スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

イヴに捧げる殺人(3)

 ただいまですー。
 旅行は楽しかったのですが、あいにく天候に恵まれませんで、富士山は見られませんでした。 
 でも、河口湖は桜が満開!
 ホテルの部屋にベランダがあったんですけど、そのベランダに桜の枝が張り出していて、桜のつかみ取りができる! 花が可哀想だから触ったりしませんけど、花の群れに顔を寄せる薪さんとか、きれいだろうな~、などと想像しては楽しんでおりました。




 お話の続きです。
 今さらですが、このお話の時期は2066年の11月。「パンデミックパニック」の翌月でございます。薪さん、毎月こんな調子で仕事大丈夫なのかww



イヴに捧げる殺人(3)






「セーラー服は好きかい?」

 書類に印が押されていることを確認しながら「はい」と薪は答えた。いつもの雑談だと思ったからだ。質問者は薪の答えに満足そうに頷き、珍しいことににっこりと微笑んだ。
「それはよかった。嫌いだと言われたら頼みづらくなるところだった。実はね」
「お断りします」
「まだ何も言ってないけど」
 雑談は早合点だったと、自分を見上げた上司の眼で分かった。厄介事の予感。しかもこれはイレギュラーだ。中園と言う男は、それが正当な職務である限りどんなに苛酷な内容であっても「頼みづらい」なんて殊勝なことを言う人間ではない。

「話も聞かないなんて酷くないかい? 僕は君の上司だよ」
「職務外のお話でしたら承諾の義務はないと存じます」
 さっさと踵を返した部下を湿っぽい声で非難する彼を切って捨て、薪は首席参事官室を出ようとした。逃げるが勝ちとばかりにドアを開けた薪の耳に、上役の独り言が響く。
「先月は大変な目に遭ったなあ」
 ここで足を止めたら負けだと本能が叫んだ。非道になれ、薪剛。逃避こそがおまえを救う唯一の手段だ。そう言い聞かせるのに爪先がそれを拒否する。薪の中で後ろめたさが勝った証拠だ。
「夜中に電話で叩き起こされて、『正体不明のウィルスが第九に撒かれた』て誰かさんが騒ぐから慌てて第五と第一と警備部に連絡取って」
 あの時は様々な要因が重なって、それを疑うに値する状況が出来上がってしまった。つくづく思う、偶然て恐ろしい。
「小野田が出張中で良かったよ。いたら絶対に厚生労働省に報告入れて、最高の医療スタッフを用意するために東京中の大学病院の教授連中を叩き起こしただろうから。そうしたら、小野田も僕も終わってたねえ」
「分かりましたよ。もう勘弁してください」
 中園の言う通り、先月のあれは大失態だった。薪の無事を純粋に喜んでくれた小野田と違って、中園は腹の虫が治まらなかったに違いない。実際に迷惑を被ったのは彼なのだ。

 詫びの意味もあって、薪は中園の頼みとやらを聞くことにした。
「九条議員のお嬢さんなんだけどね。ボディガードが怪我をして困ってるんだ。で、彼女の怪我が治るまでの十日ほど、信用できるSPを貸して欲しいって」
「要人警護ですか? それなら警護課に」
 警護は官房室の仕事ではないし、薪はSPの訓練は受けていない。腕に覚えはあるが、本職には遠く及ばない。官房室首席参事官に直接警護を頼んでくるような大物議員の子女なら、専門家に任せた方が無難だ。
「頼めない事情があるんだよ。警護エリアは男子禁制の学校なんだ」
 いま一つ話が見えてこない。男子禁制と聞いた時点でものすごく嫌な予感はしたものの、話の途中で逃げ出すわけにもいかない。駆け出そうとする両脚を、薪は理性で抑えつけた。

「学校って、ボディガード付けられるんですか?」
「通常なら無理だけど。その学校は現在、特別警報発令中でね」
「特別警報?」
「そのお嬢さん、礼子さんて言うんだけど」
 中園は薪の視線をはぐらかし、警護対象者の説明を始めた。警報の内容に薪の興味が向いているうちに、情報を入れてしまおうという腹積もりだろう。テレビコマーシャルの要領ですね、と言う皮肉を頭の隅で思いつくが、それを言葉にするほど薪は野暮ではない。
「学内で何度も危ない目に遭ったらしい。階段から突き落とされたり、上から物が落ちてきたり。制服や学用品も汚されたりして」
「それ、単にその子がイジメに遭ってるんじゃ」
「ご両親もそれを心配してね、学校側に何度も掛けあったそうだ。でもその事実はないって否定されて。だから学内に入ってイジメの証拠を掴んでご両親に報告すれば、そちらでしかるべき処置を取ると思う。そのついでと言っちゃなんだけど」
 ついでと言いながら中園は青灰色の瞳を鋭くした。軽い口調に隠された気迫を感じて、薪は腹の底に力を入れる。此処からが本題だ。

