ドライブ(4)

 こんにちは~。

 いつもたくさんの拍手をありがとうございます。公開作、過去作、どちらにも入れていただいて、ありがたい限りです。みなさんの「がんばれ」のお声に支えられております。その割にS話が多くてすみません(^^;

 感謝を込めて、次は4万5千拍手のお礼SS公開しますねっ。←今頃(半年以上前の約束)
 薪さんが変態科学者に捕まって実験台にされる話です。←またもやドS。
 青木さんと岡部さんの命懸けの活躍にもご期待ください♪←Nさん、胃薬準備。

 副音声、うるさい☆
 






ドライブ(4)





 事件発生の現場、つまり道の駅に戻ってきた青木は、売店の前のベンチに所在無げに座っている被害者親子を見つけた。青木がヘルメットを外して微笑みかけると、彼女たちは嬉しそうな顔になって青木に頭を下げた。タンデムベルトに結わえ付けたバックと青木の笑顔で、奪還が成功したことを悟ったのだろう。安堵した顔つきだった。
 青木は母親の許可を得て、バックの中身のリストを作成した。このメモが盗品調書の元になるのだ。その際、バックの中に入っていた免許証と母親の顔を照合し、このバックが確かに彼女のものであることを確認するのも忘れなかった。
 免許証番号を控え、連絡先と念のため彼女の携帯電話の番号も記入した。後ほど、県警が調書作成の為に協力を依頼することがあるかもしれない旨を伝え、青木の仕事は完了した。後は県警にこのメモを送付すればいい。

 メモの内容を見直して、青木は首を傾げた。
 財布、免許証、ハンカチにティッシュ、化粧ポーチとメモ帳、小さな人形。はて、子供の薬は何処に入っていたのだろう?
 しかし案ずることはない。母親も青木と一緒に中身を確認したのだ。無くなったものは何もない、と彼女は断言した。それ以上は彼女たちのプライベート。被害者である彼女たちの事情に立ち入るべきではない。

 仕事を終えて青木は、母親から調書を取るあいだ大人しく人形遊びをしていた子供に、「お母さんの用事はこれでお終いだよ」とやさしく声を掛けた。姪っ子にするように、小さなおかっぱ頭をぽんぽんと撫でてやる。
「ありがとうございました」
「いいえ、オレたちは警官ですから。それより、お嬢さんの発作が起きなくてよかったですね」
「あ、大丈夫です。買いましたから」
「はあ?」
 ――買ったって、なにを?

 動転して、何をどう訊いたらよいのかも分からなくなりそうな青木の目前で、「売店に売っててよかったわねー」と母親が話しかける女の子の手には、青木もテレビで見たことがあるゆるキャラの人形。
「この黄色いナシのお人形。この子、これがないとご機嫌斜めで」
「……あのお……発作と言うのは……」
「それがもう凄いんですよお。『ナッシーがいない』って泣き喚くの、あれは一種の発作です。旅行先で起こされると本当に困るんです」
「心臓疾患は?」
「は?」
 この母親は子供が駆け寄ろうとするのを、「走っちゃダメ」と鋭く制止したではないか。首を傾げる母親にそのことを尋ねると、彼女はわずかに眉を寄せ、
「え。だって、転んだら危ないから」
 オーマイガッ!!

 心の中で頭を掻き毟る青木の焦燥をよそに、母娘は楽しそうに笑い合った。
「ほら、クミちゃん。ナッシー、帰って来たわよ」
「わあい。ナッシーが二人になったー」
「二つとも大事にするのよ。さ、おじさんにお礼言いなさい」
「うん。ありがとう、おじちゃん」
「……よかったね」
 引き攣りながらも笑顔を返した、青木の心中は近年稀に見る大恐慌。

 やばい。
 死ぬ思いをして犯人を追いかけて、やっと取り返したと思ったら薬じゃなくて人形。しかも道の駅の売店で売られるような凡俗さ。コンビニでも売ってるかもしれない、ラムネ付きで。

 この事実を薪が知ったら、その先のことは火を見るよりも明らかだ。早とちりをした青木が悪いと、顔の形が変わるまで殴られるに違いない。
 幸いなことに、薪は未だ犯人の見張り中だ。パトカーで送ってもらったとしても、所轄を経由したら1時間くらいは掛かるだろう。それまでに、この母娘が出発してくれれば。

「ご旅行中にとんだ災難でしたね。さ、早く目的地へ行かないと、帰りが遅くなってしまいますよ」
「はい。では、本当にありがとうございました」
「ばいばい、おじちゃーん」
 仲良く去っていく母娘に手を振って、青木はホッと胸を撫で下ろした。彼女たちさえいなくなれば、事実が薪に知れることはない。別に、嘘を吐くわけではない。引ったくりは事実だし、バックを取り返してあげた母娘が喜んでいたのも事実だ。調書もきちんと取ったし、母親の連絡先も確認した。手抜かりはない。

