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バレンタイン・ラプソディ(6)

 更新空いちゃってすみませんでしたー!
 ご心配いただいた方、ありがとうございました。しづは元気に仕事してます。ブログはさぼってただけ、いやその(^^;


 先週は検査が2つもあって、書類地獄でしたー。
 気が付いたらホワイトデーを過ぎてました。
 みなさん、意中の人からのお返しはもらえましたか?

 わたしはオットが唯一もらった姪っ子からのチョコのお返しに、コンビニでクッキーの詰め合わせを自分で買いました。自分はお母さんにチョコレート作らせたくせに、お返しにはゴディバを寄越せって言うんだよ。なにがゴディバだよー、あんな小箱で1500円もしたよー。一種の詐欺だと思います。
 オットのホワイトデーは毎年こんなもんですね。社長なのにね。女の子と遊ばないし、スナックも行かないからね。ホステスさんからの営業チョコすら来ないね。さびしいやつ。
 お義母さんの話によると若いころからこうだったみたいだから、きっと、女の子からもらった本命チョコの数はわたしの方が多いに違いない。(え)
 わたしは監督員さんに渡した本命チョコのお返しが戻ってきまして(←癒着)、
 ……お返しいらないから検査甘くして!!(それなら検査官にチョコを贈るべきでは?)




 お話の方は最終章です。
 間延び公開になってしまってすみませんでした。
 お付き合いくださってありがとうございました。





バレンタイン・ラプソディ(6)





 定時を1時間ほど回った6時50分。青木はモニタールームに戻って来た。
 残念なことにその日、第九の独男トリオが夢見たモジモジ系女子は現れなかった。絶望した彼らに「どんてん」(第九職員行きつけの居酒屋)に引っ張って行かれる危険を予知した青木は、退庁時刻5分前に資料室に避難した。そこで先輩たちの誘いをやり過ごし、頃合いを見計らって出てきた。薪と話すためだ。
 薪は、仕事中は仕事以外の話を聞いてくれない。だからアフターまで待った。彼が第九を出るのは早くても7時過ぎ。この時間なら室長室にいるはずだ。

 青木の目論見通り、モニタールームには誰もおらず、そっと覗いた室長室には薪が書類の山に埋もれるようにして一人で仕事をしていた。机の上だけでは足らず、近くに寄せたカウチからローテーブルから引かれた引き出しにまで、所狭しと重ねられたファイルと紙の束が、重力との均衡をぎりぎりで保つ様子にハラハラする。と、思う間にも引き出しの上から書類が滑り落ち、苛立ちを表わす薪の舌打ちが聞こえた。
「失礼します」と声をかけ、青木は床に散らばった書類を拾い集めた。揃えて差し出すと、薪は仕事の時の冷たい情熱を湛えた瞳で青木を見つめていた。
「全員、帰ったと思ってた」
「資料室に居ました。その、調べたいことがあって」
 調べ物の詳細について聞かれたらどうしよう、と青木は自分の姑息な嘘に不安を覚えたが、薪はふうんと頷いただけだった。忙しそうな薪に、青木は話し掛けるのを躊躇う。薪が仕事人間であることは骨身に沁みている。終わるまで待つが得策だと思った。

「なにか、お手伝いできることはありますか」
「特にない」
 平坦な口調には、青木に対する怒りもなかったが親しみもなかった。仕事に没頭する彼は、まるでロボットのように精確に書類を捌いていく。能力のすべてを職務に傾けている時の彼に、感情を期待しても無駄だ。
「まだまだ掛かりそうですね。お弁当買ってきましょうか」
「要らない」
「じゃ、コーヒーでも」
「いいから自分の仕事をしろ」
「今のところ、手持ちの案件は有りません」
 薪に部屋を追い出されそうになって、青木は不服従の理由を申し立てる。この様子ではアフターのデートは無理っぽい、でもバレンタインデーは恋人たちのイベント。プライベートじゃなくてもいいから、せめて薪の傍にいたい。
 青木が健気に訴えるのに、薪は訝しげに眉を寄せて、
「おまえ、資料室で何か調べてたんだろ。捜査に必要なことだったんじゃないのか」
 恋人なのだから、青木の気持ちを少しは察してくれてもいいのに。薪が鈍いのはいつものことで、思い出してみればクリスマスも年末も、この人はここで仕事をしていた。イベントや記念日には拘らない人なのだ。

