カエルの王子さま(2)

 毎度ですっ。
 更新、空いちゃってすみません。入札の時期になりまして、内訳書5本作ってましたー。
 新しいSS書いてるとブログが放置状態になるクセはいい加減直したいです。←仕事してないじゃん。


 続きです、どうぞ!



カエルの王子さま(2)





 カーキ色の訓練服を着てリュックを背負い、手に探索棒を持った男たちが、深い森の中に入って行く。その数約20名。彼らは訓練を積んだ兵士のように俊敏な動きで、手入れのされていない灌木や伸び放題の下生えをかき分け、森の中に道を作っていく。
 彼ら捜索のプロ集団とは別に、軽装で森に挑もうとしている一団がいる。スーツ姿に革靴で、とても苛立った様子だ。彼らは探索棒も持たず、救助隊が木に結びつけたロープを伝って歩いていることからも分かるように、捜索については素人だと思われた。特に年長の二人はどう見てもホワイトカラーで、現場の人間ではなかった。

 そのうちの一人、中園紳一は、足元を刺す草の穂先を八つ当たり気味に踏み散らしながら、
「ったくあの子は次から次へともう……岡部くんっ、副室長の君が出て来ちゃったら第九の仕事はどうするんだい」
「あっちは今井がいるから大丈夫だと、っ、大丈夫ですか」
 失踪者への苛立ちを手近な部下にぶつけた直後、木の根っこに引っ掛かって転びそうになるのをその部下に助けられる。前を歩いていた仕立ての良いスーツを着た男が、振り返って辛辣に言い放った。
「中園。岡部くんには僕が声を掛けたんだよ。大体、おまえに人のことが言えるのかい。会議をすっぽかしてきたくせに」
「はて。会議をすっぽかしたのは官房長殿では?」
「ぼくの代わりに出てって言ったじゃない」
 岡部と呼ばれた男が「大事な会議だったんじゃないんですか」と問うのに、彼はひょいと肩を竦め、
「いいんだよ。どうせ消化会議なんだから」と公僕にあるまじき発言で会話を締めくくった。それを咎めるように、後ろの男が小声で言い返す。
「小野田。僕はね、おまえのお守に付いてきたんだよ。危ないからよせって言ったのに、行くって聞かないんだから」
「頼んだ覚えはないよ」
「SP断った時点で僕が行くしかないだろ? だれがおまえの身を守るんだよ」
「岡部くんと青木くんがいるじゃない。それにおまえ、ぼくより射撃下手じゃなかった?」
「わかった、訂正する。誰がおまえの無茶を止めるんだよ」
 中園の返しに、岡部は思わず苦笑いする。室長の無茶は上司譲りか。

「岡部くん。悪いね、忙しいのに」
「いいえ。俺も室長の身が心配ですから」
 済まなそうに小野田が言うのに岡部は沈痛に、それでもにっこりと笑った。瞬間、すぐ隣を歩いていた捜索隊の一人が木の陰に身を隠した。
「何か出ましたか」
「す、すいません。なんか怖くなって。ホントすいません」
 歯切れの悪い答えに、岡部は近年の若者に対する不甲斐なさを感じる。危険を察知したなら身を挺して官房長を守るくらいの気概が欲しいものだ。彼らはSPではないが、警察官たるもの自分よりも弱いものを守るのは当然のことだ。
 岡部の不興を買い、慌てて探索棒を構え直して配置場所に戻った彼に周囲から同情の眼差しが注がれた。岡部を除いた全員が思っていた。鬼瓦が笑ったら、それは怖いよ。
 見た目と中身にギャップがあるのは第九職員のスタンダードで、室長の薪は言わずもがな、副室長の岡部も見かけの凶悪さとは掛け離れた優しい心の持ち主だ。小野田に言われずとも探しに来ていた。青木の報告から、薪は怪我をしている可能性が高い。一刻も早く探し出して、医者に連れて行かないと。