 あとどれくらいで合流できるか薪に聞いてみようと、携帯電話を取り出したとき。
「じゃあ僕たちも行くか」
「そうですね、て、えええっ?!」
 頷いてしまってから振り返った、青木の眼に映ったのは腕組みをした薪の姿。青木の背中を大量の汗が伝う。緊張度は犯人を追跡していた時の5割増しだ。膝ががくがく震えて、恐怖心に促されるまま青木はその場に跪きそうになり、さすがにそれは薪に迷惑だと根性で膝に力を入れた。

「あの、薪さん……怒って……?」
 恐る恐る青木が尋ねると、薪はクスッと笑って、
「怒ったりしないさ。あの子が健康なら、それは喜ばしいことだ」
「薪さん」
 やっぱり薪はやさしい人だ。そして心が美しい。他人の為にする苦労を苦労と思わない。警察官である自分の責務と考える。やさしくて、潔い。青木の理想の警官像だ。

 それにしても、どうして薪がここに入ってきたことに気付かなかったのだろう。良くも悪くもパトカーは目立つ。ましてや青木は警察官。サイレンを鳴らさなくても気付いたはずだ。
 不思議に思った青木が尋ねると、薪は後ろを振り向きながらそれに答えた。
「彼に送ってもらったんだ。おまえよりも安全運転だったぞ」
 皮肉に笑った薪の後ろには、この捕り物に協力してくれた少年たちが勢揃いしていた。その一人が現場から薪をここまで送り届けてくれたらしい。経緯を説明すればこうだ。
 彼らは幾手にも別れて追跡を試みたが、一人は青木の後を追って本線道路を走ってきた。が、常識を超えた青木の疾走に完全に振り切られ、数分ほど遅れて到着したそうだ。青木が此処へ戻る途中にすれ違ったと言われたが、記憶にない。子供のことで頭がいっぱいだったのだ。
 彼は2つのカーブ越しに、逮捕劇を目撃していた。その旨を仲間たちにメールで伝えたところ、犯人にヤキを入れてやると、県警より先に全員が集まってしまった。

「バイクを犯罪に使うなんて許せない」と言う理由から協力を申し出てくれた彼らのこと、それは当然予想される展開で、犯人の少年は無事に済むとは思えなかったが、薪にはそこまで計算済みだった。か弱い女性からバックを引ったくるような人間に、薪は容赦しないのだ。
 しかし彼らは、薪の予想よりもずっと気のいい連中だった。
「バイクパーツを買うお金が欲しかった」と言う犯行動機を聞くと、「おれもバイト先の金くすねたくなったことあるなあ」と誰かが零し、「かーちゃんの財布から勝手に盗ったことある」と白状する声まで。
 バイク好きの者同士、気持ちは分かって、だけど。
「でも、そういう金で飾ったらバイクが泣く」
 長い間愛機と付き合ってみて、彼らはそういう気持ちになったのだと言う。だから今回のことは失敗してよかった、もしその金でバイクを飾ったらおまえはバイクを嫌いになってたかもしれない、と最終的に彼らは過ちを犯した少年を励ました。
 そんなわけで県警が到着した時、薪の周りはバイク小僧でいっぱいで、どの少年が犯人か分からなかったどころか、グループ犯行と勘違いした警察官が全員を連行しようとしてあわや乱闘になりかけたという笑えないオマケまで付いた。

「みんな、すごくいい子だったんですね」
 青木が感動して彼らを褒めると、彼らはきょとんと眼を丸くした後にげらげらと笑いだし、
「本当だ。この人、薪さんの言った通りちょっとズレてるよ」と思いっきりバカにされた。薪も一緒になって笑っていて、なんだか疎外感。
「君たちには悪いことをしたな。僕からも謝るから県警の勘違いは許してやってくれ。それと、楽しいツーリングの邪魔をして済まなかった」
「いや、いいっすよ。おれたちもけっこう楽しかったっす」
「飛ばすことばかり考えてたから。周りを見ながら走るの、新鮮だったよな」
「2番の道はオール田んぼでさ。赤とんぼがすごかった」
「5番は山が綺麗だった。紅葉まっかっか」
 2番とか5番とか、何のことだろうと青木が目を瞬かせていると、薪を後ろに乗せてきた少年が青木に名刺を見せてくれた。表には警視長薪剛の文字、そして裏には手描きの地図。

「あ。なるほど」
 その地図には犯人が逃走したと思われる道路上の枝道に番号が振ってあり、薪は彼らにその枝道を分担して探してくれるように頼んだのだ。赤いジャンパーを目印に、もしも犯人を見つけた時にはメールをくれるように書き添えて、だから薪は青木に真っ直ぐ進めと指示を出した。
 カンなどではない。しっかりと段取りをして捜査員を配置して、その上で犯人を追跡した。現場の指揮を執るとはこういうことなのだ、と青木はまた薪から学んだが、普通の人間は数回通っただけの道路の何処に何本の枝道があったかなんて覚えてないことに気付いた。やっぱり薪の真似は常人には無理だ。