「最近、そのお嬢さんの学友が3人亡くなってる。それもすこぶる変わった死体になって」
「――星稜学園の吸血鬼事件ですか」
 被害者は学園の女生徒で、いずれも17歳。ここ2ヶ月の間に3人の被害者が出た。彼女たちはみな忽然と姿を消し、翌朝には身体中の血を抜かれて死んでいた。刺激的な記事を売り物にするマスコミが名付けた「吸血鬼事件」をそのまま正式な事件名にした捜一の神経もどうかと思うが、その名称が事件の概要を端的に表しているのも事実だ。
 こんな猟奇的な連続殺人がどうして第九に回ってこないのかと言えば、被害者の頭部が完全に潰されていたからだ。司法解剖には薪も立ち会ったが、彼女たちの脳は原形を留めていなかった。MRIによる精査は不可能だと判断した。

 昨今は、こういう事例が増えた。
 MRI捜査の弊害と言うべきか、第九の功績が広く世間に知れ渡るに従って、頭部を潰したり持ち去ったりする犯行が増加した。おかげで本来第九に持ち込まれることのない単純な殺人事件や傷害致死事件に、死体損壊罪のおまけが付くようになってしまった。
 秘密を匿おうとする人間の意志は強く浅ましく。犯人たちはMRI捜査を警戒して遺体の脳を破壊する。自分が人を殺した映像を他人に見られたくないからだ。
 捜一の捜査で十分に犯罪が立証できる事件に、第九は手を出さない。基本的に3件以上の連続殺人、あるいは明らかに異常者の仕業と思われる遺体が発生しない限り、被害者の脳をMRIに掛けることはしない。しかしその基準は世間には公表されていない。MRI捜査の行使による犯罪の抑止効果が失われてしまうからだ。結果、場末の酒場で起きた喧嘩による傷害致死事件の被害者の頭部が持ち去られたりする。
 事件関係者の日常に影響を及ぼさない捜査活動があり得ないように、MRI捜査もその手法自体に大きな問題を孕んでいる。それはさておき、今は吸血鬼事件だ。

「犯人が学内にいると?」
「僕はそう踏んでる。3人とも同じ学校の生徒だし、何より、学友があんな殺され方をしたら普通は警戒するよね。みんな金持ちの娘なんだから、送り迎えはもちろん用心棒も付けたと思う。その状態で第2第3の殺人が起きてることを勘案すると、犯人は被害者の顔見知り。被害者が最後に目撃されているのもすべて校内だし、犯人が学園の人間である可能性は高い」
「捜一の捜査状況は」
「それがさ、この時代に男子禁制を貫いてる学園だけあって、教師陣はともかく生徒は箱入り娘ばっかりで。相手が男ってだけで俯いちまって口も利けない状態なんだよ。だから生徒の中に入って事情を聞いてこれる人間が必要なんだ」
「では潜入捜査を兼ねているわけですね。ですが、女子校でしたらやはり女性の捜査官に任せるべきではありませんか」
 薪が生徒のボディガードとして校内に入ったとしても、男である以上は捜一の刑事たちの二の舞になるだろう。女子高生とのガールズトークは香(小野田の末娘で高校生)で慣れているから捜一の連中よりは巧く聞き出せる自信はあるが、やはり同じ女性には敵うまい。
「僕もね、最初は女性のSPを事務員に仕立て上げて潜り込ませようと思ったんだけど、それだと生徒は警戒するよね。彼女たちから話を聞くにはやっぱり彼女たちと同じ立場で、そう、休み時間に一緒にトイレに行くような関係にならないと」
 一理ある、と薪は思った。大人には言わない事も友人には話す。あの年頃の子はみんなそうだ。中園のことだ、薪が生徒たちから親しみを持ってもらえるよう何らかの対策を立てているに違いない。理事会に圧力をかけて、ボディガードではなく臨時の教師として送り込むとか。教員の立場なら彼女たちの信頼も得られるだろうし、相談に乗ると持ちかければ事件のことを聞きだせるかも。

 事件に挑む時の高揚感を味わいつつ、薪は冗談を交えて尋ねた。
「僕だって女子トイレには入れませんよ。何か策があるんですか?」
「そこでセーラー服の出番だ」
 ……聞かなきゃよかった。

「お断りします」
「先月は本当に大変だった」
「処分してくださって結構です。降格でも減俸でも」
「好きなんだろ? セーラー服」
「見るのも脱がすのも大好きですけど自分が着るのは嫌です」
 言い捨ててドアを閉めた。四十過ぎの男がセーラー服着て女子高生のボディガードって、あり得ないだろ。中園の冗談の際どさは心得ているが、それにしたって。