「実はその、薪さんと話がしたくて待ってました。モニタールームで待っていると目立つので」
 青木は正直に言った。もともと嘘は苦手なのだ。吐き通せた試しがない。
 青木がそっと様子を伺うと、薪はキーボードの上を滑らせていた指を一瞬止め、「30分待て」と相も変わらず平坦な口調で言った。
「あ、いや、いいです。お仕事中断させるの、申し訳ないです」
「大丈夫だ。終わらせる」
 この量を? 30分で?
 思わず周囲を見回してしまった青木に、薪は冷ややかに微笑んだ。
「終わらせる」
 種を明かせば途中だったのは薪がタイプしている書類だけで、広げてある書類は処理済みのものばかり。片付けるのが面倒だからそのままにしてあっただけだ。分かって青木は、薪に遠い場所に置いてある書類から順に片付け始めた。飴やチョコを辿ってみれば其処にお菓子の家があるように、書類を辿れば行き着くなんて薪らしいと思った。

「メシでも食いに行くか」
 宣言通りに書類を片付けて、執務机に鍵を掛けたのが7時半。壁に取り付けられたセキュリティのタッチパネルを操作しながら、薪は青木を誘ってくれた。この後、件のチョコの相手との約束は入っていないらしい。青木は安堵した。
 私物を入れてあるロッカーを開け、薪はそこから鞄とコートを取り出した。コートを着込んだ後、彼が鞄に問題のチョコレートを入れるのを青木は見逃さない。これから青木と食事に行くのに持っていくのであれば、やっぱりあれは自分宛のチョコレートだったのか。行きがけに官房室へ寄って行く気かもしれないが、どちらにせよ、薪のチョコレートの相手は恋人の青木に気兼ねせずに渡せる相手ということだ。青木はいよいよ安心して、薪の後ろについて歩き出した。

 正門を出て、薪が足を向けたのは警察庁の方向ではなかった。これは間違いなく自分宛だ、と青木は確信し、ならば当初の予定通り、薪の家で二人きり甘い夜を過ごしたいと思った。
「レストランは何処もいっぱいでしょう。テイクアウトの方が無難かもしれませんね」
「いや。席は確保してある」
 遠回しに提案したお家デートは、薪に却下された。でも青木は躍り出したいほど嬉しい。だって薪が青木のためにレストランを予約しておいてくれた。もしかしたら薪は自分以上にこの日を楽しみにしてくれていたのかと、青木が世界一幸福な男の気分を味わったのも店に着くまでの僅かな時間。
「ここって」
 青木が戸惑ったのも無理はない。薪が足を止めたのは、青木も週に1度は先輩と連れ立って暖簾をくぐる第九職員ご用達の店だった。

「ああ、いたいた」
 満席状態の店の中、薪が目敏く見つけ出した3人の第九職員は、座敷の隅のボックス席でどんよりと暗いオーラを出していた。彼らの席にビールジョッキを持ってきた店員は、バレンタインデーなんかこの世からなくなればいいだの、そんなものに踊らされている日本は滅亡する日も近いだの、チョコが男性全員に均等に配られないのは政治が悪いだのと、3人がかりで無茶苦茶なことを言われて辟易している。いつも青木が聞かされている愚痴だが、一般人には受け切れまい。
「おまえらいい加減にしろ。店員さんが困ってるだろ」
 いきなり現れた上司に、3人がぽかんと口を開ける。その隙に、店員は逃げるように席を離れ、新しい2人の客のために座布団と、今日のおすすめ品が書いてある黒板を持ってきてくれた。
 青木は中ジョッキを2つ注文し、おすすめの中から薪のためにヤリイカの刺身と有機野菜のサラダを選んだ。普段から食が細い薪の健康に気を配るのは、青木の役目だ。