「君たちのおかげで犯人を捕まえることができた。栃木県警から感謝状が出るだろう」
「え。いや、要らねえっす。おれたち警察苦手だし」
「あ、薪さんのことは好きですよ。今度一緒にツーリング行きましょうよ」
「その時はおれのバイクに乗ってください」
「何言ってんだ、薪さんはおれのバイクに乗るんだよ」
「おまえのは改造バイクだろ。薪さんは警官だからノーマルバイクにしか乗れないって」
「ううん。薪さんがオレとタンデムしてくれるんならノーマルエンジンに戻しても」
 いつの間にかアイドルになってる。まったく油断も隙もない。全員ナンバー控えて栃木県警の交通課に匿名で通報しておこう。

「それじゃあ君たちも気を付けてな。それから」
 別れの挨拶をして、薪は彼らに手を振った。警官らしく、最後に一言言い添える。
「ドライバーの多くは、君たちほどの場数は踏んでないしテクニックも持ってない。気遣って走ってやれ。それが本物のライダーだ」
 彼らは神妙にうなずき、揃って「はい」と返事をした。
 やけに素直に話を聞くと思ったら、青木たちの後を追ってきたバイクマンから仲間に話が伝わったらしい。要は、驚異的な青木のドライビングテクニックと薪の逮捕術が彼らの尊敬を勝ち得たのだ。

「さて、と」
 二人きりになると、薪は仕切り直しの声を発した。気のせいかトーンが低いような、いや、彼も大捕り物で疲れたのだろう。何だったらヤナに行く前にちょっと此処の温泉で汗を流していきましょうかと、開きかけた青木の唇が青ざめる。
 バキボキと指を鳴らす音がする。ぐるぐると肩を回す、その先には固く握られた拳。
 いや、あれだ、薪は慣れないツーリングで肩が凝ったのだ。グリップを握りっぱなしだったから指の関節も固まってしまったのだろう、きっとそうだ。
 薪がこちらを振り返った。亜麻色の瞳は尖ったナイフみたいに鋭い。

「此処じゃなんだから、建物の陰に行こうか。それかトイレの個室にでも」
 般若心経が聞こえる。発生源は青木の頭の中だ。逃げろ、と本能が叫ぶが、足が竦んで動けない。
「すすすすみませんでしたっ、謝りますから許してくださいっ!」
「何をそんなに怖がってるんだ。おかしなやつだな。首尾よく引ったくり犯を捕まえることができたのは、おまえの優れた運転技術のおかげだ。褒められこそすれ、怒られることなんか何もしてないだろう?」
 にっこりと笑って青木を称える、その笑顔の怖いこと。後ろに三日月形の赤い眼をして口が耳まで裂けてる怪物が見えるの、オレだけですか。
 薪の冷酷が我が身に振り掛かり、青木は確信する。あの少年もきっとこれを見たのだ。

「ドライブの途中だったなあ。犯人を追いかけて疲れただろう。ここからは僕が運転してやるよ」
 動けない青木の、ズボンのポケットに手を入れて薪は車のキィを取り出した。すたすたと駐車場の中を進み、リモコンでキィロックを外す。と、パカンと軽快な音を立ててトランクの蓋が上がった。
「乗れ」
 にこやかに乗車を勧められた青木はその場で靴を脱ぎ、トランクに入れてある洗車グッズを抱くようにして身を横たえた。スポーツタイプの車のトランクは狭くて、蓋を閉めたら肩に突き刺さりそうだと思ったけれど、言ったら肩の肉を削がれかねないとも思ったので黙っていた。

 できるだけ身体を縮こめて蓋が閉められるのを待ったが、それはなかなか訪れなかった。そおっと目を開けてみると、薪は車の後部にしゃがみ込んでいた。肩が、というか身体全体が震えている。
 青木の視線に気付いたのか、薪が顔を上げた。頬が赤くなっているのは、彼が笑いを堪えていた証拠。
「乗るか、普通」
「薪さんが乗れって言ったんじゃないですか。――あいたっ」
 抗議と同時に身体を起こすと、トランクの蓋に頭がぶつかった。薪がくくくと笑う。
「長生きしろ、バカ」
 侮蔑と共に差し出された薪の手を、青木は照れ笑いで受け取った。



*****

 カッコいい青木さん……世の中には頑張ったけどダメってこと、たくさんあるよねっ! それでもみんな一生懸命に生きていくんだよ! 人生って素晴らしいねっ! ←秘密連載再開でここまでテンション上げられるやつ。

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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