イヴに捧げる殺人(2)

 おはようございます。

 仕事も一段落つきまして、恒例のお義母さんの温泉行きたい攻撃が始まりまして。
 今日から3日間、行ってまいります世界遺産、富士山。
 温泉につかって、まったりして、幸せ気分で富士山見ながら青薪さんの妄想をします~。薪さんが崖から落っこちて記憶失ってマッドサイエンティストの実験台にされる話とかどうかな? ←体験と妄想の内容が合わない。
 
 では行ってきますー。







イヴに捧げる殺人(2)







 出会った瞬間、九条礼子は彼に嫌悪を感じた。

 正確に言えば驚嘆と嫉妬と羨望と苛立ち、それらが綯い交ぜになった不快感。嫌悪と一括りにできるような単純な感情ではなかったが、表面に現れたのは単純な拒否反応だ。
 ツイてない、と礼子は思った。新しいボディガードが来るとは聞いていたが、こんな男だとは思わなかった。
 彼の何がそんなに礼子の気分を害したのか、言ってしまえば容姿だ。礼子と彼は初対面。第一印象の95%は外見だ。
 一見、年の頃は自分といくらも変わらない。男のくせに線が細くて、透き通るような白い肌をしている。亜麻色の髪はサラサラ、眼はぱっちり二重で睫毛が長くて、下手したら女の子より可愛い。というか自分より確実に可愛い。
 今は彼のような中性的な容姿の草食系男子とやらが流行りらしいが、礼子は嫌いだ。彼の運転手について来たモブ顔のメガネ男の方がずっといい。だって。
 ――こいつと並んだらあたしが霞むじゃない。
 礼子は美人の部類に入るが、言葉を選ぶなら勝気な、選ばなければキツイ顔立ちをしている。日本人らしく黒々とした瞳はそれなりの大きさで美しく輝いているものの、吊り目の一重瞼がそれを険しく見せている。面長の輪郭を縁取るのは栗色のクセ毛で、長さは背中の中ほどまで。見るからに手入れが大変そうだ。

「薪です。よろしくお願いします」
 公僕らしく、彼は簡潔に挨拶をした。他の大人たちのように、現職の国会議員である父親や、その一人娘である自分に愛想笑いをしないところだけは好感が持てたが、頭を下げた時に彼の髪が金糸のように揺れ動くのを見たら腹が立った。
 花の女子高生がクセ毛で悩んでるって言うのに、なにその無駄なサラサラヘアー。ヘアサロンで髪エステとかしてんの、なんか仕事の役に立つの、それ。

「礼子。薪さんには長谷川さんの代わりに、おまえの学校での警護をお願いしたんだよ。ご挨拶なさい」
 どうしてこんな見るからに軟弱そうな男にボディガードなんて力仕事が割り振られたのか疑問だったが、校内の警護と聞いて合点がいった。礼子の学校は女子高で、原則として男性は立ち入り禁止。でも彼の容姿なら黙っていれば女性で通る。長谷川と同じように、学内での待機が可能になるのだ。
「礼子です。薪さま、よろしくお願い致します」
 頭を下げると、長く伸ばした髪が礼子の顔を隠す。鬱陶しかった。クセ毛の長髪なんて手間が掛かるだけで、いいことなんか一つもない。父母の眼がなければ鋏で切ってしまいたいくらいだ。
 不満を抑えつつ、礼子ができるだけ優雅に微笑むと、彼も微笑みを返してきた。礼子と違って気負いのない、自然な笑顔だった。それでいて育ちの良さが感じられた。
 彼の笑顔を見て礼子は確信した。彼は、目的のために容姿最優先で選ばれたのだ。中身は只のチキン野郎だ。

 父母の前では愛想笑いを絶やさなかった礼子だが、それを彼の前でも続ける気はさらさらなかった。明文化されていない学校の決まり事を教える、という名目で私室に招いた彼に、礼子は強い口調で言った。
「余計なことはしないでね」
 こういうことは最初が肝心なのだ。舐められないように、ビシッと言っておかないと。
 自分はソファに座って、彼にはわざと椅子も勧めなかった。彼に気に入られる心算も、誠実に仕事をしてもらう心算もなかった。長谷川が帰ってくるまでの10日間、何もしないでいて欲しかった。
 部屋の掃除をしていた世話係兼家政婦のユリエが、礼子たちに気付いてお茶を淹れに行った。要らない、と怒鳴ったが、ユリエは答えなかった。彼女はいつも都合の悪いことは聞こえない振りをするのだ。

「先ほどとは別人のようですね。淑やかなのはご両親の前だけですか」
「当たり前でしょ。使用人の前でまでお嬢様やってたら、暴漢に襲われる前に神経衰弱で死ぬわ」
 腕を組んで軽蔑したように礼子を見る、彼の瞳に苛立った。負けずにこちらも腕を組み、頭に来たから脚も組んでやった。
「余計なこととおっしゃいますと」
 聞き返した彼に、礼子は胸を張った。ソファに腰を下ろした礼子の隣に立ったままの彼を、鋭く睨み上げる。
「あなたの仕事は何? わたしを守ることでしょ。それ以外のことはしないでって言ってるの」
「例えばこういうことですか」
「げっ」
 カエルが踏みつぶされたような声が出た。人間の声帯は驚くと固まるのだ。
 彼は礼子の勉強机の引き出しを勝手に開けて、中から煙草とライターを持ち出した。それを自分のポケットに入れると、次は花瓶の中から小瓶に入れたお酒を、その次は本棚に眼を付けて百科事典の箱からイケナイ雑誌を、ちょっとそれはカンベンしてー!

