば、管理地へ行って欲しい。すべては薪の心のままに。

「来るよ。決まってるだろ」
 透き通ったアルトの声に、鈴木は弾かれたように起き上がった。隣にいたはずの妙齢の女性は、床に胡坐が似合う中年オヤジになっていた。服も普通の男性のそれになっている。何が起きたのか理解できず、鈴木は思わず息を飲んだ。
 美香は、勝手に自分の容姿を変えることはできなかったはずだ。それは鈴木が許さなかった。彼女は鈴木が創りだした人形、いくら自由気ままに振舞っているように見えても創作者の意思に背くことはできない。でも今、彼女は鈴木の支配下を完全に離れた。まるで一個の人間のように。

 びっくりして声も出せない様子の鈴木に、薪はにこりと微笑み、
「もうこのままでいいだろ。変装するの面倒だし。そもそも僕、女装は嫌いなんだ」
 咄嗟には目の前の光景を信じることができず、鈴木は固まった。動きも息も、思考も停止した。だって。
 本物の薪にしか見えなかった。つい先日までこの腕に抱いていた、彼そのものだ。
 外見なら鈴木にもそっくりに創れる、でもこれは違う。薪の周りをいつも取り囲んでいた雰囲気や内部から滲み出る美しさといった、鈴木には決して創れなかったものを彼は携えている。まるで魂が込められているかのよう。

 嬉しすぎて、泣くこともできなかった。
 管理局のプレゼントって、もしかしてこれ?

 鈴木は彼らの贈り物に感謝したが、これには少々裏がある。ざっと説明すればこんな経緯だ。
 失態を犯した死神は処分されて消滅したが、さらなる問題が起きた。死神の遺物である。死神のカマには、刈り取った魂の一部が付着するのだ。当然、薪のそれも残っていた。
 微量とはいえ有ってはならない魂の処遇に、管理局は頭を悩ませていた。先刻も述べたが、混合器に入れたとして記憶が残る可能性はゼロではない。何処かに捨ててしまいたい所だが、万が一、神さまに見つかったら大問題だ。更迭どころの騒ぎではない。人が苦労して創った魂を粗末に扱うとは何事だと、管理局そのものが解体されるかもしれない。彼らだって路頭に迷いたくない。

 そこに鈴木が現れた。解決案は満場一致で決まった。
 鈴木のエリアに捨てればいい。エリア居住者は神の意思から外れた者たち、神のご加護も得られない。つまり、神も彼らには関心がない。見つかる可能性は限りなく低い。鈴木にそれを気取られず、かつ自然に彼のエリアに薪の魂を持ち帰らせる手段として彼らが考え出したのが『感謝状』だった。

 英雄などと煽て上げて、結局は鈴木を利用したに過ぎない。提示された秘匿の条件も、彼らにしてみれば願ったり叶ったりだ。薪には罪はないが、この不祥事を永遠に隠し通すためには彼が天界に来ないに越したことはない。一個人が神と接触することは極めて稀だが、皆無ではない。そういう人間は下界に生まれて徳の高い宗教家などになるのだが、薪の身にそれが起きたらすべてが明るみに出てしまうだろう。
 だがこうして魂の一部を鈴木のエリアに留めておけば、自動的に薪はそちらに引き寄せられる。薪にご執心の鈴木が彼を放さなければ、万事、幹部連中の都合のよいように運ぶというわけだ。

 予想もし得なかった薪との再会を、窮地を救われた管理局の善意であると鈴木は解釈したが、世の中そんなに甘くない。でも、それは鈴木にはどうでもよいこと。美香の身体に薪の魂が入った時点で、管理局と交わした約束の証文となるはずの感謝状の朱印と文字は消え、ただの紙切れになってしまったが、そんなものはもう不要だ。

 薪がそこにいる。他のことなんかどうだっていい。

 鈴木の沈黙が少々長引いたので、薪は不安そうな顔をした。
「女の身体じゃないとダメ?」
 おずおずと訊いてくる。さっきはあんなに高慢だったくせに、今は気弱な少年みたい。でも次の瞬間にはきっと図々しいオヤジに戻ってる。定まらないのが薪の魅力。昔からちっとも変わらない。
 華奢な肩に手を掛けた。強く抱き寄せる。「ダメ」と鈴木は言った。
「歯止めが効かなくなる」
 鈴木の腕の中で、薪がふふっと笑った。


 閉ざされたエデンで。きみの分身ときみを待つ。
 それも一つの愛の形。



―了―


(2013.8)




 なんじゃこりゃな結末ですみませんー!
 年忘れってことで忘れていただいて、
 みなさま、よいお年をー!



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Jさまへ

Jさま。


>最初はどうなるのか、すごく心配してしまいました。

予告通り、あおまきすとさんにもすずまきすとさんにも怒られるような内容に(^^;
すみませんっしたー!


