仮面の告白(1)

 初めに題名について、お断りしておきます。
 三島由紀夫先生のかの名作とは、なんの関連もございませんので、ご了承ください。

 で、内容ですが。
 このお話は、Rでもなんでもありません。キスシーンすらでてきません。
 でも、中に爆弾入ってます。
 薪さんが女性とするのは絶対にイヤ、という方、薪さんの麗しいお口から、エロ話なんか聞きたくない、という方は読まないほうが無難です。

 ただ、この話には新しいオリキャラが2人、登場します。
 この2人はけっこう重要な人物なので、読まれない方のために人物紹介だけしておきますね。

 小野田 聖司 
 役職  警察庁官房室室長
 薪さんのパトロンです。
 イメージは、相棒の小野田さん♪(まんまです)
 性格は大分違いますけど、飄々としたカンジのおじさまです。


 間宮 隆二
 役職 刑事局人事課 警務部長(人事部長)
 ジンクスに出てきた三田村部長の後任の警視長です。
 イメージは……わたしです(爆)
 ものっそい、エロオヤジです。薪さんにバンバンセクハラいきます。R系ギャグですから☆






仮面の告白(1)







 赤く縁取られたくちびるが、切なげにうめいた。
 女のくびれた腰が艶かしく動いて、男の腰に絡みつく。たくましい男の腰使いに、女は派手な声を上げてよがり狂う。
 激しく女の中に出入りする男のものが大きく映し出される。繋がった部分からは、ぐちゅぐちゅと淫猥な音がして、女の嬌声と共にふたりの興奮を煽っていく――――。

「もうダメです。吐きそうになってきました」
 一番最初に音を上げたのは、やはり純情な新人だった。画面から顔を背け、青い顔をして口を押さえている。本当に気分が悪そうだ。
「遠慮するな。おまえ、好きだろ。こういうの」
 机に山と積まれたDVDを指差して、小池が青木のリタイヤを却下する。
「裏モノなんか滅多に見れないぞ。5課の課長に感謝しろよ」
「いや、ほんとカンベンしてください。お宝画像よりキツイです、これ」
 いくらエロティックなAVでも、10本も続けて見たら気持ちが悪くなってくる。しかも、無修正ものでストーリーも何もない。

 これは5課の押収品だ。
 5課では大掛かりな摘発の結果、数千本の裏AVを押収した。警察というところは、現場で押収したものは例えどんなものでもこうして内容を確認しなければならない。大量の確認作業のため、5課は他の部署の協力を仰いだ。そのおこぼれが第九にも回ってきたというわけだ。
 現在、署内中のPC画面にはこれと同じような映像が映っている。事情を知らない一般人が入ってきたら大変な騒ぎになりそうだが、これはれっきとした職務だ。

「こっちは終わったぞ。あと何本だ?」
「200本くらいです」
 気が遠くなりそうな数である。
「めんどくせえな。PC全部使って、回すだけ回して見たことにしちまったらどうだ」
「ばれたら厄介ですよ。一枚一枚確認書つけなくちゃいけないんですから」
「いい。僕が許す」
 自動ドアが開いて、刺々しい声が響いた。

 小柄な身体がすっぽりと隠れてしまいそうなほど大きな箱を両手に抱えて、室長が姿を現す。箱に隠れて顔は見えないが、明らかに苛立った声。ものすごく機嫌が悪そうだ。
「追加だ」
 床の上に箱を降ろし、腕を組んで蓋を開けるようあごで指図をする。促された曽我が箱を開けてみると、中身は300枚ほどのDVD。職員たちは一斉に机に突っ伏した。
「追加って……室長。これ、初めより増えてますけど」
「捜一から回ってきたんだ!」
 控えめな抗議の言葉に、室長の癇癪が爆発した。
 びりりと震えた険悪な空気に、職員たちは首を縮こめて画面に目を戻す。
 怒ったときの室長は、それはもう鬼より怖い。とばっちりを食わないためには、黙ってうつむくのが最善の策だ。
 
