イヴに捧げる殺人(9)

 こんにちは。
 お祖母ちゃん、また入院しちゃいました。
 なんかねえ、あれは繰り返すんだって。発作が起きると息が吸えなくなるそうで、とっても苦しいって言ってました。がんばって生きてきたのに、どうして最後はみんな痛かったり苦しかったりするのかなあ。

 さて。
 お話の方は、うん、この辺からめんどくさくなっちゃいました感アリアリで……とにかく早くたたんじゃえって雰囲気が随所に現れてる気がしますが、ごめんなさい、大目に見てください。





イヴに捧げる殺人(9)









「まさか娘に告発文を書かせるとはね」
 驚いたな、と中園は微笑み、満足そうな視線を薪にくれた。
 大学ノートを破り取ったものでも、要件さえ揃っていれば法的には有効だ。未成年者でも告訴状は出せるし、正式に提出された以上、警察は責任を持って事実関係を確かめなければならない。
 これで強制捜査が可能になる。九条議員の逮捕は時間の問題と思われた。
「いったいどうやったの? 寝たの?」
「冗談でもそういうこと言わないでもらえますか」
「やきもち妬きの恋人に聞かれたらエライ目に遭わされる?」
 中園はこうして事あるごとに青木との仲を当てこする。ポーカーフェイスの裏側で、薪は舌打ちしたいのを必死でこらえた。

「僕に潜入捜査を命じたの中園さんだって、小野田さんにばらしますよ」
 どうせまた中園の独断だろうと踏んでいた。こんな職務範囲外の危険な仕事、小野田が薪にさせるはずがない。
 痛いところを衝いたのか、途端に中園は猫なで声になって、
「さすが薪くんだ。君のような優秀な部下を持って鼻が高いよ」
「お褒めに預かり恐縮です。で、臨時会の方は抑えられそうですか?」
「うん、電話しておいた。今は11月だからね。時期もよかった」
 国会議員には不逮捕特権がある。円滑な政治を行うため国会の会期中は逮捕を拒むことができる、と言う警察にとっては忌々しい悪法だ。国会の会期とは、通常国会が開かれる1月からの150日間、及び臨時会、特別会の開催期間のことで、最後の特別会は内閣総辞職の際に開かれるものだから今回は関係ないが、心配なのは臨時会だ。
 臨時会の召集決定権を持っているのは内閣だが、総議員の4分の1の要求があれば、内閣はこれを認めなければならない。九条が逮捕を逃れるため、仲間の議員を扇動して臨時会を要請することは十分考えられる。
 しかし、合理的な期間内に常会(通常国会)が召集される場合には臨時会の要請を棄却しても憲法違反にはならない。通常国会が開かれる1月まで2ヶ月足らず。臨時会の召集理由に緊急性が薄いと内閣が判断すれば、正当な棄却の理由になる。もちろん、警察寄りの閣僚に前もって通告はしておくが。

「警護対象の娘が警察の保護下に入るんじゃ、ボディガードもお役御免だね。吸血鬼事件の方は、君が見つけてきた被害者の共通点から洗い直すように捜一に言っておくよ」
「その必要はありません。犯人の目星は付きました」
「本当に?」
 自分が部下に命じた職務でありながら、中園はその成果に舌を巻いた。性格や気質に難はあるものの、この男は捜査に関しては捜査員百人分の働きをする。

「犯人、分かったの」
「証人も見つけましたので間違いないと思います。ただ動機が」
 薪は口ごもった。学内で集めた証言をもとに推理を組み立てるとある人物に辿り着く。黒幕は彼女で間違いない。しかし。
「動機が見えてこないんですよね。らしきものはあるんですけど、理解に苦しむっていうか」
「それは取り調べで明らかにすればいい。連続殺人だぞ、のんびりしてたら次の被害者が」
「その点は大丈夫です。犯人の目的は既に達成されてますから。逃亡の危険もありません。逃げてしまったら殺人を犯した意味がなくなる」
「誰なの、犯人」
「学園の生徒です」
 薪がその人物の素性を告げると、中園はひどく驚いた顔をした。学内に犯人がいると確信してはいたものの、生徒だとは思わなかったのだろう。

「もちろん彼女一人に犯行は無理です。彼女には協力者がいました。この証拠は、協力者の家にあった物です」
 積み重ねられた書類の隙間に音もなく置かれた小瓶には、赤黒い液体。血液だ。薪がこれをここに持ってきたと言うことは、DNA鑑定の結果が被害者の一人と合致したのだろう。
 決定的だね、と中園は呟き、そんな証拠を残しておいた犯人の心理を疑問に思った。血液なんて処分しやすいもの、さっさと流してしまえばよいものを、犯人はこれを何のために取っておいたのだろう。

「物証があるなら速やかに逮捕だ。犯人の氏名を捜査一課に」
「すみません。それはちょっと待ってもらえますか」
「なぜ」
「共犯者が確定できないのと、……できれば、自首を」
 躊躇いながらも薪が言うと、あからさまに舌打ちされた。だから言いたくなかったのだ。自首では世間に警察の有能さと威光を示せない。だが今回は事件関係者に未成年者が含まれることと礼子のプライバシーを優先し、できるだけ秘密裏に事を運びたいと薪は考えていた。
「不明瞭な動機も共犯者の氏名も、取り調べで吐かせればいい。17歳の少女だろ。ちょっと脅せばすぐに落ちるさ」
「被疑者を脅して得られる供述は往々にして真実ではありません」
 それきり薪は口を噤んでしまった。まったく使いにくい部下だ。いくら優秀でも上官の命令に逆らう職員は部下として失格だ。中園ならそれを最初に徹底的に叩き込むのに、小野田が甘やかすから。

 直球では薪の口を開かせるのは難しいと悟って、中園は話題を変えることにした。
「犯人の動機らしきものって?」
 その動機が犯人たちに証拠品を保存させたのかもしれない。中園はそう考えたが、薪はため息交じりに首を振り、
「中園さんには理解できないと思います。もちろん僕にも解りません」
「決めつけないで欲しいな。僕は君みたいな石頭じゃないよ」
「じゃあ話しますけど、つまり」
 珍しく自信無さ気に薪が話すのを聞き終えて、中園は眉間に深い皺を刻んだ。
「なんだい、それ」
「だから言ったじゃないですか、理解できないって。女の子じゃないと無理なんですよ、きっと。雪子さんにでも訊いてみようかな」
「それじゃもう一つの質問。どうして犯人は被害者の血液を2ヶ月も持ってたの? トイレにでも流しちゃえばいいじゃない」
「それも分かりません」
 確かに弱い。物的証拠があるから自白がなくても送検はできるだろうが、供述書に不明点が多過ぎるのは困る。

「女ってのは謎だねえ」
「ええ、まったく」
 上司と部下は顔を見合わせ、殆ど同時にため息を吐いた。
 警察庁の天才と官房室の諸葛亮が知恵を絞っても解けない難問。汝の名は女なり。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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