イヴに捧げる殺人(11)

 過去作に拍手をありがとうございます。
 最初の話から、最終章にずっと拍手が入ってるの。昔の話を読んでもらえるの、うれしいです。(あ、拍手だけして読んでない可能性も……だれがそんな無駄なことするんだw)

 第九編が終わって、もうすぐ2年ですね。
 うちは青薪小説がメインですから、2年前に終わった話を延々読んでもらってることになるわけで。今更ながら、原作の素晴らしさを痛感しています。だって、原作に惚れこんでなかったら二次創作なんか読まないでしょう? 連載が終わっても、数多くの人が未だに薪さんにお熱、というこの状況がスゴイなあって。
 ちょーっと原作からズレちゃってますが、それでも沢山の方に読んでもらえて、うちの薪さんは幸せものだなあって思います。ありがとうございます。

 この話が終ったら、10万ヒットのお礼SSと4万5千拍手のお礼SS公開しますね。
 これよりはマシな話になってると思うので(←もうどんだけ(^^;)、どうかよろしくお願いします。




イヴに捧げる殺人(11)







「というわけなんですよ、雪子さん」
 話を終えて薪は、法一の副室長の顔を見上げた。彼女は薪よりも十センチほど背が高く、同じ高さの椅子に座っても僅かに見上げる形になるのだ。
「彼女の気持ちが理解できますか?」
「ぜんぜん」
「雪子さんでも無理ですか」
 きっぱりと首を振られて、薪は肩を落とした。雪子を当てにして、官房室から第九へ戻る途中わざわざ立ち寄ったのに、どうやら無駄足だった。

「先生には無理ですよお。同じ女性でも、先生は彼女たちとは対極にいる人なんですから。多分、薪室長より遠いですよ」
 クスクスと笑いながら、雪子の助手が顔を出した。可愛い顔をして遠慮なくものを言う。あけすけなところが雪子と合うのだろう、彼女たちはとても仲が良かった。
「対極ってなによ。そりゃあたしはお嬢様じゃないけど」
「お嬢様とか庶民とかの問題じゃなくて、いっそ染色体もしくは遺伝子の問題じゃないかと」
 どういう意味、と引き攣った笑いを浮かべる雪子をきれいにスルーして、菅井は薪の質問に答えた。

「わたし、ちょっと分かります」
「本当ですか」
 菅井の言葉に、薪は思わず腰を浮かせた。薪にはまったく理解できない17歳の少女の心。多感な少女時代を過ごしてきた女性なら分かるかもしれないと思っていた。
「その子と同じで、わたしも学生の頃は引っ込み思案で」
「え、だれが?」
「言いたいことも言えなくて」
「ちょっと、誰の話?」
「先生、黙っててください。これでも飲んで」
 話の腰を折りまくる雪子に苛立ったように菅井は、3人分のカップをテーブルに置いた。3つとも、赤いきれいな紅茶だ。花の香りがする。

「いらない。それ、酸っぱいんだもの」
「なに贅沢言ってるんですか。40超えた女が女でいようと思ったら常日頃から努力しなきゃダメです。結婚半年で竹内さんに捨てられたいんですか」
「すみません。話戻してもらっていいですか」
 女と言うのはどうしてこう話がズレるのだろう。飛躍も多いし、彼女たちのお喋りにはとても付いていけない。
「雪子さん、離婚裁判の時には最高の弁護士をお付けします。僕も証人として法廷に立ちますから。二人で協力して、史上最高額の慰謝料ぶんどってやりましょうねっ」
「薪くん、話戻ってない」
 窘められて咳払いをする。何もなかった振りで、薪は先刻の話をおさらいした。

「僕が見る限り、Y嬢はR嬢に恋心にも近い好意を抱いていたと思うんです。なのに彼女は、他の生徒を使ってR嬢を苛めていた。R嬢に近付くと一緒に苛められると言って、R嬢を孤立させていた。どうして好きな人にそんなことを?」
 あの日、薪が教室で捕まえたおかっぱ頭の生徒に聞いた。彼女に礼子の学用品を汚すよう命じたのは更科柚子だった。
 薪が柚子を疑ったのは、彼女が正しい情報を持ち過ぎていたからだ。礼子の苛めについて何人もの生徒から聴取を行ったが、柚子が一番詳しかった。お世辞にも社交的とは言えない彼女がどうしてそれを知り得たのか。苛めの場面を目撃していたか、あるいは逆に。
 そう考えて墨汁を撒いていた生徒にカマを掛けた。真実は後者だった。
 しかし、柚子は熱い瞳でコートを走る礼子を見ていた。あれは恋する者の眼だ。少なくとも、苛めの対象者を見る目ではない。

「誰のものにもなって欲しくなかったんだと思います」
「独占欲ですか? 恋人でもないのに?」
 理屈じゃないんです、と菅井は前置きして、彼女の代弁者になった。
「自分のものにならないなら、誰のものにもなって欲しくない。自分が話しかけられないから誰にも話しかけて欲しくない。愛情の裏返しですよ」

 ずっと、ずっと昔のこと。
 鈴木の恋人になる前、その権利もないのに薪は鈴木の彼女や友人に嫉妬した。鈴木はみんなの人気者で、自分とは釣り合わないと思った。だったら自分が鈴木のようになる努力をすればよいのに、それはひどく難しいことに思えて。いっそ鈴木が自分のように、誰にも相手にされないような欠陥だらけの人間なら自分だけが彼の友だちでいられるのにと考えた。
 バカな話だ。鈴木がそんな人間なら、そもそも好きにならなかった。

