ドライブ(3)

 毎度のことながら、薪さんのキャラ崩壊に目をつぶっていただいてありがとうございます。我ながら、「ないわー」と思いつつ書いているので、不快に思われたらご無理なさらないでくださいね。
 特に、ご新規さん! 今月号のメロディでハマりました、なんて方は読まないでくださいねっ。クールビューティな薪さんのイメージが台無しですからねっ。
 ご新規さんが読んで大丈夫な話は、……ごめん、咄嗟には思いつかない。(≒ないかもしれない)


 お話の続きですー。
 言い忘れてましたけど(またか)、この話の時期は2068年の秋ごろ。二人が一緒に暮らし始めて半年くらいです。
 秋の話だから、本当は秋に公開すればよかったんですけど、青木さんがあんまりカッコよかったから♪ がんばれ青木さん♪♪♪





ドライブ(3)





 薪の声を聞き流しながら走っていると、前方に軽トラックが見えた。農作業用の軽トラックで、荷台には何も積んでいないがとにかく遅い。田舎では軽トラックを乗用車に兼用している家も多いが、その殆どはシルバーマークを免罪符にした低速走行で、この時二人の前を塞いだ車も例に洩れなかった。
 山を抜けるための道路はそれほどの広さはなく、対向車が続くと追い越しができない。何台か続く間に、せっかく発見した犯人のバイクは見えなくなってしまった。このままでは逃げられてしまう。

 イライラした口調で薪が言った。
「あの車が邪魔だな。拡声器があれば呼びかけて止めるんだが」
 生憎とそんなものは持ち合わせていない。フルフェイスのヘルメットでは、いくらがなり立てても前方車の運転席に声が届くことはないだろう。マークから察せられるように、運転手は70歳以上の高齢者。パッシングでスピードアップを促しても、成果は期待できそうにない。

 もしも犯人を取り逃したら。あの女の子の命に係わるかもしれない。
 青木は腹を括った。薪には悪いが、少々の危険はやむを得ない。

「荷台をジャンプ台にして前に回り込みましょう。よく捕まっててください」
「じゃっ?! ばばばばバイクは空飛ばな、いやあああ!」
「喋ってると舌噛みますよー」
「やめてー! 下ろしてー!」
「行きますよー」
 そおれ、と掛け声を掛けて車体の前頭部を跳ね上げる。次の瞬間、前輪を叩きつけるように地面に押し付け、跳ね返る力を利用して再び前身を持ち上げ一気にアクセルスロットルを吹かす。すると全てのエネルギーが後輪に掛かり、爆発的な推進力を生む。
 スタントばりの跳躍で鉄の馬が跳ねる。トラックの荷台でワンクッション、3車体先のアスファルトに着地した。
「あはっ」
 思わず笑いが零れる。バイクに乗るのは久しぶりだが、やっぱり楽しい。

「薪さん、大丈夫ですか?」
 後ろが静かになったのに気付いて声を掛けた。飛ぶ寸前までギャーギャー喚いていたのに、さては虚脱したか。タンデムベルトを付けていてよかった。
「いま鈴木の顔が見えた……お父さんとお母さんの顔も」
「よかったですね」
 普段から薪が会いたがっている人ばかりだ。一瞬でも会えたならそれは幸せだろう。
「殺す気か! 下ろせっ、今すぐ僕を下ろせ!」
「あはは、このスピードで飛び降りたら本当に死んじゃいますよー」

 着地先で2,3度バウンドした後、車体はさらに加速した。長い下り坂の直線ラインに入る。下り坂に続く上り坂に、再び逃走バイクが現れた。ここぞとばかりに青木はスロットルを回し、逃走バイクとの距離は見る見る縮まった。
 下り坂で上乗せされるスピードを甘く見てはいけない。犯人のバイクも100キロは出ているはず、それに瞬く間に追いついた青木たちのバイクはおそらく200キロを超えている。
 風圧が物凄い。サーキットでは平均速度190キロ、最高速度320キロくらいが普通だから青木は慣れたものだが、薪は大丈夫だろうか。心配になったが、タンデムベルトのレバーグリップをしっかりと握っている彼の手を手探りで確認して安堵した。後ろから般若心経が聞こえるが、お経を唱えられるくらい落ち着いていると言うことで理解しておこう。