「まあ、中園さんが言いたいのは、俺か青木か片方でいいだろう、と言うことなんでしょうけど」
「青木くんはどうせ仕事にならないだろ」
 官房室の二人がケンカにならないようにとの岡部の気遣いに、小野田は中園以外の人間に怒りを向けることで応えた。小野田は岡部には優しいが、青木には厳しい。それはいつものことで、しかしその理由がまた、自分の娘婿にと望んでいた薪が青木と恋仲になってしまったからという全く職務には関係のない理由だと知っている岡部は、ついつい青木の弁護をしたくなる。
「そんなことはないですよ。青木の報告は明瞭でした。奴も警察官として成長して」
「保護が必要な一般人を車のトランクに閉じ込めた時点でアウトだと思うけど」
 青木は薪が絡むと、警察官としての正しい行動がとれなくなる。今回の場合、警官である薪よりも一般人の保護が優先されるべきで、県警に薪の捜索の依頼をした後は、速やかに彼女を病院若しくは地元の警察に送り届けるべきだった。しかし、青木はすぐに薪を探しに落下地点へと向かった。その際、邪魔になる彼女を車のトランクに閉じ込めておいたのだ。
 彼女が正気を失っており、放っておいたら何処へ行ってしまうか分からない状態だったとは言え、トランクに閉じ込めて鍵を掛け、1時間以上も放置したとなるとこれは大問題だ。トランクに閉じ込められた彼女は夢中で暴れ、爪が剥がれるほどにトランクの蓋を掻き毟っていたのだ。事情が明るみに出たら間違いなく査問会だ。

「だいたいね、青木くんは薪くんのボディガードだろ。この状況自体、彼が職務を全うしていない証拠じゃないか」
 小野田の厳しい言葉が耳に入ったのか、捜索隊と一緒に先を歩いていた青木が立ち止まった。振り返って、深く頭を垂れる。
「申し訳ありません」
「薪くんが危なっかしいのは今に始まったことじゃないだろ。ボディガードのきみがしっかりしてくれなきゃ」
 問題があるのはむしろ薪の方なのに、責を押しつけられた形で叱責を受けた青木は、それでも素直に「はい」と返事をした。小野田も認めているように薪の暴走は折り紙つきで、副室長の岡部でさえ止められないのだ。若い青木に至っては、何を進言しても耳も貸さないに違いない。

 薪がこんなことになって、一番心を痛めているのは青木だ。そこに追い打ちを掛けられるように上官に責め立てられる彼を不憫に思ったのか、中園が二人の間に割って入った。
「まあまあ小野田、その辺で。ここで青木くんを責めても意味ないだろ。第一おまえ、いつ青木くんが薪くんのボディガードだって認めたわけ?」
「なにを言ってるんだい。官房室から任命書を出せって言ったのはおまえだろ」
「形だけでも認めないって最後まで言い張ってたくせに」
 自己の不明と矛盾を指摘されて、小野田は口を噤んだ。が、その顔は不服そうだ。薪のことが心配で、普段の冷静さを欠いているのだろう。小野田は薪を盲目的に可愛がっている。娘との婚約が破談になっても彼を許したくらいだ。もはや上司と言うよりは親バカのレベルだ。
「薪くんの無事を確認したら、次は査問会とマスコミか。厄介だな」
「何とかしなさいよ。そのためにおまえがいるんだろ」
「官房長殿は首席参事官の職務内容を誤解なさってます」

 僕の仕事は薪くんの尻拭いじゃない、と中園がぶつぶつ言うのを気の毒に思いながら、岡部は上官からやや不当に評価されている後輩の傍に寄り、端的に尋ねた。
「青木。薪さんはどっちだ?」
 青木は黙って首を振った。
「なんだ、肝心な時に。おまえ得意だろ。薪さんの居所見つけるの」
 口唇を引き結んだまま、長身の後輩は空を見上げた。遥か上方、崖の上にグレーの布がはためいている。落ちた場所の目印にと、青木が自分の背広をガードレールの支柱に結び付けておいたものだ。ガードレールが剥がれて、支柱だけがぽつんと立っている崖っぷち。しっかりと道路整備が為されていれば、薪は無事だったかもしれない。

