ドライブ(2)

 月曜日は七夕でしたね~。みなさん、短冊にお願い事書きましたか?

 先週、家族3人で焼肉屋さんにご飯食べに行ったんですけど。
 七夕イベントでお店に笹が飾ってあって、子供がいるグループに短冊を渡してたんですよ。わたしには子供がいませんので短冊はもらえませんでしたが、隣の家族連れの若いママさんが、
「メンドクサー。願い事なんて特にないしー」
 すみません、じゃあその短冊、わたしに譲っていただけますか? わたしには痛切に叶えてほしい願い事があるんです、もう神様にでも頼るしかないんです、何ならあなたが書いてくれてもいいんですよ、なにを書くかってもちろん、
『薪さんがオレのプロポーズを受けてくれますように  BY青木』

 祈ってたら胸がいっぱいになって、焼肉3枚しか食べられなかったよ。




ドライブ(2)





「きゃあ!」
 その悲鳴が聞こえた時、薪は駐車場の真ん中に、青木はフードコーナーのごみ箱の前にいた。新しい車に食べ物の匂いを付けたくなかったから、フランクフルトの残りを急いで食べて串をごみ箱に捨てた、その時だった。青木の目の前で、女性のバックを引ったくって逃げるバイクの男を目撃したのだ。
「大丈夫ですか」
 衝撃で地面に倒れた女性を保護し、バイクのナンバーを確認する。犯人は若者向けの赤いジャンパーを着ていた。被害者は年の頃40歳前後の女性で、盗まれたのは蝦茶色のハンドバック。不幸中の幸いで被害者に怪我はなく、しかし彼女はヒステリックに叫んだ。
「お願い、返して!」
 バイクで走りながらの犯行で、女性の声は当然犯人には届かなかった。信号待ちの車の間を縫うようして公道に出ていくバイクの背に、その声は虚しく響いた。

「困ったわ。バックの中に子供の……ああ、どうしたらいいの。もし発作を起こした時にあれがなかったら」
「えっ」
 発作と聞いて青木は焦った。どうやら盗まれたバックには子供の薬が入っていたらしい。
 彼女の子供と思われる小学生くらいの女の子が、「ママ」と泣きながら駆けてきた。それを母親が「走っちゃダメ!」と叱りつける。激しい運動はできない、循環器系の病気であると察せられた。

「青木、どうした」
 薪がいつの間にか現場に来ていた。さっきまで駐車場の中ほどにいたのに、仕事熱心と言うか中毒と言うか、この人は事件の時には普段の数倍動きが速い。
「引ったくりか。すぐに県警に連絡して捜査網を」
「それが、あのお子さんは病気らしくて。バックの中に子供さんの薬が。発作が起きた時にそれが無いと大変なことになるって」
 青木が薪に事情を説明すると、薪は険しい顔つきになって、
「追うぞ」と号令を下した。
「追うって、バイクを車で追跡するのは難しいですよ」
 狭い路地でもすいすい入って行けるバイクに対して、車幅のある自動車は不利だ。今日のように天気の良い休日は、道路も混んでいるだろう。車の間を抜けていくバイクをパトランプなしの自動車で追い掛けるのは不可能に近い。

 薪はさっと駐車場を見渡し、その一角に陣取っている集団に眼を付けた。
 そこは改造バイクの臨時展示場になっていた。ライダーマンも普通じゃない。それだけに、マシンのスピードは期待できそうだ。
「青木、あのバイク行けるか」
「乗り物なら何でも」
 言うが早いか、薪は彼らの陣中にずかずかと踏み込んだ。度胸がいいと言うか無鉄砲と言うか、これだから青木は心配が絶えない。案の定、彼らは下品な声で薪を冷やかした。

「なに、彼女。おれたちとツーリングしたいの?」
「おれおれ、おれの後ろに乗って」
「何言ってんだ、彼女の目当てはおれに決まってるだろ」
 ……本当に心配が絶えないっ。

 慌てて後を追う青木の視線の先で、薪は冷静に尋ねた。
「誰のバイクが一番速い?」
「おれおれ」と一斉に身を乗り出してくる若者たちに、薪は警察手帳を突き付け、
「子供の命が懸かっています。ご協力を」
 その内容と薪の気迫に、彼らは押し黙った。何人かが青木に視線を送ってよこしたから、身体を横にしてあの親子が彼らに見えるようにしてやった。母親はまだ地面に腰を落としたまま、娘を抱きしめていた。

「速さでいったらニシオのバイクが一番だろ」
 誰かが言い、そうだな、と周りの人間が頷いた。そのマシンは素早く薪の前に用意され、青木がそれに跨った。黒と赤の色彩に彩られた700GS。ハーレーのように大柄ではないが、スピードでは決して引けを取らない。
 青木は彼らからヘルメットを受け取り、エンジンを掛けた。当たり前のように後ろに乗る薪を、青木は本当は止めたかった。バイクの追跡は危険だからだ。でもどうせ聞かないと思った。押し問答している間に逃げられてしまう。
「二人で行くならこれ」
 ありがたいことに、彼らはタンデムベルトを貸してくれた。タンデムベルトは命綱だ。転倒さえしなければ同乗者の安全は守られる。

