カエルの王子さま(1)

 毎度、いらさりませ♪

 本日から公開しますこのお話、半年ぶりに書いたストーリーSSでございます。ちょっと文章の流れが悪いのはブランクのせいだと思ってください。(単なる力量不足)

 時期は2068年の5月。二人が一緒に暮らし始めた頃ですね。
 

 それとこちら、4万5千拍手のお礼に、あ、10万ヒットのお礼もまだ、
 ……一緒にしちゃダメ? ←ダメに決まってる。そもそもとんだS話でお礼にならない。
 じゃあ、こないだ書いた雑文3連作を10万ヒットのお礼にしますね。 (雑文でお礼とか図々しくてすみません)
 
 そうだ、一言いいですか?
 現在の妄想欄、「薪さんが変態科学者の実験台になる話」のあと、「青木さんが薪さん似の女と不倫した挙句に殺して逃げる話」になってますけど、その間に雑文が3つほど入ってまして、なにが言いたいかと申しますと、
 決して物騒な話ばかり考えているわけじゃないんですよ。合間にギャグも考えてるの。
 だから、今回の話の物騒さには目をつむってくださいねっ。←理屈も日本語もおかしい。

 どうか大海原のようなお心で! お願いします!




カエルの王子さま(1)




 西洋の童話に出てくるような、美しい部屋だった。
 文机、椅子、洋タンスにベッド。居室を彩る家具はすべてアンティークで、中々に高価なものだ。壁紙は薄いクリーム地で、葡萄の模様がくすんだ緑色で描かれている。天井からは古めかしいシャンデリアがぶら下がっている。いささか古風だが、趣味の良い部屋だ。
 繊細なインテリアから女性の部屋だと察せられるのに、部屋には鏡がなかった。実を言えば、この家の何処にもないのだ。この家の主人は鏡が大嫌いだった。

 彼はひどく醜かった。その姿を目にした者が残らず嘲りの笑みを浮かべるほどに。

 その輪郭は異様なほど横に広く、だから目と目の間があり得ないくらい離れている。鼻は見事な団子鼻で、唇は分厚く、頬にはびっしりと痘痕が浮いていた。短身でひどい猫背で、足はがに股で短く、などと細かい説明は不要だ。彼にピッタリの形容詞がある。
『イボガエル』だ。
 そんな自分が、このように優美な部屋にいるだけでも他人の失笑を買うに違いない。男はそれをよく理解していたのだ。

 真鍮の手摺が付いたベランダに続くフランス窓は僅かに開いており、薄いすみれ色のカーテンがはためいていた。窓の先に広がる風景は、一面に深い森であった。
「どうしたもんかな」
 空っぽの部屋を見渡し、男は軽く肩をすくめた。
「仕方ない。代わりを探しに行くか」
 人の形に窪みが残るベッドを直し、シーツに残っていた髪の毛をつまみ上げる。長くて黒い、女の髪。白いシーツの上で、それは果敢に持ち主の存在をアピールしていた。
 他には何もなかった。彼女が寝ていたベッドを抱き締めたくなるような幸せな思い出も、心を疼かせるような別れの言葉も。何ヶ月か一緒に暮らして、挙句、彼女が自分に残していったのはこれだけだ。

 男はベランダまで歩いていき、それをポイと捨てた。雨上がりの地面に落ちたそれはすぐに泥にまみれ、一瞬のうちにゴミになった。


*****


 日本にも未だこんな場所があったのか。
 いつものように助手席のドアに肘をつき、うつらうつらと船を漕ぎながら、薪は心のうちで何度目かの呟きを漏らした。どこまで走っても続く樹海、なんて生易しいもんじゃない。これは所謂「秘境」だ。何年か前に訪れた妖怪が住むと言う森より、更にヤバそうだ。妖怪を通り越して妖魔が住んでる感じだ。
 眼下に広大に広がる鬱蒼とした森を眺めていると、そんな世迷言まで浮かんでしまう。あれ以来、森はこりごりなのだ。間違っても足を踏み入れたくない。

 くあ、と小さな欠伸を漏らす薪の隣で青木は、カーブの多い山道を都会の大通りのようにすいすいと車を走らせる。二人は、Y県で起きた猟奇事件の折、事件解決の為に脳データを提供してくれた被害者遺族に挨拶に来た。その帰り道。
 車がやっとすれ違える程度の幅しかない道は平坦性の低い古びたアスファルト舗装で、左は山になった雑木林、右は切り立った崖っぷち。安全のためのガードレールは所々抜け落ちている。よく落下事故が起きないものだと感心する。元より、接触事故を起こすほど車が通らないのだろう。近くに集落がないから落ちても気付かないとか、そういうオチは勘弁してほしい。
 シュールな想像に乾いた笑いを浮かべる薪の左眼が、ドアミラーの中を過ぎる白い影を捕えた。

「停めろ」
 速度を落として路肩に車を寄せながら、「トイレですか」と青木が問うのに裏拳で応えを返し、薪は後ろを振り返った。
「なんか山から落ちてきた」
「イタチか狸じゃないんですか」
「ちがう。もっと大きくて白っぽい」
 こんな不気味な場所で自分だけが目撃した白い影――さては人知れず朽ち果てた自動車事故の被害者かと気弱な人間なら怯えるところだが、薪はバリバリの現実主義者だ。畏れる様子もなく、窓に乗り出すようにしてドアミラーを覗き込んだ。
 そこに映るものを確認した彼は、はっと息を飲んだ。車外へ飛び出し、来た道を全速力で駆け戻る。青木が慌てて運転席から降りた時には、薪は道に倒れた女性を助け起こしていた。