「分からないなあ。好きな人には幸せになって欲しいと思わないわけ?」
 雪子は薪よりも彼女たちから遠いところにいる。菅井の言葉は当たっていた。彼女は薪以上に、柚子の気持ちが理解できなかった。
「思いますよ。でも、自分以外の誰かの力で彼女が幸せになるのは許せなかったんだと思います」
「じゃあ自分から彼女に近付いて、親友なり何なりになればよかったじゃない」
「雪子先生みたいに思ったことを行動に出せる人ばかりいないんですよ。特にあの年頃は、それが難しいんです」

 誰かと友だちになることが人殺しよりも困難だと?
 もちろん、協力者の存在がなかったら彼女だってそれを実行に移すことはなかっただろうが、それにしたって。

 薪は心の中でその可能性について思案した。殺人事件の話は雪子たちにはしていない。礼子の苛めの話だけだ。しかし、それがこの事件の核になっていることは間違いない。
 逆に、協力者に利用されたのかもしれない。被害者はいじめを行った後に拉致されている。犯行のタイミングを計れるのは柚子だから、彼女が主犯だと考えたけれど。むしろ柚子は連絡係のようなもので、主犯格は協力者の方だったのかも。

「……すっぱ」
 菅井が淹れてくれた紅茶を無意識のうちに口に運び、薪は思わず顔をしかめた。
「ね。酸っぱくて飲めないわよね、こんなの」
「はちみつ入れると飲みやすいんですけど、用意してないんです。置いてあると雪子先生がみんな舐めちゃうから」
「あたしはどこぞの黄色いクマか」
 二人の掛け合いを聞き流しながら、薪はこれと同じ色合いのお茶を飲んだ時のことを思い出した。ローズヒップティーは礼子の好物だとユリエが言っていたが、あのお茶はもっと飲みやすかった。

「前に飲んだのはこんなに酸っぱくなかったですけど」
 砂糖類は入っていなかったと思う。薪は味覚は鋭い方だが、甘味は感じられなかった。
「偽物の茶葉だったんじゃないですか? ローズヒップはビタミンCが売りなんだから、酸っぱくなかったから嘘ですよ」
「まさか。代議士の屋敷ですよ」
 味を確かめるためにもう一度口に含んだ。酸味が強すぎて他の風味が消されてしまっている。淹れ方の問題かもしれない。薪の恋人がリーズナブルなコーヒー豆を最高級のブレンドに変えるように。淹れてくれた菅井にそれをそのまま伝えるわけにもいかず、茶葉の種類が違ったんでしょうと薪は答えた。
「きっと飛び切り高級な茶葉だったんですよ。味ももっと玄妙で、深いコクが」

 あの味を的確に他人に伝える喩えがないかと、これまでに食した料理や飲料の中から類似したものを探るうち、薪はスッポンの専門店で飲んだ食前酒の味を思い出した。あれは確か赤ワインにスッポンの――。

「薪くん?」
 突然青ざめた薪を心配して、雪子が声を掛けてくれた。
「いや、ちょっと気分が……いえ、大丈夫です。もう何日も前のことですし……うっ、ぷ、し、失礼」
 我慢できず、洗面所に走った。幸いトイレは雪子の私室のすぐ側にあり、でも彼女たちには薪が嘔吐する音が聞こえていたに違いない。
「吐くほど酷い味でした?」
「薪くん、味に過敏なとこあるからねえ。あたしの料理食べて何度か気絶してるし」
 それは薪が弱いのではなく雪子の料理がカクバクダンなのだ。薪は必死に反論したが、込み上げてくる嘔吐に阻まれて、その叫びは誰にも届かなかった。



*****
 
 うちの薪さんて、しょっちゅう吐いてる気がする。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Bさまへ

Bさま。

そうです、被害者から抜いた血液です。
礼子の家で最初に飲んだお茶に入っていたんですね。あれは礼子用に淹れたものだったので。
薪さん、イヤシイことするから(笑)

お見舞いありがとうございます。
もう96歳なんでね~、ていうか、これが初めての入院だっていうから大正生まれは怖いね!(・◇・)
その面倒を見ているお母さんも75になるのですけど、毎朝5キロのウォーキングを欠かさないという(@@) 30歳年下の娘は、3キロも歩いたら膝が痛くなりますが(^^;
昔の人はホント、元気だわww

Aさまへ

Aさま。

>最終回後も秘密ファンのフォロワーさんが増えてます(^^)

うれしい限りですね♪
薪さん以上に好きなキャラ、わたしも無いと思いますね。
よく、若いうちに遊ぶのはいいけど中年になってから女に嵌る男は手に負えない、って言うじゃないですか。それと同じ。←ぜんぜん違うよ。


>憧れの存在を自分だけのものにしたい

この辺は本当にフクザツで。
幸せになって欲しいと思いながらも、その不幸を喜んだり。みんなの人気者であることが自分の誇りでもあるのに、そのことに嫉妬したり。
そういう気持ちももっと書き込みたかったのですけど、なにしろ時間と気力が(^^;
やっぱり忙しい時の本格推理は無理があるわー。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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