 オーダーは青木に任せ、薪は宇野の隣にすとんと腰を下ろした。鞄を開けて、中からグレーの包みを取り出す。
「ほら。待望のチョコレートだ」
「えっ!」
 驚きの声を上げたのはチョコレートを受け取った3人ではなく、サラダから薪の苦手なアボガドを抜いてもらうよう店員に交渉していた青木だった。3人は反射的に後輩の顔を見て、何かを悟ったように彼から目を逸らし、次いでテーブルに置かれた銀のリボン付きのタブレットサイズの箱に視線を戻した。
「これ、朝の」
「誰かにもらったんじゃなかったんですか?」
「まさか。そんなもの」
 と、薪は言いかけて止めた。だけどその先はみんなが知っている。そんなもの、危なくて人にやれない。

 何となく固まってしまった場の空気を壊すように、薪はいつもの説教口調で、
「ったくおまえら、毎年毎年うるさいったらない。これからは僕が用意してやるから、ぎゃあぎゃあ騒ぐな」
 第九は科警研の鼻つまみ。警察機構全体で最も嫌われものの部署で、転勤したくない部署ナンバー1の称号はアンケート結果を集計するまでもなく鉄板。
 だから、第九メンズは女の子には縁がないけれど。代わりに日本一の上司が付いてる。

 同じ気持ちで目線を交わすのに、それを素直に口にできないのは室長譲り。小池はわざと困ったような顔を作り、肩を竦めて、
「室長からチョコレートもらっても」
「なあ、って曽我はまたすぐに開ける」
 薪さんのことだからプラスチック爆弾くらい仕込みかねないぞ、とコソコソ言ってるの、全部聞こえてますから小池さん。
 嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに、みんな照れ屋なんだから、と正直者の後輩はひとり呆れる。青木なら、心に生まれたうれしさや感謝の気持ちを飾らずに口に出せる。それができない人間の方が世の中には遥かに多いことを、幸福な彼は知らない。

「あ。これ、すっげー美味い」
 最初に食べた曽我が箱を一人で抱え込みそうになって、残る二人は慌てて手を伸ばした。ひとくちサイズのフォンダンショコラは、粉雪のように飾られたシュガーパウダーが食欲をそそる。小さな円柱形はきれいに整えられているが一つ一つ微妙に大きさが異なる、おそらく手作り。
「ホントだ。おれ本当は甘いもの苦手なんだけど、これはイケる」
「室長。これ何処で買ったんですか?」
「……近くの総菜屋だ」
「ああ、例の。すげー、チョコレートケーキも置いてあるんだ」
 和洋中エスニックまで何でもござれ、クリスマスにはオードブルからチキンからノエルケーキまで並べてあると言う夢のような総菜屋(年中無休24時間営業)は、当たり前だがこの世の何処にも存在しない。このケーキの作り手の正体に気付いているのかいないのか、その辺は彼らもけっこうなタヌキで、若輩者の青木には読み切れなかった。

 薪を交えて、わいわいと楽しそうにチョコを食べる4人の姿に、青木はツンと鼻の奥が痛くなる。
 傍から見たら、モテない男が寄り集まって仲間内で買い求めたチョコレートを惨めに食べている、そんな光景なのに。彼らの、その笑顔の、なんて楽しそうなことだろう。
 自分ひとりでは与えられない薪の幸せがあること、恋人ならそれを寂しく思うべきかもしれないけれど。薪が彼らに囲まれて笑っていることが、青木にはとてもうれしい。

「なに泣いてんだ、青木」
「……ワサビが鼻にきて」
 味覚までお子様だな、と青木を嘲笑った薪は、これ見よがしにイカの刺身に山葵の塊を載せて口に入れ、次の瞬間鼻を押さえた。この店の山葵は下ろしたてを使っていて、かなり効く。
 大丈夫ですかあ、と無邪気に笑う3人と一緒になって頬を緩めた青木だが、次の瞬間、本気で泣きたくなった。薪が用意してくれたチョコレートが、一つ残らず無くなっていたからだ。
「なんでオレの分、残しておいてくれないんですか!?」
「あ、悪い」
「美味かったんで、つい」
「ヒドイですよ。オレ、まだ一個も食べてないのに」
 いつもニコニコと聞き分けのよい後輩が珍しく我を張るのに、怯んだ曽我が「薪さんに頼めよ」と宥める口調で言った。
「言えませんよ、そんな図々しいこと。あれ、作るの大変でしょ」
「作るのは総菜屋のオバちゃんだろ?」
「え」
 しまった。薪の特技はトップシークレットだった。
 微妙な空気が漂う中、そっと薪を伺うと、薪はちょうど一杯目を飲み終えたところで、テーブルにジョッキを置くと同時に席を立った。