「荻窪で殺人事件があって、そっちに行かなくちゃいけないからって!」
 捜一と第九は昔から犬猿の仲だ。こんな嫌がらせは日常茶飯事だが、室長には我慢のならないことらしい。
「だからってなんでうちに回すんだ! こっちだってヒマじゃないっていつも言ってるのに、だいたいっ」

 室長の喚き声は、そこで不意に途切れた。
 不審に思った職員が画面から視線を移し、室長のほうを見る。そして彼らもまた、言葉を失った。

 薪の小さな顔が大きな手に覆われて、視界を塞がれている。大きな手の持ち主は薪の後ろに立って、その華奢な身体をPCの画面から遠ざけようと腕を引っ張っている。
「……なにをする」
「室長はこんなもの見ちゃダメです!」
 第九の新人は時々、わけのわからない行動にでる。特に室長が絡むと、その行動は理解の範囲を超える。最近では職員たちも慣れてきて、『青木がまたなんか始まった』としか思わなくなった。

「手をはなせ」
「ダメです。目が腐っちゃいます―――― わっ!」
 見事な背負い投げが決まる。薪は柔道二段の腕前である。
「腐る前に潰れるわ! この馬鹿力!」
 押さえられた眼の辺りが、少し赤くなっている。慌てて押さえつけたのものだから力の加減ができなかったらしい。だからといって、投げ飛ばすのは完全に過剰防衛だ。

「岡部。PC全台起動させて、片っ端から回しちまえ。MRIのモニターもメインスクリーンも全部だ」
「メインスクリーンはまずいでしょう。誰か入ってきたら咄嗟には切れませんよ」
「かまわん。そうでもしなけりゃ今日中には見きれないぞ」
 室長の言い分は最もだが、メインスクリーンは広い研究室の壁一面をフルに使った巨大なものだ。その画面いっぱいにこの映像が映し出されるかと思うと、内容が内容だけにいくら仕事とはいえ、二の足を踏んでしまう。
「やれ。室長命令だ」
 伝家の宝刀が出てしまった。これですべての反論は封じられた。

「宇野。念のためにシステムにバイパス組んでくれ」
 DVDにシステム破壊のウィルスが入っていたときのことを想定して、薪は宇野に指示を出す。怒りに我を忘れているようなときでも、怜悧な頭脳は鈍らない。こと仕事に関して、室長に死角はない。
「室長室のPCも使え。僕のノートも使っていいぞ。おまえらのもみんな出せ」
 薪は手近な椅子に腰を下ろすと未確認のDVDに手を伸ばし、PCにセットした。画面にあからさまな性交シーンが映る。それを眉ひとつ動かさずに眺めている。

 隣で青木が、頬を赤くして画面を見ている。
 この新人は今年で24歳になるはずだが、年の割にはひどく純情だ。この手のものに免疫がないとみえる。
「2、3枚ダビングしてやろうか、青木」
 意地悪そうに嗤って、薪は隣の新人を見る。その亜麻色の瞳は明らかに、青木の狼狽振りを楽しんでいる。
「お気持ちだけで結構です……」
 なんとも情けない新人の表情に、薪はニヤニヤと笑う。
 意地悪は室長の嗜好品(おたのしみ)。いわば気分をリフレッシュさせる清涼飲料水のようなものだ。

 周りの職員たちはその様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。薪が誰かに意地悪を仕掛けるのは、機嫌が直った証拠だ。
 捜一の嫌がらせに怒髪天を突いていたはずの室長の機嫌をこうも早く直すとは、今年の新人はなかなか役に立つ。薪がいったん怒り出すと、今までは嵐が収まるのをひたすら待つしかなかった。かろうじて室長の機嫌を取れるのは岡部ただひとりで、それも毎回成功するとは限らなかったのだ。

 この新人は、今年の1月に第九に異動してきた。
 室長に憧れて第九に入ってきたという言葉に嘘はなく、常に薪につき従い、心の底からの忠誠を誓っている。薪の言うことには絶対に逆らわないし、文句も言わない。誠実に指示を守り、力の限りを尽くして職務を全うしようとする。その努力は職員全員が認めるところである。
 特に薪の好物のコーヒーに関しては職務以上に精通し、今では第九のバリスタの称号を得ている。
 このコーヒーが、意外と役に立つ。
 週刊誌に第九の悪評を書かれたときくらいなら、薪の機嫌を直すことができる。これが敵対する捜一や警視総監とやりあってしまった時などはどうしようもないが、それでも第九の職員たちの平穏な時間が増えたのは喜ばしいことだ。

