バレンタイン・ラプソディ(2)

 またもや雪で頭が痛い現場代理人です。
 現場できない、工期間に合わないよー。
 泣きついたら工期延ばしてくれるって。いい監督さんでよかった。
 
 現場がお休みになったので、お話の続きです。

 の前に、読者の方から質問があった『男爵』について。
 
 ご新規さんには何のことやらですよね(笑)
 思い込みが激しくてカンチガイも果てしないうちの薪さんを、とある秘密ブロガーさんが「スットンキョー男爵」って呼んだのが始まりです。それから薪さんがスットコドッコイな行動をとるたびに「男爵」というツッコミが入るようになりました。
 他にも「カンチガイ大王」とか「やんちゃ小僧」とか、とりあえず薪さんにあだ名が付いた時点で二次創作的にはアウトだと思うんですけど(^^;
 いろいろな意味ですみませんです。
 このお話の内容もすみませんです。

 ほんと、このブログ、心の広い方じゃないと読めない。読者さまにはいつも感謝してます。ありがとうございます。


 




バレンタイン・ラプソディ(2)







「ぐうっ、なんて破壊力だ……し、室長! 大丈夫ですか、しっかりしてください! おい、誰か医者を呼んでくれ!!」
「医者なら此処に居ますけど。一体どういうことかしら」
 SOSを聞き付けた職員たちが何事かと室長室を覗けば、床に転がって悶え苦しむ岡部と、泡を吹いて倒れている薪の姿。床には開封されたラッピング袋が落ちていて、二人の身にどんな厄災が降りかかったかは明々白々であり、同時に、曽我と青木のチョコを奪った犯人も暴かれた。自業自得の見本みたいな人たちだ。
 いつの間に、と青木は思ったが、薪は小柄で物陰に潜むのが得意だし、岡部は尾行の達人で自分の気配を消すことができる。加えて薪は猿並みにすばしっこいので、青木の視線から逃げおおせ得ることは充分に可能だ。おそらく、雪子がばら撒いたチョコレートに全員の視線が集中した一瞬の隙をついたのだろう。

 盗っ人たちの哀れな末路に、職員たちは緊張した面持ちで、
「あ、危なかった……」
「命拾いしたな」
「だからどーゆー意味」
 一本調子で突っ込みを入れ、雪子は床に倒れた薪の傍に歩み寄る。
「ちょっと、ふざけるのもいい加減にして。市販のチョコを湯煎で溶かして固めただけで、どうして薪くんが泡吹くのよ」
 肩を揺すっても頬を叩いても目覚めない彼に、法一の女薪はマジギレ寸前だ。額に青筋を立てながらも面倒見のよい彼女は薪の半身を抱き起こし、薪の背中に膝を入れた。一見乱暴だが、これは柔道の活法という技で、脊髄に刺激を与えることで失神から覚醒させるのだ。

「はっ。……鈴木、いま鈴木が川の向こうに」
 本気で寸前まで行ったらしい。
 鈴木の名前を出されて、雪子の額の青筋が3本ほど増えた。怒りが大き過ぎて言葉にならない様子の彼女を懸命に宥める青木の横で、他の職員たちが薪を手厚く介抱する。彼のおかげで自分たちは被害に遭わずに済んだのだから感謝している、だけど、彼にこんな無謀を繰り返されたらこっちの身が持たないから、職員たちの口調はついつい説教じみたものになる。
「欲張るからですよ。薪さん、毎年山のようにチョコレート貰うじゃないですか。何も先生の義理チョコまで狙わなくたって」
「雪子さんのチョコってとこが大事なんじゃないか」
 雪子と薪は20年来の友人で、薪は彼女をとても大切にしている。薪には彼女の婚約者を殺めてしまったという過去もあったりするから気を使うのは当たり前なのだが、それ以前に、薪は雪子が大好きなのだ。

「人のを取ることないじゃないですか。室長の分は別に用意してありますよね、先生」
「岡部さんのはあるけど」
 差し出されたチョコの包みを、岡部が恐る恐る受け取った。緊張した面持ちで水平を保って運び、そうっと机の上に置いて額の汗を拭う。岡部さん、それバクダンじゃないです。
「薪くんのは作らなかったわ」
「そんな。酷いじゃないですか、雪子さん。どうして僕の分だけ無いんですか?」
「だって。薪くん、歯医者に行かせるの大変なんだもの」
 理由を聞いて、部下全員が深く頷く。みんなで薪を追い込んで歯医者に行かせたあの騒動は、まだ記憶に新しい。