「さて。僕はそろそろ」
 酒の席に上司がいては気詰まりだろうと、薪はいつも中座する。誰もそんなこと思ってないのに、でも誰も彼を引き留めることはしない。プライベートの時間を部下たちとの付き合いに割かせるには、彼の職務はハード過ぎるのだ。
「おまえらも、明日の業務に差し支えない程度にな」
 そう言って伝票を取り上げる。こういう席で、薪が勘定を持たなかった試しがない。彼は壁のメニュー表と伝票にさっと目を走らせ、数枚の紙幣をテーブルに置いた。
「「「ごちそうさまです!」」」
 さっさと席を離れる薪を、青木は追いかけようとした。
「薪さん、送ります」
「心配しなくても大丈夫だ。チョコレートは帰りに買っておいてやる」
 おまえはここに残れ、と薪の瞳が命じていた。露見させてはいけない秘密のため、人前では距離を取らなければいけない。それは彼との関係を守るための行為だけど、歯痒さは消えない。特に、今日のような日は。
 先輩たちにヘンに思われるかもしれないと少しだけ不安になったが、青木はその時、薪の後を追わずにはいられなかった。

 青木が入り口の暖簾を払った時、薪は大通りに向かう人々の群れに近付こうとしていた。足の速い彼の姿は、見る見る間に小さくなっていく。
「薪さん!」
 薪の周りの何人かの人が、薪と一緒に振り向いた。が、彼に声を掛けた人物が飲み屋の前に立っているのを見て、酔っ払いが騒いでいるものと思ったらしい。彼らはすぐに興味を失くし、人の群れに加わった。
 その中でひとり、薪はその場に立ち、青木を待っていてくれた。急いで走り寄る、薪の身体が冷えないうちに。

 呼吸を整えるほどの距離ではなかった。でも、途切れ途切れにしか言えなかった。
「いま、しあわせ、ですか」
 薪はきょとんと眼を丸くし、次いで不服そうに青木を睨みつけた。
「僕が不幸に見えるのか?」
 いえ、と反射的に、次にはっきり、
「いいえ」と青木は言った。
 ふっと薪は笑って、素早く踵を返した。さっきよりもゆっくりと、彼の姿は遠くなって行く。真冬の夜に、その背中はシャンと伸びて。それだけで嬉しくなる、薪が元気でいてくれること。
 彼の小さな後姿が人混みに紛れて見えなくなるまで、青木はその場に立ち尽くしていた。




*****




 薪を見送る青木の斜め後ろ、電柱の陰でひそひそと電話で話す男がいた。目つきが鋭く、一見しただけで只者ではないと分かる。
「はい。通勤途中の彼に直接チョコを手渡そうとした人間は20名、いずれも当方の脅迫、いえ、説得により断念。今後二度と彼に近付かないよう、丁重にお願いしました」
 男は抜け目なく周囲に気を配り、さらに声を潜めて、
「警視正のチョコレートは、彼の部下たちの手に渡った模様であります。は、今のところ特定の男性とは会っていません。引き続き彼を尾行、いえ、警護を続けます」
 警視正の安全の陰に、彼らの活躍があったことはだれも知らない。




(おしまい)



(2013.11)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Nさまへ

Nさま、はじめまして。

Nさまは、薪さんに恋して3ヶ月くらいですか~。では、現在は薪さんのこと以外考えられない状態ではないですか?
わたしの3ヶ月目って言ったら、……摂食障害になってましたね、薪さんが可哀想で。

そんな時期に、うちみたいな原作から外れた二次創作を読んでくださってありがとうございます。
うちの薪さんキャラ、気に入っていただけて嬉しいです。
スットンキョー男爵とかカンチガイ大王とか渾名ついてますけど(^^;) どうか広いお心でお願いします。

Nさまのまたのお越しを心よりお待ちしております。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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