 内心、ぷりぷりして第九に帰ったら岡部に見とがめられた。何かあったんですか、と訊いてくる。相変わらず鋭い男だ。他の誰にも気付かせなかったのに。
 腹を立てていたし、「それはひどいですね」と言う同意も欲しくて、薪は事情を岡部に話した。
「だいたい、たった十日学校に潜入したところで二ヶ月も警察から逃げおおせている殺人犯が捕まるもんか。あの人は無理難題を僕に押し付けて面白がってるんだ」
 ひどいだろう? と部下を伺うと、岡部は神妙な顔になって、
「九条徹夫議員と言えば大物ですが、黒い噂の絶えない男ですよ。陰では暴力団ともつながってて、薬物疑惑も」
「それは僕の仕事じゃない」
 麻薬等の取り締まりは警視庁組対5課の仕事だ。官房室の管轄ではないし、第九はもっと関係ない。
「特に、麻薬がらみの潜入捜査はごめんだ。何年か前にやって死にかけたんだ」
「あれは薪さんが勝手な行動を取ったからだって課長の脇田が言ってましたけど」
 ……そうだっけ?

「なんでも九条って男は警察の上層部にも顔が効いて、あれこれ煩く言ってくるそうですよ。あの男の差し金で止められた捜査がいくつもあるって、竹内がぼやいてました」
 代議士は多かれ少なかれ、警察に影響力を持つ。十日で潜入捜査を完遂しろと言うのも無謀だと思ったが、中園の真意は九条議員の弱みを掴み、それをネタに警察への口出しを控えさせるというところか。
「だからってセーラー服は」
 ないな、と薪は首を振り、これで話は打ち切りだとばかりに分厚い報告書のファイルを取り上げた。ところが岡部は、聞きたくもない九条議員の情報を薪に話して聞かせ――裏金をごっそりと懐に入れながら、篤志家の顔をアピールする為その一部を様々な福祉団体に寄付していることや、施設から女の子を引き取って育てている事など――、最後にこう結んだ。
「たった十日でしょう。引き受けてあげたらいいじゃないですか。相手が女子高生の苛めっ子なら危険はないでしょうし。ゴスロリに比べたらセーラー服の方がマシでしょう」
「なんだ、おまえまで」
「中園さん、先月のウィルス事件のとき、薪さんのことをものすごく心配してましたよ」
 それを持ち出されると弱い。あの時は岡部にも迷惑を掛けた。

「それに、薪さんは中園さんにプライベートで借りがあるでしょう。この機会に返しておいたらどうですか」
「借り? なんのことだ」
「あれ。聞いてないんですか」
 薪に心当たりはなかったが、岡部は一人頷き、「やっぱり中園さんはいい人ですね」などと笑えないジョークを飛ばした。中園がいい人だったら小野田は間違いなく神さまだ。
「青木のことですよ」
 春の事件の後、どうして自分たちのことが公にならなかったのか、岡部に聞くまで薪はその真相を知らなかった。自分が手を回して守ってやったのだと、中園は一言も言わなかった。

「……くっそ」
 頭を掻き毟るようにして逡巡した後、薪は席を立った。
「岡部。十日ほど第九を頼む」





*****

 薪さんにセーラー服着せてみたい人、手上げてー! ←いるわけない。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

はーい!!はーいはーい!!ヽ(・∀・)ノ

いや正確には「ものすご可愛いけどものすご嫌がっててついでにその格好のまんま青木にわふわふされて…」な薪さんが見たいです!!
朝から変態ですいません。

なみたろうさんへ

そうそう、嫌がる薪さんに無理やり着せると言うシチュエーションがいいんですよねっ。
精神的にはすっごく男らしい薪さんが激カワ、というギャップに萌えるww


青木さんにわふわふは、
わたしも見たいです~。

何処へ行けば見られるのかな?
え、なみたろうさんのブログ? わーい♡ (←え)

Aさまへ

Aさま。

薪さんはいかにも吸血鬼に見初められそうですが、うちの男爵なら逆に血を吸い返すんじゃないかと思います。きっと負けない☆


>勿論、薪さんのセーラー服姿見たいですよ(^^)

いいんだ(笑)
11巻の表紙の薪さんは、確かに、どっかの私立高校の制服着てるみたいでしたよねw 可愛かったな~。


>スケ番刑事

あははは!!
そっか、ヨーヨー持たせりゃよかったよ!!!


>岡部さんはあまり、危険を感じていないようですね><

言われて気が付きましたけど、この話、岡部さんが超無責任なんですね。薪さんに潜入捜査を勧めてたんですね。
やべー、すっかり忘れてたー。フォロー入れていないー。
後で陰で謝ってたってことで、勘弁してください。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。