イヴに捧げる殺人 後日談(1)

 日曜日にたくさん拍手くださった方、ありがとうございました。
 せっかくの日曜日を無駄にし、いえその(^^;)、
 貴重なお時間を費やしていただいて光栄です。常連さんもご新規さんも、ありがとうございます(〃▽〃)


 さてさて、
 今週末は1年ぶりの薪さんですねっ。
 予告によると薪さんが誌面に登場するかどうか分からないのですけど、薪さんいないと秘密始まらないと思うし。会えるといいな~。





イヴに捧げる殺人 後日談(1)





 比較的早い時間に退庁が叶った金曜日の夜。予定がなかったら付き合え、と薪に誘われた。
 薪と向き合ったとき、イエス以外の言葉なんて青木の中には存在しない。「どんてん」で待っている小池たちを裏切る決意をするのにコンマ1秒、「急な用事ができました」とメールを打って携帯電話の電源を切るまで1分もかからなかった。
 明日から連休と言う夜に誘いを受けたのだ。彼は青木の上司だけれど、これは仕事ではない。その証拠に公用車は使うなと指示された。駅前で拾ったタクシーの運転手に薪が告げた行先は有名な繁華街。想像するに、酒を交えた食事をしてからホテルに一泊するか薪のマンションに行くか、どちらにせよ青木にとっては最高の夜が待っているはずだ。

 道端に停められたタクシーから降りた青木は、わくわくしながら薪の後について歩き、店に入り席に着き。薪が、おしぼりを持ち上げたところでブチ切れた。
「なんでキャバクラなんですか?!」
 いくら薪でもあり得ない。金曜の夜の恋人たちが甘い時を過ごす場所がキャバクラって! 薪は見た目は高校生でも中身は立派なオヤジ、それは知ってるけれどこれはない!

「騒いでないでおまえも指名入れろよ」
 薪は慣れた様子でボーイを呼び、女性の名前を告げた。指名する女の子がいるってことは、彼はこの店に何度か出入りしていると言うことだ。遊ぶなとまでは言わないけど、何も青木の目の前でキャバ嬢といちゃつかなくたって。それとも新しい嫌がらせ?
「オレ、今週なにかミスしましたっけ」
「報告は上がってないが、なにかやったのか」
「覚えがないから聞いてるんです。どうしてこんな仕打ちを受けなきゃいけないのかと思って」
「おかしなやつだな。普通、上司にキャバクラ奢ってもらったら喜ぶだろ」
 それは普通の上司と部下の場合であってオレたちには当て嵌まりません、と大声で叫びたかったけれど、人前ではマズイ。青木は歯を食いしばり、眼の縁に浮かぶ涙を必死で堪え、ようとしてくじけた。ソファに突っ伏して大きな体躯を丸める。だって耐えられないもん、こんなの。

 薪の指名を受けた女の子が、こちらに近付く足音がする。まさかそういう関係にはなってないと思うけど、こういう店で働く娘って貞操観念が薄いし、ましてや相手は薪だし、むしろ女の子から誘ってきたりとか、あああどうしようオレこの娘殺っちゃうかも。

「何しに来たのよ」
 相手を見てしまったら自分が抑え切れなくなりそうで、顔を伏せたままの青木の耳に、尖った女の声が聞こえた。思わず跳ね起きる。青木が知っている声だったからだ。
「れ、礼子ちゃん?」
「あら青木さん。来てくれたの。うれしい、ご指名ありがとうございまーす」
「おい、指名入れたのは僕だぞ。ここの勘定も僕持ちだ」
「だからなに」
「礼を言うなら僕に言え」
「うっわ、かっこ悪。恩着せがましい男って最低」
 開いた口が塞がらない青木と薪の間に礼子は腰を下ろし、激しく舌打ちする薪をガン無視して青木に笑い掛けた。前々から可愛い娘だったけど、綺麗に化粧をして華やかな衣装を着けた彼女はあの頃とは比べ物にならない。グラビアアイドルにときめかなくなって久しい青木ですら一瞬見蕩れた。

「礼子ちゃん、ここで働いてるの?」
 2ヶ月前の事件で九条の家を出たとは聞いたが、こんな仕事で生計を立てていたとは。青木は彼女の現況を知って、やるせない気分になった。
 礼子は告発者であり、事件被害者でもある。彼らには国から補償金が出る仕組みにはなっているが、生活を賄える十分な額は支給されないのが現状だ。結局はこのように、まだ少女のうちから辛い仕事に就かなくてはいけなくなる。