「いません」
 俯き、絞り出すように青木は言った。
「薪さんが、何処にもいないんです。岡部さん、薪さんが」
 語尾が震えている。薪が被害に遭ったとき、青木は彼と一緒にいた。居ながら彼を守れなかった。強烈な罪悪感がもたらす焦りと不安。それらが青木の顎を震わせ、声を乱している。後輩の心中を慮り、岡部は力強く青木を励ました。
「落ち着け青木。いま、みんなで探してる。大丈夫だ。彼らは遭難者を見つけるプロだ」
「そういうことじゃなくて。オレ、いつもなら薪さんがどっちに居るか何となく分かるんです。でも、それが全然分かんないんです」
「それはおまえがパニックになってるからだ。もっと心を落ち着けてだな」
「感じないんです」
 岡部の肩を掴み、青木は訴えた。取り縋られて分かった、青木が抱いているのは不安ではなかった。
 これは、恐怖だ。
「薪さんが、この世の何処にも感じられない」
 薪は既にこの世のものではないかもしれない。その仮説から引き起こされる恐怖だ。

「現場付近に死体はなかった。血の跡もない。何ものかに襲われたなら、その痕跡が残るはずだ」
 青木の機転が功を奏して、落下地点はほぼ正確に分かっている。周辺の木には折れたばかりの枝もあったし、下生えの乱れも確認された。が、そこには野犬が人間の身体を引き摺って行った跡も、熊の足跡もなかった。動物に襲われた確率は低い。
 何の痕跡も残っていないことから、薪の意識もなかったと考えられる。意識があれば上着に付けた救助信号を発信しただろうし、必ず捜索隊の為に目印を残すはずだ。
 おそらく、薪は崖から落ちて気絶したところを何者かに運び去られた。その何者かが悪人とは限らない。親切な通りすがりの人が病院に運んでくれたのかもしれない。薪が意識を取り戻せば、連絡をしてくるだろう。車で運べる範囲の病院は、地元の警察に応援を頼んでローラーを掛けてもらっている。もうすぐ中園のところに連絡が入るはずだ。
 だが。

「薪さんが何処にもいないんです。こんなの初めてです」
 子供のように繰り返す青木に、3人の顔色が曇る。
 青木と薪の間には、超自然的としか言いようのない繋がりがある。何となく居場所が分かると言うのはその一例に過ぎない。青木は薪に関することだけは、ズレまくっているように見えて必ず真実を選び取っている。その青木が怯えている。恐ろしい想像に震えている。
 薪の身に、只ならぬ災厄が降りかかっている可能性は高い。青木の畏れが伝染したように、皆の予想は悪い方向へと向かって行った。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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薪さああああん!!

イヤーーッ( ;∀;)
いいコで待ってたのに薪さんがご無事でない!?

捜索の邪魔するおじさんたちがちょっとかわいかったけど…薪さんが出てこない~(泣)

まだ序盤なのに騒いですいません。
薪さんが心配でカエルに何されるのか興奮して心配で心配で。

カエルと言えば滝沢に馬乗りされた時の薪さんの手の位置は、あの顔の横に手を置いてるポーズは、いわゆる「好きにしてのポーズ」ですよね?
やたら萌えました。

お忙しそうで申し訳ないけど、つづき楽しみにしてます♪

なみたろうさんへ


なみたろうさんが叫んでるww

今回の薪さん最大の危機は崖から落ちるとこです。ここさえ乗り切れば大丈夫! ……かな?


>薪さんが心配でカエルに何されるのか興奮して心配で心配で。

心配、ありがとうございます。
さりげなく興奮が混じってますが、そこも含めてありがとうございます(笑)


>カエルと言えば滝沢に

あはははは!
言われてみれば、彼氏にベッドに押し倒された女の子と変わらんww
さすがなみたろうさん、眼の付けどころが違いますねっ。(褒めてます)


はい、更新がんばるです。次のメロディまでには終わらせたいし。
ありがとうございました(^^


Aさまへ

Aさま。
お返事遅くなってすみません。書類が~(^^;


>小野田さんや中園さんまで探しに来てくれるなんてなんか嬉しい(^^)

小野田さんはともかく、中園は小野田さんに着いてきただけなんじゃ(笑)
まあ、彼は素直じゃないですからね。本当は自分も心配で来ちゃっただけなのかな。


佐世保の事件。
怖い世の中になりましたよねえ……
なんて言うかね、普通の女子高生してる娘がそういうことするの、それが怖い。今も昔も、闇を抱えた子はたくさんいると思うんですよ。わたしだって、決して素直ないい子じゃなかったですからね。ただ、それがこういう形で吹き出すこと、そのことに怖さを感じます。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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