 やがてとうとう、青木は逃走バイクに追いついた。
「並走しました。薪さん、犯人に投降を呼びかけてください」
「助けてー!」
 セリフ違います。

 仕方なく青木は叫んだ。
「止まりなさい! 警察だ!」
 警察という言葉が薪の理性を取り戻したのか、薪は、「路肩に寄って」という青木の言葉に重ねるようにして自らも犯人に停車するよう呼びかけた。
「そうだ止まれ! 止まらないとおまえをとっ捕まえてこいつのバイクのケツに乗せるぞ!!」
 説得の仕方がヘンだ。やっぱりまだ取り乱しているらしい。
「ここはこの世で一番地獄に近い場所だぞ、いいのか!」
 どういう意味ですか。
「薪さん。彼を後ろに乗せるのはいいですけど、その前に捕まえないと」
「僕は此処から降りられればもうなんでもいい!!」
 だめだこりゃ。

「と言うわけで僕は降りる」
「はいはい、好きにしてください」
 この状態でバイクから飛び降りたら首の骨を折って即死ですと、パニックを起こした人間に説明しても無駄だ。放っておいても大丈夫だ。タンデムベルトが彼の命を守ってくれる。

 青木は犯人のスピードにピタリと合わせ、並走しながらじりじりとその距離を縮めた。幅寄せはバイクで相手を止めるときの鉄板だ。青木の膝が犯人の膝に触れそうになり、事故を恐れた犯人は徐々にスピードを落とし始めた。その矢先。
 薪の手が腰の辺りで何かしていると思ったら、タンデムベルトの金具が外れた。
 不意に後ろが軽くなる。重心がズレて、あやうく滑りそうになった。車体を立て直して隣を見ると、薪が犯人のバイクの後ろに乗っていた。飛び移ったのだ。

「なんて無茶するんですか!」
「おまえの運転より安全だ!」
 さすがにそれはないでしょう。

 犯人が観念するのを待つ青木のやり方では、時間が掛かり過ぎると踏んだのだろう。子供の発作はいつ起きるか分からない。そのときに薬がなかったら……それにしたって危険すぎる。まったく薪ときたら、これだから青木は心臓がいくつあっても足りない。

「こいつに首を抉られたくなかったら、スピードを落として路肩に止まるんだ」
 ヘルメットと赤いジャンパーの間から覗く犯人の急所に薪が突き付けたのは、ブルゾンのポケットに入っていたボールペンだった。先端が鋭く尖ったそれを、容赦なく首の肉に食い込ませる。
「よく考えろ。そのバックが命を張るほどの代物か?」
 問われれば、そんな訳はない。例え中にダイヤモンドがいっぱいに詰まっていたとしても、死んでしまっては何にもならない。しかし。
 薪にとってそれは、命を張るに値する価値があるのだ。

 程なく男は逃走を断念し、スピードを落とした。青木は彼を比較的路肩の広い場所に誘導し、そこに自分のバイクを停めた。すぐ後ろに男のバイクが停車する。ヘルメットを取ってみれば、どう見ても高校生くらいの若者だった。
 彼はすっかり観念しており、ていうか怯えてませんか? なんかバイクから降りて速攻オレの後ろに隠れちゃったんですけど。
 スピードを落として路肩にバイクを止めるまでの二分間、いったいどんな説教をしたのだろう。生意気盛りのこの年頃の子が歯の根が合わないほど震えるなんて、なんだか可哀想になってきた。

 青木は腰をかがめ、少年の目の高さに自分の顔を合わせて、やさしく言った。
「どうしてこんなことをしたの」
「すみません。バイクを飾るパーツが欲しくて、それで」
「君が遊ぶお金欲しさに奪ったバックには、子供の薬が入ってたんだよ。その子が発作を起こして、そのときにこの薬がなかったら死んじゃうかもしれない」
「それは……知りませんでした」
「軽い気持ちで犯した罪が悲惨な結果を生んでしまう。そんなこともあるんだよ。だからどんな小さな罪でも、犯罪は許されないんだ」
 叱りつける目つきと口調で年端もいかない少年を諭す。知らなかったなら仕方ない、送検されても未成年なら窃盗罪扱いになってしかも初犯らしいから執行猶予で放免、結果的には大した罪にならない、それではいけないのだ。
 ここでしっかりと犯罪の芽を摘んでおかなければ。彼の将来は本当に台無しになってしまう。
 どんな小さな罪でも犯したら大きなしっぺ返しが来る。それを教えなければ窃盗が強盗になり、終いには強盗殺人に行きつく。薪もそれを分かっているから、彼が震え上がる程に厳しく指導したのだ。

「ごめんなさい」
「もう二度とこんなことしちゃいけないよ」
「はい」と頷く少年の金髪に染めた頭を撫でてやると、微かに啜りあげる音がした。反省しているらしい。
 子供を導くのは大人の務め。警官である自分たちには普通の大人以上の良識と正義が必要なのだと、青木は改めて思った。思って、背筋を正す。
 薪は。
 薪は、そんな自分たちを導く立場にある。だから彼の背中はいつもしゃっきりと正されているのだと、青木はそのとき気付いた。