「大丈夫ですか。僕の声が聞こえますか」
 彼女は雑木林から転がり落ちてきたらしく、ひどい有様だった。着衣は半袖の、元は白かったと察せられるワンピース。山の中を何時間も歩き回ったと見えて、顔と手足は傷だらけだった。
「どうしてこんな所に若い女性が」
「スカートにサンダル履きか。ハイキングでもなさそうだな」

 薪の腕にぐったりと身を持たせかけた彼女の眼はうっすらと開いていたが、その焦点は空を彷徨っていた。緩んだ口元からは唾液が零れ、それは彼女の精神に綻びがあることを暗示していた。
「近くに病院か民家があるのかもしれない。とりあえず車に乗せて、地元の警察に保護を」
「あ、オレ、運びます」
「大丈夫だ」
 大の男が女性の一人くらい運べなくてどうする、と見栄を張ったのがまずかった。脚を踏ん張って彼女を持ち上げた、まではいい。一歩踏み出すのに1分くらいかかった、それも大した問題ではない。悲劇は、自分の身体が他人の手によって抱き上げられたことで彼女の意識が戻り、急に暴れ始めたことだ。

「お、落ち着いてください。僕たちは怪しい者じゃ」
 薪の左頬に女の爪がヒットして、彼は呻き声と一緒に言葉を飲み込んだ。金切り声をあげて暴れる彼女の両腕を、青木が素早く戒める。勢い余ったのか、彼女は痛そうな顔をした。女性相手に無体な真似をと思うが、青木は薪のボディガードだ。主人に危険が迫れば少々手荒な真似もする。
「青木、乱暴はよせ。彼女は一般人だぞ」
 頬に血を滲ませながら、薪が青木を諌める。が、青木は到底承諾できない。薪の顔に傷をつけられたのだ。彼女を崖から突き落とさなかっただけでもよく我慢したと褒めてもらいたいくらいだ。
 その考え方は警察官としてと言うより人としてどうかと思うが、こと、薪に関してだけは青木は道徳者になれない。青木は普段はとても優しい男で、その言動はいっそお人好しと称しても差し支えのないレベルで、なのに薪が絡むと突然人が変わるのだ。殆どジキル博士とハイド氏の世界だ。

「こんなに暴れられたら危なくて車に乗せられませんよ。県警に連絡して、保護を求めましょう。PC(パトカー)でここまで迎えに来てもらって」
「大丈夫だ。僕に任せろ」
 くい、と手の甲で傷を撫で、薪は、青木に拘束されて地面に膝を折った女性の前に屈んだ。項垂れた彼女の、髪の毛の奥に仕舞われた顔を覗き込むようにして、穏やかに話しかける。
「落ち着いてください。僕たちは警官です。あなたの味方ですよ」
 彼女はゆっくりと顔を上げた。長い黒髪はもつれて汚れ、肌も荒れ放題に荒れて、濁った目の下には黒いクマができていたが、きちんと手入れをすれば美しくなると薪は思った。彼女にそれをさせない何かが訪れたのだ。

 よくよく見れば、彼女の身体の傷は山の中で自然に付いたものばかりではない。拘束されて初めて顔を出した右腕の内側の切り傷は、明らかに刃物によるものだ。山を転がり落ちたのだから傷があるのは当たり前だと思うかもしれないが、人間は転がる時には体を丸めるものだ。その状態で内側に傷ができるのは不自然だし、何よりも傷口がきれいすぎる。枝に引っ掛けたのなら、かぎ裂き状の傷になるはずだ。
 犯罪の匂いがした。

「安全な場所までお送りしますから、まずはゆっくり休んでください。詳しい事情はその後で」
 薪がそうっと彼女の肩に手を置くと、彼女はこくりと頷いた。薪の合図を受けて、青木が慎重に彼女を解放する。
「ほらみろ。紳士的に話せば」
 得意げに胸を張る薪にハイハイと生返事をしながら、青木は彼女に手を貸した。青木の腕に縋るようにして立ち上がった彼女は、やおらに薪の方に向き直り、突如。

「え」
 泥まみれの両手が自分に向って突き出され、薪はバランスを崩して後ろに転倒、できればちょっとした事故で済んだのに。そこには薪の背中を打ちつけるべき地面が無かった。
「薪さんっ!!」

 一瞬、時が止まった気がした。
 空に投げ出された身体がその場に留まっているのを不思議に思い、僕ってもしかして空が飛べたのか、と本気で思いかけた。
 そんなわけがない。薪は重力に縛られる普通の人間だ。他にも思い込みとか常識とか警察機構のしがらみとか色んなものにがんじがらめになっているが、今彼の身体を奈落の底に落とそうとしているのは、精神論では太刀打ちできない物理の法則だった。

 悲痛に叫んだ青木の顔が、見る見る遠ざかっていく。けたたましい彼女の笑い声も。と同時に、薪の意識も遠くなった。投身自殺は大抵は地面に激突する寸前気絶してて痛みなんか感じないって、あれ、本当だったんだ、などと人生の最後になるかもしれない貴重な瞬間を俗説の検証に費やし、薪は、絶対に立ち入りたくないとついさっき思った森に飲み込まれていった。


*****

 1話目からこれだよ。
 ホント、お礼にならない☆


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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こんにちは(^^
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