 同情心いっぱいの青木の視線を跳ね返すように、礼子は明るく笑って、
「うん。薪さんの紹介」
「そう、薪さんに、えええええ!?」
 未成年に水商売斡旋する警官が何処にいるんですか!!
 叫びたかったけれど、ここは店の中だ。礼子の立場も薪の立場も悪くなる。青木は慌てて自分の口を押さえた。
 声には出せなくてもそれは拙いでしょうと薪を見れば、澄ました顔で水割りのグラスを傾けている。警察官というより人としてどうなの、この人。

「この水割り薄いぞ。もう少し濃いめに作り直せ」
「自分で足せば」
「おい、僕は客だぞ」
 横柄な口調で嫌われる客ナンバー1の台詞を吐いてソファにそっくり返る、青木の眼から見ても感じが悪い。案の定、礼子は眉をしかめて言い返した。
「うるっさいなあ。本当に何しに来たのよ」
「キャバクラに女子の胸を触る以外の目的で来る男がいたらお目に掛かりたいものだ」
「薪さん、違います。みなさん、女の子とお喋りしに来てるんです」
「馬鹿かおまえ。そんな健全な経営方針で風俗店が成り立つか」
 それは分かってますけど建前上。
「と言うわけで揉ませろ」
 言ってることと外見のギャップがものすごいんですけど。いっそこの場で気絶したいくらいなんですけど。
「薪さん」
 青木の非難がましい声なんざどこ吹く風。不良警官はその華奢な指を卑猥なカタチに曲げて、礼子に迫った。白い手の甲を、涼しげなパールブルーのマニキュアに彩られた指先がぱちんと叩く。
「――って。おい、それが客に対する態度か!」
 うわー、お約束。それが警察官の態度ですかと言ってやってほしい。

 憤る薪に対し、礼子はきちんと膝を揃え、その上に両手を置いてすっと頭を下げた。
「当店では女の子との過剰な接触は禁じられております。ご了承ください」
「よし。酔っ払いの撃退は慣れたみたいだな」
 手の甲が赤くなるほど叩かれたのに薪は満足そうに頷いて、いそいそとグラスを取り上げた。ウィスキーの蓋を開けて、青木の水割りを作り直してくれる。青木の好みに調整された水割りは舌に心地よく絡み、ベルガモットの香りが鼻腔を官能的にくすぐった。
「その辺の男に簡単に触らせるなよ。何度も言うけど、将来好きな人ができたとき」
「そうね。あたしの身も心も、柚子のものだものね」
「その道は行かせたくなかったんだが」
「……あのお」
 質問の形に手を上げた青木を、二人が振り返った。顔を見合わせてすぐ、薪はふいっと横を向き、察して礼子が説明役を引き受けた。

 よくよく話を聞いてみれば。
 この店は薪の捜一時代の先輩の行きつけで、他の店のように暴力団とのつながりは一切ない。何でも店主が元警察関係者で組にも顔が効くので、彼らも簡単には手出しができないらしい。
 礼子のような身寄りもなく行き場のない少女たちを、彼女は自分の店で働かせている。現代の日本で、手に職もない女の子が生活しながら資金を貯め、人並の生活を手に入れるためにはコンビニのアルバイトでは不可能だ。何年かの間この店で稼がせてもらって、ある程度の余裕ができたら給金は安くても昼間の勤めに切り替える。その就職先もママが紹介してくれるんだって、あたし、美容師になりたいんだ、と礼子は遠い未来の話を夢見るように語った。
 が、あくまでも風俗店。店主は信頼が置けるが、客のすべてが素性がいいとは限らない。薪は礼子が心配で、何度も店に顔を出していたそうだ。酔客の対応に困窮する彼女を警察手帳をちらつかせて救ってやったこともあるとか。
「なんだかお父さんみたいですね」
「冗談!」「願い下げだ!」
 二人から突っ込まれて青木も思い直した。それもそうだ、年が合わない。実年齢ではなく外見的に。正直な印象は美人姉妹。口に出したら殴られるから言いませんけど。

「でも礼子ちゃん、17でしたよね?」
「いいだろ、2ヶ月くらい。固いこと言うな。こんだけ胸がでかけりゃ大丈夫だ」
「さっきから胸胸ってイヤラシイ。セクハラよ、それ」
「あのな、胸はでかさだけじゃなくて形も大事なんだ。恭子ちゃんの女神のような胸に比べたら、おまえの胸なんかまだまだ」
「恭子ちゃんてだれ? 薪さんの恋人?」
「いや。深田恭子ちゃん。女優の」
「ああ……」
「可哀相な人を見る眼で僕を見るな!!」
 二人のやり取りを聞くと、ほんの僅かなジェラシーをおぼえる。薪はこんな風に、女の子に遠慮なくぽんぽん言われるのが嬉しいのだろう。
 薪のファンは数知れず、でも彼女たちはお互い牽制し合って彼を遠巻きに見つめるだけ。直接話し掛けたり、ましてやこのような親しげな関係になったら仲間の制裁が待っている。もっと恐ろしいのは腐女子と呼ばれる過激な一派で、薪の相手は男性以外あり得ないと言う凝り固まった信念を元に、布教活動と称して薪と警察内部の美形との恋物語をまことしやかに吹聴している。相手は竹内だったり二課の大山だったり間宮部長だったり、おかげで薪はすっかり誤解を受けて、ていうか、どうしてその相手の中にオレがいないんですか、腐女子のみなさんっ。