「青木。おまえはバックを持って早く戻れ」
 県警には連絡を入れたから、と薪は少年から取り返したバックを青木に手渡した。
「バックは証拠品ですから、薬だけ」
「それが、薬らしきものが見当たらないんだ」
 何処かに入ってはいるのだろうが、女性のバックはポケットが沢山あって、探すのに時間がかかる。急がないと子供の命が危ない。
 本来ならここで3人で県警が到着するのを待ち、彼を職員に引き渡して調書を取る。その際には証拠品としてこのバックも必要になるのだが、今は緊急時だ。薪がここに残って犯人を見張り、青木が子供に薬を届ける。それが最善の策だ。
「盗品調書はおまえが取れ。県警には話を通しておいた」
 青木が少年を説諭している間に、薪は県警に連絡を入れ、この場所を伝えると同時にバックを探り、すぐには薬が見つからないと判断するや盗品調書のみを自分たちで作成する許可を取った。実に素早い。

「分かりました」
 薪の迅速さを自分が無駄にしてはいけない。そう思った青木は、返答と同時にバイクに跨った。瞬間、青木を引き止める声が響く。
「そんな! 置いていかないでください!」
「あん? 僕と二人きりが不服か?」
「い、いいえ、そんなことはないです、うれしいです、だから命だけは助けてください」
 本当に、いったい何を言ったのだろう。言葉だけで人をここまで怯えさせることができる薪のドSっぷりに脱帽だ。
 薪と二人きりになったら殺されると思い込んでいる少年に、大丈夫だよ、と微笑みかけて青木はバイクを発進させた。後ろから「待って、見捨てないでー!」と叫ぶ少年の声が聞こえたが、すっぽりと頭部を包んだフルフェイスのヘルメットのおかげでその悲痛さは半分も伝わらなかった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。
お返事遅くなりました、ごめんなさい。


>これこそがしづさんの真骨頂!みたいな感じ。

ありがとうございます♪
雑文は、本編の息抜きみたいにして書くのですけど、本編が重いとその反動が来るみたいで。
これは10月に書いてるから、イブのストレスでハチャメチャになったんですね、きっと(笑)


新連載、始まりましたね~!
そうそう、薪さんたらいい具合に肩の力が抜けて。わたし、こういう薪さん大好きです♪

>絵面はほとんどクール薪さんなのに、台詞がイッチャってる。
>レストランで偉いさん相手に立て板に水の如くまくし立ててるところとか、あら、しづさんちの薪さんですかと(笑)

あははー、ありがとうございます、光栄ですー。
芝居っ気たっぷりなところと、捜査のために土下座しちゃうところは、男爵なら地で行けると思います☆

>アメリカナイズされて、会話力がアップした設定かしら。ブラックなユーモア満載という?

なるほど!
これはありうる!
洋行帰りですもんね。オーバーリアクションも納得ですw



>でも、その後のしづさんも言ってた青木さんが背広を脱がせるくだり。あのあわてふためいた挙動不審の薪さんを見れば、手紙を読んだのは自明の理と思って満足した私は、まだ読みが浅いのでしょうか?

ご賛同いただけて嬉しいですー!
ねー、絶対に読んでるよね! 意識しまくりだもんね!

>これは待てないね。

待てませんね~。コミックスになるの、まだまだ先ですもの。

>今回のシリーズで青木さんとの関係に言及されるかどうかはわからないけど、きっと最後には読者をドキドキさせるような一言があるんじゃないか、あったらいいなとワクワクさせるエピソードでしたね、あの背広のシーンは!

ねえ! 絶対に回収して欲しいですよね!
お話は事件中心だと思うので、手紙の話は後回しになるとは思うんですけど、やっぱり気になって毎回メロディ買っちゃう人、多いでしょうねえ。上手いな、先生(笑)

コミックスで一気読みの方が、話が途中で途切れない分、ストーリーは追いやすいのですけどね。
先読みの楽しみは雑誌の方がより大きいですよね。間、2ヶ月ありますからね。妄想し放題ww



>自分の居場所

重い言葉ですね……。
Sさんの口から聞くと、本当にそうなんだなって思います。
みんな自分で努力して、自分の居場所を作ってるんですよね。会社や友人、家族の中にさえ。何もしなかったら、自分の居場所なんかできないんですね。


来月はご旅行、それもライブ旅行なんですね。しかも、お子さんたちともご一緒で。
それは楽しみですね! どうか、めいっぱい楽しんできてくださいね!
こういうお話を聞くと、Sさんの選択は間違ってなかった、としみじみ思います(^^


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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