ミラー(1)

 今朝は雪が降りましたね!
 下水道の現場に凍結防止の塩化カルシウム撒きに行ってきました。それは業者の仕事なのですけど、日曜日に降られるとちょっと悲しいです。


 さて。
 こちらのお話、「3年前の雑文その2」でございます。
 原作で青薪成就する前はこんなことも考えてたんだな~、と懐かしい気持ちになったりならなかったり。この時期に書いた話って、二人が一緒に暮らしてる話が多かったんですよね。原作の薪さんの恋愛模様がツライ時だったから、幸せな妄想に逃げてたんですねえ。


 時期は青薪さんが一緒に暮らし始めて半年くらい、です。
 あ、あとこの話、「ロジックゲーム」という話の後日談になっております。そちらを読んでないとちょっと分かりにくいかもです。よろしくお願いします。







ミラー(1)







 今まで別々の環境で暮らしていた者たちが一緒に住むには、ある程度の妥協とそれなりの忍耐を強いられるものだ。特に青木の場合、同居することになった相手というのが職場の上司、それも彼のボディガードとして、謂わば使用人に近い形で彼の家に住み込むことになったのだから、一歩も二歩もこちらが引かなければいけないと覚悟していた。

 覚悟などという言葉を使うと、青木がこの事態を憂いているように聞こえるかもしれないが、そんなことはない。踊りだしたいくらいうれしい、それが青木の本音だ。何故なら、この春から一緒に住むことになった上司というのは、実は青木が熱愛している恋人だからだ。
 ただ、彼は元来とても我儘な男で、しかも気が強い。性格も悪いし意地も悪い。ついでに酒癖も悪い。いつも自分が優位に立っていないと気が済まない性質だし、管理職特有の説教癖もある。良いのは顔とスタイルと……他に何かあったかな……いや、流石に顔だけってことはないと思うけど咄嗟には思い浮かばないなあ。

 とにかく。
 8年も共に過ごして相手の人となりは分かっていたから、一緒に住むとなったらかなりの我慢が必要だと、青木は相当の覚悟をしてここにきたのだ。
 愛し合って結婚した恋人たちでさえ、生活を共にするのは大変だと聞く。事実、結婚した友人たちは一様に、どんなに好ましく想った相手でも一緒に暮らし始めるとアラが見えてくる、とこぼしていた。
 女神のように優しい女性でも、時には感情が不安定になることもあるし、仕事で疲れて気遣いが足りなくなるときだってある。もっと具体的な例を挙げれば、デートの時は欠かさず化粧をして美しく着飾っていた彼女が、結婚して毎日家事をするようになれば自然地味な服装になり、その姿にときめくことも減っていく。そうなると男という生き物は、異性に対する高揚感や刺激を求めて他の女性に目を移したりするわけだ。
 が、薪の場合はもともと感情の波が激しい人だったし。やさしくしてもらった思い出なんか数えるほどしかないから、最初から期待してないし。容姿に関してだけは、そんじょそこらの女優なんか足元にも及ばないくらいの美人だから何を着ててもきれいだし、酔っ払って寝こけててもかわい………あれ? やっぱりオレって、顔だけで薪さんのこと好きになったのかな。……まあいいや。

 予想したよりも遥かに穏やかに過ぎていく毎日に、青木は夢を見ているような気分が拭い去れない。けっこう頻繁にやっていた口ゲンカも冷戦も、同じ家に住むようになったら意外なくらい起こらない。
 何故だろう、などと考えるまでもない。薪がケンカを仕掛けてこなくなったのだ。
 ふたりのケンカの原因は、99%が薪にある。青木は部下だし年下だし、何よりも薪にメロメロに惚れていたから、自分からケンカを仕掛けるような真似はしなかった。というか、できなかった。だから大抵は、薪が何か勘違いするか思い込むかして青木にさんざん当り散らした挙句、自分一人で勝手に怒っていたのだ。どうにも手が付けられない状態で、青木が引くと冷戦状態に、キレるとケンカになる。本当に扱いづらい人なのだ。

 それが一緒に住み始めたら、薪は牙が抜けたように大人しくなった。
 些細なことで怒らなくなったし、情緒不安定も治まった。世間一般に言われるところの「やさしい恋人」には程遠いが、意地悪される頻度も減ったような気がする。
 今だって、リビングのソファに二人で座ってそれぞれが好きな本を眺めているのだが、薪は横向きになって両足をソファの座面に上げ、青木の左腕に背中を預けるような体勢でくつろいでいる。いい感じだ。これで薪の見ている雑誌のページが「深田○子セクシー水着特集」でなかったら最高なのだが。
 住まいを別々に構えていた頃は、薪と一緒に過ごせる時間はとても少なかった。その中で、こんな風にゆったりと二人でくつろいだ記憶はあまりない。時間の長さの不足を深さで補おうとして、もっと濃密なふれあいを求める傾向が強かったように思う。
 それはそれで楽しかったけれど、青木は今のほうがいい。泊まりの仕事と出張のとき以外は必ずプライベイトの薪に会える。今の方が絶対にいい。

 定期購読しているカー雑誌の、新型車の見開き写真に見入ってる青木の横で、薪はひょいと身を起こすと、雑誌を置いて席を立った。何をするのかと見ていれば、仕事机からカッターナイフを持ってきて眺めていたページを切り取り始めた。
「なにしてるんですか」
「『今夜のフカキョン』に追加を」
 今夜の、というのはつまり、そういう目的のスクラップブックだ。薪は自分の恋人で、いや、生涯を共にしようと誓い合ったパートナーで、ベッドの中ではあんなに激しく青木を求めてくれるのに、どうして女の水着姿に興味を持つのだろう。
 青木はもう女性の身体を見ても何も感じなくなってしまった。美女を見ればきれいだなとは思うが、それは花を愛でるようなもので性衝動に結びつくことは無い。何年も前から、青木を欲情させるのは薪だけだ。

