イヴに捧げる殺人(7)

 こんにちは。
 前の記事から10日も過ぎちゃいましたね(^^;)
 どうしてこんなに日が経つのが早いんだろうっ。←万国共通ナマケモノの言い訳。

 うーんとね、実は、実家のおばあちゃんが心筋梗塞で入院したんですよ。
 最近、寒暖差が激しかったし、もう年だからね~。96歳だもん、心臓も疲れるよね。
 そんなこんなで、少しワタついておりました。

 更新を待ってくださってる方、もしもいらしたらゴメンナサイでした。
 続きですー。





イヴに捧げる殺人(7)





「柚子さま。お聞きしたいことがあります」
 体育館の壁の前、ジャージ姿で薪は、自分と同じように隣に座った女生徒に話しかけた。コートではバスケットボールの試合が行われており、広い空間にはドリブルの音とバスケシューズが激しく床を叩く音が響いていた。
 楽しそうでいいな、と薪は軽い羨望を彼女たちに抱く。ジャージならともかく、ここの体操服はブルマなのだ。穿いたら一発で男だとばれてしまう。体育の授業は見学で通すしかない。隣の柚子は生まれつき身体が弱いらしく、激しい運動は医者に止められているそうだ。おかげで彼女に話を聞くことができる。

「なんですの」とこちらに顔を向けた柚子の声を掻き消すように、わっと歓声が上がった。輪の中心にいるのは、驚いたことに礼子だった。
 運動神経が良い、と自慢していただけあって、礼子のプレイは群を抜いていた。周りがおっとりしたお嬢様ばかりだからかもしれないが、薪の眼から見ても俊敏な動きだった。特にドリブルは巧みで、コートの端から端まで3人抜きでシュート、などというスーパープレイも見せてくれた。今のはそれに対する称賛の声だ。
 バスケなんて何年もやってないけど、もともと好きなスポーツだからついつい試合に眼を奪われる。活発に動く若い女性の身体は男の薪から見れば魅力的だ。食べ物のせいか最近の子は発育が良くて、胸やお尻も成人女性と同格以上だ。ハーレム気分なんでしょう、と青木にベッドの中で詰られて、「彼女たちはまだ子供だ」と否定したけれど。中にはそちらの方面の成熟を感じさせる娘もいる。間宮じゃないけど、見れば何となくわかる。男を知っている女の身体。

「あの、美奈子さま?」
「はい?」
「私に聞きたいことって」
 自分から話しかけたくせに彼女の存在を忘れていた。気付いて薪は、コホンと咳払いをした。

「礼子さまを苛めている生徒のこと。詳しく教えていただけませんか」
「先生におっしゃるつもり?」
 情報の出所が自分だと分かれば、今度は自分が標的になる。その恐れが柚子の口を重くした。俯く彼女に、薪はそっと身体を近付けて、
「わたくし、考えましたの。もしも今現在礼子さまを苛めている生徒がいれば、次はその生徒が吸血鬼に狙われるんじゃないかって」
「まさかそんなこと」
「どうしてですか? 被害者の3人が3人ともイジメをしていた生徒なら、次の犠牲者もきっとイジメをしている生徒だとわたくしは思います」
「それもそうですわね……分かりました、お教えします。でもあの」
「大丈夫。あなたから聞いたことは決して誰にも言いません。わたくしたちだけの秘密ということで」
「美奈子さまと私だけの」と顔を赤らめる柚子に、薪はダメ押しとばかりに微笑んだ。彼女の好意を利用するようで気が引けるが、潜入捜査とはこういうものだ。非情でなければ務まらない。非情な人間ならこの任務自体を断れたはずだが、そこは触れないでおくことにした。

 柚子から聞き出した情報によると、礼子を苛めていた生徒は7人。首謀者を含む3人が死んだことで、彼女への苛めは現在は止まっている。次に狙われるとしたら残りの4人の誰かである可能性が高い。薪は被害者候補の名前とクラスを聞き出し、頭の中にメモをした。

 最初に殺人が起きたのが2ヶ月前。2回目がそれから2週間後。3回目がさらに3週間後。最後の殺人から、そろそろ一月が経とうとしていた。
 最初はともかく、2番目3番目の事件の際には被害者たちも警戒していたはずだ。良家の子女なら尚更、単独行動を取らないよう人の少ない場所に行かないよう、親に注意を与えられたに違いない。そんな彼女たちが人知れず連れ去られたのは自ら人気のない場所に赴いていた、つまり自分が人に見られたらまずいことをしていたからではないか。
 被害者は殺される前に陰に隠れて礼子を苛めていた。家や学校では良い子で通っているのだ。人に見られない場所を選んだはずだ。そして被害に遭った。
 そう考えると、やはり犯人は礼子の関係者か。しかし、子供が苛められたからと言ってその相手を殺すか? 現場を押さえたなら、教師や相手の親にその証拠を叩きつければいい。両親は除外される。彼らは苛めの事実を疑ってはいたが、確証を持てずにいたからだ。
 ならば、礼子の使用人たちはどうだ。
 あの家には執事、ボディガード、小間使い、家庭教師に下男、と言った使用人たちが礼子と一緒に暮らしている。例えば小間使い。年が近い誼で、親には言えないことも彼女には話したかもしれない。主人の為に復讐を誓った小間使いが――。