>死神に愛されるって、薪さんの場合十分ありえますよね。

あ、よかった。
ふざけるなって言われるかと思ってました(汗)


わたしも青薪命ですけど。
鈴木さんは薪さんという人を形作った人で、その薪さんを青木さんは好きになったわけだから、青薪は鈴薪を内包していると思ってます。鈴木さんの存在がなかったら、原作の青薪さんも家族になってないと思うな~。


>第十に来るといつも泣いて笑って様々な感情が湧き起ります。

ありがとうございます~。
読んで心を動かしてくださること、筆者冥利に尽きます。


>また来年もすてきな薪さんたちと出会えることを楽しみにしております。

こちらこそ、読んでくださってありがとうございました。
今年もよろしくお願いいたします(^^

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Aさまへ

Aさま。

コメントいただいてから10日も過ぎちゃいました、ゴメンナサイ。
新春SSの後に年末に終わったお話のコメント返すの、手遅れ感がハンパないです。


>13話で終わってたら立ち直れませんでした(;;)

あ、やっぱり。使わなくてよかった。

あのラストで終わるパターンもあったんですよ。
鈴木さんが消えてしまった後、薪さんにはエデンの記憶も無いし、鈴木さんが完全に消滅したことも知らない、でも涙が止まらないの。それはそれで美しいと思ったのですけど、わたし、グダグダが好きなのでww


>薪さん、必ず鈴木さんの元へ還って来てね!

来ますね、否応なしに。
DNAどころか魂の一部が残っちゃってますからね。
これもみんな天界の上層部の隠蔽体質のおかげと言うことで。地上でも天界でも、エライ人ってのはミスを隠すもんなんですよね。←偏見。

Eさまへ

Eさま。

鈴薪祭り、乗っけていただいてありがとうございましたー(^^
EさんとAさんのとこは今年もお祭り継続で、楽しませていただいてます。ありがとうございます。


SSの感想、ありがとうございました(*^^*)

>途中本当に心臓が千切れるかと思いましたが

ツイッターで見かけて、「げっ、Eさんの心臓が大変なことに!(@@;)」ってなりました。
宣言通り(?)、あおまきすとさんはおろかすずまきすとさんにも怒られる話だったですね。ごめんね~(^^;


>とっても素敵な終わり方で感動と萌を有り難う御座いました!!!

そうですか?
むりくりって気もしたんですけど、喜んでいただけたなら良かったです。


>そして悲しくも、13話での鈴薪さん消滅の描写が美しすぎて震えました・・・!!!
>もうなんで、しづさんこんなに素敵に描けるんですかっ!!!羨ましいです!!!

ありがとうございます~。
なんでって、そらー、しづがSだからですよ。←身も蓋もない理由。
こういう展開になると筆が乗る乗る。ドSの証ですww


>青薪さんSSの方も薪さん可愛らしすぎて、いじらし過ぎて気持ちがうーわーってなりますよ!

青薪でも鈴薪でも、一番大事なのは薪さんが幸せを感じてくれることなんです。
わたしはあおまきすとですけど、それ以上に薪さんの気持ちが大切です。だから最終回、青雪さんの復縁フラグも何とか受け入れようと努力しました。

ジェネシスで、鈴木さんが薪さんの傍にいてくれてよかったと思った。
あの過去を背負っているからこそ、青木さんは天使じゃなきゃいけなかったんだって思った。
鈴木さんも青木さんも、薪さんには両方必要な人なんだとわたしは思います。それぞれ、薪さんにとって一番必要で最適な時期に薪さんの傍にいてくれた。ジェネシスを読んで、そういう結論に達しました。



>この薪さんも本物!!!

本物ですよ~。魂が入ってますからね。
そして天に召された時は否応なしに鈴木さんのところへ来てしまうと(笑)

これね、正直に言うと、輪廻から外れてしまったわけですから、あまり良い終わり方じゃないんですよ。
でもまあ、この事が無くても薪さんは鈴木さんのところへ行くことを選ぶと思うし。結果は変わらないんじゃないかな。


>平井さんの歌の歌詞も今回のお話にぴったりですねー♪素敵な鈴薪ソングv

賛同いただいて嬉しいですー。
もともとが「ゴースト」という映画の主題歌なので、状況も同じなんですよね。幽霊になってしまった人が、残してきた自分の恋人を想う曲。
この曲を聞くと、「すずまきーーっっ」ってなります。



昨年は鈴薪話、たくさん書かせていただきました。ジェネシスの影響、大きかったです。
今年、メロディに秘密再登場とありましたが、おそらくは鈴薪話ですよね。すごく楽しみです(^^


>また、もし気が向いた時が御座いましたら鈴薪もお待ちしておりますv

はい、書きますよー。
その時はまた、よろしくお願いします。


ご挨拶が最後になってしまいましたが、今年もよろしくお願い致します。
良い年になりますように(^^

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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