 走り出そうとした青木に、若者の一人が尋ねた。
「ちょっと待てよ。犯人のバイクのナンバー、いくつだ?」
「どうして?」
「どっち行ったか分かんないんだろ。手分けして探してみるよ」
「バイクを盗みに使うなんてよ、おれたちもちょっと許せねえから」
 言葉は乱暴だけど、見かけによらず気の良い若者たちだった。青木は少しだけ感動し、でも彼らの申し出を受けるわけにはいかなかった。
「いや。一般人の君たちに危険な真似をさせるわけには」
「それは助かる。青木、車種とナンバーを彼らに」
 薪の命令なら仕方ない。青木は彼らに逃走バイクの種類とナンバー、目印として犯人が赤いジャンパーを着ていたことを話した。

「見つけたらここに連絡をくれ」
 青木が止める間もなく、薪は彼らの一人に携帯の番号入りの名刺を渡してしまった。警察官の名刺なんて、そう簡単に人に配るもんじゃない。手に入りにくいものだし、悪用される可能性だってある。警戒心が薄いんだから、と青木がまたもや胸を痛めた矢先。
「「「やったー、メアドゲットー!」」」
 ……全員、不正改造車違反で一斉検挙してやる。

 なんて暢気に妬いてる場合じゃなかった。
「123号線を西だ。急げ」
「はいっ」
 ドゥルンッ、と派手な音を立てて800ccのエンジンが唸りを上げた。障害物の多い駐車場をすいすい抜けていく青木の見事なハンドル捌きに、バイクを貸してくれた集団から感嘆の声が上がる。
「薪さん、すみません。もうちょっと下の方に掴まってもらえますか」
 走りながら、胃のあたりに回されていた薪の両手を下にずらし、タンデムベルトのグリップを握らせた。運転者の胴体に掴まるのは、不測の事態が起こったさい危険だからだ。腹部を圧迫されることで運転者の意識が遠のき、事故に繋がることもある。それを知らないとは、どうやら薪はバイクの二人乗りは初めてらしい。
 こんなときだけど、わくわくした。彼の初めてに立ち会えるのは何でも嬉しい。

 車道に出て、走り出したバイクは瞬く間に速度を上げる。走り屋の単車らしく、エンジンがいい具合に焼けている。レスポンスも良好だ。
 薪に言われたとおり西方面に走ると、道は程なく緩いカーブが連続する二車線道路になった。幾つか枝道がある。そこに入り込まれたら探しようがない。迷いから青木がスピードを落とすと、薪は「このまま進め」と指示を下した。
 道はどんどん山の中に入っていく。一般車両の台数が減ったのはいいが、カーブが強い。カーブがきつくなるとそれに比例してバランスを取るために傾けるバイクの角度も大きくなる。ぎゅ、と青木の腰にしがみつく薪の力が強くなった。バイクは原付免許しか持っていない薪は多分、こうして大型バイクに乗るのは初めて。二輪車と言えば自転車くらいしか乗ったことのない人間に、この重心の傾きは厳しいかもしれない。

 申し訳ない、と思うと同時に、なんだか誇らしかった。
 薪に頼られている気がした。実際、青木が運転するバイクの後ろに乗っているのだから命を預けてもらっているのと同じなのだが、それは車の助手席に座ってくれるのとは微妙に違う。
 薪が、自分からしがみついてくれる。しっかり摑まらなければ危険だからそれだけの理由だけど、身体が密着するせいか、彼に強く求められている気がした。ちょうどセックスのとき、彼が自分を夢中で抱きしめてくれるように。

「いたぞ」
 薪が見つけたバイクの後ろ姿は遥か先だった。道がカーブになっているおかげで何キロも先の道路が見える。山道の特徴だ。
「横道に入られなくてラッキーでしたね。さすが薪さん」
 青木が薪のカンを褒めると、薪は鼻先で青木を嘲笑った。実際はエンジン音とフルフェイスのヘルメットのおかげで何も聞こえなかったのだが、そんな気がしたのだ。

「3キロってとこですかね。よおし」
 青木はアクセルグリップを手前に回した。ブヴォン、とエンジンが唸り声をあげて車体が加速する。視野が2割ほど狭まった。
「規格以上のエンジンに載せ替えてますね。だからこんなにスピード出るんだ」
 アクセルスロットルをMAXまで引っ張ることなく、楽に6速までシフト。この馬力は普通じゃない。メーターは180キロを超えた。追い抜いた車がぐんぐん後方へ遠ざかって行く。700GSの限界スピードは192キロだったと思うが、このマシンにはまだまだ余裕がありそうだ。
「違法改造ですね。後で注意しないと」
 乗り物が大好きな青木は新しいおもちゃを見つけた子供のような口調で言ったが、薪はスピードに関しては普通人。121度の落下勾配を誇る日本一の急降下ジェットコースターを超える加速度に、しかも安全ベルトの一つも着けていない危険な状況に、完全にテンパっていた。