「大丈夫です。薬を飲みますから」
「だから虫歯はクスリじゃ治らないの」
「それはまた時代遅れなことですね。ガンでさえ薬物治療が主流になったこの時代に、ドリルだのペンチ(抜歯鉗子)だのって、僕は彼らのそう言った原始的な部分が嫌なんです。新たな治療法を開発しようと言う向上意識がまるでない。僕が歯医者に行かないのは、そういった彼らのフロンティア精神に欠けた部分に義憤を感じるからであって、決して怖いわけじゃ」
「あ、薪さん。来週水曜日、歯医者の定期検診日ですからね」
「やだっ! あいつら、行くと必ず歯石があるだの歯周病になりかけてるだのって、有りもしない病気をでっちあげて僕に苦痛を与えようとするんだ!!」
「歯周病はれっきとした病気です。定期的にケアしないと、歯が溶けちゃうんですよ」
「青木、おまえは騙されてるんだ。歯が溶けるのはコー●の飲み過ぎだ。僕は炭酸飲料はあまり飲まないから大丈夫だ」
「なんで医者の言うことより都市伝説を信じるかな」
 水曜日はまた苦労しそうだ、と肩を落とす青木の耳に、悲哀に満ちた男の声が飛び込んできた。捜査一課の、いや、雪子の夫の竹内だ。

「酷いじゃないですか、先生!!」
 普段はすっきり開かれた眉根を寄せ、形の良い唇を歪めて、竹内は雪子に詰め寄った。何事かと職員たちが息を飲む。彼らは去年結婚したばかり。新婚夫婦がバレンタインに諍いなんて、只事ではない。
「第九のみんなに配ってるのに、どうして夫のおれにチョコがないんですか?!」
 男爵2号の登場に、モニタールームが白い空気に包まれる。竹内は捜一の光源氏と異名を取るくらいのモテ男、贈られてくるチョコレートの数は薪といい勝負だ。その二人が揃って雪子の劇薬、もといチョコを欲しがっている。新しい警察庁七不思議伝説が生まれそうだ。

「先生の手作りチョコ、楽しみにしてたのに。どうして」
 ズバリ、それは愛情だと思います。愛されてますね、竹内さん。
「あんた今、虫歯の治療中でしょ」
「そんなあ」
 竹内が情けない声を上げると、薪は先刻自分を悶絶させた悪魔の果実をこれ見よがしに掲げ、
「ふっ、竹内さん。僕の方が一歩リードと言うわけですね」
 リードには違いないですよね。確実にあの世に近付きましたからね。
「いやあの、それバラ撒きチョコだし。あたしと竹内は去年結婚し」
「何も聞きたくないですっ!!」
 まだ認めないのか、このスットンキョー男爵は。
 繰り返すが、薪は雪子が大好きなのだ。当然、彼女が人妻になった事実を受け入れたくない。前々から持っている竹内への悪感情と重なって、彼の現実逃避は激化の一途を辿っている。

「室長。いい加減、うちの奥さんのことは諦めてもらえませんか」
「いやです」
「じゃあ、どちらの愛が深いか、勝負をしましょう」
「望むところです。どんな競技でもあなたには負けません」
 一人の女性を巡って火花を散らす二人の男、しかも超美形同士の戦いとくればこれは完全にドラマの世界だ。しかしそのヒロイン役が雪子になると、話は一気にコメディに傾く。
「先生の愛が籠もったこのチョコレート、食べて立っていられた方が勝ちって事で」
「どーゆー勝負!?」
「早まるな、竹内! それは自殺行為だ!」
 雪子の叫びに岡部の声が重なる。岡部はその物体の破壊力を身を持って知ったばかり、我を忘れるのも無理はなかった。しかも薪には二度目のダメージ、鈴木も迎えに来てることだし、今度は川を渡ってしまうかもしれない。不安に駆られて青木も言った。
「もっと平和な方法にしませんか。殴り合いとか」
「なんでチョコ食べるより殴り合いの方が平和なのよ?!」
 世界の常識は第九の非常識。薪に冷たい眼で無言のプレッシャーを掛けられるくらいなら、怒鳴りつけられたほうが救われる。長く続くと、もういっそのこと殴って終わりにして欲しいと思う。これは薪の部下になったことのある人間でないと理解し得ない価値観だ。

「いやー、それにしても三好先生、すごいですね。署内モテ男ナンバー1の竹内さんと、男女問わずモテまくりの室長、その二人に取り合われるなんて」
「うれしくないんだけど!!」
 シチュエーションだけ見れば署内中の女性の嫉妬で焼き殺されそうな雪子だが、それほど陰湿なイジメに遭うこともないようだ。彼女が柔道4段の猛者だということは署内中に知れ渡っているし、薪の親友であることも知られている。つまり、下手なことを仕掛けてバレたら命が危ない。そう思われているのだろう。
 雪子はともかく、当面の命の危険はこの二人だ。彼らはハート型の小ぶりなチョコを前に、青い顔をして脂汗を流している。経験に裏打ちされた恐怖ゆえ、大丈夫だと自分に言い聞かせることもできない。薪に至っては先刻のダメージから回復しきっていない状態での再チャレンジ、今度こそ致死量を超えてしまうかもしれない。