「ないな」
 ちっ、と舌打ちして、薪は首を振った。どこかの執事話ではあるまいに、ご主人さまのために人殺しまでする使用人がそうそういるとは思えない。苛めは学内で行われているのだから、それを使用人たちが把握しているのも変だ。
「み、美奈子さま?」
 しまった。地が出た。
 この柚子と言う子は大人しくて目立たないから、つい居ることを忘れてしまう。空気みたいな娘だ。こういうのをエアー女子と言うのだろう。いつの間にかクラスからいなくなっていても誰も気付かない。遅刻やサボリには最適な能力だ。育ちの良い彼女はそんなことはしないだろうが。

 にこっと笑ってごまかした。相手もつられて微笑む。猜疑心の少ないお嬢様は扱い易い。こういうのが人攫いにとっ捕まって外国へ売られるのだ。自室に酒やタバコを隠し持っているなどとんだ不良娘だが、礼子の方がずっとしっかりしている。自分の意見を持っていて、それをハッキリと言葉にできる。良い子ではないが、頼もしさを感じる。
 ふと思った。柚子のような女の子の眼に、礼子はどんな風に映るのだろう。
 そっと隣を伺えば、真剣に試合を見つめる柚子の姿。よくよく観察すれば彼女の視線は一人の女生徒に固定されており、それはつまりコート上で一番活躍している選手だ。柚子の黒い瞳は羨望と憧憬で満たされ、ふっくらとした丸い頬には朱が上っていた。
 体の弱い少女にとって、スポーツ万能の礼子は憧れなのだろう。更に観察すれば、礼子を同じような眼で見ている生徒は他にもいて、要するに、彼女は苛めを受けていても嫌われ者ではない。誰も彼女に話しかけないのは事件の関与を疑って、或いは巻き込まれるのを懸念した親たちの訓戒に素直に従っているものと思われた。

 礼子は育ちの違いを気にしているようだったが、周りにはそれを介しない人間もたくさんいる。一部の狭量な観念を持った生徒たちが彼女を苛めていたのだ。なのに彼女は。
 ――そうだ。彼女はあのとき何と言った?
『彼女たちとは流れてる血が違うのよ』
 薪が初めてこの学園に登校した朝、正門から昇降口までの短い会話で、彼女はこう言ったのではなかったか。

「血か」
「え? 何かおっしゃいまして?」
 隣で柚子が尋ねたが、答えるのも面倒で無視した。
「美奈子さま、あの、お加減でも?」
「ちょっと気分が。わたくし、保健室に参ります。先生には柚子さまから伝えてください」

 薪は仮病を使って体育館を出た。推理を組み立てている最中に邪魔されるのが一番頭にくる。幸い授業中だ。校舎裏にでも行けば誰にも邪魔されずに考えることができるだろう。
 ところが、体育館から校舎に向かう途中、守衛に見咎められた。授業中に気分が悪くなったので保健室へ行く途中だと言うと、一人では危ないからと付き添われてしまった。藪蛇もいいところだ。

 良家の子女を預かるだけあって、この学校のセキュリティはしっかりしている。
 学校の門は3つ。そのそれぞれに守衛室があり、外部からの訪問客はそこで必ず、住所氏名訪問先、訪問の目的を記載した届出書を身分証明書と一緒に提出しなければならない。守衛は届出書に基づいて訪問先に連絡を取り、訪問の目的が虚偽でないことを確認する。帰りは訪問先の印鑑を書類に貰ってくることが条件だ。
 つまり、内部の人間と通じていないと外部から侵入することは難しい。そして薪のように単独で校庭をうろつくものがいれば、生徒であれ父兄であれ、守衛が寄ってくる。
 加えて今は、腕に覚えのある多数のSPがいる。生徒のボディガードを務める彼女たちは、校舎内に幾つかの部屋を与えられ、そこに待機している。薪と同じように無線の警報受信機を持っており、ご主人さまからの一報があればすぐさま駆けつけると言う段取りだ。

 この状況下では犯人も手出しができないのか、ここ一月、新しい被害者は出ていない。ボディガードの同伴を学校側が許可した時期から犯行が行われていない、その事実は、学内に犯人がいると言う中園の推理を裏付けるものであった。
 薪もその推理に概ね賛成だった。その線で探りを入れてみたが、犯人らしき人物は一向に浮かんでこなかった。
 犯人は大人である可能性が高いと、薪も最初は思っていた。教員、用務員、学園に出入りしている業者。それらの中の誰かが、と、それはしかし捜査一課の見解も同様で、彼らからは十分な事情聴取とそれに基づいた裏付け捜査が為されていた。
 残る学校関係者は生徒たちと父兄。そして3人の被害者を結ぶ糸が礼子が受けていた苛めだとすると、捜査対象は絞られてくる。