「ああああああおきさんっ」
「なんですか」と応える。知り合って8年になるが、彼にさん付けで呼ばれたのは初めてじゃないだろうか。
「もうちょっとスピード落とし、ひいっ!」
「落としたら逃げられちゃいますよ」
「でででででも今隣の車とのニアミスが、にゃああ!」
「大丈夫。5センチは空いてました」
「ごっ、五センチって言ったら小指よりみじか、きゃ―――!!」
 普段は無口な部類に入る彼が賑やかに青木に話しかける。きっとこのハイスピードが彼のテンションを上げているに違いない。なんだ、薪さんも結構スピードマニアなんじゃないかと現状に都合の良い誤解をする青木には、一欠片の悪気もない。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

>薪さんが「あおきさん」と呼ぶ日がこようとは…(笑)

今回、これが一番の衝撃ですね☆
自分で書いておいて言うのもなんですけど、いやー、想像を絶するキモチワルさでしたよww


>ハッピー七夕ああーっ(爆笑)

爆笑、ありがとうございます!(>▽<)
40超えたいい大人が何をしているんだろうと時々我に返るのですが、薪さんを見ると即座に脳が煮えます。なんて楽しい秘密廃人の日々♪


No title

しづさまへ
いつもたのしませていただいております。薪さんの「にゃああ!」、いいです。バイクに2けつの二人。ごちそうさまでしたあ!!この間初メロディ堪能しまして、ますます「秘密」から抜けられなくなってしまい・・・。ああなんて楽しいのでしょう。もう社会に戻れません。あおまきさえあれば生きていけます。すみません。ちょっと叫んでしまいました。失礼しました。またお話お待ちしています。

にゃああ

こちらの薪さんはもう…ほんとにほんとにほんとにかっこかわい…(号泣)
いや青木もかっこいいですよ!!(笑)
こちらの青木くんの、乗り物マニアてゆう設定。しづさんほんとにお詳しいですねぇ!!私もちょっと好きなので、運転する青木くん、バイクまで乗りこなす青木くん、だいぶポイント高かったです!!
薪さんカーブでの体重移動とか、うまくできるかなあ。落ちないでね…( ;∀;)

この二人ってほんと真逆で凸凹がぴったりで。あーもう早く結婚してくれー!!
取り乱してすいません。

トトロさまへ

トトロさん。
こちらこそ、いつも読んでいただいてありがとうございます(^^


>薪さんの「にゃああ!」、いいです。
>バイクに2けつの二人。ごちそうさまでしたあ!!

どちらも原作ではあり得ませんが、それができるのが二次の醍醐味ですから♪
書いてて楽しかったです~♪


>この間初メロディ堪能しまして、ますます「秘密」から抜けられなくなってしまい・・・。

分かりますー!
コミックスより大きいので、迫力もありますしね! 
ただ紙質が今一つなので、コミックスの方が観てはきれいかな。

もちろん、一番きれいなのは原画ですけど。
また原画展、やってくれないかな~。


>あおまきさえあれば生きていけます。

分かります分かります。
そして全力で同意です。
連載がなかった頃に比べて現在の楽しいこと! 毎日メロディを見返してはにやにやしております。

その上、また2ヶ月後には新しい薪さんに会えるの、すごい幸せなことですよね。連載の無い期間があったからこそ、余計にそう思える。
先生には本当に感謝です。

なみたろうさんへ

なみたろうさん。

>こちらの薪さんはもう…ほんとにほんとにほんとにかっこかわい…(号泣)

泣かなくても(^^;
原作のイメージ木端微塵ですみません~。
でも書いてて楽しかったです♪


>こちらの青木くんの、乗り物マニアてゆう設定。

これはね、青木さんがヘリの免許持ってるって言うから。他の乗り物も得意に違いない、と思ってw

詳しくはないですよ。ネットで調べて、まんま書いてるだけなんで~。
実際に軽トラックの荷台でジャンプしたら荷台潰れて軽トラ事故ると思うし。←おい。

カーブでの体重移動は、慣れてないと怖いですよね。
大昔ですが、わたし、先輩の原付の荷台に乗せてもらったことがあって(交通違反)、けっこう怖かったです。
子供とツーリングするときとかは、タンデムベルトを使うんだそうです。ベルトで運転手と繋がる形になるので、後部座席の人間が投げ出されることはありません。事故ったらおしまいですけど☆


>この二人ってほんと真逆で凸凹がぴったりで。あーもう早く結婚してくれー!!

それは原作のお二人ですよね!
あー、もう早く結婚して。


いや、冗談でなく。
ディズニーシーのホテルで同性婚の結婚式を挙げることができたり、ゲームの世界にまで同性婚のストーリー組み込まれるようなこの時代、
薪さんの世界は今から40年以上も先なわけで、だから、
2060年には普通に同性婚できるんじゃね? 3人、同じ戸籍に入れるんじゃね?
と、大真面目に考えたりしてます。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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