「どこがそんなにいいんですか?」
「胸と顔」
 なんて男の本能に忠実なひとなんだろう。ホクホク顔で、切り取ったグラビア嬢の胸の谷間を人差し指でなぞっている彼を見ていると、自分が本当に愛されているのかどうか不安でたまらなくなってくる。
「薪さん。オレと彼女と、どっちが好きですか?」
「ばっかじゃないのか、おまえ」
 ついつい真剣に訊いてしまって、薪に笑われた。
 笑いながら薪は固形のりのキャップを閉めて、水着率90%という不届きなオリジナル写真集を無造作にローテーブルの上に放り投げた。それからソファの上に膝で立ち、右手を伸ばして青木の頭をよしよしと撫でた。

「子供扱いしないでくださいよ」
「写真か映像でしか見たことのない女性にヤキモチなんて、コドモならではの発想だと思うぞ」
「コドモは嫌いですか?」
 額に当てられたやさしい手の感触を心地よく感じながら、だけど青木は唇を尖らせて、それこそ子供のようにふくれてみせる。
「いや。そうでもない」
 子供扱いされて本当に怒ったわけじゃない。これは恋人に対する一種の甘え。薪の瞳はやわらかく細められて、それは青木の甘えを快く受け止めてくれた証拠。

 細い指先が額から頭の後ろに回されたと思ったら、薪が額にキスしてくれた。そのまま顔を下にずらして、亜麻色の前髪を青木の額に擦り付ける。
「こう見えても、僕は子供の相手は上手いんだ」
「でしょうね。年も近く見えるから子供も安心するんでしょ」
 青木が悪戯っぽく笑うと、薪は押し付けていた額をわずかに離し、勢いをつけてごつんと青木の額にぶつけた。
 青木が思わず目をつむると、その隙に唇を奪われた。戯れにしては濃厚なキスに、青木の腹の底がずくりと波打つ。
 口の中に入ってきた彼の舌に自分の舌を絡ませようとして、青木は唇の角度を変えた。すると薪は青木の額に手のひらをあてて彼の接近を押さえ、さっと唇を離した。取り残された青木の舌が、口中で行き場を失う。
「な? 上手いもんだろ」
「子供相手に、こういうことしていいんですか」
 完全に遊ばれたと分かって、青木は眉根を寄せる。つい先刻まで恋人の唇を慈しむ形に開かれていた唇をできるだけ皮肉に歪めて、己のプライドを取り繕った。
「いつまでも子供じゃ困るだろ?」
 キスくらいで翻弄されない、と見せかけるも、黒い瞳に宿った熱情は隠せない。それを嘲笑うように薪は、ふふん、と高慢に笑って、ソファの上に青木の身体を押し延べた。
「僕が大人にしてやろうか」
「……よろしくお願いします」
「いい子だ」
 年下の分別をもって青木が引くと、薪は満足そうに笑って、身勝手に切り上げたキスの続きをしてくれた。

 何ヶ月か前にはケンカの引き金になっていた状況が、睦言を交わすきっかけになる。薪との間にこんな日が訪れるなんて、昔は想像もつかなかった。
 同じ家に住み始めたのは正解だった。
 一緒にいることで安定する。薪も、そして自分も。
 以前は、次にいつ会えるかわからないという不安から、ついつい過剰に彼を求めてしまって。明日の仕事のことも忘れて、明け方近くまで寝かせなかったこともあった。翌日、疲れた顔で職務をこなす彼を見て二度とこんなことはすまいと誓うのだが、次に逢瀬が叶ったときには喜びの方が勝ってしまい、また同じ過ちを繰り返してしまうというパターンが多かった。
 今は、そんなことも少なくなった。
 同じ家に住んでいるのだ。寝ているうちにどちらかが心不全でも起こさない限り、確実に会える。そう思ったら焦る気持ちもなくなって、程よいところでストップが掛けられるようになった。この場合の程よいところというのは、「薪の限界」という意味だ。青木の「程よいところ」にストッパーを合わせると、薪は次の日、自力で立てなくなる。

 無理をさせることが減ったからか、今日のように薪の方から誘ってくれることも多くなった。昔は青木から強引に仕掛けないと応じてくれなかったから、てっきり薪はセックスが嫌いなのだと思っていたのだが、自分の体力の範囲でならちゃんと楽しむことができて、それを期待する気持ちもあるのだと知った。
 でも基本的に薪が好きなのは、穏やかな気持ちで交わす意味のない会話とか、テレビを見ながら自然につなぐ手のぬくもりとか、そんなさりげない、いっそ取るに足らない些細なふれあいなのだと、そういうことも分かってきた。
 その特別でも何でもないコミュニケーションの中に、薪がどれだけの想いを込めているかとか、普段から眠りの浅い薪が夜中によく青木の寝顔を眺めていたりするとか、それは青木には知りようのないことだったが、それでも少しずつ、彼らの間には理解と融和の空気が育ちつつあった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

そうですねえ。
多少ギスギズしてても、睦言を言える相手がいること。それ自体が幸せなんですね。

鈴薪もお好きとのこと、嬉しく思います(^^
素直で甘え上手な薪さんは鈴薪、ツンデレな薪さんは青薪と、それぞれに魅力があるのですよね。どちらの薪さんも魅力的で、片方に絞れないのが実情です。エヘヘ☆
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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