 小さいけれど、それは激烈な一口サイズ。以前、雪子の手料理を味見をした青木に「ダークマター」と命名されたその物質の起源は堆積層の遥か下方か、それとも宇宙か。
 広いモニタールームを緊迫感が押し包む。全員が固唾を呑んで見守る中、先に動いたのは竹内だった。
 彼は、生存本能に従ってチョコを投げ捨てようとする右手を左手で抑える形で口に近付けていき、やがて口内に落とすことに成功した。口に入れた瞬間、整った顔を映画俳優が断末魔を演じるときのように見目良く凄惨に歪めたが、第九の盗み食いペアのように絶叫することもなく、2,3回の咀嚼のあと飲み込んだ。床に泡を吹いて倒れていた薪の姿がフラッシュバックしたのか、気弱な山本が目を背ける。
 3秒後に彼が勝利宣言の片手を上げると、ワッと歓声が上がった。
「「「「すごい! やりましたね、竹内さん!」」」」
 やんやと囃し立てるギャラリーに、竹内はにこやかに手を振り、
「俺は毎日先生の手料理を食べてるんですよ。耐性だって付きますよ」
「忍者は自分の身体を毒に慣らすため、普段から少量の毒を摂取すると言うが」
「見事だ、竹内」
「ちょっとあんたたち。あたしの手料理が毒薬みたいに聞こえるんだけど」
 竹内の根性を皆が称賛する中、薪は雪子お手製のチョコレートを睨んでいたが、やがて意を決し、禍々しい空気を纏うそれを指で摘み上げた。

「ぼ、僕だってっ!」
 ぱくっ。ぱたん。きゅう。

「竹内さんの勝ちですね」
 床に突っ伏した薪の口から、プスプスと煙が上がっている。華奢な胴体に収納された彼の消化器官がどうなってしまったのか、想像するも恐ろしい。
「帰るわよっ、竹内!」
「あ、ちょっと待ってください。これ、吐いておかないとこのあと仕事にならな、あ、いえその、……きゅう」
 一陣の風と共に雪子の姿は消え失せた。その動きは武道に精通した者でなければ捕えることも不可能で、事実、雪子が竹内の腹部に3発と後ろ首に1発の手刀を叩き込んだのを視認できたのは岡部だけだった。

「良かったですねえ、室長。相打ちになって」
 残された2つの屍の、小さい方の傍にしゃがんで山本が言った。もはや何処から突っ込んでいいのか分からない青木の隣で、小池と曽我がしみじみと頷く。
「日に日に鋭くなってくるな、山本の天然ボケ」
「室長を凌駕する日も近いかもしれないな」
 俺たちも負けていられないな、と闘志を燃やす先達の姿に青木は、第九がどの時点でエリート集団からお笑い集団になったのか必死に思い出そうとしていた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Nさまへ

Nさま。

コメントありがとうございます(^^

秘密仲間との間で生まれた思い出深いあだ名なんですよ~。
その方は今は秘密から離れてしまったようですが、こうして残るものはあるんですね。そんな風に、自分が夢中になったもので何か残せたら素敵ですね。


>どこでその由来がでてきたかも?と今、初回から読み直している所です。

読み直……!
それはしてはいけません、アラが、矛盾が~~!!


>読めば読む程、心理描写が浮き彫りになって、

読めば読むほど綻びが(><)


>フィクションとはいえ、仕事の内容や、様々な描写にどれほどしづさまが
>調べて書いたのかと思うと本当に尊敬してしまいます。

すみません、しづに騙されてはいけません!
一応、調べて書いてはいるんですけど~、
ネットだけでは限界があって。あちこちでウソ吐いてます(^^;

昇格試験制度とか幹部候補生試験とか、
話に都合の良いように捏造しちゃってる部分も沢山ありますので、鵜呑みにしないでくださいねっ!


ギャグ話も楽しんでいただけているようで、嬉しい限りです。
そうです、このサイトの売りはギャグですから! 笑っていただけるのが一番です(^^


更新を楽しみに、とのお言葉、本当に嬉しいです。
今週末は雪で3連休になってしまったので、(工期が~~!!)
日曜日には続きを更新できると思います。
どこまでもバカバカしいお話ですが、生温く見守ってやってください。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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