 礼子の周りに犯人がいる。1週間の潜入捜査の末、薪が出した結論だった。

 学内には彼女の友人は見当たらないから、家の者かもしれない。両親も使用人たちもそこまでのことをするとは思えなかったが、薪の知らない秘密があるのかもしれない。あるとしたらおそらく、それは礼子の抱える秘密と密接な関係がある。
 礼子の自宅に探りを入れてみようと思った。自宅の警護は任務外だが、父親に報告があると言えば訪問の理由はできる。
 父親にアポを取ろうとして、薪はそれを途中で止めた。
 行くなら不意打ちだ。自分はあの家に探し物をしに行くのだから。
 人間は不意を突かれると、隠しておきたいものに対して不自然な行動を取る。視線がその付近を何度も行き来したり、逆にその場所だけを見なかったり。人を観察することで隠しているものの種類や重要度が分かる。刑事である薪にはそれを見抜く力がある。

「ありがとうございました」
 昇降口まで送ってくれた守衛に礼を言い、薪は教室へ戻った。体育の授業はまだ30分くらい残っている。無人の教室は九条家の捜索計画を立てるのに持ってこいだ。

 何の気なしにドアを開けて、咄嗟に立ち竦んだ。教室の中に人がいたのだ。
 その人物は、机の上に出した学用品に墨汁を降り注いでいた。礼子の席だった。
「何をしている」
 反射的に厳しい声が出た。びくっと身体を強張らせた少女が、怯えた顔で薪を見た。黒髪のおかっぱ頭で色白の少女、このクラスの生徒ではない。先刻、柚子に教えてもらった残り4人のうちの誰かか。

 彼女は身を翻し、薪が現れたのとは反対のドアから逃げ出そうとした。咄嗟のこととはいえ、それを逃がす薪ではない。彼女がドアに行き着く前に、彼女の細い手首は薪の右手にがっちりと拘束されていた。
「お願い、見逃して」
 彼女が持って逃げようとした墨汁の容器に、クラスと名前が書いてあった。C組、水島智子。思った通り、柚子が名を挙げた生徒の一人だった。

「黙っていてあげるから、ひとつ教えて」
 薪の提案に、彼女は訝しそうに顔を上げた。助かるかもしれないと言う一縷の希望と、後悔に歪んだ顔。彼女には自分が悪いことをしている自覚がある。
「頷くだけでいいわ。あなたにこれを命令したのは」
 薪がある女生徒の名を口にすると、彼女は狼狽し、うろうろと目を泳がせた。それで充分だったが、薪は彼女の返答を待った。
 彼女はやがて、すべてを観念したように力なく頷いた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

お見舞いありがとうございます。
おかげさまで本日、退院しまして。実家に帰って参りました。


>薪さんたら

ブルマーは男のロマンですよね!←同意を求めること自体まちがっている。

事件は、
すっごく単純ですよ。読んだまんまです。
本当はもっとダミーを入れようと思ったんですけど、面倒になっちゃry。
えっ、と驚くような結末ではないので、ミステリーとしては物足りないと思います。すみません~(^^;

Sさまへ

Sさま。

犯人、考えてくださってありがとうございます(^^
固有名詞の無いキャラが犯人てのも、アリですよね~。今回は違いますけど。

わたしが読んだ推理小説で、主人公たち(探偵)が乗ったタクシーの運転手が犯人、てのがありましたよ。あれは分からなかったな~。最初のその部分しか出てこないんだもの。
運転手って書いてあるだけで特に描写もなくて、男か女かも分からなかったんですよ。まあ確かに意外ではありましたが。
あれは分からんよww

Sさまへ

Sさま。

お祖母ちゃんへのお見舞い、ありがとうございます。
結婚記念日のお祝いも、ありがとうございました(^^


>青木はどうしまして?

……どうしてSさまは、いつもそんなに鋭いのでしょう!
わたしも同じことを思っていたのですよ。最近のしづのお話、青薪さんの絡み少ないよね?
公開中の話もそうだし、最近書いた話もそうなんですよ。
この話みたいに青木さんが出てこないわけじゃないんです。ただ、シチュエーション的に絡まないんです。こんなものが青薪小説と呼べましょうか!!

8月号のメロディに秘密の新作も掲載されるそうですし(嬉)
次の話では必ずや、青薪さんの絡みを書きたいと思います。
がんばるよっ!


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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毎日たくさんの拍手をありがとうございます。励まされてます。
おかげさまで、しづは元気で仕事してます。(10/28)
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