 やがて正面の巨大スクリーンに、裏AVの映像が映し出された。それを見た職員たちが一様に顔をしかめる。
「げっ」
「グロイっすね」
 ここまで引き伸ばされてしまうと、もはや人間の体の一部というよりは、グロテスクな軟体動物のようである。色気も何もあったものではない。
「みんな自分のモニターとPCに注目してろ。メインスクリーンの確認書は僕が書く。僕の部屋のPCは岡部、おまえが使え」
 薪だけは表情を変えないが、研究室の全員がその画面に吐き気を覚えている。特に隣の新人はもう限界だ。真っ青な顔になって口元を押さえている。

「青木。コーヒー淹れてこい」
 メインモニターと手元のモニター、PCにノートPCと4つの画面を忙しく見回しながら、薪は隣の新人に強い口調で命令する。
「手抜きするなよ。全員分、ちゃんとドリッパーで淹れるんだぞ」
 ドリッパーで淹れるコーヒーは香りも高く味も良いのだが、時間がかかる。全員分だと、20分近く掛かってしまう。しかし、それは薪も承知の上だ。つまり、一息入れて来いと言ってくれているのだ。
 青木は口元を押さえたまま席を立つ。室長の気遣いがうれしい。言葉は素っ気無いが、薪は本当はやさしいのだ。

 給湯室の水道で顔を洗って、気持ちをしゃっきりさせる。
 こんなことでへこたれてはいられない。薪のやさしさに応えなければ。

 コーヒーの香りを漂わせて、青木はモニタールームに戻った。
 各人にコーヒーを配って歩きながら、ちらちらと横目でメインスクリーンのグロテスクな映像を見る。今は官能的な表情をした女の顔が映っている。さっきの軟体動物よりはマシだが、やっぱりこうも大きくなってしまうといくら女優の顔でもアラが見える。「夜目遠目笠の内」というやつだ。

「室長。どうぞ」
「うん」
 右手で忙しくメモを取りながら、薪は平然とモニターを見ている。その横顔は氷のように冷静そのもので、この映像が目的とする感情からはほど遠い。他の職員たちはどこかしら照れを含んでいたり、逆に辟易としていたり、何かしらの表情を持っているものだが、薪には一切の感情がないようだ。

「青木。この女、見覚えないか」
「あ、これ女優の……うわあ、ショックだなあ」
 それは癒し系で人気の若手女優だった。青木が好きな車の雑誌の表紙もよく飾っているし、実は写真集も持っている。
「オレ、ファンだったんですよ、この女優さん。AVに出てるなんて。もう、ファンやめようかな。こういうの見ちゃうと幻滅しちゃうんですよね」
「これ、AVじゃなくてたぶん盗撮だ。アングルが変わんないだろ。ホテルの部屋に仕掛けられてたんじゃないのかな」
 ひどい話だ。プライバシーの侵害というのは、こういうことを言うのだ。第九には強行に意見する人権擁護団体が、暴力団に何も言わないのは片手落ちだと思う。

「そういうのってホテル側も協力してるんですよね。許せないですよね」
「見られることで興奮する変態もいるけどな」
「そうそう、夜の公園とか。あれ、けっこう興奮するのよね」
「僕は嫌だな、ああいうのは。落ち着かなくて……って、雪子さん!」
 いつの間にか、法一の女医が薪の後ろに立っている。
 アイスクリーム店のロゴが入った発泡スチロールの箱を持って、どうやら差し入れに来てくれたらしい。が、今は最悪のタイミングである。