「なんで一発で場所が分かるのよ?!」
「こういうのを探すのが得意な友人がいたんです」
 彼は花のように微笑んで――思い掛けて礼子は慌ててその言葉を打ち消した。比喩ではなく、彼の後ろに花が見えたのだ。色は薄ピンクで、花びらがいっぱいあるやつ。ああ気持ち悪い。
「ご両親には内密に処分しておきますよ」
 そう言って、彼は礼子が苦労して集めたコレクションを没収した。得意の右ストレートをお見舞いしてやりたいと礼子は思い、ここが家の中であることを考えて断念した。顔を腫らした彼を父母に見られたら困るのは自分だ。
 ユリエが、お茶を淹れながら肩を震わせて笑っているのが見えて、軽くキレそうになった。覚えときなさいよ、後で泣かしてやるから。

「さあどうぞ。お嬢様のお好きなローズヒップですよ」
「いらないって言ったでしょ」
「では僕が」
 彼はカップを手に取ると、立ったままで紅茶を飲み干した。もしも礼子がそれをしたなら、立ち飲みなんてお行儀が悪いと必ず文句を付けるはずのユリエは、その様子を固唾を飲むように見つめていた。なによ、その差は。
 紅茶を飲み終えて彼は「ごちそうさま」とユリエに微笑みかけ、それを見たユリエがまた頬を赤らめて、ちょっとやめてくれる。二人まとめてサイドボードで殴りたくなっちゃうから。

 部屋を出るとき、彼は丁寧に頭を下げた。
「それでは明日。学校で」
 礼子は精一杯優雅に「ごきげんよう」と挨拶した。もちろん嫌味だ。
 彼がいなくなり、するとそれまで詰めていた息を吐き出しながら、ユリエが感心したように言った。
「おきれいな方ですねえ。本当に男の人なんですか?」
「そうよ。気持ち悪いでしょ」
 は? と不思議そうに首を傾げるユリエに、礼子は吐き捨てる口調で、
「男だか女だか分かんないような男は気持ち悪いわ」
 それは礼子の正直な感想で、現代の風潮を当て擦る彼女の意見でもあった。しかしユリエはコロコロと笑い、
「お嬢様はお若いのに、お祖母さまの年代の美意識をお持ちですのね」
 あんたホントに覚えときなさいよ。

 怒りをため息に変えて、礼子はソファにそっくり返った。女性にしては大きめの手をひらひらと振り、ユリエに仕事をするよう促した。
「そろそろ行ってあげなさい。今頃迷ってるはずだから」
 はい、とユリエは彼の後を追って部屋を出て行った。

 礼子が住んでいる九条の屋敷は実に広大である。母の実家は日本でも有数の資産家で、この家は彼女が結婚したときに実家の両親に建ててもらったものだ。
 巨万の富に支えられた九条の祖父母は少々浮世離れしており、いささか変わり者であった。娘が金目当ての強盗や泥棒の被害に遭わないようにと、迷路のように通路を張り巡らせた屋敷を建てたのだ。
 この家を初めて訪れた客は一様に迷子になる。家人の案内無しにはゲストルームへ行くことも、この屋敷を出ることもできない。彼には住み込みの小間使いであるユリエの助けが必要なのだ。

 ユリエのことは後でシメるとして、問題はあの男だ。家では良い子の仮面を付けなければならない礼子にとって、学校は唯一の息抜きの場だった。長谷川は礼子の事情を心得ているから学校生活を見られてもなんてことはなかったけれど、あの男には通用すまい。余計なことを父母に報告されては困るのだ。

 ノックもなしにドアが開き、礼子はソファの上で身を固くした。暴力的な勢いで思案から現実に引き戻される。
 この部屋のドアをノック無しに開ける者は、家の中には一人しかいない。そして、ノックをせずに彼が部屋に入るときは、それが秘密の来訪であることを意味している。
 男がゆったりとした足取りで礼子に近づき、背後から自分の身体を抱きしめるのに、礼子は落ち着いた口調で尋ねた。
「お母様はお出かけに?」
「ああ。後援会の会合だとさ」
 どうせ若いツバメの所だ、と嘯く男の肩に、礼子は自分の後頭部を預けた。甘ったるい整髪料と煙草の匂い。最悪の組み合わせだ。
 太くてごつごつした指が、麗子の胸をまさぐった。諦めて眼を閉じると、仰向かされてキスされた。ムスクの香りとヤニ臭さが礼子の口の中で混ざり合い、悪心を掻き立てる。礼子は腹に力を入れて、流れ込んできた男の唾液と一緒に吐き気を飲み込んだ。





 

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Aさまへ

Aさま。

富士山、見えなかったんですよ~。
今年は大雪の影響もあって、スバルラインも1合目以降は除雪作業のため通行止めでございました☆
でもホテルは最高でしたよ。部屋付の露天風呂が広々として気持ちよかったです。天気が良ければ部屋からも富士山が見えたはずなんですけど、残念です。


>薪さんがわざわざ、ボディガードするなんて!普通の女子なら大喜びですけどね(^о^)

「薪さんが女装して要人令嬢のボディガード」と言うのは、昔、リクエストを募った時にいただいたネタなんです。
いつか書きたいと思っていたのですけど、書いてみたら無茶苦茶難しかったです(--;
わたし、普通の女子高生の青春送ってこなかったからなー。(その頃からオタクだった) 自分が経験していないことを書くのは難しいって、改めて思いました。

Yさまへ

Yさま。

コメントありがとうございます(^^
薪さんの美しさは不滅ですよね~!

今回のお話、一応青薪小説なんですけど、青木さんがあんまり出てこなくって~。薪さんピン芸人状態でございます。
甘さとか全然ないんですけど、Yさんにお付き合いいただけたら幸いです♪♪♪
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
一言感想 「どひゃー……」
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: