ドライブ(1)

 待ちに待った秘密の新連載♪
 注目株は青木さんです。だって今回の青木さん、ちょっとカッコよくないですか?

 と言うわけで、「かっこいい青木さんを目指してみたSS」を公開します。
 雑文なので、気楽にお楽しみいただけたら嬉しいです。




ドライブ(1)





 ドライブに行きましょう、と青木が言うから乗っかった。
「海がいいですか、山がいいですか」との質問に、山と答える。海水浴客が遠のいて本来の雄大さを取り戻した海原の風景も捨てがたかったが、秋と言えばやはり山だろうと思ったのともう一つ。塩分の多い海風が吹き上げる海岸通りは車の傷みが激しいと、彼が購読しているカー雑誌に書いてあったから。車好きの恋人が買ったばかりの新車を傷めるのは可哀想だと思った。
 のんびり起きた週末、出発は10時を回っていたが、定番のドライブコースには都心から2時間も車を飛ばせば到達する。車窓からの風景を楽しみ、山中のドライブインで地元名物の蕎麦でも食べて、帰りに滝を観るとか。今時期なら未だ、やなもある。透き通った渓流を眺めながら鮎の刺身に冷酒なんて、考えただけで涎が出そうだ。
「いいですね。刺身は現地に行かないと食べられませんものね」
「だろう? じゃ、やなで決まりな」

 ビルの林から抜け出して1時間。高速を下りた後は田舎道と山道を交互に走り続けて、目的地へは後1時間ほど。途中、道の駅に立ち寄ってトイレ休憩を挟んだ。天気が良かったからベンチに座って、まめな恋人が保温ポットに用意してきたコーヒーを飲みながら、長時間の乗車で凝り固まった体をほぐすことにした。
 休憩所と言っても広大な施設で、どういう建設計画が為されたものかサーキット場が併設されている。コースが二重の輪になっていることで有名なその場所は行楽施設の奥にあり、青木に連れられて何度か訪れ、殺されそうになった。つまり、
「久しぶりにレーシング体験したいな。来月あたりどうですか?」
「却下」
 時速三百キロでアスファルトの上を走るって、常識じゃ考えられない。経験した後は絶叫コースターがゆっくり感じられたくらいだ。振動がすごくって身体中痛くなるし、何よりも腰が抜けて立てなかったのを青木に休憩所まで運んでもらった屈辱、もう二度と体験コースへは行きたくない。
 にべもなく言い切ると、青木は少ししょげた顔になった。「楽しいのに」と洩らすのを聞かない振りで、保温ポットに入れてきたコーヒーを飲む。今はコンビニでさえ本格的なドリップコーヒーが飲める時代で、当然ここの売店でも販売しているが、何処の店の淹れたてよりもポットに入れて時間の経った青木のコーヒーの方が美味いから困る。友人に冗談で言われたことがあるが、本当に何か薬物的なものが入ってるんじゃなかろうか。

「一人で行ってこい。見ててやるから」
「本当に? こないだみたいに途中で飽きて、温泉に行っちゃわないですか?」
「ばれたか」
 この道の駅は本当に大きくて、建物内に温泉もある。青木がレーシング体験を楽しむ間、薪は大好きな温泉を楽しむ。お互いに好きなことができる一石二鳥の計画だが、青木は首を縦に振らない。
「薪さんと一緒にいることが一番大事なことですから」
 それはまったく合理的ではないと薪は思う。青木と薪の好みは真逆と言っていいくらい違う。薪が面白いと思う映画を観ると青木は怖くて夜道が歩けなくなるし、青木の目を輝かせる車のショーで薪が興味が持てるのはコンパニオンのスカートの長さだけだ。こんなに趣味が合わないのに、二人でいると楽しいから不思議だ。

「わかった。じゃ、次の休みはサーキットでその次は温泉な」
「はい」
 遊びに来てるのに、もう次の遊びの相談なんて。自分も太平楽になったものだ。
 思って薪は自嘲した。それに対する罪悪感すら彼の笑顔に溶かされてしまう。自分はどんどん下衆な人間になって行く。ロクな死に方はしないと思った。

「アイスクリーム買ってきますね」と青木は席を立ち、フードショップの列に並んだ。いらないと言ったけれど、たぶん薪の分も買ってくる。強引にひと舐めさせられて、後は2個とも青木が食べるのだ。最初からダブルを買えばいいのに、とにかく青木は何でも薪とお揃いにしたがる。子供だ。
 女性と親子連れの集団の中で、青木は当然のように悪目立ちする。いい大人がアイスクリームを買うのに夢中ってどうなんだ? 女子ならまだしも見上げるような大男だぞ。ちょっとオツム弱いのかなって思われて、しかもフレーバーの種類で真剣に悩んだりして、売り子のお姉さんに笑われてるじゃないか。

 戻ってきた青木の手には、バニラとチョコミントのアイスが握られていた。
「薪さんの好きなコーヒーアイスなかったんですけど。これ、食べられます?」
 なんだ、僕の好みで悩んでたのか。てか要らないって言ったのに。
 黙って受け取ってひと口食べた。歯磨き粉みたいな味がした。はっきり言って不味かった。もう一口だけ食べてから青木に返すと、「もういいんですか」とこちらの顔色を窺いながらも旨そうに食べた。彼とは食べ物の好みも合わない。
「ええと後は、フランクフルトと牛串、どっちにしようかな」
「あと1時間くらいで着くだろ。今そんなに食ったら何も食べられなくなる」
「やなって魚とうどんそばくらいしか置いてないじゃないですか」
 魚と蕎麦があったらそれで十分だろうが。
「ちょっと物足りないです」
 肉類を食べないと食事をした気にならないっておまえはアメリカ人か。

 こんなに何もかも違うのに、よく一緒に暮らせるものだ。お互いに。
 同じ家に住んでいるのはもちろん彼が好きだから。ではどうして彼を好きになったのかと自分に問えば、途端に薪の思考は滞る。ぜんぜん好みじゃない、ていうか、薪は男に恋をする趣味はない。
 最初は鈴木に似てるからとの理由を疑う気持ちもなかったけれど、付き合いが深くなるにつれて二人の性格がまるで似ていないことが判明した。おかしなもので、そうしたら瓜二つだと思っていた二人の相違点ばかりが目について。今では、黒髪と長身以外彼らの間に共通点はないと言う結論に達している。
 じゃあどうして彼を好きになったんだろうと改めて問えば、……カンチガイ? いやいや、いくらなんでもそれは。
 青木は薪に真似できない多くの美点を持っている。でも、それらを見つけたのは彼を好きになる前よりも好きになってからの方が断然多い。その事実から、薪が彼に恋をした理由は彼の美徳でもなかったことになる。薪とは12歳も離れている彼は年下の愛らしさと言う武器を使ってくることもしばしばだが、それだって彼に恋をする前はガキっぽいとしか思えなかった。
 結局、人を好きになるのに理由なんかない。いつだってそうだ。好きと言う感情の方が先で、理由は後から着いてくる。

「食べますか?」
 無意識のうちに彼の顔を見つめてしまっていたのだろう、彼が食べかけのフランクフルトを薪の方に差し出した。青木の勘違いは薪にとっては好都合。だって、どうして自分はこんなに青木のことが好きなんだろうなんて考えてたことが知れたら薪は青木の記憶が飛ぶまで彼の頭を殴らなきゃいけなくなる。青木の頭は割と固くて手が痛くなるからできればやりたくない。
 うん、と頷いてぱくりと噛り付く。ウィンナソーセージの類は脂っこいからあまり好きではないが、こういう所で食べると意外と旨い。塩味が効いてて、ビールが欲しくなる。

 さっきから人前で、ベンチに並んで腰かけてアイスやら何やらを食べさせ合ったりして、周りの人間がどんなふうに自分たちを見るかとか陰で何を言われてるんだろうとか、薪は最近、そういうことに無頓着になった。
 それは、自分たちの関係は恥ずべきことではない、という自己正当性の確信に基づくものではなく。厭らしいと思うのは受け取る側の問題だ、などという自己責任の否認によるものでもなかった。要するに。
 なんかもうメンドクサイ。
 薪がいくら公衆衛生の概念を説いても青木は堂々と薪の隣を歩くし、あからさまに薪を見つめることをやめない。何度も繰り返されて、一人でピリピリしているのが馬鹿らしくなってしまった。人前でキスしたりするわけじゃなし、仲の良い友人なら一本のフランクフルトを分け合って食べてもおかしくないだろう。

「……悪い。食べ過ぎた」
 青木が強張った顔になっていたことに気付いて、薪はフランクフルトを返そうとした。旨かったから半分くらい食べてしまった。
「あ、いえ。違います」
 さすがに食べ物で怒るほど青木も子供ではないだろうと思っていたが、やはり別の理由だったらしい。なんだ? と薪が首を傾げると、青木はへらっと笑って、
「薪さんが咥えてるの見たら昨夜のこと思い出しちゃって。ここで反応しちゃ拙いんで先日のホラー映画を頭の中で再生しようと、うぎゃっ!!」
 フランクフルトの先端から突き出た串の尖った部分を青木の太腿に突き立てた。彼の泣き声を背中で聞いて薪は駐車場に向かう。
 本当に、理由が分からないってのは困る。好きになった理由が明確じゃないからそれに対する反論も浮かばない。だからこんなバカなことを言われても彼を嫌いになれない。

「……メンドクサ」
 びっこを引きながら後ろを着いてくる大男に、薪は大きなため息を吐いた。



*****

 かっこいい青木さんSS……これからこれから☆

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。

>今回の青木は手紙の返事を訊いたりして直球でいいですよね。

ええ、青木さんはもともと直球な人ですよね。雪子さんにも電撃プロポーズ&電撃解消でしたからね☆
薪さんにだって、遠慮してるようでしてないよね。着任1週間であの騒ぎw 最後はホテルまで押しかけちゃうしww そこが青木さんのいいところです♪


>薪さんには自分が必要だというより、薪さんに必要とされたいという感じがします。


そうですね。自分の気持ちに正直と言うかあからさまと言うか、この人、基本的に相手の気持ちとか考えないタイプだと思、、、、なんでもないです。
悪い意味じゃなくて、青木さんは直情径行なんだと思います。
考えに考え抜いて、自分がこうすることが相手にとって一番の幸せなんだ、と理解して行動するのではなく、思ったら突っ走っちゃう。他のことは慎重みたいですけど、雪子さんへの態度を見る限り、恋愛に関してはそうとしか。割と手も早いし。
考えてばっかりで動けない薪さんにはピッタリの相手だと思います(〃▽〃)


>薪さんはボーイッシュなきれいな女の子に見える

そうそう。
薪さんの心配は取り越し苦労なんですけどね、ただ、

>美人の恋人持つと大変だw

そうなんですよ~。
こないだ、この話書いたばかりです。次の次の次だから3ヶ月後あたりに公開しますね。(←遠い)


>青木がどんな風にカッコよくなるのか楽しみです!にしてもウインナーwww

とんだセクハラネタですみません~(^^;

カッコいい青木さんは、「がんばったけどダメ」の見本みたいな話になりました。世の中、甘くないね☆

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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