 とにかく。
 薪が礼子を気に入っているのは、その眼で分かった。青木や部下たちに向けるのと同じ、温かい眼。
 もしかしたら、と青木は思う。
 もし自分とこういう関係になる前に彼女と出会っていたら。薪は素直に彼女を愛したのかもしれない。年は20以上も違うけれど、そんな夫婦は世の中にいくらでもいる。大切なのは気持ちだ。
 こうして見ればお似合いの美男美女だし、性格も合ってるみたいだし、この二人が恋人関係にあってもなんら不思議ではない。まあ、薪に限って浮気なんて面倒なことは、
「ねえ。お店終わったら部屋に来てよ」
 ……部屋ってなに。しかもこの口ぶり、誘ったのは今日が初めてじゃない。
「ああ。こないだの続きだな」
 続きってなんの続き? 寸前まで行ったとかここから先は結婚してからとかそういうこと?
「よし、今日は朝までみっちり」
「許しません!!」
 二人の間に大きな手を割り込ませ、青木は鋭い声を上げた。びっくり眼で青木を見る、薪の顔はやっぱり可愛い。その隣で何故だか礼子がにんまりと笑った。

「なに怒ってんだ」
「そりゃ怒りますよ。現職の警察官がキャバ嬢の部屋で朝まで頑張るとか言われたら」
「あたしは二人相手でもいいけど。てか、その方がいいかも。薪さん一人じゃ体力が」
 なに言い出すの礼子ちゃん! 柚子ちゃんに操立てるんじゃなかったの? 男は別腹とかそんなのお父さんは許しませんよっ!
「そうだな。疲れたら交代できるし、仮眠取って再開しても」
 あんたはどんだけやる気なんですか。

「青木、頼めるか」
「冗談じゃありませんよ!」
 青木はソファを蹴り倒す勢いで立ち上がった。長身の彼は立つだけで人々の注目を集める。店中の視線が集中する中、青木はついに叫んだ。
「オレ、もう薪さん以外の人には欲情しないって何度も言ってるじゃないですか! ハッキリ言って女の子の胸なんか肉の塊にしか見えませ、ぐぎゃっ!」
 青木の顔にストレートパンチがめり込んだが、一瞬遅かった。殴られた頬を押さえながら起き上った青木の眼に、腹を抱えて笑い転げる礼子と頭を抱え込む薪が映った。



*****

 あおまきさんの絡みはやっぱり楽しいです。
 この後日談のために3ヶ月耐えてきたといっても過言ではないww



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>明らかにこちらの方がのりのりですね!

そうなんですよ~。
根っからのギャグ人間なんですね、わたしw


>清水先生の初期設定では薪さんのイメージはエドガーでメリーベルみたいな奥さんがいる、だったそうですが・・でも、青木を好きになっちゃった笑

ごめんなさい、「ポーの一族」を読んだことがないです。←!!!
とりあえずググりまして、ああ、こういう感じなのね、と納得し、それだったらきっと薪さんにハマってなかったと思いました。そんなに可愛い奥さんがいる男の人なら、これほど切実に彼の幸せを祈ったりしなかったでしょうから。奥さんに任せておけば大丈夫だもんね。


>私は雪子は薪さんと同等に話ができる唯一の女性で薪さんが雪子に皮肉を言ったりするのもそれだけ心を曝け出せる相手だったんじゃないかと思っています。

そうですね。
わたし、雪子さんと薪さんの関係についてはオカイさんの二次創作にまるっと同意でして。
やっぱり薪さん、雪子さんのこと大好きだったと思う。自分じゃ与えられない幸せを彼らに与えてくれる女性として、羨望も嫉妬もあったけれど、大事に思っていたし憧れてもいたと思う。同時に、大切な友人でもあったと思う。
薪さんの場合、皮肉や罵倒に惑わされてちゃ付き合えないんですよね。「家族」だと思ってた第九の部下にさえあの調子だもの。親しくなるほどに甘えが出るタイプなんでしょうね。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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