「宇野!シャットダウン!」
 慌ててメインスクリーンのスイッチを切るが、システム破損防止のためのプログラムが働いているので、自動終了の間は画面が静止状態になってしまう。いま正に場面は、女の局部に男のものが挿し込まれるところで、自らの指で開いた女性器と男性器の先端が大写しになっていた。
 雪子は箱を机の上に置くと、白衣のポケットに両手を入れてまじまじとメインスクリーンを見上げた。
「すっごい迫力ね。さすが第九が誇るMRIシステム。解像度が半端じゃないわ」
 男性ですら正視できない画像に、恥ずかしがる様子もない。女性とは思えない反応だ。
「女性はこんなもの見ちゃダメです!!」
 反射的に立ち上がり、薪は雪子の目を塞ごうと両手を伸ばす。伸ばした手は雪子の右手に捕らえられ、右になぎ倒されて足払いが決まる。薪はその場に思い切り尻もちをついた。

「……雪子さん、ひどいです」
「だって急に襲い掛かってくるから。薪くんがAVに興奮しちゃったのかと思って、怖くなっちゃったんだもん」
 反論しても無駄だと悟り、薪は床の上に突っ伏した。
 さすがの薪も、この女性にだけは敵わない。雪子は薪の柔道の先生だ。

 雪子は持ってきたアイスの箱を開けて中からひとつ取り出すと、床に座ったままの薪に差し出した。いつものカップアイスではなく、何故か棒状のアイスキャンディーである。
「署内中このAVでしょ。みんなのどが渇いてるんじゃないかと思って。はい、薪くん。あーん」
「僕はあとでけっこうです」
「関節技決められたい?」
 雪子の脅しに、薪は仕方なく目の前に突き出されたアイスキャンディーを咥える。
 薪が柔道黒帯保持者であることは第九の者ならみな知っているし、雪子がその上を行く猛者だということもわかっているから、今のように見事に倒されてしまっても誰も何も言わないが、やはり部下の前であまりみっともない場面は見せたくない。

 雪子がにこにこして他の職員にアイスを配りに行ったのを見て、薪はキャンディーを咥えたまま席に戻った。
 溶けると垂れてきてしまう棒に刺さったアイスは、一度に食べきってしまわなければならないので、仕事中には少し困りものだ。雪子ならその辺のことは心得てくれているはずなのだが。

「はい、小池君。どうぞ、今井君」
「三好先生……カンベンしてくださいよ……」
「あら、なんのこと?」
「狙ってますよね、このアイス」
 雪子を囲んで職員たちがなにやら騒いでいるが、内容まではよくわからない。
 薪は再びモニターに目を戻す。3つの映像を同時に確認しながら、両手でキーボードを叩いている。キャンディーは口に咥えたままだ。置くところがないから仕方ない。

「青木くん。これ、2、3枚ダビングして。助手の女の子と見るから」
 不埒な計画の首謀者は、最後に新人のところに来て、そんな恐ろしいことを言いながらアイスを渡した。こっそりと青木の耳に耳打ちする。
「薪くんのくちびるって、なんか咥えさせたくなるのよね」
「……何かってなんですか?」
「なんていうかこう、棒状のものを。バナナとか」
「…………みよしせんせい……」
 可哀想に、純情な新人は、もう立っているのがやっとである。

「あ、薪くん。垂れる垂れる」
 雪子の注意に気づいて、薪はキャンディーの棒を持ち、下方からそれを赤い舌で舐めあげた。
 それを見た職員たちが、慌てふためいて席を立つ。どうやら部下たちの間で、意味がわからない行動をとるのが流行っているらしい。

「あっ! 今井、おまえ何やってんだ、仕事中だぞ!」
「こいつ、彼女にメール打ってやがる! ふざけんな!!」
「あんな強烈なもん見せられて、我慢できるか!」
「たしかに。AVなんか目じゃないな」
 年若い新人に至っては、とうとう床に座り込んでしまった。
「青木くん。鼻血でてる」
「……すいません……」
 薪が軽蔑したような目で青木を見ている。モニターのAVに興奮して、腰砕けになったと思われているのだろう。
 誤解を説きたいが説明はできない。したら確実に命はない。

 今夜もまた、あの夢を見てしまう―――― ティッシュで鼻を拭きながら第九の新人は、その若さならではの悩みをもてあましていた。




*****



 ああ、楽しい!
 R系ギャグ、ばんざい♪

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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